《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

109話「お見合いについて」

「エムール。聞いて欲しいことがあるんだが」
 ヴァルフィが訪れたその日の夜。



 龍一郎はエムールの部屋を訪れていた。領主館にはメイドたちの部屋と龍一郎の部屋だけでなく、インクやエムールの部屋もあった。どこの部屋も――ひいて言うならば、セリヌイアという都市全体は、夜はこうこうと輝いている。



「どうかされましたか? リュウイチロウさま」



 エムールはキャミソールの上からガウンをはおっていた。寝ようとしていたところだったのかもしれない。エムールからは女の香りが強く匂った。女性なのだとあらためて、思い知らされる。



「悪い。寝るところだったか?」



「ええ。寝ようとは思っていましたが、私はリュウイチロウさまを補佐するためにいるのです。たとえ眠っているときでも、たたき起こしてください」
 マジメな顔でエムールはそう言った。



「実は相談があるんだ」
「なんでしょうか? とりあえず私の部屋に」



「ああ」
 エムールの部屋は簡素なものだ。



 フローリングの床に白い壁紙が張られている。木造のベッドが一台部屋の隅に置かれている。あとは鎧やら武具が無造作に置かれていた。木造のテーブルがあり、その上には資料が山積みになっていた。セリヌイアに関することだろう。



「雑務を押し付けてしまって申し訳ないな。エムールの助けになるような人物を雇ってみようか」



「お気になさらず。私は自分がリュウイチロウさまのために、仕事ができることが幸せなのです。ケルゥ侯爵に捕えられたとき、私は浮遊都市の血力としてこの身を使われると思っておりました。リュウイチロウさまに助けられたこの命、セイイッパイ尽くさせていただきます」



「そ、そうか」
 エムールの意気込みには、龍一郎も気圧された。



「それで、相談というのは?」
「お見合いをしようと思う」



 エムールは満足気にうなずいた。



「ようやくその気になってくださいましたか。それでどの御令嬢とお見合いをなされますか? やはりスフィル公爵の娘ですか?」



「ベルと」
「は?」



「だから、このセリヌイアで働いているベルと、お見合いをしようと思う」



 エムールはしばらく、口をあんぐりと開けていた。
 唖然、というのだろう。



「それは反対です」
「なぜだ?」



「たしかにリュウイチロウさまの、ベルにたいするお気持ちは、私も理解しておりますよ」



 そうだ。
 龍一郎とベルの関係を、エムールはよく知っているはずだ。



「だったら良いじゃないか」



「良くはありません。世間の目というものがあります。血質値200のリュウイチロウさまが、ベルとお見合い? 断じて許せません!」



 エムールはガウンの前を、手でおさえるのも忘れている。キャミソールが完全にさらけ出されていた。
 つつましい胸のふくらみが見て取れた。



「なぜだ? エムールだって、オレとベルの仲が良いことはスバラシイことだって言ってたじゃないか」



「それとこれとは話が別です! そんなことをすれば貴族が反乱でも起こしかねません。ただでさえ奴隷解放令で〝純血派〟の連中から非難されているのですから」



「じゃあ、オレとベルは結婚できないことになるじゃないか」



 勢い余って、結婚、と口走った。
 その言葉がさらにエムールを青ざめさせた。



「け、結婚なさるおつもりですか!」
 こうなればヤケクソだ。



 口が滑ったとはいえ言ったからには、引き下がれない。



「そ、そうだ。いずれはベルと結婚したいと思ってる」



 このままベルとの関係をウヤムヤにしておくことだけは、避けたかった。今日の昼のこともある。ベルに辛い思いはさせたくない。自分の意思だけでも、シッカリとベルに伝えておくべきだと思った。



「今朝がたのことをお忘れですか?」
「今朝?」



「そうです。ガルス・コーコリン男爵が城下町で剣を振るった。リュウイチロウさまが止めたから良かったものの、あやうく死人が出るところでした。あれもリュウイチロウさまに反対する貴族がいるからです。下手に〝純血派〟を刺激してはなりません」



「じゃあ、どうしろって言うんだ」



「以前から申し上げているように、スフィル公爵の娘とお見合いをなさいませ。相手は公爵。公爵とのコネクションさえ築けば、〝純血派〟だって下手なことは言えなくなります」



「しかし……」



「良いですか。リュウイチロウさま。あなたはもはやセリヌイアという土地をあずかる領主なのです。好きな人と結ばれないこともありましょう。ベルはきっとわかってくれるはず。それはそれ、これはこれです」



「……そうか」



 龍一郎は唇をかみしめた。
 これだから貴族は厭なのだ。

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