《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士
118話「抱擁と接吻」
セリヌイアを発つ前に、龍一郎はベルに会っておこうと思った。しばらく会えないような予感がしたのだ。
ベルは他のメイドたち一緒に中庭に出て、日食の様子を見ていた。ほかの女性と一緒にいるベルを呼び出すのは非常に勇気のいることだった。だが、逡巡している暇はなかった。
「ベル。ちょっと良いか」
「なんでしょうか。主さま」
「話がある」
低木に囲まれた、人目のつかないところまで呼び出した。その際、ほかのメイドたちがなにやらヒソヒソ話しているのが聞こえてきた。聞こえないフリをすることにつとめた。
苔むした龍の石造があった。老赤龍にソックリの風体だが、大きさは成人男性ぐらいのものだった。
その石像の前で、龍一郎とベルは向かい合った。
「日食のことはすでに話してあると思う」
「はい」
「騎士を連れて外に出ているエムールたちのことが心配だから、オレは老赤龍に乗って様子を見てくる」
「はい」
「だからその……もしかすると、2、3日戻って来られないかもしれない。その前に、言っておきたいことがあって」
「先日の件ですか?」
と、ベルのほうから切りこんできた。
「まぁ、そうだ」
「なにもお気になさることはありません。その――女性のかたと抱き合っておられたので、ビックリしてしまいました。ですが、主さまが誰を好きになろうとも、私は決して主さまを怒ったりはしません。ずっとお傍に置いてもらっているだけで、それだけで幸せなのです」
そう言うベルのマナジリには、涙が浮かんでいた。
いったい何を意味する涙なのかは、龍一郎にははかりかねた。だが、ベルの涙を見ていると、龍一郎の胸も痛んだ。
ただ傍にいるだけで、それだけでも幸せだという。ベルの心のなんと健気で謙虚なことか。
「それは勘違いだ」
「え?」
「あれはあのヴァルフィという――サディ国の第一王女らしいんだが、勝手にオレに抱きついてきただけだ」
「そう――でしたか」
「そう言われても、信用できないとは思う。でも、ひとつだけわかっておいて欲しいことがある」
「なんでしょうか?」
ベルは小首をかしげた。
白く細いウナジにあるヤケド痕が見えた。
「オレが好きなのはベルだ。それは会ったときから変わらない。だから……その……愛しているという意味で……」
好き。たった二文字で伝えられることが、ずっと言えなかったのだ。胃の底にあった重石を吐きだしたような爽快感があった。ただ、その言いなれぬ言葉を吐いたことで、やたらと首の後ろがチリチリと焼けるようなカユみをおぼえた。
龍一郎は照れ臭くて視線を泳がせていたが、まっすぐベルのことを見つめた。ベルの青く澄んだ瞳が龍一郎を見返していた。
「――ッ」
ベルは肩を振るわせて泣いていた。
龍一郎はその小さくて丸い肩に手をおいてやさしく抱き寄せた。抵抗はしなかった。ベルのカラダを抱きしめた。
ベルの小さい存在が、龍一郎の腕の中にあった。ずっと近くにいたのにもかかわらず、遠くにあってつかむことができなかった。ようやっと手が届いたという感動をおぼえた。
「主さま」
「ん?」
ベルはつま先立ちになり、龍一郎に寄りかかってきた。
そして龍一郎の頬に熱い感触をよぎらせた。一瞬、何をされたのか龍一郎にはわからなかった。キス、されたのだとわかった。これがベルから龍一郎への返答なのだろう。
普段は白いベルの顔が真っ赤に染まっていた。
「それじゃあ、行ってくるから」
「どうか、ご無事で」
抱擁を終えても、龍一郎の胸の中にはベルの温もりと匂いが残っていた。
ベルは他のメイドたち一緒に中庭に出て、日食の様子を見ていた。ほかの女性と一緒にいるベルを呼び出すのは非常に勇気のいることだった。だが、逡巡している暇はなかった。
「ベル。ちょっと良いか」
「なんでしょうか。主さま」
「話がある」
低木に囲まれた、人目のつかないところまで呼び出した。その際、ほかのメイドたちがなにやらヒソヒソ話しているのが聞こえてきた。聞こえないフリをすることにつとめた。
苔むした龍の石造があった。老赤龍にソックリの風体だが、大きさは成人男性ぐらいのものだった。
その石像の前で、龍一郎とベルは向かい合った。
「日食のことはすでに話してあると思う」
「はい」
「騎士を連れて外に出ているエムールたちのことが心配だから、オレは老赤龍に乗って様子を見てくる」
「はい」
「だからその……もしかすると、2、3日戻って来られないかもしれない。その前に、言っておきたいことがあって」
「先日の件ですか?」
と、ベルのほうから切りこんできた。
「まぁ、そうだ」
「なにもお気になさることはありません。その――女性のかたと抱き合っておられたので、ビックリしてしまいました。ですが、主さまが誰を好きになろうとも、私は決して主さまを怒ったりはしません。ずっとお傍に置いてもらっているだけで、それだけで幸せなのです」
そう言うベルのマナジリには、涙が浮かんでいた。
いったい何を意味する涙なのかは、龍一郎にははかりかねた。だが、ベルの涙を見ていると、龍一郎の胸も痛んだ。
ただ傍にいるだけで、それだけでも幸せだという。ベルの心のなんと健気で謙虚なことか。
「それは勘違いだ」
「え?」
「あれはあのヴァルフィという――サディ国の第一王女らしいんだが、勝手にオレに抱きついてきただけだ」
「そう――でしたか」
「そう言われても、信用できないとは思う。でも、ひとつだけわかっておいて欲しいことがある」
「なんでしょうか?」
ベルは小首をかしげた。
白く細いウナジにあるヤケド痕が見えた。
「オレが好きなのはベルだ。それは会ったときから変わらない。だから……その……愛しているという意味で……」
好き。たった二文字で伝えられることが、ずっと言えなかったのだ。胃の底にあった重石を吐きだしたような爽快感があった。ただ、その言いなれぬ言葉を吐いたことで、やたらと首の後ろがチリチリと焼けるようなカユみをおぼえた。
龍一郎は照れ臭くて視線を泳がせていたが、まっすぐベルのことを見つめた。ベルの青く澄んだ瞳が龍一郎を見返していた。
「――ッ」
ベルは肩を振るわせて泣いていた。
龍一郎はその小さくて丸い肩に手をおいてやさしく抱き寄せた。抵抗はしなかった。ベルのカラダを抱きしめた。
ベルの小さい存在が、龍一郎の腕の中にあった。ずっと近くにいたのにもかかわらず、遠くにあってつかむことができなかった。ようやっと手が届いたという感動をおぼえた。
「主さま」
「ん?」
ベルはつま先立ちになり、龍一郎に寄りかかってきた。
そして龍一郎の頬に熱い感触をよぎらせた。一瞬、何をされたのか龍一郎にはわからなかった。キス、されたのだとわかった。これがベルから龍一郎への返答なのだろう。
普段は白いベルの顔が真っ赤に染まっていた。
「それじゃあ、行ってくるから」
「どうか、ご無事で」
抱擁を終えても、龍一郎の胸の中にはベルの温もりと匂いが残っていた。
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