元勇者の吸血鬼、教師となる

妄想少年

012

 「ん~、やっぱり難しかったのかなぁ。」
 
 授業が終わると共に保健室へと足を運ぶ。魔法を消す、ということをわずかな時間で見つける才能には恐れおののくことになったが、流石に魔力を感知したり隠したりすることは難しかったようだ。
 授業終わり間際の彼らの焦ったり悔しがったりする顔、あれを見るからに彼らは授業外の時間でも魔法について勉強、もとい研究するだろう。それによって怪我人が現れるかもしれないが、そのためにも僕がいる。
 
 「意欲があるって分かっただけで良しとしますかねぇ。」
 
 いきなり与えられたら課外以外の事を行おうとするものが五名ほどいたが、あれは例外だ。ほかの生徒はしっかりと課外に取り組んでいた。空席は今日も埋まらなかったが、僕にどうこう出来るようなことではないだろう。
 
 --マスターも授業に出ないことあったもんね。
 --そこにはあまり触れないでほしいです。一応、仕事で仕方なく出なかっただけだから。欠席者も同じように仕事かもしれないじゃないですか。
 --ぶっちゃけ組織に所属してるようなもんだよね。授業中まで出なきゃならないなんて戦力不足にも程があるよ。明らかにおかしいじゃんか。
 --勇者パーティーが出なきゃならないぐらいには危険な敵ってことなんだよねぇ。祖父さんとか糞親父は立場上直接手を出せないし……リベリオンはまだ戦闘慣れしてないし……アサシンは対人特化だから魔物には慣れてないし……ハァ
 
 思わず溜め息が出てしまう程には情けない状況だ。この先十年もしたら簡単に対抗出来るようになるだろうが、それまでの防衛がひたすらに大変なのだ。ある程度の実力を持つ者はそこまで多くは無い。世界各地に出現する魔物を全て殺すことは不可能なのだ。
 神に任せたくとも神は人間の変えてしまった大きな事を正すことは許されない。神に可能なのはあくまでも手助け、ヒトという異常な生命が絶滅しないようにルールが定められているだけなのだ。ちなみに、神が人間をひいきするのはその量と知能を当てにしているからだ。
 信仰があれば神はその力を増すことが出来る。地道に努力してもよいが、信仰の力というのは高くて効率的だ。その上、一度捧げられた信仰が止められようが神に弱体化は有り得ない。
 
 「次はどうしよっかなぁ。やっぱしとりあえずは基本魔法全部使えるようにすることかね。応用とか戦術は難しいからねぇ。」
 
 気配を消す、察知する、魔力を消す、察知する、無駄をひたすら削り魔力や体力を温存する、それが僕の中の戦術というものだ。そして、実現するための方法を応用と考えている。それらは基本からどうにでもなるからである。
 僕は何かを率いたりするのは苦手なので、戦略を考えることは向いてない。逃げられない状況を作り出して殺すのなら割と得意なほうだが、集団を操るのは嫌だ。集団の指揮は親友に任せる。適材適所である。
 
 --何を優先するかぐらいは決め手おいたら? 例えば殺傷力とか、属性によって全然違うんだから選びやすいでしょ?
 --そんなに簡単にはいかないんだよね。魔法の使い方で殺傷力なんて変わってくるしさ。使い方全部なんて知るはずないよ。
 
 例えば火属性魔法、ただの火の玉だったら避ければいいだけだが、血液を沸騰させられたりしたら直ぐ死ねる。使い方によって殺傷力なんてものは全然違うのだ。もっと分かりやすい例を言うなら水属性の水圧レーザー。
 しかし、何かで順番を決めるというのはヒントになる。それをどうするべきか、一度考えてみたほうがいいだろう。授業が進めやすくなることは間違いない。
 
 「ただいまー、人は増えてないかな?」
 
 保健室についた。真っ先に仕事があるか確認するため辺りを見渡す。……うむ、不良君がいるだけで何も変わっていない。体育の授業があったのかは把握していないが、怪我人は出ていないようだ。ついでにサボリもいない。
 まぁ、サボるのなら屋上にでもいくべきだろう。ここに来ても茶ぐらいしか出せないし、下ネタとかで盛り上がると不良君が多分切れる。不良君が此処にいることぐらい、一年生以外は知っているだろう。
 不良君は二年生だ。制服には腕章がついており、一年生は赤色、二年生は緑色、三年生は黒色となっている。不良君は緑色である。
 
 --不良って身なり整えるもんだっけ?
 --さぁ? 名前知らないから不良君って勝手に呼んでるだけだからね。不良かどうかはおろか名前すら知らないよ。
 
 いずれ、糞親父に学園の問題児を聞いておくべきだろう。あれが素直に答えるとは思えないが、何も言われない等ということはないと思う。プラスで藤堂にも聞き、情報が一致していれば正しいと考えてもいい。ただ、面倒なことに糞親父とは連絡を取りづらい。仕事が忙しいのは分からなくもないが、自分の作った学園ぐらいには顔を出すべきだ。
 病気や精神的な問題で学園に来られないものもいる。それぐらいは把握しておかなければ、変なところでヘマをしてしまうかもしれない。とても自己中心的な考えになるが、ややこしいことにはしたくないのだ。
 
 「不良君、お茶でも飲むかい?」
 「あ、いや、結構っす」
 「そっか」
 
 本当ならパフェぐらいは食べたいが、それは流石に駄目だ。ルディの作ってくれた茶葉を使って紅茶を煎れる。飯は麦茶派だが、くつろぐときは紅茶や緑茶がいい。原料が同じな上に三種類も作ってくれているのだ、飲まない理由がない。
 一口紅茶を飲む。少々苦いが、それが気にならないぐらいのいい香りだ。消毒液臭いこの保健室にはちょうどいい。別に、保健室を改造してはいけないなどということは言われていないのだ。ならば、僕なりの方法で清潔さを保つだけである。
 
 「ハァ……美味しい」
 
 紅茶を飲みながら今日の授業を思い出す。いや、正確には生徒たちの様子を思い出す。主に目立っているのはイネスさん、富樫、田中の三名のグループと川崎、岡田の二人のグループだった。ついでに、黙々と一人で活動していた阿久津もなかなかの才能があるように見える。
 恐らく、この六名が突出した才能を持っているだろう。他の二十八名よりも積極性があり、目を付けるポイントが良い。ちなみに、みる限りではイネスさんは交渉、富樫はリーダー、田中は分析、川崎は発想、岡田は素直さ、阿久津は全体的な頭脳に長けていると思う。
 六名以外の生徒たちの才能が普通ということではない。ソシャゲで言えば元から星五キャラみたいなもんだ。成長の見込みが僕みたいな才能無しとは段違いだ。僕ならたぶん、役に立たなくて売られる星一だ。
 
 「ねぇ不良君、教え子の才能が自分より凄かったら嫉妬する?」
 「……さぁ、どうなんすかね。少なくとも、嫉妬するほど俺は強くねぇんで」
 「なるほど、成長の見込みが自分にはあると。」
 「そういうわけじゃねぇんですけど……まぁいいっす。」
 
 突然にも程がある質問に不良君は答えてくれた。まだ顔を合わせて二時間も経っていないというのに尊敬する。僕の馴れ馴れしさについては無視でどうぞ。こんな空間なら精霊と不良君ぐらいしか話し相手がおらんのだよ。
 
 --うわーん、マスターに捨てられた-!
 --人聞きの悪いこと心の中にしても言わないでくれる? そもそも精霊は所有物じゃないよ。どっちかって言うと主従関係だよね。
 --それを所有物というのでは?
 --いやいや、所有物は奴隷であって従者ではないんじゃないかな。あくまでも主従関係って信頼と金銭で成り立つんだと思うよ?
 
 当然、今のところ一切働いていない精霊に与えるのは魔力だけだ。他の従魔だってそこらをウロウロしているし、残っているルディだって家族のようなものだ。生活費は自由にどうぞ、だが僕個人の貯金からは一銭も出していない。
 ぶっちゃけ、最近の資金は貯まる一方だ。消費しようにも欲しいものが無い上にルディが節約するから更に消費しない。女性陣が求めるのは武器とかだし、それぐらいなら僕が用意出来る。わざわざ職人に頼む程のものでもないのだ。
 エレボスは……美味しいご飯でも与えておけば問題ない。出会った当時は色々とあれな奴だったが今のあいつは舌が肥えたただの学生だ。暴れないようにコントロールするまでもないことである。
 
 --そういや、こうやってのんびりしてるけどいいの? 
 --今本気で危険なのなんてロシアの幻獣ぐらいのもんだからねぇ。あいつが向かってるから僕が頑張るまでもないかな。
 --ふーん、それじゃあ今度、エマちゃんの訓練でもしてあげたらどう? シャルちゃんが教えてるけど結構感覚派だし。
 --弓、なんだよねぇ。あんまり使わないんだよなぁ。不確定なもん教えるのはねぇ……専門家でもいればいいんだけど。祖父さんでも引っ張ってこようかな。
 --そういう意味じゃないんだよね。
 --今ので何を察しろと?
 
 こうやって表層心理で会話をしているが、それに込められた意味を知るには声色だけだ。声色だけで相手の言葉の真偽を確かめるのは難しいし、察して欲しいことを察するのは難しい。寧ろ、のんびりしてていのかという質問であっちの仕事についてのことだと察した僕のことを誉めてほしい。
 そう、僕は決して鈍感では無いのだ。一度も悪意や殺意を察知し損ねたことはなく、一度も指摘されたことがない。だから、精霊が何を言いたいのか分からなくとも僕に責任は無い。
 
 「もういっこ質問いい?」
 「いいっすよ。なんすか?」
 「最近忙しくてさ。教師になったことで少しは休みがとれるかもしれないんだ。んで、知り合いから稽古でも付けてやれば? って言われたんだけど……」
 「もっと構ってやれってことっすね。」
 「……なるほど、そういうことか。」
 
 とりあえず精霊の言いたいことを理解出来たので紅茶を一口。確かに、エマが大きくなってからプライバシーもあると思ってシャルに任せ気味だった。これは、義理の父親として反省せねばならないことだろう。
 
 『トゥルルルル……トゥルルルル……トゥルルルル』
 「ん? 電話?」
 
 悲報、まったり紅茶タイムは終焉を迎える。
 ちなみに終焉とは死の間近という意味で、特にかっこいい言葉ではないぞ。漢字のかっこよさに釣られるのは間違っている。
 
 
 

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