《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

第90話「フィルリアが見た赤」

「いかんッ。すぐに明かりをつけさせろ。都市中の明かりを灯せッ」



 フィルリアは警告を怒鳴り散らしていた。



 影が、迫っているのだ。
 巨大な浮遊都市が太陽をさえぎり、少しずつ移動していた。



 日食かのごとく、グランドリオンに降り注ぐ日差しを、セリヌイアが呑みこもうとしている。



 のみならず、セリヌイアの足元には、大量のクロエイが沸いているのだ。その闇の中には巨大種もまじっている。



 ゴーン。
 ゴーン。
 警鐘が鳴り響いている。



「早く、明かりを灯せと言ってるだろうがッ」



 みんなの動きが鈍い。
 都市にいる者たちは、何が起きているのか理解できていないのだ。飛来してくる都市を見上げてボウ然としている。



 近くの外灯から伸びている龍の血管を、フィルリアはつかみとった。近くにいた人の腕に、強引に突き刺した。



「いいから明かりをつけろ!」



「あ、はい」
 こうして強引に明かりをつけさせても、反応がにぶい。



「ちッ」



 せっかくリュウイチロウが安寧を取り戻したグランドリオンだ。このままでは、ふたたびクロエイの騒乱に呑まれてしまう。



 その危惧は現実のものとなった。



 グランドリオンの北側にいた者たちが、あわただしく走ってきた。自分の住んでいるところが影になったので、あわてて逃げてきているのだ。



「落ちつけ。明かりさえつけてしまえば、問題ない。さっさと外灯を灯せと言ってるだろうがッ」




 しかし、逃げ惑う人たちはすでに混乱に陥っているらしい。フィルリアのことを突き飛ばして、走り去ってしまった。まるでパニックが感染するかのように、次から次へと住民が逃げ出して行く。


「クソの役にも立たん貴族どもがッ」



 正面。
 すでにセリヌイアのつくりだす影が、すぐ前まで迫っていた。石畳のストリート上に、光と闇の境界線をつくりだしている。



 境界線の向こうは、闇だ。
 その闇の中に、逃げ遅れている少女がいた。龍のヌイグルミを抱えている。



「おかあさーんッ」
 と、泣きわめいていた。



 はぐれたのだろう。



 保護しなくてはならないと足を勇む。しかし、届かない。



 少女のすぐ後ろには巨大なクロエイがいた。セリヌイアのほうで沸くと言われている巨大種のクロエイが、セリヌイアの影につられて来てしまったのだ。



「そこの少女。こっちに!」
 呼びかけてみるが、聞こえていないようだ。



 巨大種のクロエイが、今まさにその幼き五体に食いつこうとした。



 ダメだ。
 届かない。
 フィルリアが歯ぎしりした。



 刹那――



 烈風がフィルリアを押した。砂塵が吹きつけてフィルリアは目をしばたかせた。



 かすんだ視界に強烈な赤があらわれた。目が覚めるような赤だった。一瞬にして魅了された。そして、その赤からは二枚の巨大な翼が生えていた。長大な首が伸びていた。



「あぁ……」
 と、フィルリアは嘆息を漏らした。



 龍。
 驚くべきは、その紅蓮の甲殻にまたがる男の姿だった。



 あれは――。


「すみません。援護遅れました!」
「リュウイチロウッ。やはり生きていたか!」



 歓喜のあまり、大声を出してしまった。
 腹の底から突き上げてくるような喜びを感じたのだ。



 はしたない声音だったかと恥じたのだが、喜びを隠すことができなかった。



 龍は巨大種のクロエイを丸のみにしてしまった。クロエイはまるで吸引されるかのように、龍の口内へと入っていった。



 リュウイチロウが龍の背からおりてきた。クロエイに襲われそうになっていた少女と、もう一人の少女を押し付けてきた。



「彼女は?」
「インクって言うんですけど、ちょっと預かっててください」



「良いだろう」
 と、フィルリアはうなずく。



「地上のクロエイを掃討して、セリヌイアに上がります」



「その龍はなんなのだ?」
「すみません。説明している暇はありません」



「そうだな。こっちは明かりをつけるように住人たちを促しておこう」



「お願いします」



 リュウイチロウはあわただしく、龍にまたがった。龍はリュウイチロウを完全に受け入れているようだった。



 龍は次から次へとクロエイを呑み込んでいく。



 リュウイチロウのことはグランドリオンにいる者たちもよく知っている。リュウイチロウの奮起に合わせて、民衆のパニックもおさまりはじめていた。



 クロエイを片付けてすぐに、リュウイチロウは空へと上がって行った。その頃には、グランドリオンの明かりも充分に確保できていた。空へ行く龍の姿を見て、フィルリアは胸が焼けるような思いにかられた。



 彼が誰のために空へ上がったのか、わかったからだ。

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