《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

126話「血管と心臓」

 小城塞シャトレのほうは幸いにも、城門棟のようにクロエイに侵食されてはいなかった。



 暗黒病にかかっていないかだけ調べてもらって、中にいれてもらった。都市の中のストリート沿いにはたくさんの人がいた。いちように不安そうな表情を浮かべている。おそらく一時的に都内に避難してきた庶民たちだろう。



 鉄筋コンクリートの建物が建ち並び、都内には木の枝がはりめぐらされている。



(なつかしい)
 と、感じた。



 フィルリア姫とともにグランドリオンの領主館で籠城戦をしたのが、つい先日のことのように思い出された。



 ストリートを《血動車》で真っ直ぐ突き進み、広場に出た。給水泉のある広場だ。血と引き換えに水を出すことのできる、井戸のようなものがある。その広場に龍の尻尾と言われる巨木の幹があった。



「ここだな」
 と、ケルゥが車を停めた。



「送っていただき、ありがとうございます」



「なに。私はもう庶民で、君は領主だ。むしろ頭を下げるべきは私のほうだ。クロエイが消えてくれるなら、それほどうれしいことはない。幸運を祈っておくよ」



 ケルゥはそう言うと、《血動車》ですぐにその場を後にした。



 さて――。



 龍一郎は気をあらためて、龍の尻尾といわれる巨木と向かいあった。やり方はヴァルフィから聞いている。



 ただ、巨木から生えている龍の血管を、カラダにつなげれば良いということだった。



 龍一郎は木の幹に寄り添った。根本に一本太い管を見つけた。腹に突き刺した。動脈だとか静脈だとかは龍一郎にはよくわからない。それは今までも気にしたことがなかったので、無造作に突き刺しても大丈夫なものなのだろう。人の腕ぐらいの太さがあったけれど、痛みはまるでなかった。そのかわりカラダ中の血液を持って行かれるような吸引力を感じた。まるで赤子が母の母乳を吸うかのようだった。



 この龍の尻尾が血管ならば、龍一郎はこの世界の心臓なのだ。



「おいッ、表門のほうがヤバイぜ」
「クロエイが城壁を乗り越えて来てやがる」
 と、都民の声が聞こえてきた。



 吸うなら早く吸ってくれと焦った。その気持ちに応えるかのように巨木は、さらに龍一郎の血を強く吸ってきた。



「うっ」



 手足が冷たくなってきた。もしかすると血が少なくなっているのかもしれない。はじめての感覚だった。



「おっ、竜騎士さまじゃないですか?」
 と、声をかけてきた者がいた。



「ああ」
「なにをしてらっしゃるんです?」



 事情を説明した。



 すると、オレも手伝いましょう、とその男も自分の腕に管を刺した。1人加わると、また1人加わった。2人加わると今度は5人が加わった。



 龍の尻尾と言われる巨木からは、幹のみならず都市にはびこる枝からも龍の血管が伸びている。都民たちは、こぞっておのれのカラダに管を刺しこんでいった。



 そこには庶民や貴族もなかった。クロエイを退治しようと、みんな一丸となっていた。



 しばらくすると、《血動車》がやって来た。
 ケルゥが戻ってきたのだった。


「どうしたんです?」



「都市の連中に事情を説明して、協力を求めてきたのさ。こんな状況だし協力を拒否するヤツもいないだろう」


「ケルゥさん……」



 この男が協力的だと、チョットした感動をおぼえる。



「世界がクロエイに呑み込まれることだけは、私もカンベンしてもらいたいのだ」



 ケルゥも腕に管を刺しこんでいた。



 成果はあらわれはじめた。龍の尻尾がひとつの心臓になったみたく、ドクドク、と脈動しはじめたのだ。



 しかし。
 良い事ばかりでもなかった。



 ついに城壁を乗り越えたクロエイが、真っ直ぐこちらに向かってきていた。怖れをなした都民たちが龍の血管を引っこ抜いて、逃げ出して行った。



「おいおい、こりゃマズイじゃないのかね」
 ケルゥが言った。



「そうですね。でも、逃げる場所もないでしょうし」



 龍一郎は、続けて血を流しこんだ。



 こうやって血を流しこむことで、ホントウにクロエイの発生をおさえることができるのか。この状況を脱することができるのか。龍一郎にはわからない。ヴァルフィの占いを信じるしかなかった。



 ただ、逃げてもどうしようもない。



 クロエイが都市の中に入り込んでいるのであれば、すでに包囲されているだろう。



「ずいぶんとキモが座っている。領主になって少し大人になったか?」



「かもしれません」



「逃げる場所がないというのは、たしかにその通りだな」



 ケルゥも観念しているのか、逃げ出すことはなかった。



 前方のストリートからは、クロエイが濁流のように押し寄せてきていた。

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