元勇者の吸血鬼、教師となる

妄想少年

014

 --富樫奏太はこの春、私立異能専門学園に通うこととなった未来ある若者の一人だ。近い席がお嬢様口調だったり担任の目つきが凶悪であったり副担任が白人っぽかったりと様々な事があったが、その表情に曇りは無く瞳は輝きに満ちている。
 どこぞの吸血鬼は彼をリーダーに向いていると評したが、まさしくその通りだろう。現に彼はクラスメイトから不信感や嫌悪感を抱かれておらず、既に何名かの友人も作っていた。
 
 「……授業、自主性を重視しすぎてる気がするなあ」
 「そうか? 少しも焦った様子はねぇんだから問題ねぇんじゃねぇの? きっちりノルマは達成してただろ。」
 「それもそうだけどよ……」
 
 現在は体育の為に着替えをしているところである。親しくなった中学以来の友人、田中の言葉に対し返事をする。もう一人の高飛車のイネスという生徒もいるが、彼女は女子であるため当然更衣室は別だ。
 彼の友人である田中からすると、魔法講師兼副担任兼養護教諭の詩季の授業は気に入らないようだ。しかし、彼からの正論に反対する余地は無かった。
 
 「それにな、ここって異能専門学園だぜ? 魔法ってあまり使われないんだろ? リベリオンだって異能と化学兵器で戦うのが基本らしいからな。」
 「そりゃあ、リベリオンの異能がえぐいだけなんじゃないのか……? いや、俺が言いたいのは先に答えを言ってくれてもいいんじゃねえの? ってことなんだけど。」
 「なるほど。」
 
 富樫の性格は基本的には適当だ。やることをやっていればいいという考え方であるし、本人もそのことは自覚している。魔法講師の講師としてのおかしさに気が付いたのも今だった。これには田中も驚きだ。
 
 「あの時の観察するような視線……隠してないってことは実力が無いのか嫌なら言えと言外に言ってるのか……まぁ、そのどっちかだろ。」
 「え? お前そんなこと分かるの?」
 「あくまでも推測だけどな。あのステータスがマジモンだったら視線を隠すぐらい余裕だろ? 知られて困ることなら隠すだろふつー。そうしねぇってことは、そういうこったろ」
 「……なるほど。先生でも味方かわかんねーから観察しとくべきか……?」
 「あぁ。ちゃんとしたら俺よか能力高いんだから注意はしといてくれよ。魔物と対峙したとき逃げるかどうか決めるのはお前にかかってんだからな」
 
 事実、田中は富樫やイネスはおろか、クラスメートの中でも分析力は頂点に位置する。そして、田中の隙となる部分や様々なこと、リーダーを担当するのが富樫となっている。後一人のメンバーはイネスとなるだろう。富樫ならばあの高飛車なお嬢様も操る……もとい、制御するだけのことが可能だ。
 彼らは魔法をこれまで使ったことはなかったが、魔物と対峙したことは少しはある。辺りに魔物や妖怪、幻獣が彷徨う混沌の一年間、リベリオンなる組織が作られたのが魔物発生から半年後のことであり、それまでは弱者に救いは無かった。
 魔物や異能は使わせてもらえないものの、簡易的なナイフ等の刃物で魔物を斬り伏せたことはある。逃げるか戦うか、それしか彼らには残されていなかったのだ。ちなみに、その頃の日本が滅びなかったのは元々日本にいた日本サイドの妖怪や幻獣、アサシン等の組織が人知れず尽力していたためである。当然、公にはされていない。
 
 「にしても、人間観察が好きだった俺がこの趣味を役立てる時が来るとは思わなかったよ。出来れば趣味のまま終わって欲しかった。」
 「だな。平和が一番だよまったく。」
 「……んで、話は戻るけどその観察する目と授業の自由さが何の関係があるんだ?」
 「最初は自由にさせておいて誰にどんな能力があるのか、積極性があるのは誰か、グループはどんなメンバーか、そんなのを知るためなんじゃねえの?」
 「……あぁ、納得した。確かにあの先生俺らの中学時代を知らないし見るからに新任教師だもんな。あまり集団を教えるのには向いてないと見える。……いや、集団に教えるのは慣れてないって言ったほうが正しいか?」
 「それがお前の見解か?」
 「間違ってても大したことじゃないがな。集団に何かを教えるにはあまりにも黒板の使用率と名指しで答えさせる量が少ない気がしてな。普通の教師ならつまらないことを喋らせたりするもんだ。あの人が真面目な人間だったらそれでもおかしくけど雰囲気が真面目に思えん」
 「雰囲気で決めんなよ……」
 「初日で内面を網羅しろと? あほ抜かせ。どんな人か分かるまでは結論はださねーが、現在のイメージはそんなところなんだよ。」
 「ん~、よー分からん。」
 
 人間、内面を知られる前には外面を知られるのが基本だ。常に擬態しているスライムや、一切姿を現さない人物という例外はいるものの、恐らくそうであろう。田中はそこまでの分析力はまだ無いものの、雰囲気と表情の変化でなんとなく人物の性格が分かる。
 そして、その性格を元にしてどんな接し方をしているのか、どんな接し方がよいかを模索するのだ。無論、その途中に性格を深く探っていくのは言わずもがな。
 
 「まぁいいや。頼りにしてるぞ?」
 「ざっつい任せ方だなぁ。おけ、藤堂先生のことも分析してみるわ」
 「おう、んじゃあ行こうぜ」
 
 ◇
 
 運動用のジャージに着替えた彼らは、先ほど骨折する人物がでた体育館へと集合した。その先には藤堂が何かを見ながらたてっており、生徒を待っていた。鋭い目つきなだけあって何を考えているのか生徒たちには皆目見当もつかなかった。
 そんな中で一人、田中は仕草や筋肉のつきかたからどれほどの実力がついているのかや、癖などを探っていく。流石に、会話無しで性格を掴むことは難しいのでそこはパスだ。
 尚、雰囲気だけでは普通の人だと感じていた。
 
 「集まったか? 始めるぞ。」
 
 藤堂は読んでいた物をパタリと閉じ、生徒たちがいるかどうかを確かめる。様々な人物に鍛えられた彼の頭脳は生徒たちの姿名前を完全に記憶しており、チラリと見渡すだけで開始の言葉を発した。
 
 「……あれ?」
 「……」
 
 これに異常さに明確な疑問を抱いたのは田中と阿久津の二名だけだった。他の者といえばこれから始まる授業に期待を膨らませたり、藤堂の目つきに恐怖したりしている。何か引っかかるものはいたが、彼らほどではない。
 そして気づく。藤堂が田中と阿久津、二人のことをチラリと見た後ほんの少し口角が上がっていたことに。そのことには気付くものは数名いたが、目つきの悪さのためか藤堂が恐ろしいことを考えているかのように見えた。
 
 --田中の反応……何か違和感があったが、田中はそれが何かというこおまでを把握してるってことか? ……後で聞いとこ。
 
 富樫は田中や阿久津とは別方向の異常に気づく。深くまでは彼には分からないが、ある程度のことなら彼は田中よりも気づきやすい。何か一つのこと、というより全体をある程度と言った具合だ。
 
 「ではこれから体育の授業という名の戦闘訓練を行う。まずは各自で体操をしろ。怪我をされても面倒だからな。誰かと組んでも構わん」
 『はい!』
 「富樫、区切りついたら押してくれ」
 「了解。ちょいと待っててくれ」
 
 彼らは屈伸から始まり手首足首まで入念にストレッチをしていく。中学時代、しっかりストレッチをしていないと酷い怪我をすることを身を持って学んでいるのだ。怪我をして病院に運び込まれるまでの苦痛……とてもではないが、耐えられるものではない。
 各自の体操を終えた富樫と田中は集まり、どちらが先に背中や足などのストレッチを手伝うかを決めストレッチを始めた。無論、目的はストレッチではなく会話である。
 
 「何があった?」
 
 先に話を切り出したのは富樫、友の異変にはズケズケと踏み込んでいく。なかなかに度胸のある……いや、それほど信頼があるということだろうか。もしくは、藤堂のニヤリとした笑みの意味が田中は分かっているのだと考えたのかもしれない。
 
 「中学時代、……いや、小学生時代でもいい。一度でも先生が全員の顔を覚えていることがあったか? それと、人数を数える時間がどれほどだったのかも考えろ」
 「どうだったかな……少なくとも先生は名前を確認してたとは思うぞ? 何かしらの物を見てんのが大半だったな。」
 「だろ? んで、今の先生を考えて見ろ」
 「ん~、何かを考えてたって感じじゃあなかったな。」
 「そう、それがおかしいんだよ。まだ教室に人がいるのなら別におかしなことじゃないんだ。不登校から知らんが休みが一人いるだけなんだからな。誰かがいなかったとしても一目見りゃあ分かるんだから」
 
 普通、教師というものは教卓の上におかれた名前の表を見ながら生徒を当てていく、田中はそういう認識であった。そして、他のクラスメートも含めほとんどがその認識だろう。外国ともなればその限りとは言えないが。
 藤堂は直前まで何かを見ていたものの、それからは一切目を通していなかった。生徒たちは整列もしておらず、どこにいるかはバラバラ、一瞬で数を数えることはまさに至難の業だ。分析力があろうとも非常に難しい。
 
 「だが、ここは体育館。人間の動きもバラバラな上に、その人の顔がしっかり見えるわけでもない。別のクラスの奴がいる可能性だってあるんだぜ?」
 「いや、そこまで考えんだろ普通」
 「俺の見た限りこの学校に普通の教師なる人物はいない。」
 「……ダメだっ、否定出来ない」
 
 否定しない、ではなく否定出来ないと言うあたり彼も同じ事を思っているのだろう。聞いた話だけでも、リベリオンのボスに平然と口答えする教頭、全国模試一位を取り続けた数学講師、人類トップクラスの実力を持つ体育講師……まだまだあるが、全て言い表すなら数百文字を必要とする。
 
 「……んでもって、あの人は体育講師……勉学は勿論出来るだろうがメインは体育だ。滅茶苦茶得意というわけでもないだろう。つまり……」
 「体育講師にしては異常なほどの記憶能力と状況判断能力、そんでもってその動揺に気づく能力がある、というわけか。」
 「あぁ、これが社会の先生となったらどうなんのか……」
 
 彼らは三時間目にして、この学園のレベルの高さに気づくこととなった。しかしそれを言い換えれば、異常さに気づくほど成長の見込みがあるということでもあった。こんなものだ、と安直に考えることは思考を放棄していると同じことなのである。
 
 

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