《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士
124話「グランドリオンへ」
老赤龍は真っ直ぐグランドリオンに向かって飛んでいた。しかし、不意に地上から伸びてくる闇があった。
老赤龍は大きく揺れた。
龍一郎はカラダ全体で老赤龍の首元にしがみついた。あやうく振り落されるところだった。
「どうした?」
「巨大種だ」
老赤龍は短くこたえた。
「バカな!」
老赤龍はかなり地上から距離をとって飛んでいる。クロエイがここまで届くはずがない。しかし、間違いはなかった。
巨大種の手が老赤龍につかみかかろうとしていた。目算だが、全長おおよそ1000メートルはあるだろうと思われた。
「で、でかすぎる」
今まで見てきた巨大種のなかで、イチバン大きい。
まるで山だ。
「これも日食の影響であろうな」
「マジか」
ハエでも叩き潰すかのように巨大種の手のひらが飛来してくる。
「シッカリつかまっておけよッ」
と、老赤龍は速度をあげてその手をかわした。
しかし、巨大種はぶんぶんと腕を振り回して、かわしてもかわしても手のひらを叩きつけてくる。
老赤龍の飛行は見事だったが、ついに片翼に一撃をくらってしまった。老赤龍はバランスを崩して、急降下していった。
「ぐぅぅっ」
龍一郎は必死に、老赤龍の首にしがみついていた。老赤龍は不時着するかと思ったその瞬間に態勢をたてなおして、着陸に成功した。
「死ぬかと思った」
龍一郎は全身冷や汗で濡れていた。
「こやつの狙いは我であろう。ここは我が食い止めておく。コゾウは先にグランドリオンに行くが良い」
たしかにこの巨大種をグランドリオンに連れて行くわけにはいかない。
「死ぬなよ」
ぐるるる、と老赤龍はノドを鳴らして笑った。
「死ぬわけなかろう。忘れたか? 我はかつて龍が戦い合った時代に、最後まで勝ち残った龍であるぞ」
「そうだったな」
すでに正面にはグランドリオンの都市の明かりが見えていた。
平原を走った。
振り向くと老赤龍と巨大種が戦っている姿を見ることができる。老赤龍は巨大種の手をかわしながら飛びまわり、炎を吐きつけている。
(あの様子なら大丈夫そうか)
しかし他人の心配をしている場合ではなくなった。龍一郎のまわりにもクロエイが沸きはじめたのだ。
最初見たときは腰が抜けるかと思うほどビックリしたが、今ではそうでもない。見慣れたとはいかぬものの、恐怖は薄らいできた。
姿そのものは闇の蜃気楼のごとくモウロウとけぶっている。人のような形をしているが、顔には口だけしかない。その口からは黒い蛇のように長い舌をチロチロと伸ばしている。まるで龍一郎のことをグランドリオンに行かせないようにしているかのようだった。
「やっぱり来るか」
龍一郎は背負っていた《血影銃タイプ―0》を抜いた。伸びている5本の管をカラダにさしこんだ。管の中に龍一郎の血が流れ込む。銃口をクロエイに向けて、トリガーをひきしぼった。
血の塊が四散する。
血の弾丸を受けたクロエイたちは、ドロドロと墨汁のように溶けてゆく。だが、消えていくと同時に、また新しくクロエイたちはわき出てくる。
「ちッ」
2発、3発――撃ちつけていく。
撃っても撃っても、クロエイはどんどん増殖していく。ついに龍一郎は闇に包囲されることになった。
老赤龍の助けを借りれないかと思ったが、老赤龍は巨大種との戦いに必死のようで、龍一郎の危機には気づいていないようだった。1匹のクロエイが龍一郎に跳びかかってきた。龍一郎は己の影を食われないように、血影銃で迎え撃った。
マズイ。
このままでは暗黒病にかかってしまう。なにより、こんなところでムダに血を消費したくなかった。
そこに――。
一台の《血動車》が突っ込んできた。ヘッドライトを嫌ったクロエイたちが道を開けていた。
「乗れ!」
そう言ってきた運転手の顔を見て、龍一郎は驚いた。
アゴヒゲを生やしているが、その爽やかな華のある顔を龍一郎はよく覚えていた。
「ケ、ケルゥ侯爵? どうしてこんなところに?」
「いいから早く」
「はい」
飛び乗った。
《血動車》はクロエイの包囲網を突破した。
「久しぶりだね。リュウイチロウくん」
「ええ。ホントウに」
なぜケルゥ侯爵がこんなところにいるのか。何をしているのか。痛い目を見せられた過去があるので、警戒心をぬぐえなかった。龍一郎の警戒心を、ケルゥ侯爵は敏感に察したようだ。
「心配することはない。別に、悪いことを考えてるわけじゃないから」
「ホントウに?」
「言っておくが私はすでに、爵位を剥奪されている。今は、貴族ではなくて、ただの庶民だよ」
「そうなんですか」
初耳だ。
あれだけの騒ぎを起こしたのだ。さすがに処分は免れなかったということだろう。
「フィルリア姫から伝書鳥を使った連絡が来てね。グランドリオンの護衛に助力して欲しいということだったから、こうして《血動車》を走らせていたら、道中で君を見かけたというわけだ」
「偶然通りかかった――ってことですか」
「偶然というか、まぁ、老赤龍があれだけ派手に火を吹きまわっているんだから、近くに君がいるだろうとは思うだろう」
ケルゥは空を指差した。
老赤龍は遠目でもわかるぐらいに派手な戦いをくりひろげている。
「でも、ケルゥ侯爵――じゃなくて、ケルゥさんに助けられるって違和感がありますね。ハッキリ言って、オレはまだ完全に許したわけじゃないですよ」
ベルに酷いことをしたり、血質値の低い者たちを殺した過去があるのだ。それは簡単に許せることではない。
「私も自分がやったことを、間違いだったとは思っていない」
ただ――とケルゥは続けた。
「日食の話は聞いた。この世界が滅ぶかもしれんとなると、それはもう貴族がウンヌンなんて言ってられないからね」
ケルゥは肩を揺らして笑った。
ケルゥの面立ちや態度は簡単に他人の警戒心をといてしまうチカラがあった。最初に会ったときも悪い印象は受けなかった。その聡明な目元やにこやかな口元には、人の良さそうな雰囲気を持っているのだ。
その愛想の良さは、ケルゥ本来の人柄なのかもしれない。
老赤龍は大きく揺れた。
龍一郎はカラダ全体で老赤龍の首元にしがみついた。あやうく振り落されるところだった。
「どうした?」
「巨大種だ」
老赤龍は短くこたえた。
「バカな!」
老赤龍はかなり地上から距離をとって飛んでいる。クロエイがここまで届くはずがない。しかし、間違いはなかった。
巨大種の手が老赤龍につかみかかろうとしていた。目算だが、全長おおよそ1000メートルはあるだろうと思われた。
「で、でかすぎる」
今まで見てきた巨大種のなかで、イチバン大きい。
まるで山だ。
「これも日食の影響であろうな」
「マジか」
ハエでも叩き潰すかのように巨大種の手のひらが飛来してくる。
「シッカリつかまっておけよッ」
と、老赤龍は速度をあげてその手をかわした。
しかし、巨大種はぶんぶんと腕を振り回して、かわしてもかわしても手のひらを叩きつけてくる。
老赤龍の飛行は見事だったが、ついに片翼に一撃をくらってしまった。老赤龍はバランスを崩して、急降下していった。
「ぐぅぅっ」
龍一郎は必死に、老赤龍の首にしがみついていた。老赤龍は不時着するかと思ったその瞬間に態勢をたてなおして、着陸に成功した。
「死ぬかと思った」
龍一郎は全身冷や汗で濡れていた。
「こやつの狙いは我であろう。ここは我が食い止めておく。コゾウは先にグランドリオンに行くが良い」
たしかにこの巨大種をグランドリオンに連れて行くわけにはいかない。
「死ぬなよ」
ぐるるる、と老赤龍はノドを鳴らして笑った。
「死ぬわけなかろう。忘れたか? 我はかつて龍が戦い合った時代に、最後まで勝ち残った龍であるぞ」
「そうだったな」
すでに正面にはグランドリオンの都市の明かりが見えていた。
平原を走った。
振り向くと老赤龍と巨大種が戦っている姿を見ることができる。老赤龍は巨大種の手をかわしながら飛びまわり、炎を吐きつけている。
(あの様子なら大丈夫そうか)
しかし他人の心配をしている場合ではなくなった。龍一郎のまわりにもクロエイが沸きはじめたのだ。
最初見たときは腰が抜けるかと思うほどビックリしたが、今ではそうでもない。見慣れたとはいかぬものの、恐怖は薄らいできた。
姿そのものは闇の蜃気楼のごとくモウロウとけぶっている。人のような形をしているが、顔には口だけしかない。その口からは黒い蛇のように長い舌をチロチロと伸ばしている。まるで龍一郎のことをグランドリオンに行かせないようにしているかのようだった。
「やっぱり来るか」
龍一郎は背負っていた《血影銃タイプ―0》を抜いた。伸びている5本の管をカラダにさしこんだ。管の中に龍一郎の血が流れ込む。銃口をクロエイに向けて、トリガーをひきしぼった。
血の塊が四散する。
血の弾丸を受けたクロエイたちは、ドロドロと墨汁のように溶けてゆく。だが、消えていくと同時に、また新しくクロエイたちはわき出てくる。
「ちッ」
2発、3発――撃ちつけていく。
撃っても撃っても、クロエイはどんどん増殖していく。ついに龍一郎は闇に包囲されることになった。
老赤龍の助けを借りれないかと思ったが、老赤龍は巨大種との戦いに必死のようで、龍一郎の危機には気づいていないようだった。1匹のクロエイが龍一郎に跳びかかってきた。龍一郎は己の影を食われないように、血影銃で迎え撃った。
マズイ。
このままでは暗黒病にかかってしまう。なにより、こんなところでムダに血を消費したくなかった。
そこに――。
一台の《血動車》が突っ込んできた。ヘッドライトを嫌ったクロエイたちが道を開けていた。
「乗れ!」
そう言ってきた運転手の顔を見て、龍一郎は驚いた。
アゴヒゲを生やしているが、その爽やかな華のある顔を龍一郎はよく覚えていた。
「ケ、ケルゥ侯爵? どうしてこんなところに?」
「いいから早く」
「はい」
飛び乗った。
《血動車》はクロエイの包囲網を突破した。
「久しぶりだね。リュウイチロウくん」
「ええ。ホントウに」
なぜケルゥ侯爵がこんなところにいるのか。何をしているのか。痛い目を見せられた過去があるので、警戒心をぬぐえなかった。龍一郎の警戒心を、ケルゥ侯爵は敏感に察したようだ。
「心配することはない。別に、悪いことを考えてるわけじゃないから」
「ホントウに?」
「言っておくが私はすでに、爵位を剥奪されている。今は、貴族ではなくて、ただの庶民だよ」
「そうなんですか」
初耳だ。
あれだけの騒ぎを起こしたのだ。さすがに処分は免れなかったということだろう。
「フィルリア姫から伝書鳥を使った連絡が来てね。グランドリオンの護衛に助力して欲しいということだったから、こうして《血動車》を走らせていたら、道中で君を見かけたというわけだ」
「偶然通りかかった――ってことですか」
「偶然というか、まぁ、老赤龍があれだけ派手に火を吹きまわっているんだから、近くに君がいるだろうとは思うだろう」
ケルゥは空を指差した。
老赤龍は遠目でもわかるぐらいに派手な戦いをくりひろげている。
「でも、ケルゥ侯爵――じゃなくて、ケルゥさんに助けられるって違和感がありますね。ハッキリ言って、オレはまだ完全に許したわけじゃないですよ」
ベルに酷いことをしたり、血質値の低い者たちを殺した過去があるのだ。それは簡単に許せることではない。
「私も自分がやったことを、間違いだったとは思っていない」
ただ――とケルゥは続けた。
「日食の話は聞いた。この世界が滅ぶかもしれんとなると、それはもう貴族がウンヌンなんて言ってられないからね」
ケルゥは肩を揺らして笑った。
ケルゥの面立ちや態度は簡単に他人の警戒心をといてしまうチカラがあった。最初に会ったときも悪い印象は受けなかった。その聡明な目元やにこやかな口元には、人の良さそうな雰囲気を持っているのだ。
その愛想の良さは、ケルゥ本来の人柄なのかもしれない。
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