《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士
123話「龍一郎の決意」
龍一郎は老赤龍の背中に乗って、空を飛んでいた。
世界は夜の海のような暗闇をつくっていた。特に平原は照明がないのでクロエイの発生源になっている。そういった場所は濃厚な闇の繚乱が広がっていた。
もう夏も終わり、冷気をはらんだ風が龍一郎に吹きつけていた。空を飛んでいるからよりいっそう寒さを感じた。――そう言えば、こっちの世界にも季節の移ろいというものがあったんだったか。
この暗闇の中を移動するのは大変だ。
エムールたち竜騎士軍は、サディ城にとどまっていてもらうことにした。
「なぁ、老赤龍」
老赤龍は非常にユッタリとした速度で飛行していた。おかげでしゃべる余裕もあった。
「ん?」
「お前はもしかして、こうなることを知っていたんじゃないか?」
「まさか」
「それにしては妙な符合じゃないか」
世界中に張り巡らされた血管。
無限にあふれ出る血液。
「我はただ、我ら龍が生んでしまった悲劇をなくそうと思ったまでのこと」
「なら、これは偶然か?」
「神の気まぐれと言うべきものであろう」
「よく言うぜ。レオーネの人たちにとって神様とか悪魔だって言われてんのは、お前ら龍じゃないか」
レオーネにある宗教は、だいたい龍を信仰対象にしている。
「そうであったな」
ふはははっ――と老赤龍は笑った。
「笑いごとじゃないよ。オレはまた大きな決断をしなくちゃならなくなった」
ケルゥ侯爵のときとはわけが違う。
レオーネという世界の存続がかかっているのだ。
あのときは、ベルに振られたと思ってヤケクソになっていた。だが今は冷静な心で判断しなくてはならなかった。
胃が痛くなる。
「コゾウが考えて、コゾウが結果を出せば良い。仮にコゾウがこの世界に血を差し出すことを拒否したとしても、我はそれを責めることはできん」
「でも、オレが血を出さなかったら、この世界はたぶん終わるぜ」
「ああ」
「16歳の青年に押し付けることじゃないよな。世界の命運なんてさ」
龍一郎は老赤龍に怒りをブツけた。
老赤龍の背中にコブシを叩きつけたのだが、その甲殻は岩のように硬かった。龍一郎のコブシが痛んだだけだ。
「ただ、コゾウが血を流せば、この世界からクロエイが消えるかもしれん。そうなれば、血質値による差別は消える。すくなくとも今のように酷い扱いを受けることはなくなるだろうな」
「ああ」
血質値の低い者は、クロエイを招く。
だから嫌われる。
ヒューリマン・サディという人物も、だから庶民を虐殺したのだろう。
「血を出して、オレは無事でいられると思うか?」
「さあな。それは我にもわからん」
「だよな」
龍一郎の腹はすでに決まっていた。
この世界の人たちは、すでに龍一郎にとって他人ではなくなってしまった。フィルリア姫。エムール。インク。ヴァルフィ。ガルス男爵やケルゥ侯爵だってそうだ。セリヌイアの人たち。グランドリオンの人たち。そしてなにより、ベルのことだ。
(オレが血を出すだけで、ベルにとって住み心地の良い世界になるのなら)
逃げる理由はない。
龍一郎は頬に手を当てた。
まだベルから受けたキスの熱を思い出すことができる。
「グランドリオンに向けて飛んでくれ」
「わかった」
この選択は決して間違えていない。
そうだよな。
クラウス。
世界は夜の海のような暗闇をつくっていた。特に平原は照明がないのでクロエイの発生源になっている。そういった場所は濃厚な闇の繚乱が広がっていた。
もう夏も終わり、冷気をはらんだ風が龍一郎に吹きつけていた。空を飛んでいるからよりいっそう寒さを感じた。――そう言えば、こっちの世界にも季節の移ろいというものがあったんだったか。
この暗闇の中を移動するのは大変だ。
エムールたち竜騎士軍は、サディ城にとどまっていてもらうことにした。
「なぁ、老赤龍」
老赤龍は非常にユッタリとした速度で飛行していた。おかげでしゃべる余裕もあった。
「ん?」
「お前はもしかして、こうなることを知っていたんじゃないか?」
「まさか」
「それにしては妙な符合じゃないか」
世界中に張り巡らされた血管。
無限にあふれ出る血液。
「我はただ、我ら龍が生んでしまった悲劇をなくそうと思ったまでのこと」
「なら、これは偶然か?」
「神の気まぐれと言うべきものであろう」
「よく言うぜ。レオーネの人たちにとって神様とか悪魔だって言われてんのは、お前ら龍じゃないか」
レオーネにある宗教は、だいたい龍を信仰対象にしている。
「そうであったな」
ふはははっ――と老赤龍は笑った。
「笑いごとじゃないよ。オレはまた大きな決断をしなくちゃならなくなった」
ケルゥ侯爵のときとはわけが違う。
レオーネという世界の存続がかかっているのだ。
あのときは、ベルに振られたと思ってヤケクソになっていた。だが今は冷静な心で判断しなくてはならなかった。
胃が痛くなる。
「コゾウが考えて、コゾウが結果を出せば良い。仮にコゾウがこの世界に血を差し出すことを拒否したとしても、我はそれを責めることはできん」
「でも、オレが血を出さなかったら、この世界はたぶん終わるぜ」
「ああ」
「16歳の青年に押し付けることじゃないよな。世界の命運なんてさ」
龍一郎は老赤龍に怒りをブツけた。
老赤龍の背中にコブシを叩きつけたのだが、その甲殻は岩のように硬かった。龍一郎のコブシが痛んだだけだ。
「ただ、コゾウが血を流せば、この世界からクロエイが消えるかもしれん。そうなれば、血質値による差別は消える。すくなくとも今のように酷い扱いを受けることはなくなるだろうな」
「ああ」
血質値の低い者は、クロエイを招く。
だから嫌われる。
ヒューリマン・サディという人物も、だから庶民を虐殺したのだろう。
「血を出して、オレは無事でいられると思うか?」
「さあな。それは我にもわからん」
「だよな」
龍一郎の腹はすでに決まっていた。
この世界の人たちは、すでに龍一郎にとって他人ではなくなってしまった。フィルリア姫。エムール。インク。ヴァルフィ。ガルス男爵やケルゥ侯爵だってそうだ。セリヌイアの人たち。グランドリオンの人たち。そしてなにより、ベルのことだ。
(オレが血を出すだけで、ベルにとって住み心地の良い世界になるのなら)
逃げる理由はない。
龍一郎は頬に手を当てた。
まだベルから受けたキスの熱を思い出すことができる。
「グランドリオンに向けて飛んでくれ」
「わかった」
この選択は決して間違えていない。
そうだよな。
クラウス。
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