元勇者の吸血鬼、教師となる

妄想少年

017

 「昨日は火魔法をしたので今日は水魔法と風魔法をします。撃ち合いたいとは思いますが、それは基本属性魔法を一通り覚えてからです。あ、魔力障壁も勉強しなければなりませんね。また今度説明します。」
 
 翌日、昨日と同じようにバイクで登校した僕は同じように朝を過ごした。今日の授業は六時間目であり、それまでは保健室で仕事をしていた。累計すると、昨日と今日だけで怪我人は二十名ほどに登った。ちなみに、軽傷は除いた数字だ。やることは変わらず、せいぜい不良君やアホ三人と話すぐらいだった。
 授業の進展のさせ方は先日考えた。一週間の最終日に実践を行い、それまでは魔法の技術や知識について勉強させるつもりである。まぁ、常に座らせてやるだけというつもりはないので生徒も不満は持たないだろう。仮に持っていようが無視をする。
 
 「少し復習をしておきましょう。田中、魔法を発動させる方法は三つありますが、先日行ったのはその中の何という、どのような魔法ですか?」
 「『言霊魔法』、言葉に魔力を込めることで発動させる魔法です」
 「その通りです。では阿久津、魔法を消失させるために何をしなければなりませんか?」
 「時間経過、魔力の霧散、魔法同士をぶつけるのいずれか。」
 「はい、これらの消し方をそれぞれ、『停滞消失』、『霧散消失』、『衝撃消失』といいます。ただし、仮の名前ですから変わるかもしれません。」
 
 これらは正式名称ではなく仮名称とされている。魔力という名前は変わることは無いだろうが、魔力という名前を付けるかどうかも政府は迷ったらしいのだ。僕の中で名前は変わらないが正式名称が突然言い渡される可能性もあるにはある。
 だからこそこの名前を教えて良いものか迷うのだが、仮名称と伝えておけば糾弾されることもなかろう。されても困る。
 
 「次に火魔法についての復習です。基本属性魔法というのは何かしらの自然的な要素を司っています。さて川崎、火魔法が司っているのはなんでしょう。」
 「え~と……熱でしたっけ。」
 「はい、一応火魔法と定義されていますが、火魔法がどうこうできるのは熱に関してです。例えば、敵の血管に魔力を潜り込ませて沸騰、脳神経を殺すなんてことも可能ですね。凶悪な魔法と言えるでしょう。ただしくは熱魔法、かもしれませんね。」
 
 ここまでが前回の授業で教えたことだ。川崎が言いよどんだのは授業の途中でサラッと言ってしまったことだからだろう。事前説明の時に言っておけばパッと出てくるのだろうが、残念ながらサラッと言ったことが大事だったりするので容赦はしない。
 
 「復習はこれで終わりです。それでは今日のメインである水魔法、風魔法の練習に入っていきましょう。風魔法は少々厄介ですから、水魔法から始めましょうか。富樫、火魔法から考えて、水魔法は何を司っているでしょう?」
 「ん~、液体ですか?」
 「はい、そう考えるのが適していますね。ただ、氷という個体もありますから液体のみとは言いにくいです。しかし、そうなると溶かした金属も液体だから水魔法なのでは?……ということが魔法研究家達により議論されています。」
 
 これが非常に難しい問題なのだ。液体のみでは氷が当てはめられないし、氷という個体を水魔法に当てはめてしまうと熔解されたものが水魔法の中に入ってしまう。では水分を含んだ物ではないか、とも言われているがこれまた定かではない。氷という一つの物のせいで水魔法の定義はややこしいことになっているのである。ちなみに、僕は適当でいいと考えている。事象を引き起こせれば魔法なのだから区別するまでも無い。
 
 「まぁ、発動自体は難しいものではないので難しくは考えなくていいです。そういうのは明確な定義が出来上がってからとか暇な時にしましょう。」
 
 なんならペーパーテストの最後の問題を、水魔法の定義をどうするかについて自分の考えを書け、みたいなものにでもしてみようか。四点ぐらい与えれば勝手に考えてくれるだろう。テストの四点は大きいから。
 
 「さて、水魔法についてなんとなく分かってもらえましたね。では、水魔法を使用してその使い方を覚えるとしましょう。今回も『言霊魔法』を使用します。名前は独自に考えてくれてもいいですけど、恥ずかしいのは止めてくださいね。」
 
 昔、水圧レーザーのように水を圧縮して噴き出す魔法に『瑞々しいビーム』などというふざけた名前をつけるやつがいた。名前はふざけているくせに殺傷力はとんでもないのだから質が悪い。が、そういう狡猾さは人に言える立場ではないのでツッコミを入れるだけに済ませておいた。
 
 「今から、先生が実践してみます。それでイメージを掴んで、発動出来るようにしっかりと観察していてください。--《ウォーター》」
 
 水球を発現させ教室内をフヨフヨと移動させる。火魔法のときも同じようなことをしていたが、これが手っ取り早いのだ。出来るだけ楽をしたい僕からすればこれ以外の選択肢は今の所ない。勿論、他の良い方法があるのならそれも試す。
 
 「当たり前ですが、形は自由に変えることが出来ます。薄くして刃にするのもよし、鋭くさせて槍にするのもよし、意思で動かす武器にしてもいいですね。こんな感じです」
 
 西洋剣の形を作って適当に動かす。ちょこっと生徒に近づけて驚かしたりもしてみた。水とは言え剣なのでそこそこ怖い様子。西洋剣なんざ戦うにはほとんど適していないが、この武器のほうが分かりやすいと思いこれにした。
 
 「あぁ、一部だけ凍らせて更に殺傷力を高めるのも有効的ですね。ただの棒を急に槍に変えて不意を付くということも可能ですよ。自分に掛かる負荷を一瞬だけにして体力の消費を減らし、長時間の戦闘が出来るようにするというのも戦い方の一つです。まぁ、そういう戦闘スタイルは藤堂先生に聞いてください。」
 
 戦闘のほうはあいつの担当なので押しつけておく。あいつも独自に技術を磨いていったので僕のような狡い戦い方ではない戦法も教えてくれるだろう。対人から話は別だが、知能の低い魔物相手なら戦いやすいやり方がいい。無論相手によって対応を変えるというのは大事なので、臨機応変という言葉を体現せねばならないがね。
 
 「はい、それでは始めてください」
 
 昨日と同じなら精霊と雑談しながら観察しているのだが……生憎、今日の精霊は睡眠中である。これから四日ほど眠るのだから暇だ。これではアドバイスぐらいしたくなってしまうではないか。暇潰しのためにッ。
 
 『--《ウォーター》!』
 
 生徒たちから生み出された三十超の水球やら水剣やらが浮く。どうやら、魔力操作はある程度覚えているようでかなりの安定感があった。形や大きさを自由に変えられるのは昨日の火魔法で分かっているだろうからさっさと切り上げる。
 
 「失敗した人はいないみたいですね。みんな安定して魔法を発動させられています。本来なら氷にする等もしてみたいですが、厄介な風魔法をしましょうか。氷については暑い夏に実践しましょう。クーラー代も抑えられますしね。」
 
 今の世の中は割と切羽詰まっている。なるべく電力を使いたくないので電気代は以前の二倍ほどに高い。雷魔法という魔法を使い、電気を無理やり生み出したりしているらしいが、微調整が難しいらしくまだまだ普及していない。
 そうだ、魔法は本来生活を便利にするためのものなのだ。日本は平和を目指しているというのに戦力として使わなければならないというのは酷く哀しいものだ。さっさと魔物なんか気にならない世の中を作ってほしい。
  
 「今までやった二つの属性は、とても身近であり、想像に易いものでした。魔力操作さえしっかりしていれば、異常な馬鹿でも無い限りは直ぐ使えます。まぁ、全員初っ端から使えるようになるとは思ってもいませんでしたが。」
 
 火とは、人間が生き残るために考えられた知恵だ。小さな火種から大きな火事、噴火、太陽、僕たちは火ととても近しい存在であり、恐ろしくイメージが容易い。同様に、水とは人間と切っても切られない関係にある物質であり、無ければ人間はまず存在していない。こちらも人間とは近しい。
 
 「さて、風とはなんでしょうか。火は熱、水は液体、これらと同様の考え方をするなら、気流や気体の操作、といったところでしょうか。とりあえず、風の定義である大気の動き、その操作は間違いありませんね。」
 
 空間魔法とは違う扱いだ。こちらは、風を発生させるというものが主であり、空間魔法は空間に直接干渉し、情報を書き換えるためのものだ。つまり、風魔法とは情報を上書きして何かを発生させる力となる。
 
 「何故ややこしいとされるのか、それは可視か不可視ということにあるでしょう。火、水、土、はい、どれも可視出来る物質です。ですが、風は酷い大気汚染等が起こらない限り、人間の目に見えることはありません。」
 
 吸血鬼は種族の関係上、天候に深い関わりがあり、風を操ることや詠むことが出来る。しかし、風を見ること等は不可能だ。無色透明、当然だ。色がついてしまってはあらゆる生物の視界は終わりを告げることとなる。
 
 「それ故に、風とはイメージのしにくいものです。正直、基本属性魔法の中では風魔法が最も面倒この上ないです。もう三つの基本属性なんてものは合計しても風魔法の習得に及びません。ですから、一番時間をかけることになりますね。」
 
 基本属性魔法以外の物ともなれば、基本属性魔法が屁にも思えないほど難しいものばかりだが、基本の枠組みの中では風魔法がやはり難しい。最も中二っぽい闇魔法よりも面倒なのだ。
 しかし、その分使い勝手は異常なぐらい良い。便利性と殺傷力共に優れ、ピンポイントな細かい扱いも慣れれば出来るようになる。環境改善にも使えるし、それだけでだいぶ生活の水準が上がるのだ。是非とも覚えてもらいたい。
 
 「ん~、これは分かりやすく経験したほうがいいですね。少々強めに行使しますから、何かにあたっても怒らないでくださいね?--《ウィング》」
 『うわぁぁぁ!』
 
 ……瞬間、教室の中に強風が吹き荒れた。色々メモ用紙とか飛んでいるが……魔法の授業にそんなものを取り出すのが悪いと考えてみる。
 ちがった、テストに必要なこと言ってるからメモしてるだけだこれ。
 

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