元勇者の吸血鬼、教師となる

妄想少年

011

 『《ファイヤー》』


 一斉に大量の火の玉が発声する。ざっと見ただけだが、失敗した生徒はいない。それが嬉しくあるが、誰一人失敗していないという事実に嫉妬してしまう。流石は才能値S以上と考えられる生徒たちだ。


 「おぉぉ! すげぇ!」
 「ま、当然のことですわね。」
 「これが魔法……発動した後は言葉で操作するのとは違うようだな。回転かけたり一部を尖らせたりすることも簡単、と。」


 出来たという達成感半分、安堵一割、残りが興味や関心といったところか。出来ずに落胆する生徒がいなくて安心だ。《ファイヤー》という初歩的な魔法でも、発動することが出来て嬉しいのだろう。
 そして、早くも数名の生徒が火の玉の形を変えたり回転をかけたりしていた。ポケーっとしているものもいるが、そこは行動力の個人差だ。指定していないことなのだからしなくともいい。逆に考察し、実験することも自主性があっていい。
 《ファイヤー》は初歩的な魔法……世界でもっとも簡単な魔法だ。誰もが火の起こる様子をしっかりと見ていて、完全なイメージが出来る。発音がカタカナでも通じるという日本人に優しい設計でもある。……まぁ、カタカナも日本語なのでなんでもとは言わないが大体のことは出来る。


 「……あれ? これってどうやって消すんだ?」
 「さぁ、霧散でもさせりゃあいいんじゃねえのか?」
 「いや、そこまでの技術俺らにはないだろ。」


 当然、これはわざと言っていないことだ。決して付けるはいいが消すのを教え忘れていたアッハッハ、等とは思っていない。生徒から結論を導き出させるのを待っているのである。そう、これは生徒を信じる教師の鑑のような心がさせているのだ。
 決して、決して忘れていたとかではない。


 「せんせー、どうやって消すんですかこれ」
 「自分で考えて試してみてください。ヒントは燃焼です。」


 僕は生徒の自主性を優先する面倒くさがり……もとい、成長を促す先生なので簡単な品質だけ与えるまでに留めておく。ぶっちゃけ、こんなもの状況から簡単に察せられる


 「……燃焼、物を燃やすことだよな? なんか面倒な定義あった気がするけどそれでよくね? んでもって火属性と……」
 「魔力を助燃性で助けている? というか、魔力自体を燃やしているの? それなら時間経過で消えていくよね。」
 「ん~、そうだけど火の玉が小さくなってねぇんだよなぁ。あれか? 魔力の密度……合計魔力量を多くしたらその分長く燃えるってことか?」


 それは違う。魔力の量は多ければ多いほどよいのではなく、適度さが大事だ。あまりに魔法の規模と噛み合わない魔力量だと暴発して体が終わる。プライバシーもあるから彼らの魔力量は知らないが、SSもは無いだろう。
 心配はしていない。いざとなれば魔力を吸い取るなりなんなり僕が出来る。この授業はこれで終わるつもりだから好きにしてくれていいのだ。……ただ、自主性があまり無い人の為にも言っておいたほうがいいか……?


 「残り時間が三分になったら魔法の消し方を聞いていきますよ。それまでは自由に実験してください。失敗しても成績には響きません」


 僕は授業中に傷害に関する何かあったらそれは担当教師の監視不足だと考えている。ただ、その分やり過ぎは武力で抑えることも厭わない。話を聞かない馬鹿には実力差を知らしめるほうがよい。……駄目だ、祖父さんの教え方が身についてしまってる。


 「だってよ、どうする? 色々試してみるか?」
 「そうするしかねぇな。勝手に話し合いしてもいいんですよね?」
 「既に勝手に話してますよね……? まぁ、全然構いません。よっぽどのことでも無い限りは何も言いませんよ」


 そう言うと、生徒たちは元から無かった遠慮を更に取り除いて活発的に話し合いを始めた。大体グループは固定されているのだらうが、自主的ではないぼっちさえいなければ問題ない。ちなみに、いじめとかがあっても藤堂に任せるつもりだ。
 いじめほどくだらないことはそうそうないと思う。やられる人が可哀想とかはまったく感じないが、そんなことに使う時間が勿体ない。


 「これ、ぶつけても大丈夫かな?」
 「同じ魔法をぶつけたらどうなるかの実験ね……やってみるか。」
 「うん。魔力量自体はなんとなくでもいいよね。」


 一度こちらを見て、僕が何も言わなかったことからやっても問題ないと判断したようだ。拳ほどの火の玉を作り、周りをよく見渡した後に試している。下手をすれば大爆発を起こすが、魔力で障壁でも張っておけば生徒に危険はないだろう。
 ということで、一応結界を作っておく。全魔法、物理攻撃に度を越さなければ耐えられるものだ。そのため結構な魔力消費だが、元々の所有量が相当なものであるとともに、吸血鬼という再生力に長けた種族なので消費量は一分にも満たない。


 --本当、才能ランクE-とは思えない強さだよねマスターって。
 --他人とは比べ物にならない時間修行してたからねぇ。武力においては結構自信あるよ?
ま、それでも追い越せない魔力量を持つ親友がいるけどさ。
 --あの人は例外でしょ……才能SSとかどんな逸材だよ。
 --戦闘力なら絶対負けないっていいきれるけど……魔法戦だったら勝ち目は無いなぁ。あいつに魔法なんて聞かないし。


 魔力を使わない戦い方もいくつか所有しているが、魔法戦となれば親友に僕は勝てない。努力量は数千倍でも、才能というのは努力を容易く蹴落とすのだ。
 僕も日々負けないように訓練をしていくしかない。
 まぁ、訓練をするのに適した能力があるからやりやすいので、努力量で負けることは恐らく無い。


 「よし、魔法同士をぶつけたは弱いほうが消滅するようだな?」
 「そうとも限らないね。私たちはまだ魔力の正確な大きさを理解出来てないんだ。消滅じゃなくて呑み込む……ってことも有り得ないかい?」
 「なるほど。……となると、正確な魔力を読み取る感知能力が必要だな。チッ、実験するのにも地盤は必要ってぇことかよ」
 「そうなるね……こりゃあ、大変そうだよ。……でも--」
 「あぁ、それだからおもしれぇな。」


 魔法同士をぶつけ、片方が消滅したことを確認した二人の生徒は方向性を変え魔力を正確に読み取る練習を始めてしまった。こういう場合はどうなのだろう。結果的には魔力の消し方に繋がる訳だし……判断がし辛い。


 「……目的がズレてますわね。」
 「言ってやんな。明らかに変だけど」
 「そうそう、その結果成功するかもしれんだろ? 流石に実行するとは思わんかったけどな。周りにもあんま興味なさそうだ。」
 「先生も何も言ってねぇしな。」


 うむ、一応周りの状況は確認していることを知ってあげようか。それを分かってあげないと二人だけの世界に入った研究馬鹿扱いになる。ただの高校生に対する扱いではないだろう。
 言っていることには激しく同意だが。


 --人の火の玉を使って魔力感知の練習をしているようだね。魔力を具体的に表す目安も値も無いのにどうするんだろう?
 --ステータスもなんとなくだもんねぇ。数字で表すのは難しいんじゃないかな。質量も無いんだから測りようもないし。


 「……くっ、目安が分からんッ!」
 「となると、なんとなくでやるしかないのかなぁ。魔力原子みたいなものがあれば……いや、分からないね。目安があっても無理なものは無理だ。」
 「そこをどうにかできりゃあなぁ。」


 今更だが、魔力が呑み込まれているのか知りたいのならより巨大な魔法を使えば済む。それをしないということはただ魔力感知をしたいだけなのだろう。人間からすると気体のようなものだというのに……普通に考えて無理だ。
 生まれた頃から魔力に慣れ親しんでいる僕ですらなんとなくでしか分からない。それに、吸血鬼でも気体がどれほどあるのかなんて分かるはずもない。空間を調べる魔法はあるが、いちいちデータで表記など出来ないのだ。現実はそんなに甘くない


 「では、あちらが魔力感知について調べている家に私たちは純粋に調べるとしましょう。研究結果を聞く代わりに何か発見しておけば一石二鳥ですわ。」
 「いやまぁ、もとから今は消し方を探す時間なんだけどな?」
 「存じておりますわ。それブラス何かを見つけておくということですわよ? 交換材料が無ければ知り得る知識も得られませんもの。」


 あ、これあれだ。研究楽しそうだから自分にも火が付いてしまったやつだ。しなくちゃいけないことがあるのについついやってしまいたくなる研究者気質な人特有の症状だ。今まででそんな人を何回も見たことがある。
 しかも、やることもやるという言い訳も立てられる状況を作り出そうともしているから質が悪い。そして相手の手に入れた知識と交換しようとも考えている。研究者気質プラス効率重視によくあるのだ。


 「正論だな。……んで、そうするなら俺らはどうする?」
 「あちらが魔力を感知する方法を調べているわけだし、逆に隠す方法でも調べてみるか? 戦闘でも使えるだろ」
 「打倒ですわね。では、始めるとしましょうか。」


 おっと、魔力を感知するとまでは行かないものの、彼らは相当難しいことを選んでしまった。異世界の学者が数年経っても分かっていないのだからその難しさが分かるだろう。僕はまぁ……戦闘スタイルが隠密系もしてたからどうやるのかは可能だ。我流でやっている。他の方法もあるのかもしれない。


 --結構簡単に出来ると思うんだけどね。
 --それは才能無しで考えるのに時間がかかりまくった僕に対する嫌みかね?
 --へっへっへ、違いますぜマスター。思いつくまでどうこうってことじゃなくて実行するのが簡単ってこと。日本のオタクなら直ぐ見つけれそうなのに。
 --生憎、ラノベを読み出したのは帰ってきてからなんでね。身近なところに資料があったのにバカなやつだよ僕は。
 --そんなことないんじゃない? ……ところで、ツッコミはないの?
 --え、面倒だから嫌だ。
 --そんなー! 酷いわ---!


 やることもなくなったので、精霊と雑談をしながら生徒を眺める。やはり、五日に一回ぐらいしか起きていないことに目を瞑れば精霊は時間つぶしには持って来いな人材だ。……精霊の場合は僕が話し掛けることは少ないから話しやすいしね。

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