セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―
2つの到着
ゴウッ、と火炎が直刀から吹き出した瞬間にはエンテはチャーリーの元へ飛び出していた。
『騎士の力』によって高められた身体能力を十全に使い、空を舞う魔族の元へただただ駆け続ける。
「”火炎よ、鋭く砥げ”」
エンテがそう呟けば、手に持つ直刀の火炎が一段と強く燃え盛った。
いや、ただ大きくなっているだけではない。
直刀が纏う火炎の純度も高くなっているのだ。
走り続けながら煌めく火炎に照らされたエンテの顔が、後ろの方……つまりウィリアムの方へと回転する。
爛々と燃えるように見えた茶色の瞳に射抜かれたウィリアムは、一瞬の思案の後に『赤の騎士』が望まんとすることを察してとっさに大槌を地面へと突き刺した。
「”創造よ、飾り象れ”ッ!」
形を象るべきはエンテの走る前の地面。
周りの土をかき集めて地面を徐々に高く高く盛り上げていく。
すでにブランドンではなくエンテが『赤の騎士』として在り、それ故にブランドンが持っていた能力を違う理想を持つエンテが持つ道理はない。
つまるところ、ブランドンが使っていた”火よ、吹き進め”をエンテは使えず空を舞うチャーリーへと刃を届ける手段が限られてくる。
故にエンテはウィリアムを見たのだ、『緑の騎士』でありながら『黃の騎士』としての力を扱えるウィリアムに。
空を舞う敵へと、この刃を届かせてほしいと願ったのだ。
「らぁッ!」
即席の空への階段を駆け上ったエンテは、突然の地殻変動に驚いて固まるチャーリーへと刃を振る。
「むっ……”嫉妬よ、塞ぎ囲め”」
が、しかしそれでもエンテの刃は鉄壁の羽を切り裂くことは叶わない。
甲高い金属の音を立てて燃え盛る直刀は弾かれた。
自らが放った衝撃がそのまま跳ね返りエンテは大きく後ろに吹き飛ばされてしまうが、地面を削ってなんとか踏みとどまる。
「まだ”足りない”、か……”火炎よ、鋭く砥げ”」
再びエンテの持つ直刀から火炎が吹き上がりまた一段と純度が高まった。
「エンテっ……!」
「大丈夫だ、ウィリアム」
心配げに声を張り上げるウィリアムに、エンテは短い言葉で答える。
「信じろ」
「ッ……!」
短く単純な言葉、しかしその力強さに思わず口をつまらせた。
「『赤の騎士』。いや、エンテでしたーっけ。……来ないんですかー?」
「行くさ――」
余裕綽々といった風のチャーリーから発せられる言葉に、エンテは目を細めると身体を屈め腰を上げる。
いわゆるクラウチングスタイルという姿勢だ。
「――次こそ、破壊してやる」
「受けて立ちまーすよ」
地面を盛大にぶち壊して、エンテはまるでロケットのように坂を駆け上がり空を翔ぶ。
「ッらぁ!」
「”嫉妬よ、塞ぎ囲め”ー」
再度、エンテの火炎纏う直刀とチャーリーの青き羽がぶつかり合う。
普通ならば一度弾かれ完全に破れたのだから、何回行っても結果は同じでもう一度エンテは吹き飛ばされてしまうのが通りだ。
だがウィリアムには何故か確信があった。
今のエンテならばあの壁を破壊できるのだと。
「ぐ……うぅ!」
汗を頬に流しながらエンテは力を込め続け、叫ぶ。
「”火炎よ、鋭く砥げ”ォ!」
「むぅっ……!」
割れた。
まるでガラスでも割れたような響く音を撒き散らして、あれほど強固だった壁は粉々に砕けたのだ。
(そう、この『赤の騎士』の能力の一つは”強化”か!)
振るわれた刃から発せられた風圧を腕で守りながら、チャーリーはエンテの能力を悟る。
”火炎よ、鋭く砥げ”。
それは唱えるたびに直刀が纏う火炎の熱量と純度が上がるだけの能力だ。
しかしこの能力によってもたらされる恩恵はそれだけではなく、直刀自体が持つ能力によって本来の力を発揮する。
”纏う火炎が強くなればなるほど、その切れ味が上がる”という能力によって。
時間が経てば立つほど切れぬ物はなくなり、いずれ全てを破壊する……それが”本当の騎士”として力を得たエンテの理想を叶えるための能力。
「くっ……」
身に受けた風圧を利用してエンテから距離をとったチャーリーは、細めた目を少しだけ開ける。
深い紫色の瞳がキラリと光った。
「もう防がせないぞ、魔族」
「まさかここまでなんて……やっぱり『赤の騎士』は恐ろしいーですね」
自慢の壁を破壊させられたというのに、どこか嬉しげな笑みを浮かべるチャーリーにエンテとウィリアムは眉を顰めた。
もっと焦ってもいいはずなのに、と。
「さぁ、次はオレから行きますよ――」
「――いいや、そこまでだよ。チャーリー」
ふと横から声。
声の方へと向けば、グイドと膠着状態に陥っているはずのヘンリーが顔をしかめて淡々と告げていた。
「”赤信号”だ」
「――!まさか、もうそこまで……!」
「行きますよ」
笛槍から口を離して木々たちとの対話を打ち止めたヘンリーに、すかさずグイドが木々たちを仲間に引き入れチャーリーと話している魔族へと攻撃を行い……ヘンリーの姿がかき消える。
「消え、た?……魔法、か!」
消えたヘンリーの姿を探せば、空に居座るチャーリーの肩を使って浮いていた。
いつもの嫌らしい笑みを浮かべている……が、どこかその表情は固く珍しいことに額に汗を浮かべている。
「残念だけど急用が出来た、キミたちとのお遊戯はここまでのようらしい」
「……っく、ウィリアム!」
「あぁ!”創造よ、飾り象れ”!」
エンテの言葉に頷きウィリアムは急造の坂道を作り出し、流れるようにその坂道を通ってエンテは魔族たちのもとへと駆けた。
「待て!お前の、お前らの目的はなんだッ!」
「知りたいならこのままでいい。このままウィリアム君がやるべきことを成し遂げれば、いずれ分かるだろうから」
視線をエンテから外しヘンリーは睨みつけているウィリアムへと向ける。
「でもまぁ、大概気づいているんじゃない?ねぇ、ウィリアム君」
その言葉を最後に、ヘンリーとチャーリーはその場からかき消えた。
直刀を握りしめて立ち尽くすエンテ。
長らく膠着状態での戦いを強いられたことで息切れをおこしているグイド。
――そして、先程のヘンリーの言葉をただただ心の中で繰り返しているウィリアムだけが、その場に取り残される。
「ちっくしょぉおおおおッ!」
静かな森の中でエンテの悔しげな叫び声がこだまして、消えた。
何もない、ただ地面に魔法陣らしき紋様が描かれている白い空間。
そこに瞬きするような気軽さで二人の魔族が現れた。
「はぁッ……はぁッ……!」
「大丈夫ですかー?ヘンリー」
「え、えぇ。大丈夫ですよ」
震える身体を手で抑えつけ、なんとかヘンリーは一人でよろよろと立ち上がる。
超長距離……世界さえも超える距離を一瞬で跳んできたのだ、ヘンリーは常に凄まじい吐き気に襲われているはずだろう。
しかし、ここでいつまでも悠長に休んでいる暇はどこにもなかった。
「行きま、しょう……。皆さんが、待っている」
「……そうだーね」
身体を気遣いたい気持ちがありつつも、ここまで無理をしてもらわなければ間に合わなかったのも事実で、チャーリーは申し訳なさそうに頷くほかない。
せめてドアぐらいは開けようと重々しい白亜の扉に手を当て、力を込めて教え開け――
――怒号がした。
男たちが声を張り上げて炎や氷、水や風などを生み出してはナニカに向けて叩きつけていく光景が視界に焼き付く。
少なくとも良くはない光景にチャーリーは目を細めると、バタバタと音がして一人の兵士がこちらまで駆け寄り片膝をついた。
「おぉ、チャーリー様!ヘンリー様!よくぞお帰りになられました!」
「無駄口は大丈夫だよー。早くヘンリーを休ませてーね」
「はっ!後、カスティ殿下からの言伝です。”チャーリーは空の敵を落とせ”と」
「わかったー」
周りにいた兵士たちに疲れ切ったヘンリーを預けると、チャーリーは青き両翼を展開させる。
空を全速力で舞いつつ、下での光景を見てチャーリーは静かに……それでどこか焦りながら思った。
(あと、早くて3ヶ月)
――あと、3ヶ月ほどで魔族は滅びてしまうだろう。
『騎士の力』によって高められた身体能力を十全に使い、空を舞う魔族の元へただただ駆け続ける。
「”火炎よ、鋭く砥げ”」
エンテがそう呟けば、手に持つ直刀の火炎が一段と強く燃え盛った。
いや、ただ大きくなっているだけではない。
直刀が纏う火炎の純度も高くなっているのだ。
走り続けながら煌めく火炎に照らされたエンテの顔が、後ろの方……つまりウィリアムの方へと回転する。
爛々と燃えるように見えた茶色の瞳に射抜かれたウィリアムは、一瞬の思案の後に『赤の騎士』が望まんとすることを察してとっさに大槌を地面へと突き刺した。
「”創造よ、飾り象れ”ッ!」
形を象るべきはエンテの走る前の地面。
周りの土をかき集めて地面を徐々に高く高く盛り上げていく。
すでにブランドンではなくエンテが『赤の騎士』として在り、それ故にブランドンが持っていた能力を違う理想を持つエンテが持つ道理はない。
つまるところ、ブランドンが使っていた”火よ、吹き進め”をエンテは使えず空を舞うチャーリーへと刃を届ける手段が限られてくる。
故にエンテはウィリアムを見たのだ、『緑の騎士』でありながら『黃の騎士』としての力を扱えるウィリアムに。
空を舞う敵へと、この刃を届かせてほしいと願ったのだ。
「らぁッ!」
即席の空への階段を駆け上ったエンテは、突然の地殻変動に驚いて固まるチャーリーへと刃を振る。
「むっ……”嫉妬よ、塞ぎ囲め”」
が、しかしそれでもエンテの刃は鉄壁の羽を切り裂くことは叶わない。
甲高い金属の音を立てて燃え盛る直刀は弾かれた。
自らが放った衝撃がそのまま跳ね返りエンテは大きく後ろに吹き飛ばされてしまうが、地面を削ってなんとか踏みとどまる。
「まだ”足りない”、か……”火炎よ、鋭く砥げ”」
再びエンテの持つ直刀から火炎が吹き上がりまた一段と純度が高まった。
「エンテっ……!」
「大丈夫だ、ウィリアム」
心配げに声を張り上げるウィリアムに、エンテは短い言葉で答える。
「信じろ」
「ッ……!」
短く単純な言葉、しかしその力強さに思わず口をつまらせた。
「『赤の騎士』。いや、エンテでしたーっけ。……来ないんですかー?」
「行くさ――」
余裕綽々といった風のチャーリーから発せられる言葉に、エンテは目を細めると身体を屈め腰を上げる。
いわゆるクラウチングスタイルという姿勢だ。
「――次こそ、破壊してやる」
「受けて立ちまーすよ」
地面を盛大にぶち壊して、エンテはまるでロケットのように坂を駆け上がり空を翔ぶ。
「ッらぁ!」
「”嫉妬よ、塞ぎ囲め”ー」
再度、エンテの火炎纏う直刀とチャーリーの青き羽がぶつかり合う。
普通ならば一度弾かれ完全に破れたのだから、何回行っても結果は同じでもう一度エンテは吹き飛ばされてしまうのが通りだ。
だがウィリアムには何故か確信があった。
今のエンテならばあの壁を破壊できるのだと。
「ぐ……うぅ!」
汗を頬に流しながらエンテは力を込め続け、叫ぶ。
「”火炎よ、鋭く砥げ”ォ!」
「むぅっ……!」
割れた。
まるでガラスでも割れたような響く音を撒き散らして、あれほど強固だった壁は粉々に砕けたのだ。
(そう、この『赤の騎士』の能力の一つは”強化”か!)
振るわれた刃から発せられた風圧を腕で守りながら、チャーリーはエンテの能力を悟る。
”火炎よ、鋭く砥げ”。
それは唱えるたびに直刀が纏う火炎の熱量と純度が上がるだけの能力だ。
しかしこの能力によってもたらされる恩恵はそれだけではなく、直刀自体が持つ能力によって本来の力を発揮する。
”纏う火炎が強くなればなるほど、その切れ味が上がる”という能力によって。
時間が経てば立つほど切れぬ物はなくなり、いずれ全てを破壊する……それが”本当の騎士”として力を得たエンテの理想を叶えるための能力。
「くっ……」
身に受けた風圧を利用してエンテから距離をとったチャーリーは、細めた目を少しだけ開ける。
深い紫色の瞳がキラリと光った。
「もう防がせないぞ、魔族」
「まさかここまでなんて……やっぱり『赤の騎士』は恐ろしいーですね」
自慢の壁を破壊させられたというのに、どこか嬉しげな笑みを浮かべるチャーリーにエンテとウィリアムは眉を顰めた。
もっと焦ってもいいはずなのに、と。
「さぁ、次はオレから行きますよ――」
「――いいや、そこまでだよ。チャーリー」
ふと横から声。
声の方へと向けば、グイドと膠着状態に陥っているはずのヘンリーが顔をしかめて淡々と告げていた。
「”赤信号”だ」
「――!まさか、もうそこまで……!」
「行きますよ」
笛槍から口を離して木々たちとの対話を打ち止めたヘンリーに、すかさずグイドが木々たちを仲間に引き入れチャーリーと話している魔族へと攻撃を行い……ヘンリーの姿がかき消える。
「消え、た?……魔法、か!」
消えたヘンリーの姿を探せば、空に居座るチャーリーの肩を使って浮いていた。
いつもの嫌らしい笑みを浮かべている……が、どこかその表情は固く珍しいことに額に汗を浮かべている。
「残念だけど急用が出来た、キミたちとのお遊戯はここまでのようらしい」
「……っく、ウィリアム!」
「あぁ!”創造よ、飾り象れ”!」
エンテの言葉に頷きウィリアムは急造の坂道を作り出し、流れるようにその坂道を通ってエンテは魔族たちのもとへと駆けた。
「待て!お前の、お前らの目的はなんだッ!」
「知りたいならこのままでいい。このままウィリアム君がやるべきことを成し遂げれば、いずれ分かるだろうから」
視線をエンテから外しヘンリーは睨みつけているウィリアムへと向ける。
「でもまぁ、大概気づいているんじゃない?ねぇ、ウィリアム君」
その言葉を最後に、ヘンリーとチャーリーはその場からかき消えた。
直刀を握りしめて立ち尽くすエンテ。
長らく膠着状態での戦いを強いられたことで息切れをおこしているグイド。
――そして、先程のヘンリーの言葉をただただ心の中で繰り返しているウィリアムだけが、その場に取り残される。
「ちっくしょぉおおおおッ!」
静かな森の中でエンテの悔しげな叫び声がこだまして、消えた。
何もない、ただ地面に魔法陣らしき紋様が描かれている白い空間。
そこに瞬きするような気軽さで二人の魔族が現れた。
「はぁッ……はぁッ……!」
「大丈夫ですかー?ヘンリー」
「え、えぇ。大丈夫ですよ」
震える身体を手で抑えつけ、なんとかヘンリーは一人でよろよろと立ち上がる。
超長距離……世界さえも超える距離を一瞬で跳んできたのだ、ヘンリーは常に凄まじい吐き気に襲われているはずだろう。
しかし、ここでいつまでも悠長に休んでいる暇はどこにもなかった。
「行きま、しょう……。皆さんが、待っている」
「……そうだーね」
身体を気遣いたい気持ちがありつつも、ここまで無理をしてもらわなければ間に合わなかったのも事実で、チャーリーは申し訳なさそうに頷くほかない。
せめてドアぐらいは開けようと重々しい白亜の扉に手を当て、力を込めて教え開け――
――怒号がした。
男たちが声を張り上げて炎や氷、水や風などを生み出してはナニカに向けて叩きつけていく光景が視界に焼き付く。
少なくとも良くはない光景にチャーリーは目を細めると、バタバタと音がして一人の兵士がこちらまで駆け寄り片膝をついた。
「おぉ、チャーリー様!ヘンリー様!よくぞお帰りになられました!」
「無駄口は大丈夫だよー。早くヘンリーを休ませてーね」
「はっ!後、カスティ殿下からの言伝です。”チャーリーは空の敵を落とせ”と」
「わかったー」
周りにいた兵士たちに疲れ切ったヘンリーを預けると、チャーリーは青き両翼を展開させる。
空を全速力で舞いつつ、下での光景を見てチャーリーは静かに……それでどこか焦りながら思った。
(あと、早くて3ヶ月)
――あと、3ヶ月ほどで魔族は滅びてしまうだろう。
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