《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

第27話「勘違い」

 頭に冷たい感触を覚えて目が覚めた。どうやら、龍一郎はベッドに寝かされているようだった。ベルが、ジッと龍一郎のことを見下ろしていた。



「ベルッ」
 あわてて跳ね起きた。



「ダメ。寝てないと。脳震盪を起こしてた」



「良かった。あの赤髪の男と、どこかに行ってしまったのかと思った」



 そう言うとベルは目をつりあげた。



「私はそんなに恩知らずじゃない」



 どうやらここは、宿屋らしい。



 借りた3階の部屋だろう。ベッドが2台置かれていて、窓がついている。木製のクローゼットとテーブルが置かれていた。



「あの赤髪の男はベルのことをカワイイって言ってくれた。もしも、ベルがあの男のほうが良いって言うんなら、それはそれで良いんだ。別に、オレはベルの主人でもなんでもないわけだし」



 出来ればソバにいて欲しい。
 だが、強制はできない。



「私は、あなたに世話になった。赤髪の男が私のことをカワイイと言ったのは、ただの方便」



「方便?」
「本人から聞くべき」



 ベルはそう言うと、部屋のトビラを開けた。



 入ってきたのはあの赤髪の青年だった。思わず身構えた。が、杞憂だった。部屋に入ってきたとたんに、赤髪の青年は土下座した。しかもズドンという勢いで、床に頭を叩きつけていた。



「悪かったッ」
「へ?」



 赤髪の男はクラウス・ヒューリーというらしかった。



 ヒューリーという言葉は、記憶に新しい。あのマチス・ヒューリーの息子だということだ。クラウスと呼んでくれれば良いとのことだ。



 クラウスは床にコブシを叩きつけて、煮えたぎるように語った。



「君が宿代の支払いの際に、とんでもない高い血質値を示したから、貴族なんだと勘違いしたんだ」



 血質値が高ければ爵位をもらえるそうだ。ムリもない勘違いだ。



「オレと同じ年ぐらいの貴族が、女の子をいじめているのだと思いこんで、それで――」



 挑発をしたあげくに、殴ってしまった――とのことだ。



 はたから見れば、「貴族の青年」と「傷だらけの奴隷」という構図に見えてしまうのだろう。たしかにベルは一見してわかるぐらいに、傷だらけなのだ。



「は、はぁ」
 その謝罪態度に、龍一郎は気圧された。



「だから、本気でナンパするつもりはなかったんだ」



 申し訳ないッ――また、ズドン。頭を床に叩きつけた。



 これ以上、床に頭をぶつけられたら、クラウスのほうが脳震盪を起こしてしまいそうだった。



「そんなに謝る必要はないよ。クラウスの言ってることは、理解できなくもない」



 龍一郎は頬をおさえながら言った。
 まだ痛む。



 レオーネに来てからまだ1日も経過していないのに、殴られてばっかりだ。



「ホントウかッ。オレの言っていることに理解を示してくれるかッ」



 今度は顔を、を輝かせている。



 こうして見ると、かなりのイケメンだ。目は大きくて形の良い二重まぶたをしている。鼻は高く顔の輪郭はハッキリしている。まだ大人ではないからか、どことなく成熟しきっていない面をしている。



 それゆえに、軽薄に見えてしまうのかもしれない。人は見た目で判断することなかれ、中身は熱血系だ。



「オレは、人を差別するやり方が気にくわないんだ。奴隷だとか貴族だとか、そんなふうに人を差別するべきではない。だからオレは領主館を跳びだして、こうして貧民街の宿に部屋を借りているんだ」



 ずいぶん熱い男だ。
 灼熱色の髪が、そういう印象を後押しした。



(まぁ)



 いじめられている女の子がいたら、助けたくなる。その気持はわかる。



 が、人を差別するやり方が気にくわないというのは、全面的には賛同しかねる。人は平等ではない。



「いくら理想論をとなえても、クロエイに効果的な血を持つ人間と、クロエイの標的にされる人間の差があるのも事実だ」



 龍一郎が言うと、クラウスが言い返してくる。



「たしかに奴隷はクロエイの標的になる。しかし、だからといって、無下むげに扱って良いわけではない。むしろ、弱者は守るべきだ。貴族たちは奴隷の血をエネルギーとして使うことが多い。これは間違っている。血質値の良い人間のほうが燃費が良いんだ。だから、血力などは貴族が補うべきだ」



 血力とは何か。
 エネルギーのことを血力というのだと、ベルが補足してくれた。



 明かりをつけたり、水を出したりする際に血を使うから、血力、なのだろう。



 なんの根拠もなく、熱血論を唱えているわけではないようだ。暑苦しいのは苦手だ。だが、奴隷を痛めつける貴族よりも、クラウスのような人間のほうが好感が持てる。



 同じ宿にいる以上は、これから顔を合わせることもあるだろう。



「オレは龍一郎。これからよろしく」
 と、握手を求めると、



「おうッ」
 と、握り返してきた。

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