元勇者の吸血鬼、教師となる

妄想少年

010

 全員が魔力操作を覚えることに成功した。まだまだ完璧とは言えないものの、綺麗に魔法を発動しる段階にまでは成長している。僕がこれを完璧にするまでに一年は掛かったのだし、羨ましい限りである。恐らく、《才能》の値はS以上だろう。
 残り時間は二十分。新しいことをするには少々心許ないが、生徒たちにはこれから楽しんで貰わなければ努力しようとしなくなるだろう。それを防ぐ為には、簡単に刺激を与えてやることが良い……と思う。
 人には人の好みはある。この中でも魔力操作を気に入っているものはいるだろう。ひたすら極めたいというものもいるかもしれない。しかし、全体のバランスを考えれば新たな刺激があるほうが場は活性化するのだ。


 「え~と、次に基本属性魔法を一つやってみましょう。まず基本属性魔法というのは、火、水、風、土、光、闇の六属性のことで、別名は元素魔法と呼ばれていました。まぁ、闇は元素? ホワィ? という理由で一般的な呼称は基本属性魔法に変わりましたが。」


 実際のところ、これも人間が定めた物でしかない。属性なんてものは存在しないし、魔力というものは魔力でしかないのだ。その性質を弄った時点で完璧な魔力とは言えない。活用法によるということだ。


 「魔法には主に三つの発動方法……いや、そもそも魔法というのが『魔力を使って事象を引き起こす』という言葉の略語です。とは言っても紛らわしくなるだけなので、魔法は魔法と言うことにしておきましょう。」


 僕も事象を引き起こすことを何というかは定まっていないため、それは仮に魔法ということにしている。正式名称が発表されたのならそれに従うつもりだが、恐らく正式名称されることはこの先数十年は無いだろう。
 今重要なのは、魔法がどうたらを研究することより、日本を壁でも作って守ることだ。今はリベリオンが現地に赴き、防衛と建築を進めているが何時までかかるかは分からない。そのうに魔法について予め知識のあった……現在では魔法研究員と呼ばれているかつてのファンタジー好きも派遣させることになるだろう。


 「魔法の発動方法は主に『言霊魔法』、『陣魔法』、『心魔法』の三つに分けられます。そして今日行うのは最初に言った『言霊魔法』です。他の二つは後々説明していきますからご安心を。」


 僕は普段、『心魔法』というイメージと魔力操作だけで発動する魔法を主に使用しているが、難易度的には『言霊魔法』が最も簡単だ。『陣魔法』も様々な準備が必要ということもあり、やはり『言霊魔法』が初めて魔法を使う生徒には良いだらう。


 「さて、言霊とはなんでしょうか? 川崎さん、分かりますか?」
 「分かりません」
 「……少しは考えてほしいですが……まぁいいです。言霊というのは言葉に宿る霊的な力のことで、魔力を用いる今は霊的な力が魔力とされます。」


 どこぞの部族は霊力というマジモンの言霊を使えるらしいが、そんな不確定な情報を渡すのは誉められることではないだろう。冗談ならいいが、今は割と真面目な話をしているのでふざけるつもりはない。


 「古来より、言葉というのは力を持つとされています。気持ちを伝える、勇気づける、励ます、心を通わせる……等々ですね。そして、魔法に大事なのは意思の力、そうなると言葉で魔法を発動させるのが可能という考えに至るわけです。」


 言葉に魔力を込めるだけで魔法が発動するということは、やはり言葉に力が籠もっているからだと言える。気持ちは直接伝えなければ分からない。それと一緒で、魔法の意味のある言葉でないと発動しない。


 「さて、その『言霊魔法』ですが、これは魔力を言葉に載せることで発動します。ここからは少し面倒な説明になりますからよく聞いておいてください。」


 面倒といっても、せいぜい中学生で習うようなことを魔力と組み合わせるだけだ。音についてある程度分かっていたなら理解出来る。


 --地球の魔法って理論的だよね。
 --いや、それはないよ。僕らが使ってるのはあくまでも不思議現象を起こす力。理論なんてほとんど関係ないね。寧ろ、感覚のほうが強いんじゃないかな。


 「声を出すためには声帯……音の反射があることが必須です。音には高さがあり、上手く出すのもかなりの難しさがあると言えるでしょう。」


 例えば、絶対音感がある人と音痴な人とでは出せる音程に大きな差がある。ニュースキャスターが喋るのと実況者が喋るのにも速さや音程の差があり、理解出来るがどうかというのは、前後の文章にて変わってくる。


 「で、『言霊魔法』に必要なのは、魔力を喉に集め声にするということ、言葉を意味のある音程で声に出すことです。なんとなくは分かると思いますが、理解しやすくするために簡単な例を出すとしましょう。」


 黒板に『神』という字と、『髪』という字を書く。今回は日本人らしく日本語で書いたが、これはありとあらゆる言語で共通されることである。


 「阿久津、こっちの『神』はなんという意味ですか?」
 「生物を作り出したとされる信仰の対象、偶像とも言える」
 「そうです。じゃあ深尾、こっちの『髪』は何という意味ですか?」
 「えっと、髪の毛……でいいんですか?」
 「はい、そうです。」


 簡単な質問だ。幼少期に冗談で言ったことがあるだろう。『神ってる-』だとか、『髪イってるー』だとか。発音も意味も違うが、使われている音の種類が同じもので遊んだあれである。俗に言う親父ギャグだ。……どうでもいいが僕は好きだ。


 --まぁ、中身がオッサンだもんね。
 --違います。元からオッサンっぽい趣味なだけなんです。最近の俳優より四十から五十の芸人が好きだとかその程度です。中身もピチピチの青年でさぁ。
 --ピチピチが死語なんだよなぁ……。
 --やんやん? やんやん?
 --うわぁ、急に豚になったよこの吸血鬼。


 精霊とふざけて会話をしているが僕の表情は欠片も動いていない。というか、所詮思考の交換だから一瞬の内に済ませられるのだ。思いついたことをリアルタイムで寸分も狂い無く、こういうところがあるから精霊も居座っているのだろう。余計ニート化が進んでいる感じがしてマズいと思った気がする。気がするだけで何もしないが。


 「みんなも知っている通り、言葉には同音異義語があります。そのため、言葉を発しただけでは想定していない魔法が発動されます。」


 僕の知り合いはそれで髪の毛を増やそうとしたら神を召喚してしまったそうな。当時は色々困惑したようだが、神が髪を増やしてくれたのでどうでもいいらしい。……彼は現在、カツラでも求めて彷徨っていることだろう。
 定期的に髪を抜きに来る敵か……想定するだけで恐ろしい。


 --助ける気は?
 --そもそも可哀想とも思わないね。


 「ぶっちゃけ、三つの中で比較的簡単なだけであって簡単かどうかは個人に寄ります。音痴な人はやめておいたほうがいいでしょう。」
 『……え?』


 生徒たちの驚きの声に少し素で笑ってしまった。しっかりした発音なんてアナウンサーでもないと難しいから簡単かどうかは人によるだろう。少なくとも、ある程度の練習は必要不可欠だ。才能があっても数回は苦労するだろう。


 「さて、一応説明も終えたことですから実践に入るとしましょう。まずは喉に魔力を集めてください。ただし循環は止めずに、循環の量を減らしてその分を喉にです。」


 魔力を循環させ、身体強化もしながら喉に魔力を込めていく。本来ならこの程度一瞬で出来なければならないが、最初ということでゆっくりするとしよう。まぁ、時間をかけてするというだけで魔力の動きを感知させるわけではないが。


 「……こう、だよね?」
 「もう少し魔力いるんじゃね?」
 「そうかなぁ……よし、増量増量っ」
 「循環速度落ちてないか?」
 「まじかよ。ぬぉぉぉ、アゲアゲでいたったるわ~」


 一日目から協力し合っていて素直に凄いと思う。僕は初対面の人と会話するときは常に気を張っているから表面上しか仲良くなれないのだ。相手からどう見えるかは知らないが。だから、人のしていることにあまり意見は出さない。
 ……副会長とかしていたときは別だけどね。


 --私から見たら相手は気を許してる様子だったよ?
 --さぁ? あんな世界が基準だったから相手の裏まで探ろうとしちゃうからねぇ。当然のことながらほとんどの人間は信用してなかったよ。
 --尚、心を許した相手はすごい甘やかす模様。


 「先生! 必要魔力はどのくらいですの!?」
 「密度20に体積8立方センチメートルぐらいです。」
 「分かりましたわっ!」
 「今のでわかったの!?」


 どこからともなく突っ込みが聞こえてきた。僕も今ので理解するとは到底思えなかったので同感である。……というか、適当にすれば大体成功する。
 魔力を込めすぎれば威力が上がったり暴発するだけだ。それで死んだりするものは見たことが無い。完全にアホな死因だ。


 「冗談です、込めすぎなければ大丈夫ですよ。……一応目安も用意しておきましょうか。今から火の玉を出します、これから必要魔力を読み取ってください。《ファイヤー》」


 火の玉を生成し、教室内をフヨフヨと浮遊させる。勿論、生徒に当たったら火傷してしまうのでゆっくりと動かさなければならない。魔力を読み取るということは魔力を持っていて、尚且つ相手が隠していなければ簡単だ。訓練はいらない。


 「ちなみに、ほかの言語でも発動します。《Φωτιά》」
 「……何語、あれ。」
 「あ、ギリシャ語だ。火って意味だよ」
 「なんで知ってんだよ」
 「昔、色んな言語を調べるという暇つぶしをしていてもんで……まぁ、喋れるのは単語だけで文とか無理だけどな」


 単語をある程度知っている時点でなかなかの記憶力だと思う。魔法使い……正確には『言霊魔法』使いからすると、単語を知られているというだけで困る。他言語で喋っても意味を理解され、避けられる恐れがあるからだ。僕が単語を知っているのは、相手にカモフラージュして攻撃をする目的もある。
 何語かも分からない言葉を発し、『言霊魔法』を使うことなく『心魔法』で騙し騙し戦うというのが僕の偶にやるやり方なのだ。メインは近接戦闘だが、魔法も組み合わせると相手を錯乱させられるという利点がある。


 「魔力は込められましたか? ……それでは始めましょう」


 さて、生徒たちの喉に魔力が籠もったことも確認したことだ。さっさと発動したくてウズウズしているだろう。……そして僕も、才能ある生徒たちの初めての魔法発動に立ち会うのを、非常に楽しみにしていたのだ。
 ……期待はずれの魔法を見せられたら僕は泣くぞ。

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