《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

第11話「朝の光」

 家の物陰を利用して、クロエイに見つからないように進んだ。



 ベルのカラダは、ほとんど体重が感じられなかった。ロクにものを食べてないのかもしれない。ふつうではない軽さだ。



 それでも生きているんだ――と訴えるかのような体温が、感ぜられた。


「クロエイって、見た感じ口しかついてないけど、どうやって周囲を感知してるんだ?」



「クロエイは物音を聞くことが出来る。あと、品質の悪い血に誘われる」



「品質の悪い血……。庶民とか奴隷の血ってことか?」



「そう」



 たった二文字の返答だったが、その声には哀愁が帯びられているようだった。


 つまり、クロエイはベルにも誘われてくるのだろう。だからこそこの世界では、奴隷が乱暴に扱われるわけだ。



(でも、だからって、奴隷に乱暴して良いわけない)



 正義漢ぶってるわけではない。



 ベルみたいな少女が乱暴されている場面は、胸糞が悪いのだ。龍一郎にはサディストではない。



「逆に、貴族の血とかには弱いんだろう?」
「うん」



「じゃあ、オレは噛まれても大丈夫なんじゃないか?」



「それはダメ。クロエイを倒すことができるのは、あくまで《血影銃》で撃った血だけだから。それでも、私みたいな血では倒せないけど」



「とりあえず、できるだけ物音を立てなければ良いわけだ」



 村の出口らしき場所が見えてきた。木の柵で囲まれている。大量のカンテラが転がっていた。



「そう言えば、クロエイは明るいところには近寄って来ないんだったか」



「そう。光を嫌ってる」
 たしかにそんな感じの見た目だ。



「それでやたらとこの村には、外灯が多いわけだ」



 異様に多い。
 ただ、これを発光させるにも血が必要なのだろう。



「でも、光を嫌っているというだけで、倒すことはできない」



「質問攻めで悪いけど、クロエイはどこから沸いてくるんだ? 村の中で現れたりはしないのか?」



「村の中で沸くことはない。明かりのイッサイない暗闇で沸くと言われている」



 村には外灯がある。
 仮に外灯がなくとも、月明かりがある。
 6つも浮かんでいるのだから、かなり明るい。



「森の中とか、洞窟とかか?」
「曇りや雨の日だと、平原にも沸く」
「なるほど」



 さすがに、世界全域を明るく照らすのは難しいだろう。どうしても出現を抑えることは出来ないわけだ。



「ヤツらは暗闇で沸いて、庶民の血を求めてさまよいはじめる。だから明るくしていても、村が襲われることは珍しくない」



 それでこんな事態になってるわけだ。



「待てよ。じゃあ、朝になればクロエイは死ぬのか?」



「朝になると、地中にもぐって行く」



 だからもうじき――とベルが言った。



 まるでその言葉が合図だったかのように、北の空が白みはじめた。どうやらこの世界では月は南に沈み、太陽は北からのぼるようだ。



「朝か?」
「そう」



 世界が、すこしずつ北のアケボノにより照らされてゆく。クロエイたちはピタリと動きを止めた。



 そしてノロノロと地面の中に潜り込んでゆく。穴を掘っているわけではない。溶け込むようにして消えていったのだ。



 夜更けかと思っていたが、どうやら、夜明けだったらしい。残夜の終わりに、龍一郎はホッと胸をナでおろした。



「これで安心して都市に行けるな」



「でも、クロエイは完全に消えたわけじゃない。午前中でも暗いところに潜んでいたりするから、気を付けたほうが良い」



「わかった」



 こうして日の出のもとで見てみると、村のなかはけっこう荒らされていた。



 家の壁が剥がされたり、穴を開けられたりしている。おそらくクロエイは、怪力を宿しているのだろう。



 なによりも酷いのは、村の出入り口だ。カンテラが散乱しているだけではない。人の死体と思われるものも積み重なっていた。



「クロエイに襲われて、ああなったのか」



「なかには影を食われて、クロエイになった者も少なくないと思う」



「悲惨だな」



 あんまり見ていたい光景ではない。死体が積み重なっている場所から、龍一郎がいるところまではけっこう距離があった。それでも、吐き気を覚えた。死臭すら漂ってくるような気がする。




「おーいッ。ベルッ。どこ行ったァ」



 怒鳴り声が聞こえてきた。
 ベルを痛めつけていた男の声だった。



 さっき龍一郎と対峙たいじした男の声だ。



 ベルのカラダがビクリと跳ねあがるのがわかった。寒気に襲われているかのように、震えている。


「あ……あ……」と妙な声まで発している。酷い怯えようだった。この村に長くいるのは、良くなさそうだ。



「行こう」
 龍一郎は、ベルを背負って村を出た。

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