《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士
第88話「老赤龍 エンシェント・ブラッド・ドラゴン」
全身が痛い。ひゅるひゅると風の抜ける音がする。血なまぐさい臭いが鼻をつく。口のなかを切ったのか血の味がただよっていた。――
龍一郎は、ゆっくりとマブタを持ち上げた。
「おっ、目が覚めたか?」
眼前に少女の顔があった。
猛禽のような激しさを秘めた目と黒いポニーテールを見て、それが誰だかわかった。
「インクか?」
「良かった。死んだんじゃないかと思ったぜ」
「ここは――どこだ?」
上体を起こした。
薄暗闇の中にいた。空がパックリ割れている。割れた空から明かりがさしこんでいた。
いや。あれは大地の亀裂だ。渓谷と言うべきか、谷底というべきか、断崖絶壁にはさまれた穴の中に自分がいることを知った。
「セリヌイアが急に飛びだして、それで地面が割れたんだ。穴の中に真っ逆さまさ」
「よく無事だったな」
我が身を思ってそう言った。
あの高さから落ちて無事でいられたなんて信じられなかった。
「龍が助けてくれたんだ」
「は?」
「ほら、後ろ」
インクが龍一郎の背後を指差した。振り向く。ほとばしるような赤色の龍がいた。眠っているのか、翼をたたんで身を丸めている。
「龍……だ」
と、マのヌけたことをつぶやいた。
「ビックリだろ。セリヌイアが浮上して、大地が裂けた。そしたら龍が眠ってた――ってわけ」
龍のウロコとやらが発見されていたし、巨大種が出るのは龍がいるからだとも聞いていた。
いるかもしれない――とは思っていた。思っていたが、こうして目の当たりにすると、驚愕をおぼえずにはいられない。
「あの龍は襲って来ないのか?」
「大丈夫。クロエイからも私たちのことを守ってくれたし、あんたのことも助けてくれたんだし。今はまた寝てるみたいだけど」
「そうか」
立ち上がろうとした、手のひらに何かやわらかい物が触れた。肉だった。
あたりを見渡す。
肉塊が散らばっていた。
げっ――と思わず声をあげた。
龍一郎が地下から助け出した1500人だ。みんな死んでいるようだ。
「そう言えば、みんな一緒に落ちたんだったな」
「助かったのは私とあんただけだよ。まぁ、私はあんたにしがみついてたから、助かったみたいなもんだけど」
「龍のおかげだな」
「私、あんたに謝ろうと思ってたんだ。まさか、1500人のかわりに血を差し出すなんて思っちゃいなかった。奴隷の売買所で生意気なこと言っただろ」
「ツバとかかけられたな」
悪気があって言ったわけではない。
ただ、それが印象強く残っていたので、そうつぶやいた。
「わ、悪かったよ。あんたは悪いヤツじゃなかった。世界が寄ってたかって私をイジメようとしてくるんだ。だから、あんたもどうせ悪いヤツだと思って……」
「わかってる」
血質値の低い者たちにとって、生きづらい世界だということは、龍一郎もちゃんと知っている。
「あんた、名前はなんて言うんだ?」
「白神龍一郎」
「リュウイチロウ? 変な名前」
「悪かったな」
「私はインク。今の私の身はあんたの物だ。あんたに助けられたんだし、あんたが買おうしてくれてたんだし」
「悪いけど、オレは奴隷を2人も必要としてない。買った後は、フィルリア姫に押し付けてやろうと思ってたし」
龍一郎は立ち上がった。
「そんなこと言うなよ」
「インクのことは後で考えるから、とりあえず今は――」
ベルを連れ戻さなくてはならない。
他のことを考える余裕なんてない。
まず、この奈落から這い上がる必要がある。
龍一郎は、ゆっくりとマブタを持ち上げた。
「おっ、目が覚めたか?」
眼前に少女の顔があった。
猛禽のような激しさを秘めた目と黒いポニーテールを見て、それが誰だかわかった。
「インクか?」
「良かった。死んだんじゃないかと思ったぜ」
「ここは――どこだ?」
上体を起こした。
薄暗闇の中にいた。空がパックリ割れている。割れた空から明かりがさしこんでいた。
いや。あれは大地の亀裂だ。渓谷と言うべきか、谷底というべきか、断崖絶壁にはさまれた穴の中に自分がいることを知った。
「セリヌイアが急に飛びだして、それで地面が割れたんだ。穴の中に真っ逆さまさ」
「よく無事だったな」
我が身を思ってそう言った。
あの高さから落ちて無事でいられたなんて信じられなかった。
「龍が助けてくれたんだ」
「は?」
「ほら、後ろ」
インクが龍一郎の背後を指差した。振り向く。ほとばしるような赤色の龍がいた。眠っているのか、翼をたたんで身を丸めている。
「龍……だ」
と、マのヌけたことをつぶやいた。
「ビックリだろ。セリヌイアが浮上して、大地が裂けた。そしたら龍が眠ってた――ってわけ」
龍のウロコとやらが発見されていたし、巨大種が出るのは龍がいるからだとも聞いていた。
いるかもしれない――とは思っていた。思っていたが、こうして目の当たりにすると、驚愕をおぼえずにはいられない。
「あの龍は襲って来ないのか?」
「大丈夫。クロエイからも私たちのことを守ってくれたし、あんたのことも助けてくれたんだし。今はまた寝てるみたいだけど」
「そうか」
立ち上がろうとした、手のひらに何かやわらかい物が触れた。肉だった。
あたりを見渡す。
肉塊が散らばっていた。
げっ――と思わず声をあげた。
龍一郎が地下から助け出した1500人だ。みんな死んでいるようだ。
「そう言えば、みんな一緒に落ちたんだったな」
「助かったのは私とあんただけだよ。まぁ、私はあんたにしがみついてたから、助かったみたいなもんだけど」
「龍のおかげだな」
「私、あんたに謝ろうと思ってたんだ。まさか、1500人のかわりに血を差し出すなんて思っちゃいなかった。奴隷の売買所で生意気なこと言っただろ」
「ツバとかかけられたな」
悪気があって言ったわけではない。
ただ、それが印象強く残っていたので、そうつぶやいた。
「わ、悪かったよ。あんたは悪いヤツじゃなかった。世界が寄ってたかって私をイジメようとしてくるんだ。だから、あんたもどうせ悪いヤツだと思って……」
「わかってる」
血質値の低い者たちにとって、生きづらい世界だということは、龍一郎もちゃんと知っている。
「あんた、名前はなんて言うんだ?」
「白神龍一郎」
「リュウイチロウ? 変な名前」
「悪かったな」
「私はインク。今の私の身はあんたの物だ。あんたに助けられたんだし、あんたが買おうしてくれてたんだし」
「悪いけど、オレは奴隷を2人も必要としてない。買った後は、フィルリア姫に押し付けてやろうと思ってたし」
龍一郎は立ち上がった。
「そんなこと言うなよ」
「インクのことは後で考えるから、とりあえず今は――」
ベルを連れ戻さなくてはならない。
他のことを考える余裕なんてない。
まず、この奈落から這い上がる必要がある。
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