《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士
第66話「指切りゲンマン」
セリヌイアのストリートを歩いていた。
「あそこは奴隷の売買所になっております」
と、眉をしかめながらエムールが、石畳みの広場にある店を指差した。
「奴隷」と書かれた大きな看板がたっていた。店前に5本の杭が立っていた。2人の男、3人の女がおのおのの杭につなぎ止められていた。
手足を木の枷で拘束されていた。薄汚れた白い布きれを着ているが、ほとんど裸も同然だ。
「痛々しいな」
カラダのあちこちにケガの痕跡が見受けられる。が、それ以上に痛ましいのは彼ら彼女たちの瞳だった。
どの奴隷の目も死んでいた。ホントウに生きているのかも怪しい。はじめてベルと会ったときも、こんな目をしていた記憶がある。
龍一郎は奴隷の取引所へと足を進めた。
不意に龍一郎の腕をつかむ者があった。
ベルだ。
「お、お許しください」
「どうした?」
さきほど《血動車》に乗っていたときよりも、さらにベルの顔色が青くなっていた。こんなにチカラがあったのかとビックリするほど強いチカラで、ベルは龍一郎の腕にからみついていた。
「泣きごとも申しません。ワガママも言いません。ご飯もつくりますし、お買いものにも行きます。なんでもいたしますので、どうか私を主さまのもとに置いておいてくださいませ」
「ん? あぁッ」
いったい何を言ってるのだろうかと思った。
ベルの言葉を理解するのに、しばしの時間を要した。どうやらベルは自分が売り飛ばされるのだと勘違いしているようだった。
「ベルを売りに行くわけじゃないって、オレがベルのことを売り飛ばすわけないだろ」
「そう――なのですか?」
「酷い勘違いだなぁ」
ベルは龍一郎に大きな信頼を置いてくれている。それは龍一郎も感じていることだ。それに売らないでくれという懇願してくるということは、ベルは龍一郎のもとに置いてもらいたいと思っているということにもなる。
難解な迷路をときほぐすように、龍一郎はベルの心に思いをめぐらせた。
「申し訳ありません」
ようやくベルは、龍一郎の腕から手を離した。
「謝ることはない。むしろ謝るのはオレのほうだな。配慮が足りなかった」
かつてはベルも、ああして奴隷として売られていたことがあったのかもしれない。ベルはその肉体だけでなくて、心の中にも大きな傷を受けているのだ。奴隷の売買所はベルにとっては近づきたくない場所だろう。
「オレはベルを売らない。約束するから、心配しなくても良い」
龍一郎は小指をさしだした。
「これは?」
と、ベルは首をかしげた。
「指切りゲンマンって言うんだけど」
龍一郎のいた国では、こうして小指を結んで約束を交わすのだと教えた。
ベルも小指を出した。ベルの指は白くて細い。けれど、爪ははがれてなくなっている。はじめて会ったときからだ。
「こうして小指を結ぶのですか?」
「そうそう。オレはベルを売らない。そういう約束」
結ぶ。
お互いの小指が優しく抱擁しあった。「指切りゲンマン」。腕を上下に揺らす。ベルの指がつられて上下に動く。ベルは不思議そうな顔をして、その手の動きに魅入っていた。
離した。
ベルは大切な宝でもさずかったかのように、結んだ小指をもう一方の手でにぎりこんでいた。
その純情きわまった仕草に、
(この娘だけは、守らなくちゃいけないな)
と、龍一郎は強く思わせられるのだった。
「あそこは奴隷の売買所になっております」
と、眉をしかめながらエムールが、石畳みの広場にある店を指差した。
「奴隷」と書かれた大きな看板がたっていた。店前に5本の杭が立っていた。2人の男、3人の女がおのおのの杭につなぎ止められていた。
手足を木の枷で拘束されていた。薄汚れた白い布きれを着ているが、ほとんど裸も同然だ。
「痛々しいな」
カラダのあちこちにケガの痕跡が見受けられる。が、それ以上に痛ましいのは彼ら彼女たちの瞳だった。
どの奴隷の目も死んでいた。ホントウに生きているのかも怪しい。はじめてベルと会ったときも、こんな目をしていた記憶がある。
龍一郎は奴隷の取引所へと足を進めた。
不意に龍一郎の腕をつかむ者があった。
ベルだ。
「お、お許しください」
「どうした?」
さきほど《血動車》に乗っていたときよりも、さらにベルの顔色が青くなっていた。こんなにチカラがあったのかとビックリするほど強いチカラで、ベルは龍一郎の腕にからみついていた。
「泣きごとも申しません。ワガママも言いません。ご飯もつくりますし、お買いものにも行きます。なんでもいたしますので、どうか私を主さまのもとに置いておいてくださいませ」
「ん? あぁッ」
いったい何を言ってるのだろうかと思った。
ベルの言葉を理解するのに、しばしの時間を要した。どうやらベルは自分が売り飛ばされるのだと勘違いしているようだった。
「ベルを売りに行くわけじゃないって、オレがベルのことを売り飛ばすわけないだろ」
「そう――なのですか?」
「酷い勘違いだなぁ」
ベルは龍一郎に大きな信頼を置いてくれている。それは龍一郎も感じていることだ。それに売らないでくれという懇願してくるということは、ベルは龍一郎のもとに置いてもらいたいと思っているということにもなる。
難解な迷路をときほぐすように、龍一郎はベルの心に思いをめぐらせた。
「申し訳ありません」
ようやくベルは、龍一郎の腕から手を離した。
「謝ることはない。むしろ謝るのはオレのほうだな。配慮が足りなかった」
かつてはベルも、ああして奴隷として売られていたことがあったのかもしれない。ベルはその肉体だけでなくて、心の中にも大きな傷を受けているのだ。奴隷の売買所はベルにとっては近づきたくない場所だろう。
「オレはベルを売らない。約束するから、心配しなくても良い」
龍一郎は小指をさしだした。
「これは?」
と、ベルは首をかしげた。
「指切りゲンマンって言うんだけど」
龍一郎のいた国では、こうして小指を結んで約束を交わすのだと教えた。
ベルも小指を出した。ベルの指は白くて細い。けれど、爪ははがれてなくなっている。はじめて会ったときからだ。
「こうして小指を結ぶのですか?」
「そうそう。オレはベルを売らない。そういう約束」
結ぶ。
お互いの小指が優しく抱擁しあった。「指切りゲンマン」。腕を上下に揺らす。ベルの指がつられて上下に動く。ベルは不思議そうな顔をして、その手の動きに魅入っていた。
離した。
ベルは大切な宝でもさずかったかのように、結んだ小指をもう一方の手でにぎりこんでいた。
その純情きわまった仕草に、
(この娘だけは、守らなくちゃいけないな)
と、龍一郎は強く思わせられるのだった。
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