《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士
第58話「シュバルツ村~道中~後編」
フィルリア姫からは――。
ケルゥ侯爵を偵察して来てくれと言われた。虐げられているものたちのチカラになってくれとも言われた。
頼みが漠然としすぎている。
実際にセリヌイア付近に来てみたは良いものの、何をすれば良いのかよくわからない。
「ここに来るまでに、ちょっとしたイサカイがありました。ご覧になったと思います」
エムールが、言った。
「反乱ですか?」
「庶民がジュルドール修道院にたてこもっていたでしょう」
あの修道院はジュルドール修道院というのか――と思った。
レオーネの人たちは龍を信仰対象にしている。あのジュドール修道院も、そういった関連の建物なのだろう。
「けっこうな騒動になっていましたね」
人も何人か死んでいた。
もしも龍一郎が止めていなかったら、もっと酷いことになっていたはずだ。
「ケルゥ侯爵は最近、奴隷のみならず庶民の中からも血質値の低い者を選びだして、城に引きたてて行くのです」
それに反対する庶民たちが、立てこもっていたわけだ。
「城に引きたてて、どうするのです?」
「わからないのです。フィルリア姫はその件を大変気にしておられるようでした」
「それを探れ、ってことですね」
「ええ」
と、エムールがうなずく。
ベリーショートにしているため、うなじがさらけ出されていた。《血動車》の振動に合わせて、真っ赤な髪が揺れている。
その短い髪が、飾り気のない純朴なエムールの魅力をさらけ出しているように思えた。
「血を集めているということは、何か大きな物体でも動かそうとしているんでしょうかね?」
血力を必要としている――ということだろう。
「私も探りを入れているのですが、いかんせん何も情報をつかめておりません」
エリザベート・バートリーという人名が、龍一郎の脳裏に浮かんだ。女たちを城に引きたてて、ひたすら拷問にかけて楽しんでいたという地球の歴史上の人物だ。あまりにオゾマシイ連想だ。
「たしかケルゥ侯爵は、〝純血派〟とやらなんですよね?」
「ええ」
「〝純血派〟というのは、血質値の低いものを差別する思想を抱いていると聞いているんですが」
「その通りです」
「ケルゥ侯爵はすごく印象の良いでしたけど」
人を見た目で判断するのは浅はかなことだとは思うが、非常に愛想の良い人だった。後ろ暗いところなど、微塵も見当たらなかった。
「血質値の低い者はクロエイを招きます。ですから、1人残らず殺したほうが良い。しかし、殺すことはあまりに忍びない。せめてエネルギーとして活用してやろう。それがこのレオーネで幅をきかしている〝純血派〟の意見です。貴族たちの間でも、非常に大きな勢力を誇っています」
エムールがそう説明すると、ベルが顔を伏せるのがわかった。
「そうみたいですね」
と、龍一郎はアイヅチを打った。
「ケルゥ侯爵もこのレオーネという世界のためを考えているのでしょう。なにも悪者になってやろうとしているわけではありません」
「すると、〝純血派〟からしてみると、平等論をとなえるフィルリア姫こそ、悪者というわけですか」
「レオーネという世界。ひいては、後世のことを考えていない浅慮だ――と〝純血派〟の目に映るようです。この件は、実際にケルゥ侯爵と話してみると良いかもしれません。人間としては悪い人ではないのです」
「そう――ですか」
正義も人によっては、悪に映るのだ。
グランドリオンにいたマチス侯爵にも、マチス侯爵の正義があったのかもしれない。
(なぁ、ベル――)
と、龍一郎は胸中でベルに問いかけた。
オレがお前を助けたこと。それは正義だったか?
絹のドレスのはいった布袋を、ベルはずっと大事そうに抱きしめている。それを見ていると、愛おしい感情がこみ上げてきた。
ケルゥ侯爵を偵察して来てくれと言われた。虐げられているものたちのチカラになってくれとも言われた。
頼みが漠然としすぎている。
実際にセリヌイア付近に来てみたは良いものの、何をすれば良いのかよくわからない。
「ここに来るまでに、ちょっとしたイサカイがありました。ご覧になったと思います」
エムールが、言った。
「反乱ですか?」
「庶民がジュルドール修道院にたてこもっていたでしょう」
あの修道院はジュルドール修道院というのか――と思った。
レオーネの人たちは龍を信仰対象にしている。あのジュドール修道院も、そういった関連の建物なのだろう。
「けっこうな騒動になっていましたね」
人も何人か死んでいた。
もしも龍一郎が止めていなかったら、もっと酷いことになっていたはずだ。
「ケルゥ侯爵は最近、奴隷のみならず庶民の中からも血質値の低い者を選びだして、城に引きたてて行くのです」
それに反対する庶民たちが、立てこもっていたわけだ。
「城に引きたてて、どうするのです?」
「わからないのです。フィルリア姫はその件を大変気にしておられるようでした」
「それを探れ、ってことですね」
「ええ」
と、エムールがうなずく。
ベリーショートにしているため、うなじがさらけ出されていた。《血動車》の振動に合わせて、真っ赤な髪が揺れている。
その短い髪が、飾り気のない純朴なエムールの魅力をさらけ出しているように思えた。
「血を集めているということは、何か大きな物体でも動かそうとしているんでしょうかね?」
血力を必要としている――ということだろう。
「私も探りを入れているのですが、いかんせん何も情報をつかめておりません」
エリザベート・バートリーという人名が、龍一郎の脳裏に浮かんだ。女たちを城に引きたてて、ひたすら拷問にかけて楽しんでいたという地球の歴史上の人物だ。あまりにオゾマシイ連想だ。
「たしかケルゥ侯爵は、〝純血派〟とやらなんですよね?」
「ええ」
「〝純血派〟というのは、血質値の低いものを差別する思想を抱いていると聞いているんですが」
「その通りです」
「ケルゥ侯爵はすごく印象の良いでしたけど」
人を見た目で判断するのは浅はかなことだとは思うが、非常に愛想の良い人だった。後ろ暗いところなど、微塵も見当たらなかった。
「血質値の低い者はクロエイを招きます。ですから、1人残らず殺したほうが良い。しかし、殺すことはあまりに忍びない。せめてエネルギーとして活用してやろう。それがこのレオーネで幅をきかしている〝純血派〟の意見です。貴族たちの間でも、非常に大きな勢力を誇っています」
エムールがそう説明すると、ベルが顔を伏せるのがわかった。
「そうみたいですね」
と、龍一郎はアイヅチを打った。
「ケルゥ侯爵もこのレオーネという世界のためを考えているのでしょう。なにも悪者になってやろうとしているわけではありません」
「すると、〝純血派〟からしてみると、平等論をとなえるフィルリア姫こそ、悪者というわけですか」
「レオーネという世界。ひいては、後世のことを考えていない浅慮だ――と〝純血派〟の目に映るようです。この件は、実際にケルゥ侯爵と話してみると良いかもしれません。人間としては悪い人ではないのです」
「そう――ですか」
正義も人によっては、悪に映るのだ。
グランドリオンにいたマチス侯爵にも、マチス侯爵の正義があったのかもしれない。
(なぁ、ベル――)
と、龍一郎は胸中でベルに問いかけた。
オレがお前を助けたこと。それは正義だったか?
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