《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

第100話「城下町」

「はぁ……はぁ……」
 なんとかエムールから逃げ切った。



 城下町に出た。
 龍一郎はグランドリオンと、ケルゥ侯爵が治めていたころのセリヌイアという2つの都市を、この目で見ている。その2つとソン色ないほど、この都市は賑わっている。



 露店を開いている商人たちが、果物を売っている。よそからも多くの行商人が訪れる。奴隷制度のない都市ということが新鮮で、好奇心で訪れる者もすくなくはないようだ。


 
 セリヌイアを覆う明朗な雰囲気は、やはり奴隷がいないという点にあると龍一郎は感じている。



 グランドリオンでも、前セリヌイアでも、貴族が奴隷を虐げていた。すると、どうしてもそこに悲劇の臭いがするものだ。



「まだ子供の領主だと思っていたが、たいした領主さまだ」
「貴族たちの反対を押し切って、奴隷解放令を出されたのだ」
 道行く者たちが言う。



 今の龍一郎は顔を頭巾で隠している。そのため気づかれることはない。そこここからこぼれ出る自分の評判に聞きほれていた。



 龍一郎はよくこうして素顔を隠して、城下町を歩く。そうすることで民の声がよく聞こえてくるのだ。



「この都市にいるかぎりは、貴族にでかい面はさせねェ」



「しかし、〝純血派〟の貴族たちはリュウイチロウさまを暗殺するかも――って話だぜ」



「なぁに。リュウイチロウさまには、守り神である老赤龍さまもついておられるのだ。子供とはいえグランドリオンでは英雄的な活躍もしておられる。暗殺などされるようなお人じゃないさ」



 市民とは、英雄を求めるものだ――と聞いたことがある。過大評価されているとは思う。だが、わざわざ否定しようとも思わなかった。否定されるよりかは、評価されるほうが良い。



 しかし――。
 暗殺。



 その言葉は、龍一郎に薄ら寒い感情をあたえた。一部の貴族からは、心底嫌われているのだ。



(全員から好かれる、ってわけにはいかないか……)
 と、龍一郎は頭巾の奥で苦笑した。



「退け退け。邪魔だッ」
 と、人々を蹴り飛ばして歩く者がいた。



 ガルス・コーコリン男爵だ。
 セリヌイアの都市にずっととどまり、奴隷解放令に反対を訴え続けている貴族のひとりだ。



 小太りでダンゴのような鼻をしている。唇は分厚く、油で光っていた。ただ顔の彫りが深いために、目元だけは凛々しさがある。



「なにしやがる!」
 と、蹴り飛ばされた男が刃向っていた。



「このオレは男爵だゾ! 男爵に向かってその口のきき方はなんだ。このゴミ虫どもがッ!」
 そうだ、そうだッ――と男爵に付いている騎士たちが声を荒げた。



「ウルせぇ。ここはもう貴族が偉そうにして良い都市じゃねェんだよ!」
 そうだ、そうだッ――今度は民衆のほうから上がる。



 血質値の低い民のほうが多いので、後者のほうが声が大きい。ガルス男爵は気圧されたようだった。



「えぇぇいッ。ウルサイゾ!」
 男爵はそう言うと、腰に携えていた剣を抜いた。



 ガルス男爵の前に女の子がいた。
 ガルス男爵はあろうことかその女の子に斬りかかろうとした。



「危ない!」
 龍一郎はあわてて跳びだした。



 龍一郎の抜いた剣の刀身が、ガルス男爵の剣をキレイに受け止めていた。剣の重なる音とともに、おおっ、とどよめきが起こった。



 軽くつばぜり合いになった。



 龍一郎はもともと剣術など微塵もできなかったのだが、今では少しは扱えるようになっていた。エムールに稽古をつけてもらっているのだ。エムールのみならず、ときおり訪れるフィルリア姫は龍一郎に厳しい稽古をつけた。



「な、何者だ」
 民衆の中を一陣の風が吹きぬけた。その風が龍一郎の頭巾を脱がせた。



 目が合う。
 ガルス男爵の鋭い瞳に、驚きの色が浮かんだ。



「なッ、こ、これは龍騎士さま。い、いや、これは失礼」
 と、ガルス男爵はあわてて剣を引っ込めた。



「民に向かって剣を抜くな。ましてや少女に斬りかかろうとするなど言語道断」



「う、うむ。失礼……」
 とガルス男爵は逃げるようにして、その場を立ち去って行った。



「さすがリュウイチロウさまだ」



 雷がとどろくような拍手が沸き起こった。拍手をあたえられることは嬉しかったのだが、憂いもあった。顔をさらけ出してしまった以上、勝手に城から抜け出たことをエムールに知られてしまうだろう。

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