《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士
第50話「英雄」
「リュウイチロウさまー」「こっちを向いてください」「キャー」
黄色い声が飛び交っている。
あばら家の建ち並ぶ、都市グランドリオンの貧民街。声をあげている女たちに華やかさはなかった。
みな垢で黒ずみ、手足は棒切れのように細かった。けれども、ポッとひとたび頬を桃色に染めると、女らしい色気がフワッと立ち上った。
純情そうな乙女たちが肩を寄せ合い、声をあげる姿はそれはそれで愛らしい。
「どうも、どうも……」
と、龍一郎はややヘキエキする思いを伏せつつ手を振り返す。
女たちは矢で射ぬかれたようにハッとして、物陰に身をひそめてしまう。
クロエイによる大襲撃から、グランドリオンを救った。龍一郎は、グランドリオンの英雄ということになっていた。
龍一郎はなるべく貧民たちに援助している。食べ物を買い与えたり、自分の血をエネルギーとしてもさしだしている。そういった行為が、人気に拍車をかけていた。
龍一郎の血は異様に血質値が高いために、なんでも低コストで動かせられるのだ。血を一滴差し出せば、たいていの物は買うことができる。
出し惜しみする理由もないし、どうぞ好きに使ってくれという感じだ。
結果、貧民たちから異様に人気なのだった。
逆に、貴族たちからは「偽善者」だと嫌われているようだ。
(だいぶ、こっちの暮らしにも慣れてきたかな)
両親のことやクラスメイトのことが脳裏をかすめるが、今のところ地球に帰りたいとは思わない。
地球という世界よりも、レオーネというこっちの世界のほうが、自分の存在を必要としてくれている。帰りたい帰りたくない以前に、そもそもどうやったら帰れるのかもよくわからない。
こっちは期末テストもないし、大学進学の心配もない。将来の不安もない。この血があるかぎり、バイトも労働もする必要はない。
それに――。
好きな女の子もできた。
「主さま……」
と、フードをまぶかにかぶった儚き少女が、龍一郎に背負われている。
ベル。
彼女は龍一郎の奴隷になった。
龍一郎はベルという1人の人間の所有権を得たのだ。それ以来、ベルは龍一郎のことを「主さま」と呼んでいる。
口調も、あらたまったものになっていた。
何をしても良いという許可を得られたのだ。薄暗い興奮をおぼえる。ツムジの先から、脚の先まで、すべて「龍一郎の所有物」ということになる。
龍一郎の妄想の中では、ベルは大変なことになっている。一緒にお風呂に入って恥ずかしがるベルをムリヤリ……はたまた、ベルのその慎ましい乳房をモミしだいて……なんて。
実際は、好き、の一言も言えないのだった。ベルの無垢な姿を目の前にすると、そんな下卑た想像をした自分が恥ずかしくなる。
「どうした?」
「自分で歩きます」
「大丈夫か?」
「大勢に見られていると、背負われているのが恥ずかしくて」
「そうか」
おろした。
少し残念だ。
背負っていると背中にベルの体温を感じて心地良かったのだ。
「重くはありませんでしたか?」
「いいや。ぜんぜん」
気を使っているわけではない。
ベルの体重は春風に浮く雲のように軽い。
ベルは龍一郎に信頼を置いてくれているようだった。ベルが歩くときは、必ず龍一郎の服をつまんだ。
決して強くは、つまんで来ない。人差し指と親指で、羽毛でもつまむかのようなチカラ具合だった。その小さなチカラに、オレは信用されているんだな……という、温かい満足感をおぼえた。
城門棟の前に立つ。
「これはこれは、リュウイチロウさま。どうぞ、お通りください」
暗黒病にかかっていないかだけ調べられるが、たいしたセンサクはされない。フィルリア姫が話を通してくれている。
城門棟をくぐり、都市の中に入る。
都市の中は、貧民街とは様子が違ってくる。都市の中にいるのは貴族や、富裕層ばっかりだ。そのため龍一郎が手放しで喜ばれることはない。
注目はされる。
媚を売ってくる者もいる。一方で、陰口をたたく者もいる。
「あれが血質値200もあるっていう」「龍神族の?」「貧民びいきだそうよ」「でも、血質値200ってなると、すぐに貴族になってもオカシクないぐらい」「今のうちに媚を売っておくのも悪くない」……などと声が聞こえてくる。
一方。
「ホントに血質値200もあるのかしら?」「あんなみすぼらしい奴隷を連れてる」「顔を隠してるから、きっと不細工な女よ」
好き勝手なことを言っている。
ベルは、委縮してしまっていた。
「あんまり気にするなよ」
「はい。大丈夫です」
と、ベルは応えた。
ベルの顔は、ヤケドや傷の痕跡が酷い。でも、下地が良いので、さらけ出していても何も問題ないように思う。
堂々としていれば、周りも何も言わないかもしれない。ベルは大衆の前に顔を見せることを嫌っているようなので、無理強いはしなかった。
今日は、グランドリオンの領主館に招かれていた。招待してきたのは、フィルリア姫だ。
大事な話があるということだ。
黄色い声が飛び交っている。
あばら家の建ち並ぶ、都市グランドリオンの貧民街。声をあげている女たちに華やかさはなかった。
みな垢で黒ずみ、手足は棒切れのように細かった。けれども、ポッとひとたび頬を桃色に染めると、女らしい色気がフワッと立ち上った。
純情そうな乙女たちが肩を寄せ合い、声をあげる姿はそれはそれで愛らしい。
「どうも、どうも……」
と、龍一郎はややヘキエキする思いを伏せつつ手を振り返す。
女たちは矢で射ぬかれたようにハッとして、物陰に身をひそめてしまう。
クロエイによる大襲撃から、グランドリオンを救った。龍一郎は、グランドリオンの英雄ということになっていた。
龍一郎はなるべく貧民たちに援助している。食べ物を買い与えたり、自分の血をエネルギーとしてもさしだしている。そういった行為が、人気に拍車をかけていた。
龍一郎の血は異様に血質値が高いために、なんでも低コストで動かせられるのだ。血を一滴差し出せば、たいていの物は買うことができる。
出し惜しみする理由もないし、どうぞ好きに使ってくれという感じだ。
結果、貧民たちから異様に人気なのだった。
逆に、貴族たちからは「偽善者」だと嫌われているようだ。
(だいぶ、こっちの暮らしにも慣れてきたかな)
両親のことやクラスメイトのことが脳裏をかすめるが、今のところ地球に帰りたいとは思わない。
地球という世界よりも、レオーネというこっちの世界のほうが、自分の存在を必要としてくれている。帰りたい帰りたくない以前に、そもそもどうやったら帰れるのかもよくわからない。
こっちは期末テストもないし、大学進学の心配もない。将来の不安もない。この血があるかぎり、バイトも労働もする必要はない。
それに――。
好きな女の子もできた。
「主さま……」
と、フードをまぶかにかぶった儚き少女が、龍一郎に背負われている。
ベル。
彼女は龍一郎の奴隷になった。
龍一郎はベルという1人の人間の所有権を得たのだ。それ以来、ベルは龍一郎のことを「主さま」と呼んでいる。
口調も、あらたまったものになっていた。
何をしても良いという許可を得られたのだ。薄暗い興奮をおぼえる。ツムジの先から、脚の先まで、すべて「龍一郎の所有物」ということになる。
龍一郎の妄想の中では、ベルは大変なことになっている。一緒にお風呂に入って恥ずかしがるベルをムリヤリ……はたまた、ベルのその慎ましい乳房をモミしだいて……なんて。
実際は、好き、の一言も言えないのだった。ベルの無垢な姿を目の前にすると、そんな下卑た想像をした自分が恥ずかしくなる。
「どうした?」
「自分で歩きます」
「大丈夫か?」
「大勢に見られていると、背負われているのが恥ずかしくて」
「そうか」
おろした。
少し残念だ。
背負っていると背中にベルの体温を感じて心地良かったのだ。
「重くはありませんでしたか?」
「いいや。ぜんぜん」
気を使っているわけではない。
ベルの体重は春風に浮く雲のように軽い。
ベルは龍一郎に信頼を置いてくれているようだった。ベルが歩くときは、必ず龍一郎の服をつまんだ。
決して強くは、つまんで来ない。人差し指と親指で、羽毛でもつまむかのようなチカラ具合だった。その小さなチカラに、オレは信用されているんだな……という、温かい満足感をおぼえた。
城門棟の前に立つ。
「これはこれは、リュウイチロウさま。どうぞ、お通りください」
暗黒病にかかっていないかだけ調べられるが、たいしたセンサクはされない。フィルリア姫が話を通してくれている。
城門棟をくぐり、都市の中に入る。
都市の中は、貧民街とは様子が違ってくる。都市の中にいるのは貴族や、富裕層ばっかりだ。そのため龍一郎が手放しで喜ばれることはない。
注目はされる。
媚を売ってくる者もいる。一方で、陰口をたたく者もいる。
「あれが血質値200もあるっていう」「龍神族の?」「貧民びいきだそうよ」「でも、血質値200ってなると、すぐに貴族になってもオカシクないぐらい」「今のうちに媚を売っておくのも悪くない」……などと声が聞こえてくる。
一方。
「ホントに血質値200もあるのかしら?」「あんなみすぼらしい奴隷を連れてる」「顔を隠してるから、きっと不細工な女よ」
好き勝手なことを言っている。
ベルは、委縮してしまっていた。
「あんまり気にするなよ」
「はい。大丈夫です」
と、ベルは応えた。
ベルの顔は、ヤケドや傷の痕跡が酷い。でも、下地が良いので、さらけ出していても何も問題ないように思う。
堂々としていれば、周りも何も言わないかもしれない。ベルは大衆の前に顔を見せることを嫌っているようなので、無理強いはしなかった。
今日は、グランドリオンの領主館に招かれていた。招待してきたのは、フィルリア姫だ。
大事な話があるということだ。
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