《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

106話「日食」

 2人になった。



「リュウさま。もっとこちらに近づいてくださいませ」
「はい」


 ヴァルフィは龍一郎の耳元でささやくように話をする。甘い吐息が龍一郎の耳朶をしびれさせた。



「リュウさまは龍神族なのでしょう?」
「よくご存知で」
「私も同じ龍神族なのですよ」
「え!」



 ヴァルフィはやんわりと龍一郎のことを、ベッドの中に引きずりこんできた。驚きのあまり龍一郎はベッドの中に簡単に誘い込まれた。



 ヴァルフィのカラダからは、毒花の花粉でも散っているかのようだった。龍一郎のカラダはヴァルフィの匂いや感触に陶酔して、強く抵抗することができなかった。



「血質値は100ちょうど。私の血は近い未来を占うことができるのです」



 顔が近い。
 龍一郎がヴァルフィを押し倒すようなカッコウになっていた。ヴァルフィは龍一郎の首に腕をからめてきた。



 龍一郎の心臓が緊張でバクバクと音をたてていた。



「すると、レオーネに13人いるという龍神族のひとり――というわけですか?」
 あ、と龍一郎は思い当ることがあった。



 そう言えば、ヴァルフィを救い出したときに、老赤龍が何か物言いたげな様子だった。老赤龍はヴァルフィが龍神族だということを知っていたのだろう。



「私の占いでは、リュウさまを頼ると良いという結果が出たのです。こうして直接会ってみると、リュウさまは私の想像よるも、何倍もステキな殿方でした。リュウさまを頼って正解でした」



 ヴァルフィが唇を近づけてくる。
 薄紅色の唇が軽く突き出された。



 龍一郎は理性をふりしぼって、ヴァルフィの小さな肩を押し返した。



「そ、それは良いとして、どうして騎士に追われていたんですか?」



 ヴァルフィの脚が、龍一郎の腰に巻きついてきた。積極的というよりも、ここまで来ると淫らとさえ言える。



「少し話が長くなるかもしれませんが、どうか最後までお聞きください」



「もちろんですよ」



「私はこのレオーネという世界の未来から召喚された者です」



「未来人ってことですか」
 はい、とヴァルフィがうなずいた。



 龍一郎は異世界人。
 フィルリア姫は過去人。
 そしてこのヴァルフィは未来人というわけだ。



 老赤龍はさまざまな世界や時代から、龍神族にふさわしい人物を呼び集めたと言っていた記憶がある。



「私の時代では、人間はほとんどおりません。村や町といったコミュニティはなく、人々は放浪して過ごしておりました」



「どうしてコミュニティがないんです?」



 ヴァルフィの表情がかげる。
 このときはじめて、どうしてヴァルフィが不気味に見えるのが気づいた。ヴァルフィは大きな左目をしているが、右目は髪に隠れてほとんど見えないのだ。



「集団で生きるほどの人口がないのです。大半の人間が暗黒病にかかり、クロエイになってしまったのです」



「そんな……」
 クロエイと化したクラウスやマチス侯爵のことが、龍一郎の脳裏をよぎった。みんな、ああなってしまうのかと思うと、戦慄をおぼえる。



「絶望の日は近づいております。近いうちに日食がはじまる」



「日食!」



 太陽が影になる。
 それはレオーネにとっては、重大な意味をなす。



「はい。3日3晩、太陽が覆い尽くされて、暗闇が訪れます。太陽が隠れることにより、普段の夜よりもクロエイが活発化する。それが人類滅亡のはじまりなのです」



 ヴァルフィのささやきには、深刻さが帯びられていた。



「どうすれば防げるんですか?」



「私の血による占いで、その方法がわかるはずなのですが、私の占いには独特な器が必要なのです」



「その器はどこに?」



 日食がはじまるというのならば、すぐにでもその対処方法を導き出してもらわなくては困る。



 それが私の追われている件と関係してくるのです――とヴァルフィは続けた。



「私は、龍神族としてのチカラを認められて、サディ国の王女という立場になりました。王女という立場を利用して、血質値の低い者たちを虐げないような政策を進めてきました」



 しかしです――とヴァルフィは続ける。



「先日、サディ国の国王が暗殺されてしまいました」



「国王が――暗殺ですか」



 それは物騒な話だ。



 龍一郎も〝純血派〟からの暗殺の危機があるために、他人事とは思えない薄ら寒さを感じた。



「国王暗殺により、サディ国の政権は第一王子がにぎることになってしまった。その第一王子が、私の占いに必要な器を持っているのです。私の占いを利用しようと考えているのでしょう」



「それで、第一王子に利用されるのを嫌って、ヴァルフィさんは逃げてきた――ってことですか」



「はい。第一王子は酷い差別主義者なのです、血質値の低い者を次々と殺してまわっているのです」



「つまりさっきの騎士たちは、そのサディ国第一王子の手の者――って認識で間違いないですか?」



「さすがリュウさま。ご明察のとおりです」



 明察というか、そこまで聞いたら誰でもわかる。



 抱きついてくる。
 ヴァルフィの乳房が、龍一郎の胸板に押し付けられていた。
 温かくて、やわらかい。



「第一王子は私のチカラを利用しようとしているのです。私はサディ国を第一王子の悪政から救うために、リュウさまのおチカラを拝借しようと、こうして参ったのです」



「だいたい事情はわかりました」



 そのとき。
 トビラがノックされた。



 龍一郎はあわててヴァルフィから離れようとしたのだが、ヴァルフィはそれを許さなかった。



「失礼します」
 入ってきたのはベルだった。



 龍一郎とヴァルフィがベッドの上で抱き合っているところを、ベルに見られたのだった。

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