《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

第89話「龍の目覚め」

 ガケをよじ登ろうと試みてみた。しかし、少しのぼったところで手を滑らした。谷底に尻を打ちつけた。



「いってー」
「ムリすんなって」
 と、インクが駆け寄ってきた。



「チョット、登れそうにないな」



 運動音痴の龍一郎では難しいものがある。かりに龍一郎が登れても、インクを引き上げることが難しい。



「龍に頼んでみたらどうだ?」
「龍に?」



「助けてくれたんだし、頼んだら上に連れて行ってくれるかも」



「クロエイから助けてくれたって言ってたけど、どうやって助けてくれたんだ?」



「その龍、クロエイのこと食ってたよ。バクバク――って」



「そりゃまた、ずいぶんと悪食だな」



 あんなものを食って、腹とか壊さないのだろうか。
 龍だから、大丈夫なのか。



「だからたぶん、私たちにたいして好意を抱いてくれてると思うけど」


 
「言葉通じるのか?」



「さあ……」
 と、インクが首をかしげる。
 ポニーテールがゆらりと揺れた。



「起こしたとたんに食い殺されるとかないだろうな?」



「エサならたくさんあるし、たぶん大丈夫じゃないか?」



 たしかに人肉はあたりに散らばっている。



 セッカク血を差しだして肩代わりしたのに台無しだ。ケルゥ侯爵にたいして苛立ちを感じる。



「で、どうやって起こすんだ。あれ?」
「叩けば良いんじゃない?」



「マジかよ」



 龍一郎はなるべく龍を刺激しないように、息を殺して近づいた。



 眠っているライオンを起こしに行くようなバカはいない。相手はライオンどころか、それよりもはるかに巨大な龍なのだ。



 起こした途端に食い殺されるんじゃないかと思うと、さすがに腰が引ける。



「んー。コホン」
 と、龍の前に立ち、咳払いをしてみた。



 反応をうかがう。
 ……すやすや。



「もしもし?」
 頭に触れてみた。
 硬い。岩肌のようだ。



「なんだ、コゾウ」
 しゃべりかえしてきた。



 まさか理解できる言語で返してくると思っていなかった。酷く驚いた。驚きのあまりボウ然となった。



「しゃべれる――のか?」



「龍神族どもに、言語を解するチカラを与えたのは、誰だと思うておるか」



 龍はそう言うと、口をニヤリと釣り上げてみせた。
 鋭くとがったキバがあらわになる。



「じゃあ、あんたが老赤龍って龍か」



「その通り。あらゆる時代やあらゆる世界から、龍神族を召喚した根源である」



 カラダを丸めていた龍は、しゃんと立ち上がった。



 2本の足で立ち上がる。腹が見えた。腹の部分は白い甲冑のような皮膚でおおわれていた。翼の内側には無数の血管が浮き出ている。紅色の尻尾がお尻でユッサユッサと揺れていた。業火が揺らめいているかのようだ。



 見ているだけで、圧倒させられた。


「オレを召喚したのも?」
「我だ」



「どうしてオレを、レオーネに召喚しんだんだ?」
 一度、聞いてみたいことだった。



 運動神経が良いわけでも、頭が良いわけでもない。いたって平凡な高校生の龍一郎が、どうして召喚されたのか。



「このレオーネという世界にはびこる思想に染まっていない者であれば、誰でも良かった」



「じゃあ、偶然選ばれた1人ってわけか」



 そういうことだ、と老赤龍はその長い首をタテに振った。



「我は過去のことを悔いておる。非常に多くの悲劇を産み落としてしまった。我らの罪――龍罪を払拭してもらわねばならぬ。そのために13人の龍神族を招いた」



 非常に低い声音をしている。
 大岩を引きずるかのような声だ。



「龍罪?」



「龍の罪だ。クロエイを産み落とし、血質値などという概念のもとになってしまった。龍神族を招いたのは、その罪滅ぼしのつもりだ」



「なら、奴隷をできるだけ助けたい――って思ってるってことだよな?」



「我ら龍が生んでしまった人の格差を埋めたいとは思うておる」



「じゃあ、協力して欲しいことがある」
 話したいことは、いろいろあるが、今はノンビリしている暇はない。



「コゾウの血と、我の血とは相性が良かった。おかげでかぎりなく、龍に近い血を与えることができた。コゾウの頼みであればきいてやろう」



 助けたい人がいる。
 龍一郎はそう言った。

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