セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―
再び、王都
「じゃあ、二人共。元気で」
「うす、グイドさんも」
「グイドもな」
次の日の朝。
エンテが乗ってきた『騎士』用の馬車にウィリアムたちは乗り込むと、見送りに来てくれたグイドへ軽く頭を下げた。
「……あんまり、独り善がりするなよ」
「わかってる。ちゃんとこれからは、周辺の村へ、ちょくちょく顔を、出しに行くよ」
「なら、良いけど」
大陸にある木造品の9割方はここ、『大森林』で伐採された木材で作られている。
9割方を支えきれるこの貴重な場所を見守り管理する人間が必要で、禍族等の危険も在るため管理するのは大抵『橙の騎士』と昔から決まってきた。
それ故にグイドはここを離れるのは無理な相談であり、必然的に人が住んではならないと定められている『大森林』で彼が一人で生きていかなければならない。
(そう考えたらグイドじゃなくてもあぁなる、か)
(確かにな。ここは大陸にとって必要不可欠な場所であるからこその、犠牲なのだろう)
しみじみと呟くバラムに、ウィリアムはため息を周りに感づかれないように吐いた。
本当は放ってはおけないと強く思っているのに、それでもここを失った時の損失を考えてしまえば何も言えなくなる。
無意識に眉を顰めているウィリアムにグイドは気がつくと、嬉しげに微笑む。
「大丈夫だよ、ウィリアム」
「……グイド」
「『七色の騎士』が、禍族や魔族との因縁を、終わらせてくれる。そうしたら、俺も自由だ」
きっとグイドの言葉は真実であり虚偽だ。
確かに禍族や魔族が人間を襲うような自体がなくなれば、『橙の騎士』が『大森林』を管理し続けるなんて役目はもう必要なくなるだろう。
危険性がなくなればある程度の人数がより効果的に、より人情的に管理するようになるはず。
だが遠い昔、童話からさえ始まっているこの因縁をウィリアムたちの時代で終わらせられるのだろうか。
幾度も『騎士』が戦い続けたであろう歴史を一気に塗り替える、そんなまるで作り話のようなことをこの時代でできる物なのだろうか。
普通の人ならばこう考える。
無理だ、と。
「……あぁ、わかった」
けれど彼は普通の人でも、ましてや普通の『騎士』でもなかった。
”全てを終わらせる”と言われた、伝説の『七色の騎士』なのだ。
ここで肯定しなければ多分本物じゃないと、ウィリアムはそう思う。
「禍族も、魔族も、丸ごと全部終わらせる。そしてグイド、お前を一人にさせない。……約束だ」
「うん。ありがとう、ウィリアム。その言葉だけで、嬉しい」
本当に嬉しそうにグイドは言葉を紡いだが、その表情を……少し切なそうな表情がウィリアムの脳内に焼き付いて止まなかった。
手を振って別れを告げるグイドを眺めながら、ウィリアムたちは『大森林』を後にする。
そこでウィリアムとエンテ、どちらが運転するかで一波乱あったが結論だけ言えばエンテが悠々気ままに馬を導いていた。
「エンテが馬に乗れたとか、知らなかったんだけど」
「普通乗れるだろ、親が傭兵業やってたんだし」
せめて文句ぐらいは言ってやろうと不満げに言葉を漏らすウィリアムだったが、ぐうの音も出ない正論を叩きつけられて一瞬で敗北する。
ガクリと肩を落とし大人しくしていることに決めた緑の少年。
小石や整地されていない土を踏むことで馬車が揺れるのに身を任せながら、ふとあの時のエンテの表情を思い出していた。
(悲しい顔、してたな)
(口ではああ言っていたが、やはり一人は寂しいのだろう)
特に孤独で人は生きられないのだと理解させられたから尚更だ、とバラムは言葉を続ける。
自分は孤独だと固執していたのはあの一人の苦しみから少しでも開放されたいが為だったのだろう、と今更ながらにウィリアムは理解する。
(お主は間違っていないぞ、ウィリアム)
(……そう、かな)
(あぁ、『橙の騎士』は憑き物が晴れた顔をしていた。これからはあやつが言っていたように周辺の村にでも顔を出しに行くだろう)
バラムのフォローに感謝しながら、ウィリアムはそれでもと思い続けた。
何故ここまでグイドは……人間は禍族や魔族たちに縛られ続けなければならないのだろう、と。
(色んな人が、禍族や魔族によって自由に生きれられなくなってる)
(この世の中、生まれた街から一歩も外に出ずに死んでゆく者の方が多いだろうな)
(……そんなのきっと間違ってる)
今まで多くのものを見てきたウィリアムにはわかる。
この世界は生きるのが大変で苦労もたくさんする場所だが、それ以上に”美しい場所”なのだと。
人が禍族や魔族に破壊されながらも直し、成長し、根太く生きてきた証がそこらじゅうに残っている。
何より強く生きる人々がたくさんいるのだ。
(世界は自由であるべきなんだ。きっと何にも囚われちゃいけない)
(……多くを望むな、ウィリアムよ)
渋い表情で言っているのが丸わかりな声色で言うグイドに、ウィリアムはクシャリと顔を笑みで破綻さえた。
(そりゃあ――)
――俺は『七色の騎士』、だからな。
七色全ての『騎士』の理想を誰よりも持つのだから、あらゆる『騎士』よりもずっとずっと欲張りなのだ。
この世界はつまらない。
気づけば彼女はそう思っていた。
生まれて今まで上に立つ者としての立ち振る舞いを強要され、仕方なく従ってきたがもううんざりだ。
「お待ち下さい、お嬢様」
「嫌よ、待ったって説得するだけでしょ」
この世界はつまらない。
自由という言葉存在しないからそう思うのだ。
食べるものも、住むところも、着るものも、今いる立場も、全部他人に決められたもの。
そんなのつまらない、面白くない、何より息苦しかった。
けれど毎日温かいご飯を食べれて、柔らかなベッドで寝れて、可愛い服も着れるからこの束縛に対して我慢していたのに。
コツコツと”城”の床に張り巡らされた大理石を靴が叩く音すら彼女をイラつかせる。
後ろから追いすがるようにメイドが彼女の前に飛び出して片膝をついた。
「どうかもう一度お考えください、『青の騎士』を継承なさることを……。セレーナ様っ!」
堪忍袋の緒が切れた、もう我慢できない。
怒り心頭な彼女……セレーナは両手を腰に当てると声を目一杯張り上げた。
「ぜっっっったい、い、やッ!」
一体全体、どうしてこの窮屈な暮らしに合わせて『騎士』なんていう重荷を預けようとするのか。
大人の考えることはいつも卑怯だ、自分が何かを望むのは否定してくるくせに大人は自分に何かを強要してくる。
「アレをやれ、コレをやれってもうウンザリ! 今でもたくさん我慢してるのよ、これ以上わたしに何かを押し付けないでっ!」
特に『騎士』なんて束縛の塊だ。
継承してしまえばアレやコレやと担ぎ出されて、禍族や魔族と戦う日々が待っているに決まってる。
「ですが『騎士』に成るというのは、非常に名誉なことなのですよ……?」
「そんな名誉、いらないっ」
何が名誉か。
人を超えた力を手に入れて、他人の為に延々と戦うのがそんなに名誉なことなのか。
信じられない、と心の底からセレーナは思う。
「とにかく、わたしは『騎士』になんかならない」
顔を落とすメイドの脇を通り過ぎながら、セレーナは小さく誰にも聞き取れないような小さな声で呟いた。
「どうせ父様みたいに重圧に負けて、自分自身を滅ぼすだけだもの」
「うす、グイドさんも」
「グイドもな」
次の日の朝。
エンテが乗ってきた『騎士』用の馬車にウィリアムたちは乗り込むと、見送りに来てくれたグイドへ軽く頭を下げた。
「……あんまり、独り善がりするなよ」
「わかってる。ちゃんとこれからは、周辺の村へ、ちょくちょく顔を、出しに行くよ」
「なら、良いけど」
大陸にある木造品の9割方はここ、『大森林』で伐採された木材で作られている。
9割方を支えきれるこの貴重な場所を見守り管理する人間が必要で、禍族等の危険も在るため管理するのは大抵『橙の騎士』と昔から決まってきた。
それ故にグイドはここを離れるのは無理な相談であり、必然的に人が住んではならないと定められている『大森林』で彼が一人で生きていかなければならない。
(そう考えたらグイドじゃなくてもあぁなる、か)
(確かにな。ここは大陸にとって必要不可欠な場所であるからこその、犠牲なのだろう)
しみじみと呟くバラムに、ウィリアムはため息を周りに感づかれないように吐いた。
本当は放ってはおけないと強く思っているのに、それでもここを失った時の損失を考えてしまえば何も言えなくなる。
無意識に眉を顰めているウィリアムにグイドは気がつくと、嬉しげに微笑む。
「大丈夫だよ、ウィリアム」
「……グイド」
「『七色の騎士』が、禍族や魔族との因縁を、終わらせてくれる。そうしたら、俺も自由だ」
きっとグイドの言葉は真実であり虚偽だ。
確かに禍族や魔族が人間を襲うような自体がなくなれば、『橙の騎士』が『大森林』を管理し続けるなんて役目はもう必要なくなるだろう。
危険性がなくなればある程度の人数がより効果的に、より人情的に管理するようになるはず。
だが遠い昔、童話からさえ始まっているこの因縁をウィリアムたちの時代で終わらせられるのだろうか。
幾度も『騎士』が戦い続けたであろう歴史を一気に塗り替える、そんなまるで作り話のようなことをこの時代でできる物なのだろうか。
普通の人ならばこう考える。
無理だ、と。
「……あぁ、わかった」
けれど彼は普通の人でも、ましてや普通の『騎士』でもなかった。
”全てを終わらせる”と言われた、伝説の『七色の騎士』なのだ。
ここで肯定しなければ多分本物じゃないと、ウィリアムはそう思う。
「禍族も、魔族も、丸ごと全部終わらせる。そしてグイド、お前を一人にさせない。……約束だ」
「うん。ありがとう、ウィリアム。その言葉だけで、嬉しい」
本当に嬉しそうにグイドは言葉を紡いだが、その表情を……少し切なそうな表情がウィリアムの脳内に焼き付いて止まなかった。
手を振って別れを告げるグイドを眺めながら、ウィリアムたちは『大森林』を後にする。
そこでウィリアムとエンテ、どちらが運転するかで一波乱あったが結論だけ言えばエンテが悠々気ままに馬を導いていた。
「エンテが馬に乗れたとか、知らなかったんだけど」
「普通乗れるだろ、親が傭兵業やってたんだし」
せめて文句ぐらいは言ってやろうと不満げに言葉を漏らすウィリアムだったが、ぐうの音も出ない正論を叩きつけられて一瞬で敗北する。
ガクリと肩を落とし大人しくしていることに決めた緑の少年。
小石や整地されていない土を踏むことで馬車が揺れるのに身を任せながら、ふとあの時のエンテの表情を思い出していた。
(悲しい顔、してたな)
(口ではああ言っていたが、やはり一人は寂しいのだろう)
特に孤独で人は生きられないのだと理解させられたから尚更だ、とバラムは言葉を続ける。
自分は孤独だと固執していたのはあの一人の苦しみから少しでも開放されたいが為だったのだろう、と今更ながらにウィリアムは理解する。
(お主は間違っていないぞ、ウィリアム)
(……そう、かな)
(あぁ、『橙の騎士』は憑き物が晴れた顔をしていた。これからはあやつが言っていたように周辺の村にでも顔を出しに行くだろう)
バラムのフォローに感謝しながら、ウィリアムはそれでもと思い続けた。
何故ここまでグイドは……人間は禍族や魔族たちに縛られ続けなければならないのだろう、と。
(色んな人が、禍族や魔族によって自由に生きれられなくなってる)
(この世の中、生まれた街から一歩も外に出ずに死んでゆく者の方が多いだろうな)
(……そんなのきっと間違ってる)
今まで多くのものを見てきたウィリアムにはわかる。
この世界は生きるのが大変で苦労もたくさんする場所だが、それ以上に”美しい場所”なのだと。
人が禍族や魔族に破壊されながらも直し、成長し、根太く生きてきた証がそこらじゅうに残っている。
何より強く生きる人々がたくさんいるのだ。
(世界は自由であるべきなんだ。きっと何にも囚われちゃいけない)
(……多くを望むな、ウィリアムよ)
渋い表情で言っているのが丸わかりな声色で言うグイドに、ウィリアムはクシャリと顔を笑みで破綻さえた。
(そりゃあ――)
――俺は『七色の騎士』、だからな。
七色全ての『騎士』の理想を誰よりも持つのだから、あらゆる『騎士』よりもずっとずっと欲張りなのだ。
この世界はつまらない。
気づけば彼女はそう思っていた。
生まれて今まで上に立つ者としての立ち振る舞いを強要され、仕方なく従ってきたがもううんざりだ。
「お待ち下さい、お嬢様」
「嫌よ、待ったって説得するだけでしょ」
この世界はつまらない。
自由という言葉存在しないからそう思うのだ。
食べるものも、住むところも、着るものも、今いる立場も、全部他人に決められたもの。
そんなのつまらない、面白くない、何より息苦しかった。
けれど毎日温かいご飯を食べれて、柔らかなベッドで寝れて、可愛い服も着れるからこの束縛に対して我慢していたのに。
コツコツと”城”の床に張り巡らされた大理石を靴が叩く音すら彼女をイラつかせる。
後ろから追いすがるようにメイドが彼女の前に飛び出して片膝をついた。
「どうかもう一度お考えください、『青の騎士』を継承なさることを……。セレーナ様っ!」
堪忍袋の緒が切れた、もう我慢できない。
怒り心頭な彼女……セレーナは両手を腰に当てると声を目一杯張り上げた。
「ぜっっっったい、い、やッ!」
一体全体、どうしてこの窮屈な暮らしに合わせて『騎士』なんていう重荷を預けようとするのか。
大人の考えることはいつも卑怯だ、自分が何かを望むのは否定してくるくせに大人は自分に何かを強要してくる。
「アレをやれ、コレをやれってもうウンザリ! 今でもたくさん我慢してるのよ、これ以上わたしに何かを押し付けないでっ!」
特に『騎士』なんて束縛の塊だ。
継承してしまえばアレやコレやと担ぎ出されて、禍族や魔族と戦う日々が待っているに決まってる。
「ですが『騎士』に成るというのは、非常に名誉なことなのですよ……?」
「そんな名誉、いらないっ」
何が名誉か。
人を超えた力を手に入れて、他人の為に延々と戦うのがそんなに名誉なことなのか。
信じられない、と心の底からセレーナは思う。
「とにかく、わたしは『騎士』になんかならない」
顔を落とすメイドの脇を通り過ぎながら、セレーナは小さく誰にも聞き取れないような小さな声で呟いた。
「どうせ父様みたいに重圧に負けて、自分自身を滅ぼすだけだもの」
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