《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士
第43話「食われる影」
ドォン
屋敷が大きく振動した。
部屋のトビラが破れていた。クラウスのクロエイと、フィルリア姫がもつれあうようにして、部屋に跳びこんで来たのだ。
「ひぇぇ」と、情けない声をあげてスクラトアは机の下にもぐりこんだ。
「フィルリア姫ッ」
「すまない。少々手こずっている」
「援護します」
《血影銃》の銃口を向けた。相手がクラウスだからといって、もう迷ってはいられない。
トリガーを引き絞る。
紅血の弾丸を放つ。
クラウスはその弾丸をひらりをかわした。一直線に龍一郎めがけて猛進してくる。
続けざまに放つが、当らない。今までは反動がないことと、FPSゲームの経験に助けられていた。だが、こうも機敏に動き回る相手に当てろというのは、射撃経験のない龍一郎には難しかった。
「キェェェェェッ」
黒板を引っ掻くような鳴き声をあげて、龍一郎めがけて襲いかかってくる。いや。龍一郎の影に襲いかかってきた。
影のお腹の部分が食われた。
ぽっかりと食われた部分の影が消えた。咄嗟に、服をめくって自分のお腹を見た。黒くなっている。アザが出来ているとか、そういうレベルの黒ではない。墨汁を塗られたように黒ずんでいる。
「お、オレも――」
暗黒病に――クロエイになる――。
悲鳴をあげそうになった。
辛うじて、悲鳴をあげずに済んだのは――。
「ひぇぇ」
と、先に悲鳴をあげたくれた人物がいたからだ。
スクラトアだ。彼は悲鳴をあげながら、執務室から跳びだして行った。
「よせッ。勝手に出るんじゃないッ」
と、フィルリア姫が忠告したけれど、彼は聞く耳持たずに姿を消した。
スクラトアがどうなろうと知ったことではない。だが、彼がクロエイになると、それはそれで厄介だ。
他人の心配をしている場合ではない。龍一郎もすでに暗黒病が進行している。
「キェェェッ」
ふたたびクロエイが、踊りかかってくる。
今度は、龍一郎の肩にかぶりついてきた。龍一郎が発砲すると、すぐに退いてくれた。けれど、肉を、ごっそりと持ってゆかれたような気がした。左肩を触ってみる。生温かい血で濡れていた。
クロエイは直接、血に触れるだけでは倒せない。ちゃんと《血影銃》なり、《吸血剣》を使わないとダメージが通らない。たしか、そうだったはずだ。だから、こうして龍一郎の血にクロエイが直接触れても、クロエイは何ともない。
何発か《血影銃》を撃ちこんだ。
クロエイは機敏にそれをかわした。
そのうちの一発が、クロエイの足に直撃した。「キェェェェッ」とクロエイは悶えていた。
その好機を逃すフィルリア姫ではなかった。
「うぉっ」
と、野太い声をあげて、フィルリア姫は勇躍した。レイピアをクロエイに突き刺して、その場に縫いとめた。
「リュウイチロウ。とどめをッ」
「はい」
クロエイが縫いとめられている今ならば、必ず弾を当てることが出来る。
照準を合わせる。銃身についているサイトが、もがくクロエイに狙いをつけた。トリガーを引きしぼった。
紅血の弾丸が放たれる。
弾丸はしっかりとクロエイの心臓部分を――クロエイに心臓があるのかは謎だが――貫いた。
ふつうのクロエイならば、ここで溶けてゆくはずだ。クラウスのカラダからは闇がこぼれ落ちていった。
残されたのは、クラウスの生首だけだった。不思議と、それほどグロイとは思わなかった。出血がなかったのも、グロさを緩和していた。気持悪さよりも、むしろセッカク仲良くなれそうだった友人を失ったショックのほうが大きかった。
「クラウスは、助かりませんか」
「ここまで、暗黒病が進んでいればムリだ。肉体がすっかり闇に呑み込まれてしまっているからな」
フィルリア姫は無念そうに眉をひそめて、首を左右に振った。
「そんな――」
「だが、そこまで暗黒病が進んでいない君なら、まだ救うことが出来るはずだ。私の血を飲むと良い」
フィルリア姫は、レイピアでみずからの腕を傷つけていた。白亜のような肌から、鮮血がしたたった。
「はい」
龍一郎の腕までもが、すでに黒に染まりつつあった。フィルリア姫が差しだしてくれている腕。一瞬、躊躇いがあった。妙に気恥ずかしかったのだ。
「えっと……。いただきます」
「遠慮することはない。この状況で君にクロエイになられるほうが困る」
そう言うフィルリア姫からも、恥じらいのようなものを帯びている気がした。
「はい」
フィルリア姫の白い腕に、自分の唇をつけた。
フィルリア姫の腕の熱が、龍一郎の唇に伝わってきた。フィルリア姫の血が、龍一郎の唇を濡らした。ほんのりと甘い味がした。美しい女性から流れる血が、自分の中に入ってきたことを思うと、陶然となった。吸血鬼の気分がすこしわかる気がする。
血を飲んだ瞬間から、龍一郎のカラダの黒ずみは消えていった。もとの人間らしい皮膚に戻っていた。
「助かった……」
と、龍一郎はつぶやいた。
まだ安堵するには早いがな――と、フィルリア姫は言った。
屋敷が大きく振動した。
部屋のトビラが破れていた。クラウスのクロエイと、フィルリア姫がもつれあうようにして、部屋に跳びこんで来たのだ。
「ひぇぇ」と、情けない声をあげてスクラトアは机の下にもぐりこんだ。
「フィルリア姫ッ」
「すまない。少々手こずっている」
「援護します」
《血影銃》の銃口を向けた。相手がクラウスだからといって、もう迷ってはいられない。
トリガーを引き絞る。
紅血の弾丸を放つ。
クラウスはその弾丸をひらりをかわした。一直線に龍一郎めがけて猛進してくる。
続けざまに放つが、当らない。今までは反動がないことと、FPSゲームの経験に助けられていた。だが、こうも機敏に動き回る相手に当てろというのは、射撃経験のない龍一郎には難しかった。
「キェェェェェッ」
黒板を引っ掻くような鳴き声をあげて、龍一郎めがけて襲いかかってくる。いや。龍一郎の影に襲いかかってきた。
影のお腹の部分が食われた。
ぽっかりと食われた部分の影が消えた。咄嗟に、服をめくって自分のお腹を見た。黒くなっている。アザが出来ているとか、そういうレベルの黒ではない。墨汁を塗られたように黒ずんでいる。
「お、オレも――」
暗黒病に――クロエイになる――。
悲鳴をあげそうになった。
辛うじて、悲鳴をあげずに済んだのは――。
「ひぇぇ」
と、先に悲鳴をあげたくれた人物がいたからだ。
スクラトアだ。彼は悲鳴をあげながら、執務室から跳びだして行った。
「よせッ。勝手に出るんじゃないッ」
と、フィルリア姫が忠告したけれど、彼は聞く耳持たずに姿を消した。
スクラトアがどうなろうと知ったことではない。だが、彼がクロエイになると、それはそれで厄介だ。
他人の心配をしている場合ではない。龍一郎もすでに暗黒病が進行している。
「キェェェッ」
ふたたびクロエイが、踊りかかってくる。
今度は、龍一郎の肩にかぶりついてきた。龍一郎が発砲すると、すぐに退いてくれた。けれど、肉を、ごっそりと持ってゆかれたような気がした。左肩を触ってみる。生温かい血で濡れていた。
クロエイは直接、血に触れるだけでは倒せない。ちゃんと《血影銃》なり、《吸血剣》を使わないとダメージが通らない。たしか、そうだったはずだ。だから、こうして龍一郎の血にクロエイが直接触れても、クロエイは何ともない。
何発か《血影銃》を撃ちこんだ。
クロエイは機敏にそれをかわした。
そのうちの一発が、クロエイの足に直撃した。「キェェェェッ」とクロエイは悶えていた。
その好機を逃すフィルリア姫ではなかった。
「うぉっ」
と、野太い声をあげて、フィルリア姫は勇躍した。レイピアをクロエイに突き刺して、その場に縫いとめた。
「リュウイチロウ。とどめをッ」
「はい」
クロエイが縫いとめられている今ならば、必ず弾を当てることが出来る。
照準を合わせる。銃身についているサイトが、もがくクロエイに狙いをつけた。トリガーを引きしぼった。
紅血の弾丸が放たれる。
弾丸はしっかりとクロエイの心臓部分を――クロエイに心臓があるのかは謎だが――貫いた。
ふつうのクロエイならば、ここで溶けてゆくはずだ。クラウスのカラダからは闇がこぼれ落ちていった。
残されたのは、クラウスの生首だけだった。不思議と、それほどグロイとは思わなかった。出血がなかったのも、グロさを緩和していた。気持悪さよりも、むしろセッカク仲良くなれそうだった友人を失ったショックのほうが大きかった。
「クラウスは、助かりませんか」
「ここまで、暗黒病が進んでいればムリだ。肉体がすっかり闇に呑み込まれてしまっているからな」
フィルリア姫は無念そうに眉をひそめて、首を左右に振った。
「そんな――」
「だが、そこまで暗黒病が進んでいない君なら、まだ救うことが出来るはずだ。私の血を飲むと良い」
フィルリア姫は、レイピアでみずからの腕を傷つけていた。白亜のような肌から、鮮血がしたたった。
「はい」
龍一郎の腕までもが、すでに黒に染まりつつあった。フィルリア姫が差しだしてくれている腕。一瞬、躊躇いがあった。妙に気恥ずかしかったのだ。
「えっと……。いただきます」
「遠慮することはない。この状況で君にクロエイになられるほうが困る」
そう言うフィルリア姫からも、恥じらいのようなものを帯びている気がした。
「はい」
フィルリア姫の白い腕に、自分の唇をつけた。
フィルリア姫の腕の熱が、龍一郎の唇に伝わってきた。フィルリア姫の血が、龍一郎の唇を濡らした。ほんのりと甘い味がした。美しい女性から流れる血が、自分の中に入ってきたことを思うと、陶然となった。吸血鬼の気分がすこしわかる気がする。
血を飲んだ瞬間から、龍一郎のカラダの黒ずみは消えていった。もとの人間らしい皮膚に戻っていた。
「助かった……」
と、龍一郎はつぶやいた。
まだ安堵するには早いがな――と、フィルリア姫は言った。
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