元勇者の吸血鬼、教師となる

妄想少年

016

 「昼休み~~! 酒だぁ、酒持って来いッ」
 「富樫、学校じゃあまずいだろ! 帰ってからにしようぜ!」
 「どちらも思いっきりアウトですわ! 捕まりますわよ!?」
 
 残念なことに、富樫と田中の二人は真面目な時とふざける時の差が酷かった。妙に頭を働かせた所為か、いかれたことを口走っている。声は真面目なトーンだったりするのだが、流石に未成年なので飲酒・喫煙はしていなかった。
 しかし、他の生徒がどう思うかは考えていない。そこそこ能力の高いアホ扱いされるようになるのは時間がかからなかった。
 
 「……くだらん。」
 「おいおい、そんなこと言わないでくれよ阿久津。クラスメートだろ? 直訳で級友だぜ? 仲良くしようや。」
 「友になったつもりは無い」
 「とかなんとか言って返事してくれるってことは嫌ってるわけじゃあないと考えていいんだよな。いや、無理やりでもそう解釈させてもらうぜ。」
 「……」
 「申し訳ございまさんわ。アホ二人がご迷惑を……」
 「大丈夫、お前もアホ扱いされている。」
 「……なんですと!?……グハァ!」
 「やべぇ、イネスさんがやられた。運ぶぞ田中」
 「おう、保健室なら飯食うのにもちょうどいいだろうしな!」
 
 その日、昼休みが始まった直後に二人の生徒に担がれ保健室に運ばれている金髪碧眼の一年生が見つかったとかなんとか。学園の噂というものは早いもので、一日後にはその噂が学園十に広がっていた。
 
 「……くだらん。」
 
 一つため息を吐き出し、学食を食べに行った少年の呟きはアホ共に対する羨望だったか。それともアホ共に対する呆れだったか……それは本人にしか分からないことだった。
 
 ◇
 
 「……で、流れで保健室まで遊びに来たと。」
 「はい、先生のことも知っておこうと思いまして……あ、ぶっちゃけイネスさんはついでです。二秒後には治ってたようですし。」
 「手品ですわ!」
 「すげぇ。っておい、赤いの残ってるじゃねぇか。」
 
 昼休みだからパフェでも食べに行こうかと思った矢先、授業で目をつけた三人組が現れた。しかも、あの時の真面目そうに考える三人は何だったのかというような雰囲気だ。正直に言えばアホっぽい。
 不良君はどっかに行った。もしかしたら、この三人組が来ることをなんとなく予想していたのかもしれない。僕も気配探知ぐらいしておけばよかった。……飯は食わなくても生きていけるから構わないが、普通の養護教諭だったら不憫だ。
 
 「……なるほどね。とりあえずイネスさん、服の汚れを取る方法は用意している? 無いんだったら僕が取るよ……あと三人ともお茶飲む?」
 「勿論剥がす方法は用意してありますわ。ほらっ」
 
 べりべりっと音を立てて血にそっくりの赤いものが剥がれていく。綺麗に剥がれたから結構な頻度で使っているネタなのだろう。心臓に悪いので出来ればやめていただきたい。
 彼らは一応歓迎する。僕の暇つぶし相手ぐらいにはなってくれそうだ。たぶん、この雰囲気だと勝手に漫才でも始めるだろう。面白くなかったら指摘するだけだ。
 
 「すごいね。……あぁ、弁当は持ってきているかな? なんなら珈琲とか緑茶もあるけど、味は保証するよ」
 「へへ、飯はここで済ますつもりだったんで。」
 「だろうね。平然と椅子に座ってるもんね。あれかな、ここの生徒は度胸もかなりあるのかな。その割には他の生徒は来ないみたいだけど。」
 「保健室には不良がいるという噂ですわ。」
 「あ、そうなんだ。不良君って見た目ほど不良っぽく無いんだけどなぁ。ベッドの中でも寝てた訳じゃなさそうだし。」
 
 何をしているのかはなんとなく分かっているが、不良君にも不良君なりの理由がありそうなので彼らには教えない。まぁ、ここに不良君がいるくらいのどうでもよい情報ぐらいなら教えるけどね。
 
 「名前なんだっけ? か、か……カッシー?」
 「誰だよ。どっかで聞いたことある名前だったような気はするけどな」
 「梨汁飛ばしてそうな名前ですわね。」
 「ッシーしか合ってないよねそれ。そういや、着ぐるみに著作権ってあるのかね。」
 「さぁ? どこぞのネズミにあるんだからあるんじゃないですか?」
 
 不良君の名前がカッシーだったら噴き出す自信がある。伝説の不良カッシー……駄目だ、想像するだけで笑えてきた。今度聞いてみよう。不良界だったら珍しくないかもしれないし、情報的な意味では価値があるだろう。
 
 「あ、緑茶ください。」
 「はいよ。沸かしたお湯? 魔法でいい?」
 「早く出来るほうでお願いします」
 「んじゃあ魔法だね。使うのは水魔法だから見とくといいよ」
 「あれ、熱要らないんですか?」
 「魔法はイメージが大事だからね。液体を出したらそれは全部水魔法なんだ。僕のよく使う手で言えば硫酸かな。原子の並びが分かりやすいから簡単だよ」
 「原子……それじゃあ先生、やり方によっちゃあ無限にダイヤを増やせるんじゃ?」
 「おっ、よく分かったね。そう、ダイヤってのは炭素だから炭から弄ったりそもそもダイヤを生み出すことも出来るよ。ほら、水が作り出せるのに他の原子が生み出せない理由はないでしょ? しかも炭素は水より簡単だからね。……まぁ、大分精巧なイメージが必要になるんだけども、使えるようになったら楽に金が稼げるよ」
 
 魔力を原子と同じサイズの何かと想像すれば原子情報を書き換えたり新たな原子を作り出したりすることが出来る。そのためには相当な鍛錬が必要だが、数年あれば可能になるだろう。僕は既に出来るが、これで金を稼ぐのは倫理観が許していないので日本ではしない。日本以外ならばやぶさかではないが。
 
 「やるんだったら早めにしておいた方がいいよ。この方法が使われだしたら色んな金属に価値が無くなるからね。経済が混乱すること間違いなしだよ。」
 「そんなこと教えていいんですの?」
 「君らが悪用するんだったらそれまでってことかな。いい? どんな魔法だって危険性があるんだよ。それを薬として使うか毒として使うか決めるのは人だ。要は使い方ってわけさ。」
 「電力を兵器に使うか、生活水準の向上に使うか、みたいなもんですか?」
 「うん、そうだよ。……授業では言わないけど、この考え方は大事なんだ。日本人ってのはいわば戦闘民族の血を継いでるんだよ? 刀なんていう殺す気しかない武器を作り上げたんだ。銃みたいに殺す感覚を消す兵器じゃなくて直接斬る感覚のある武器を、ね。そんな思想を持ってるんだ。殺傷力しかない魔法を作り出すとは思わないかな?」
 「日本人の頭っておかしいと言われますからね。」
 「え、そうなん?」
 「ええ、発想がイかれてるとされていますわ。」
 「存在しないものも理論的じゃないと納得出来ない研究馬鹿がたくさんいるからなぁ。陸でもない神経してんのは間違いないわな。」
 
 日本人の頭の中身というものは恐らく、全人種の中でもトップクラスにおかしい。くだらない能力や物でも斜め上の発想で変に使いこなす。
 そんな妄想力溢れる日本人が魔法というなんでもありの力を手に入れたのだ。マンガやアニメで触れているだけあって他の国よりも魔法の文化は一歩か二歩先を進んでいるだろう。
 
 「だからこそ考え方が重要になってくるんだ。良き使い方をするかどうかはその人によるからね。……さて、緑茶が出来た。どうぞ」
 「あ、ありがとうございます。」
 
 魔法で出来た熱湯を茶葉を予め入れていた容器に注いで完成だ。不純物が入ってないから体にいい。なんなら水素水にしても良かったが、そこはあれだ。そこまでのこだわりをもってやるようなことでもないのだ。ルディだったら水にもこだわりを持って煎れるのだろうが……そこまでのやる気は僕には無かった。
 
 「先生ってなんだか落ち着いてますよね」
 「ん? どういう意味?」
 「ん~、若い人特有の盛んさが無いと言いますか……まぁ、社会人なら当たり前だと思うんですけど余裕がある感じですね。悪く言えばオッサンっぽいです。」
 「それはお世辞と捉えればいいのかね。うん、そう受け取っておくよ。でもね、探りを入れるならもう少し自然に聞き出すべきだよ。唐突すぎるかな。」
 「あ、バレちゃいました? 実は、ここに来たのって先生と藤堂先生について聞き出すためなんですよね。もう普通に聞きますけど」
 「あぁ、そういや最初にそんなこと言ってたね」
 
 確かに、僕の藤堂なら僕の方が話しかけやすいだろう。性格ならぶっちぎりであいつの方がいい奴なのだが、僕は見た目が弱そうなので話しかけやすい。親友曰く、内面を知れば外見にも恐怖を覚えるようになるとのことだが、そんなことはどうでもいい。
 うむ、友人としていい奴であるという普及ぐらいはしておこう。どうせ直ぐ打ち解けるのだろうが、早い方がいい。いざとなれば恩も売りつけられるし……おっと、なんでもない。
 
 「じゃあ藤堂先生について言っておこうか。見た目は目つきが怖いから怖そうに見えるけど、そんなことは無いよ。寧ろ、外見で怖がられているから差別とかを嫌う傾向にあるね。正義感のあるいい奴だよ。空回りすることも多いけどね」
 「お、当たってたな田中」
 「正義感云々までは分からなかったがな。」
 「真面目そうな雰囲気はありましたものね。というか、教師になったのですから不真面目だったらどうかと思いますわ」
 「……ごめんなさい。割と適当に生きてます」
 
 今の一言は僕の心に多大なダメージを与えてしまった。本当に真面目にするつもりが無い分否定出来ない悲しさがある。だからといって真面目にやりますかと問われればノーと答えるのが僕である。
 
 「あら、今の先生のお話は為になるお話でしたわよ?」
 「あはは、ありがとね。でも不真面目に生きてるのは本当だよ?」
 「メリハリをつければ宜しいんじゃありませんの?」
 「……それもそうだね。」
 「まぁ、先生がどんな人かは田中さんが分かっていらしてるでしょう。私が聞きたいのはズバリ、先生の色恋事情ですわ! 先生ほどの美形なら女性からも言い寄られるでしょうし……ほら、何かありませんの? 浮ついたお話!」
 「思春期ですかい。好きだねぇそういう話」
 「先生、俺らは思春期真っ盛りの高校生ですよ? 人によって違うでしょうけど大体のやつらは興味津々なんです。」
 「その言い方ですと発情期みたいですわよ!?」
 「ふっ、実際そうだろ? ほら、思い出してみろよ。初めてエロ本を見たときのドキドキ感を、ゾワリと来た感覚をッ!」
 「発言がゴミクズですわ! 汚らわしい!」
 「……くく、エロ本を見たことについては否定しないんだな?」
 「くっ、最低ですわこの猿ッ!」
 「……うん、そういう話で盛り上がるのはいいけど一応先生の目の前なんだよね。年がまぁまぁ近いように感じられるだろうけど、これって生徒指導されるレベルだよ? だって、君らまだ15才だもんね。エロ本見るのは年齢的におかしいよね。」
 「やべ、まずった。逃げるぜ二人とも!」
 「迂闊でしたわ! 逃げますわよ富樫さん!」
 「……俺は一言も言ってないんだけどなぁ。あ、緑茶ありがとうございました。」
 「あいよ。今回は見逃すと言っておいてね」
 「へーい。お~い、待てよお前ら!」
 
 そっち系の話で盛り上がろうとしていたアホ二人はダッシュで逃げた。それに富樫も続いて走っていったが……なんともまぁ、騒がしい三人組である。この数秒の会話でここまで発展するとは思わなかった。
 ……まぁ、あれだ。面白くなりそうとだけ言っておこう。
 

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