元勇者の吸血鬼、教師となる

妄想少年

008

 「うし、とりあえず委員長決めるぞ。立候補者はいるか?」
 「はいはーい! 私がやりますわ!」


 ケーキを食べた翌日、始まったのはクラスの委員長を決めることだった。藤堂が呼びかけると、反応したのは一人の少女。キラキラした金髪に瞳をしている。名前は確か……イネスさんだったか。どっかの国の人だと思う。
 誰だ、こんな少女におかしな語尾を覚えさせたのは。親御さんだったら日頃の教育がどうなっているのか心配になってくるぞ?


 --諦めたら? アレって喜んでやってるよ。
 --精霊か? 珍しく起きたんだね。
 --まぁ、記念すべきマスターの初勤務だからね。
 --初勤務は昨日なんだけどなぁ。


 心の中で声をかけてきたのは精霊。普段は眠りこけ、僕の魔力を悔い漁る体内ニートだが、偶にサポートをしてくれるちょっとした仲間のようなものだ。名前で呼ばないのは僕のことを一度も名前で呼んでこないからである。
 そんな精霊だが、珍しく地球に興味を持ったようだ。興味ありそうな声色なのが読み取れる。……具現化したら掌なみの大きさはあるのだが、面倒くさがりなので目すら見えない。感情は声で判断するしかないのだ。


 「そうか? それじゃあ女子はイネスに任せる。男子に立候補者は……いないようだな。ってことで富樫、お前がやれ。」
 「酷くないですか!? 個人の意思は!?」
 「知らん。入学式の日に話しかけて来れるお前なら大丈夫だろう。他の男子諸君に異論はあるか? あるのならねじ曲げてやる。」


 藤堂はこの学園に来てなかなか理不尽になったらしい。有無を言わさぬ態度で富樫の委員長就任を決定しようとしている。あの頃の魔物に緊張しまくっていた藤堂はどこにいったのか……探すのも面倒くさい。そんな人は死んだのだろう。
 無論、そのようなことをすれば男子諸君は嫌々……違う、あれはいやなことを押し付けられてはラッキーと思う類の目だ。委員長をやりたくないのはどの年代でも変わらないのか。


 「男子は富樫に決定。拍手~。……さて、他の委員会も決めてくぞ~。とりあえず黒板に書いておくから好きなとこに名前書け。後は委員会に任せる。」
 「お任せくださいなっ!」
 「放任主義なの? 面倒なだけなの?」


 やる気に満ちているイネスさんと、理不尽に決められた富樫との差は歴然だ。これからは富樫が大変な目に遭うことは分かりきっていることだ。今から楽しみである。
 チラリと藤堂を見ると、奴も同じことを考えているようだ。無駄に悪い目つきと合わさって危険なことを考えている犯罪者にしか見えない。本当はしょうもないことで楽しもうとしているだけなのに、僕とのイメージの悪さは数段階違う。
 あぁ、僕に関しては常に笑顔を貫いているので問題ない。自分の容姿がどんなものなのかは理解しているし、それの活用法ぐらい考えている。
 そうしないと、組織からの依頼をこなすことは難しいのだ。


 「ははは、生徒の自主性を信じていると言ってくれ」


 ホームルームは、委員会のメンバー決めることだけで終わった。僕はこれから、保健室に移動するとともに授業のちょっとした準備だ。無いと困る器材もあるにはあるのだ。例えば、呪いを受けて傷が治らない、とか。


 「--さぁて、保健室の探索と行きますかね。」
 --楽しそうだねマスター。
 --まぁね。何があるのか調べたくなるのは少年心として当たり前だよね。
 --マスターの年はとても少年とは言い難いけどね。


 そこは言わないお約束だ。吸血鬼は他の生物とは違って肉体に精神が引っ張られるのだ。僕だって姿を変えれば好奇心も無くなってくる。落ち着いた僕を見たいのなら肉体年齢を上げるしかない状況でも作ればいい。
 とまぁ、そんな言い訳は置いておいて保健室の探索である。既に白衣はそでを通し、中をいじくり回す準備は万端だ。不良生徒の相手ぐらいしかやることは無いといってもいいぐらいにこの中は人が少ない。要は暇なのだ。


 「とりあえずあるのは包帯と消毒液……だけ?」


 ふむ、此処は医療関係にあまり力を入れていないということが分かった。施設は身長体重計、視力検査や聴力検査に使う機器、ベッド……まぁ、変なものは無い。筋肉、骨格等の人体を詳しく書いた本や、性教育の本、メンタルの本、当たり前に有るものだろう。
 まだ一時間目すら始まっていないため、溜まりにくる生徒は訪れていないが、いずれやってくることは間違いない。僕の出来ることはまったりとこの場で過ごし、怪我人を待つことだけである。……となったら、どれほど良かっただろう。


 「なんですかねぇ、この書類の量。新人に任せるものじゃないでしょうに。」
 --仕方ないと思う。学園長はあの人なんだし。
 --それじゃあ手伝ってくれる?
 --面倒だから嫌


 薄情な奴だ。視界を一つか二つ増やしてくれるだけで仕事が大いに捗るというのに。二つしか目が付いてないため、同時に二つしか進められないではないか。と、理不尽な怒りをぶつけるのは間違っているのでさっさと仕事に取りかかる。


 --わぁお、流石マスター。思考速度が凄いね
 --何当たり前のこと言ってんのさ。僕は吸血鬼だよ?


 吸血鬼なのだ。思考ぐらいいくらでも同時に進められるし、思考速度もふつうの生物とはかけ離れている。演算能力が高性能なパソコン並なのだよ。
 それに間違いがあるのかどうかは自分では分からないがね。
 演算能力が高くても結果にミスがあったらポンコツ、それが僕だ。


 「いらないプリントも混じってるなぁ。」


 闘技大会には出場するのか……とか、毎日挨拶をして回らないか……とか、必要かどうかまったく分からないようなプリントも含まれていた。
 口でしませんと言って、誰かが○×でも付けておけばいいのに。


 --社会人には必要なんだよ、きっと。
 --絶賛引きこもりニートにそんなこと言われるとは思ってなかったよ。
 --え? 精霊に働く義務はないよ……?


 何故だろう。顔は一切見えないというのに精霊のどや顔が浮かんでくる。それもとびきり人をバカにしたようなどや顔だ。見えないから少ししかイラつかないが、目の前で見たら確実に腹が立つだろう。


 「--終わった。」


 時間をかけること二十分。頭脳と両手をフル稼働させてプリントを終わらせることが達成された。あと数分もしたら一時間目のスタートである。
 ちなみに、僕の授業の担当は五組のみだ。糞親父としては養護教諭のほうに力を入れて欲しいらしく、授業数自体はあまり無い。せいぜい、週に四回といったところだろうか。なんにせよ授業は楽な仕事である。


 「--チワース、体調悪いんで休みにきましたー」
 「いらっしゃい。本当に体調不良者が来るまでそのベッド使っていいよ。」
 「ども」


 授業が始まりまったりと座っていると、早速サボリが現れた。金髪に染めた如何にも不良ですと言わんばかりの青年である。見たところ二年生だろう。
 本来、教師である僕はこの不良君を注意せねばならないのだが、僕には人を改心させるような巧みな話術は持ち合わせていないので不可能だ。ぶっ倒れるぐらいの急病者や重傷者の邪魔さえしてくれなければそれでよいのだ。
 現在の季節は春。特別暑くもなく、特別寒くもない温暖な時期だ。ぶっ倒れるほど汗をかく人物なんて早々現れないだろうし、重傷者なんて以ての外だ。僕が本気で動かねばならないような事態は相当なことでないと起こらない。


 --あれ、マスターはどういう時動くの?
 --連れてこれないぐらいの重傷者、骨が露出したり内蔵が傷ついたりした時だよ。軽い傷なら生徒の使う回復魔法とか異能で十分だからさ。
 --なるほど、楽な仕事だね。
 --それに関しては同意するけど副業のほうもあるんだよ? ……というか、僕からしたらあっちのほうが本業だよ
 --あー、あれ? 暗殺がどうのこうの。
 --別に暗殺がメインってわけじゃないよ? 祖父さんの代から続いてる何でも屋だ。当主は他のに任せてるけど忙しいんだから。


 アサシン、それが僕の依頼を受ける組織の名前だ。名前からして暗殺をしていそうだが、魔物との戦闘は勿論のこと探し物や盗み、黒いことはなんでも引き受ける。僕はそこに所属しているのではなく、依頼を受けるか受けないか判断して仕事をしているのだ。


 まぁ、受けない依頼は女関連の仕事と知人の暗殺のみだ。妻帯者である以上女関係のことには手を出したくない。家族ぐらいなら纏めて殺すけど。……正確には、生かす価値も無いと切り捨てられたら家族ぐらいなら殺す。


 --マスターって容赦ないよね?
 --そうだね。


 仕事はやる。犯罪だろうがなんだろうが、生活資金を手に入れるためにはそうするしかないのだ。何しろ、僕は異能について話しただけで就職失敗確定。無能とされるものにこの日本は優しくないのだ。
 僕の持ち前のスペックを使えば本来、就職程度容易なのだ。武器だって作れる。会計も寸分狂わず出来る。接客も簡単だ、演技には自信がある。……しかし、無能だと認識されているため僕が雇われることはない。
 なればこそ、殺すと決めた対象は殺し家族の為に金を手に入れる。彼らの未来の為には犠牲が必要だ。……が、幸い家族を養う金は十分に手に入った。ぶっちゃけ殺そうが殺さまいがあまり関係ない。


 --え? 仕方なく人を殺していて心を痛めてる……みたいな話じゃないの?
 --アホ言え、僕は吸血鬼だよ?
 --すごい。ここまで根拠が適当なのは初めてだよ。


 誰が名も知らない人間の死を悔やむのだろう? 少なくとも、有象無象ごときに動く心は持ち合わせていない。僕は人となりを知っていて認めている人か気紛れにしか人の死を悲しまない。不老不死の処世術だ。


 --本当は……子供好きで死なせたくないくせに。


 だからきっと、少し責めているような精霊の声は気のせいだったのだろう。僕は本当にクズな人間で、子供を殺すことも厭わないような奴なんだ。……心配される理由なんて、何一つ残ってなんかいない。

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