《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

第75話「ベルとのお風呂~準備」

 龍一郎が目を覚ますと、すでに夜になっていた。


 しかし、夜陰はなかった。部屋は明るかったし、窓から見える外もこうこうと光り輝いていた。その眩さによって目覚めさせられたのだ。



「これが――」



 これが、地下に収容された1500人分の血力の明かりなのだ。奴隷たちの明かりは確実に、このセリヌイアを夜から守っている。その明かりに龍一郎はすくなからず気圧される思いだった。



 悲しい明かりだ、と思った。



「リュウイチロウ」
 名前を呼ばれた。



 ベルだ。



 ベルは龍一郎と同じベッドにもぐりこんでいた。まるで胎児のように身を丸めている。どうやら眠っているようだ。



「リュウイチロウ」は寝言だったのだろう。ベルはいまだ悪夢にうなされる癖があった。ひとりでは眠れないのだ。よくこうして龍一郎のベッドにもぐりこんでくる。



 龍一郎はやさしくベルのカラダを抱きしめた。最初に出会ったときより、ほんの少しだけカラダに丸みが付与されていた。脂肪がついた。ベルの頭に鼻をくっつけた。白い穢れなき髪の生え際から花の蜜の香りがした。



「主さま?」
「わ、悪い。起こしたか?」



 ベルのことを抱きしめていたこともあり、気まずかった。



「あれ? 私、また主さまのベッドに入ってしまっていたのですね」



「気にすることないよ。ベルがそれで落ち着くなら、いつでも大歓迎だ」



 ベルを抱きしめていると、こっちも心が落ち着く。心臓はドキドキするのだが、もっと心の奥底では安心感を得られるのだ。



「ありがとうございます」



「昼寝して、そのまま夜まで寝てしまったみたいだな。風呂にでも入りに行くか」



 貧民街の安宿では、風呂のないところも多かった。そういうときは桶に水をためて、カラダを拭いたりしていた。



 一方、都市の中は意外と風呂場が多い。地球の中世ヨーロッパでも、貴族たちは大変な風呂好きだったと世界史の授業でならった。



「私は、部屋で待っております」



「なんで? セッカク貸し切りなんだから行こうじゃないか」



「しかし……」



「もしかして、ベルは風呂に入るのはじめてなんじゃないか?」



 奴隷は風呂に入ることを許されていない。浴場は他の貴族たちも使っているので、ベルを入らせるわけにもいかなかった。グランドリオンで宿泊していた安宿に風呂はついていなかった。



 はじめてです、とベルは顔を赤らめた。


 
「ですが、カラダは清潔に保っております」



「知ってるよ。別に汚いなんて思ったことはない」



 ベルはいつも桶に水をためて、カラダを洗っている。貴族の奴隷だったときは、乱暴に水をぶっかけられていたと聞いている。



「私、熱湯はあまり……」



 遠慮してるのか、それとも、ホントウに厭がっているのか。龍一郎はベルの顔色を慎重にうかがう。



 ベルの心はようやく修繕されはじめてガラス玉のようなものだ。厭がることを強要することだけは、ゼッタイに避けようと思っていた。



 本気で厭がっているのだと判じた。



「わかった。じゃあ、風呂はやめよう。桶でも用意してもらうか」



 以前誘拐されたことがあったので、ベルを1人にすることには抵抗があった。



「は、はい。……あ、あの」
「どうした?」



「やっぱり私もお風呂にまいります。主さまのお背中を流させていただきます」



「え……」
 ベルに背中を流してもらう。
 想像しただけで、心臓が跳躍した。



 非常に魅力的な申し出だ。



「良いのか?」



「主さまと一緒なら、私も一緒に行くことができますし。私も何か主さまのお役に立ちたいのです」



「じゃ、じゃあ、そうするか」



 たしかにそれなら、ベルを1人にしなくとも良い。ベルの気が変わらないうちに、さっさと準備することにした。

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