元勇者の吸血鬼、教師となる

妄想少年

003

 私立異能力専門学園、それこそが僕の勤める学園の名前であり、名前から想像出来る通り魔法や異能等といった戦闘能力を鍛え上げるための学園だ。ついでに、名前は普通科と農業科という二つの学科のある学園だった。
 何故魔法や異能等といった、過去の科学世界では考えられないものがあるのかと問われれば、それは今から五年前の2018年にまで遡ることとなる。
 高校二年生の三学期、先輩たちが卒業したあの日、突如として魔物や妖怪、幻獣などといったものがこの地球に溢れ出した。その原因は科学者がたまたま異世界との扉を開いてしまったからなのだが、世間には知られていない。
 地球人に魔物の相手は不可能ではないものの、相当に大変なものだった。戦闘技術を持っている地球人は全人類の中でも少ない方で、魔物たちの生態が分からなかったためだ。更に、中途半端な知能のある魔物もいたことも厄介な原因と言えよう。
 世界はパニックに陥った。有り得ないほどの身体能力、質量を気にしない巨大さ、見たことのない戦い方、どれを取ってもこの科学世界には恐ろしいものだった。魔物によれば銃器や熱の聞かないものもいた。見えない障壁……結界を張るものもいた。ひたすら巨躯を用い暴れ、いくつもの街を滅ぼしたものもいた。
 そこで魔力的な力を持たない地球の生物の為に動いたのが神界という場所に住まう神々だった。彼らにより人間に魔力と異能が与えられ、独自に人間は魔法というものを作り出したのである。
 そして、その力を扱えるものを育てるために変わったのがこの学園ということだ。糞親父にはそれを育てるだけの財力と、育てるために作る能力を持った人材を育てる武力も指導力もあった。それが、糞親父に政府とかが強く言えない理由の一つでもある。
 どうでもいいことだが、僕に戦闘技術を教えたのは糞親父ではなく祖父だ。まぁ、それも基礎の基礎だけで、戦い方は自分から学んだ事なので完全な我流と言えるだろう。ふざけて僕の一族の流派とあの世界で言ったこともあった。……結局、その流派を教えることとなったのは三人だけだったがね。
 とまぁ、そんな雑談は置いて置いて、このように戦闘に特化した学園があるのは珍しい。だからここらへんは戦闘特区などというダサい名前で呼ばれていたりもする。そのせいで優秀な人材……つまり変人が集まるのもここというわけだ。
 先生が頭がおかしいだけなら不安にはなるもののまだ大丈夫である。……出来ることなら、変人のクラスでは働きたくないものだ。シャルやエレボスといった優秀な生徒が一つに集められめているということだけで不安だ。
 あぁ、ここに人が集まるのに何故田舎なのかと問われれば、それはこの学園は寮生活であるからだと答えよう。寮生活である以上は保護者たちも集まらない。つまりは税金の収入もあまりなく街が発展しない。そういうことだ。


 「え~と、乗り物は正門の近くに集めるんだったっけ?」


 バイクをどこにとめればいいのか知らないので適当に車の横に止めた。名前の指定がされていない以上、この人の場所はここという決まりはないだろう。というか、その程度のことで怒るような教師とは会いたくない。


 「--おはようございます。今日から宜しくお願いしますね」
 「おはようございます。こちらこそ。」
 「はい、それではこちらにどうぞ。お話しがあります」


 校舎の中に入り、指定された場所に向かった。そして、教師となるまでに何回も顔を合わせた初老の教頭とあいさつを交わした。
 教頭の名前は相良、この学園の先生の中で知っている二人のなかの一人である。性格は穏やかで優しいが、厳しくなるところとの境目は厳格な人物だ。やりすぎなところに入ると人を止める人物、糞親父にはそう聞いているし僕もなんとなくで分かる。
 吸血鬼というのは年齢に限りが無い分、その精神は肉体年齢に左右される。子供の状態なら情緒が不安定だし、老骨とまでいくと面倒な性格になる。だから、実際の年齢では僕のほうがうん百倍だとしても、年下という感覚はない。


 「--そちらに座ってください。」
 「失礼します。」


 上司と言ってもそこそこ話しもする関係のため、どちらかがへりくだったり尊大な態度を取ることはない。ただの丁寧語だ。これから一緒に働く以上、よほどの上司でもなければ丁寧語であったほうがいい。まぁ、学校限定だろうし、あの糞親父に敬意を持って話すなど屈辱以外の何者でもないのでしないが。
 僕は人手不足のために仕方なくこの仕事を請け負っただけだ。同僚はともかくあれの下の立場であるとは思っていない。大人としてどうかとは自分でも思うが、あれに敬意を示すことだけはどう足掻いても無理なのである。僕だってふつうの人が相手なら敬語ぐらい使える。


 「紅茶とコーヒー、どちらがいいですか?」
 「あ、私が用意します。教頭先生は座っていください。」
 「いえ、呼んだのは私ですから。」
 「……そうですか。では、コーヒーをお願いします」


 こういうのは気を遣うふりをしただけでもよいのだ。申し出をきっぱりと断られたとなったら自分が動くのも失礼にあたるし、何もしない馬鹿ともいわれない。祖父さんに習ったスキルの一つである。
 既にお湯は沸かしていたのか直ぐに運んできてくれた。インスタントコーヒーではあるが、教頭の入れ方が熟練者のそれなので様になる。きっと、彼はもてなしの心が立派なのだろう。世間的には素晴らしいことである。


 「どうぞ。砂糖やミルクはご自由に」
 「ありがとうございます。」
 「--さて、それでは本題に移りますか。」


 甘党の僕は二つほど角砂糖、三袋ほどミルクを入れてそれを飲む。まだ苦みの残るそれを飲みながら、本題へと切り出した教頭に顔を向ける。
 柔和な顔つきだ。若い頃はさぞかし生徒にモテたということが見て分かる。たぶん、女子生徒に『○○先生ウザイよねー! 相良先生と比べものにならない!』と良い例で比較されるあれだ。ヘイトを集めない役である。


 「あなたも知っている通り、この学校は……いえ、予め説明していたところは省きますね。この学校にはランキングというものが存在します。」
 「……え?」


 思いっきり初耳である。ホームページで調べたりもしたが一文字たりともそんな言葉は乗っていなかった。何かの比喩表現だろうか? 高校生の時には学年カーソルかなんか知らんがそういうものがあったらしいが……。
 僕は関わったらヤバい副会長として扱われていた。そのため、学園の中のランキング? みたいなものからは外れていた。ということで、あまりそういうことには詳しくない。


 「すみません。それを僕に言わないようにしたのはこの学園のルールなんですか?」


 もしそうならば知らされていなかったことでも許せる。僕だけではなく他の先生たちも知っていないまま就職したということになるからだ。


 「……いえ、学園長の遊戯です。あの馬鹿園長は、息子だから教えない方が面白いしやめさせるつもりもないから構わんだろう、と。」
 「……絞め殺しても問題ありませんね?」
 「やめてください。殺しては苦しみが続きません」


 流石だ。痛めつけ方についてよく分かっていらっしゃる。殺すだけより生涯をかけてなぶった方が痛みを与えやすい。……そして、そんな発想の出てくるこの人もあの糞親父にはさっさと死んでもらいたいと思っているのだろう。
 さて、敢えて僕に伝えていなかったということは僕に不都合のあるルールということなのだろう。糞親父は種族的に人で遊ぶことが大好きなので陸な未来が見えない。ちなみに、僕らの一族は人間ではないし、吸血鬼のみでもない。だから、僕と糞親父の種族は違う。


 「説明の続きをお願いします」
 「……ランキングというのはあの馬鹿が遊戯で作り出したこの学校独自のものです。学年ごとに順位を決め、その高さによって学園からの手配が変わります」
 「なるほど、陸でもないですねあの糞親父」
 「同感です。手配というのは金銭的なものは勿論のこと、武器、食事券、温泉、明らかに援助にはほど遠いものも含まれており、予算の管理人が何時も泣いています。」


 間違いない。僕の父親は糞親父を通り越して屑の領域である。まだ学園の生徒を見ていないからなんとも言えないが、この感じだと生徒も苦労しているだろう。……それで戦闘特区だなんだ言われているのだから安いもんである。
 予算の管理人も大変なものだ。あれが学園長として居座る限り、その人が休めることはほぼないと考えていてもいいだろう。それでも慈悲無くやらせるのがあの糞親父なので、僕には助けることなどできそうにないが。
 僕に出きるのはなるべく物を壊さないようにすることだけだ。たぶん、顔を合わせることも殆どないであろうから。


 「そして、そのランキングを決めるためにあるのが毎学期にある期末実技テストと、九月にある文化祭の闘技大会、この二つです」
 「二つも必要あるんですか?」
 「私の主観では必要はまったくありません。……が、生徒たちからしてみればそうではなく、それぞれに深い意味を持つようです。」
 「……報酬が違うとか?」


 考えられるとしたらそれぐらいしかない。成績に関してはテストのほうだけで付けると聞いているし、さっきの話しを聞く限り援助はそれでどうにかなりそうだ。
 ……僕だって説明されていない成績の付け方はしない。


 「さすが、あの馬鹿の息子だけあって頭の回転は速いですね」
 「あの糞と比較するのは止めてほしいんですが……まぁ、ありがとうございます。」
 「おっと、それはすみません。」


 別に頭の回転が速い……賢いわけではない。吸血鬼は人間より速く思考できる能力が備わっているだけだ。僕の個体としての性能は年月で強化されまくっただけであって、糞親父の天才性が受け継がれたわけではない。


 「見解の通り、定期テストとランキングの報酬は大きく違います。定期テストは先ほどの通り、学園からの援助がされるというものです。」
 「金とかそういうのですね」
 「ええ……そして、文化祭の闘技大会には外部からの人間も集められます。中には高校生の就職先になるような所もやってくるんですね。」
 「生徒の就職先……? まさか」
 「--対危険生命体組織、通称『リベリオン』。彼らの中でも上位に入る数名……つまり、人類の希望が視察に来る、ということです。」
 「リベリオン、ですか……」


 --対危険生命体組織、通称『リベリオン』、これはあの糞親父が作り出したもう一つの組織のことで、その役目は日本に現れた魔物、妖怪、幻獣を狩ることだ。親友を始め、数人の僕の知り合いや友人がそこに勤めている。
 この私立異能力専門学園の創立者と創立者が同じであることから、この学園とリベリオンは大きく関わりがある。かくゆう僕も、彼らとは依頼の時に顔を合わせる等、少しの関わりがあった。まぁ、僕の場合仮面を付けさせられているから相手に顔は知られていないが。
 そんなリベリオンの中でも特に強力な力を持つと言われるのが人類の希望、強さに序列を持つものたちであり、数字を持つだけで尊敬されるとまでされた実力者達だ。戦闘力においては僕の足元にも及ばないのが殆どだが、人類の希望はあと千年特訓したら僕に一撃加えられるかもしれないのいうのが少しいる。
 おっと、無論親友や知り合いは別だ。身体能力や近接戦闘技術なら誰にも負けるつもりはないが、僕と結構近い強さを持つ者もいる。親友に至っては僕より後に訓練し始めたというのに数歩後ろにいるぐらいの実力差だ。
 ……偉そうに強さがどうこう言ってみたものの、僕にだってどうしようもない相手はいる。そいつは実体を持たないが、僕を消そうと思えば……いや、全世界を結構思えば念じるだけで消去出きるような存在だ。
 だから僕は強さに酔いしれることはあり得ないし、何時だって努力は欠かさない。無才の僕が努力を止めたら直ぐに追い抜かれてしまうからね。


 「……リベリオンがスカウトに来ると?」
 「はい。有り体に言えばそうなりますね。その場で引き抜いて高校中退……なんてことは流石に有りませんが、スカウトされたらその時点で決定のようなものでしょう。」
 「確かにそうですね。リベリオンは給料もいいと聞きますし、将来裕福に暮らしたい生徒たちには重要な意味がある……というとですね。」
 「その通りです。では次に--」


 

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