セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―
異変と予兆
「確約はした。なら次は俺の質問だ、良いな?」
「えぇ、私は聞きたいことは聞けましたわ。ご自由に」
呆気なくそう言われ、ウィリアムは一瞬何を問おうか悩む。
“契約”、“巫女様”の目的……色々なことが頭に浮かんでは消えて行った。
最後まで頭の中に残り続けた疑問を、ウィリアムは何より先に聞こうと決める。
「『七色の騎士』って、結局何なんだ?」
「…………!」
質問の内容があまりに意外だったのかツィラペは絶句を隠せない。
だがウィリアムにとってその質問は極々当たり前のように感じていた。
当然だろう、件の“巫女様”からは全てを終わらせる騎士としか言われていないのである。
ウィリアムにとっては当たり前な質問の答えを、ツィラペはどういったものかという雰囲気を纏わせながら口を開く。
「赤、橙、黄、緑、青、藍、紫……その七つの色を司る『騎士』の頂点に位置する者、ですわ。故に全ての『騎士の力』を扱え、全ての『騎士』の想いを持つ。すなわち――」
「――誰よりも強く、誰よりも救い、誰よりも創り、誰よりも護り、誰よりも誇り、誰よりも自由で……そして誰よりも孤独」
気を失う前、グイドとウィリアムが争っていた最中に叫んでいたグイドの言葉を、そっくりそのままウィリアムは綴った。
その言葉に賛同するように、ツィラペは小さく頷く。
見れば真剣な……それでもよくよく見れば何か違うその表情を眺めながらウィリアムは思った。
些細なことかもしれない。
だが何かが違う、と。
「本当に?」
「本当、とは?」
「本当に『七色の騎士』は――」
「――ツィラペ、何を、している」
不意に鼓膜を揺らすその声に、ウィリアムは心臓が跳ねたのを感じた。
今にも死んでいきそうな、静かで、淡泊で……感情を見せぬ、その声に。
「グイド……!」
「何故、こいつ、の、拘束、を、解いて、いる」
苦渋の表情で絞り出した声を出すウィリアムに視線すら合わせず、グイドは淡々とツィラペを睨む。
視線を真っ向から受けるツィラペは、しかしグイドの問いには答えることなく……どこかの咆哮へ凄んだ。
「どういうことですの……!何故、こんな早く“禍族”がッ!」
ツィラペの声と同時に、森の各所から上がる生物とは思えぬ咆哮。
統一性のない気色悪い音が巨大な森全体に響き渡る。
その中で、巨大な闇が立ち上がった。
ありとあらゆる悪、闇、穢れを集めて象った異形が……生命の全否定の集大成が、人型となって現れたのである。
「……ツィラペ、助け、が、いる」
「えぇ、もちろんですわ。ウィリアム、貴方にも手伝ってもらいますわよ」
「ツィラペ!」
何故こんな奴に、と言わんばかりのグイドだがツィラペはそれを無言の威圧で押し返す。
「グイド、分かっていますわよね。周囲一体に暴力を撒き散らす禍族相手に、この森をたった一人で安全に守り通せると?それに相手は禍族だけではないですわ、余物もいますの」
「ぐっ……!」
「ツィラペ、俺は大丈夫だ。グイドにも手を出さない、“確約”だ」
あえて強い言葉を選びウィリアムはツィラペへと、そして遠まわしでグイドに訴えかけた。
先ほどの話し合いでグイドは敵ではないと確信したウィリアムにとって、今何よりも優先しなければならないのは“森を護る”こと。
逆に許可がなくとも無理矢理護りに行く気でウィリアムはいた。
「ッチ。変なマネ、するな」
「わかってる」
露骨に嫌そうな雰囲気を出すグイドは、いきなり攻撃しても対応できるよう警戒しながら『騎士』と成る。
瞬間、ウィリアムを縛り付けていた枝が体から離れていった。
「グイド、二手に分かれよう」
「命令、する、な。……俺、が、禍族、を、倒す」
ウィリアムに指示されたことにイラつきながらも、グイドはその場を去っていく。
遠ざかっていく影の背中を見て、ウィリアムも移動しようと脚を動かした瞬間――
「あれ?ツィラペはどこに……?」
――白銀の狼がいないことに気が付いた。
イラつく。
「Ah――――――!」
イラつく。
「だま、れッ!」
イラつく。
イラつくイラつくイラつくイラつくイラつくイラつくイラつくイラつくイラつくイラつくイラつくイラつくイラつく!
心の内で燃え盛る激怒の炎に身を任せつつ、グイドは生成した矢を放った。
『騎士の力』を存分に溜め込んだ木の矢はその見た目にそぐわぬ、凄まじい貫通力を持って禍族の足を貫く。
「Ah―――――!」
「うるさい!」
何故、ツィラペはあいつと話していた。
何故、あいつが『七色の騎士』に選ばれた。
何故、俺は“本当の騎士”へと成れない!
頭で何度も何故、と問うて見ても誰からも返事は来ない。
七色全ての想いを持つ『騎士』。
だからあいつは全ての想いを持っているはずなんだ。
――なら何故あいつは孤独じゃない!?
「ぐッ……!」
振るわれる巨大な闇の腕をギリギリで躱すグイド。
少し掠って腕から血が流れ出るが知ったことではない。
ツィラペから聞いた話では、あいつは常に誰かと戦っていた。
時に『赤の騎士』と。
時に『藍の騎士』と。
時に『黄の騎士』と。
――そして今、別々に行動していながらもグイド自身と。
常に誰かと戦い、常に誰かへの攻撃を護り、常に誰かからの攻撃を補助していた。
一番うざいのがあいつが持っていた得物……大楯のこと。
誰よりも強くなるのだ言われても、分かる。
誰よりも救っていると言われても、分かる。
誰よりも創っていると言われても、分かる。
誰よりも護っていると言われても、分かる。
誰よりも誇っていると言われても、分かる。
誰よりも自由なのだと言われても、分かる。
ここまでなら、何と言われようとも理解しようとすれば理解できるのだ。
だが、だが――
――あのどこが、誰よりも孤独なのか!
自身や他人を護ることしか出来ない盾を持ち、攻撃も出来ない『騎士』が誰よりも孤独な想いを持つのか!?
そんなはずがない、そんなことがあってたまるものか!
あいつが誰よりも孤独ならば、一体……。
「一体、俺、は、なんなんだぁッ!」
従えられる全ての木を従え、禍族を貫いていくグイド。
覇気を感じさせる濃密な殺気と共に放たれた声は、しかし掠れるように寂しげな色が交じっていた。
誰もが気付くその色に――
「はぁっ……!はぁっ……!」
――グイド自身が、気付かぬまま。
「へぇ、荒れてるねぇ『橙の騎士』君は」
弓を扱う『騎士』らしからぬ、怒声を上げつづけながらの戦いを見て男は細く笑む。
額から生える“漆黒の角”がクツクツと嗤う男の振動に合わせて、左右に揺れた。
『騎士』が扱う得物は基本的に全て別々であり、その形状は『騎士』の心情・経験・想いによって七変化する。
ウィリアムが他を護りたいが為に大楯となったように。
「“あちら”の『騎士』も随分と癖が強い奴らばかりのようだ」
「そうですかねぇ?“こちら”の『騎士』はマトモな奴らばかりで御座いますよ、『七色の騎士』様?」
金の瞳と髪に、褐色の肌。
“魔族側”の『七色の騎士』であるカスティは男……ヘンリーの言葉に鼻で笑った。
「こちら側の『騎士』で一番面倒だったお前が言うか、『橙の騎士』?」
「あはぁ、その節は大変お失礼いたしました」
全く反省の色が見えないヘンリーの言葉に、カスティも慣れているのか小さく口角を釣り上げた。
「『橙の騎士』はあちらもこちらも面倒なヤツだな」
「えぇ――」
どこか調子付いた口調はどこへいったのか、急に至極真面目な声色へと変えてヘンリーは相槌を打つ。
その瞳は明らか同情嫌悪が交じっていた。
「――見苦しいです、吐き気もしますね」
「面白い」
カスティは一言、それだけ言うとヘンリーの肩を叩く。
じんわりと、肩に当てたカスティの手が黒色に輝きヘンリーへと移動していった。
「よろしいので?」
「構わないさ、逆に“これ”が無ければお前が殺されるかもな?」
煽るようにヘンリーを見据えたカスティ。
その瞳に中てられたヘンリーは、口角を三日月のように捻じ曲げると――
「御心のままに」
――調子付いた声色で言葉を吐き、暗がりに溶けた。
「えぇ、私は聞きたいことは聞けましたわ。ご自由に」
呆気なくそう言われ、ウィリアムは一瞬何を問おうか悩む。
“契約”、“巫女様”の目的……色々なことが頭に浮かんでは消えて行った。
最後まで頭の中に残り続けた疑問を、ウィリアムは何より先に聞こうと決める。
「『七色の騎士』って、結局何なんだ?」
「…………!」
質問の内容があまりに意外だったのかツィラペは絶句を隠せない。
だがウィリアムにとってその質問は極々当たり前のように感じていた。
当然だろう、件の“巫女様”からは全てを終わらせる騎士としか言われていないのである。
ウィリアムにとっては当たり前な質問の答えを、ツィラペはどういったものかという雰囲気を纏わせながら口を開く。
「赤、橙、黄、緑、青、藍、紫……その七つの色を司る『騎士』の頂点に位置する者、ですわ。故に全ての『騎士の力』を扱え、全ての『騎士』の想いを持つ。すなわち――」
「――誰よりも強く、誰よりも救い、誰よりも創り、誰よりも護り、誰よりも誇り、誰よりも自由で……そして誰よりも孤独」
気を失う前、グイドとウィリアムが争っていた最中に叫んでいたグイドの言葉を、そっくりそのままウィリアムは綴った。
その言葉に賛同するように、ツィラペは小さく頷く。
見れば真剣な……それでもよくよく見れば何か違うその表情を眺めながらウィリアムは思った。
些細なことかもしれない。
だが何かが違う、と。
「本当に?」
「本当、とは?」
「本当に『七色の騎士』は――」
「――ツィラペ、何を、している」
不意に鼓膜を揺らすその声に、ウィリアムは心臓が跳ねたのを感じた。
今にも死んでいきそうな、静かで、淡泊で……感情を見せぬ、その声に。
「グイド……!」
「何故、こいつ、の、拘束、を、解いて、いる」
苦渋の表情で絞り出した声を出すウィリアムに視線すら合わせず、グイドは淡々とツィラペを睨む。
視線を真っ向から受けるツィラペは、しかしグイドの問いには答えることなく……どこかの咆哮へ凄んだ。
「どういうことですの……!何故、こんな早く“禍族”がッ!」
ツィラペの声と同時に、森の各所から上がる生物とは思えぬ咆哮。
統一性のない気色悪い音が巨大な森全体に響き渡る。
その中で、巨大な闇が立ち上がった。
ありとあらゆる悪、闇、穢れを集めて象った異形が……生命の全否定の集大成が、人型となって現れたのである。
「……ツィラペ、助け、が、いる」
「えぇ、もちろんですわ。ウィリアム、貴方にも手伝ってもらいますわよ」
「ツィラペ!」
何故こんな奴に、と言わんばかりのグイドだがツィラペはそれを無言の威圧で押し返す。
「グイド、分かっていますわよね。周囲一体に暴力を撒き散らす禍族相手に、この森をたった一人で安全に守り通せると?それに相手は禍族だけではないですわ、余物もいますの」
「ぐっ……!」
「ツィラペ、俺は大丈夫だ。グイドにも手を出さない、“確約”だ」
あえて強い言葉を選びウィリアムはツィラペへと、そして遠まわしでグイドに訴えかけた。
先ほどの話し合いでグイドは敵ではないと確信したウィリアムにとって、今何よりも優先しなければならないのは“森を護る”こと。
逆に許可がなくとも無理矢理護りに行く気でウィリアムはいた。
「ッチ。変なマネ、するな」
「わかってる」
露骨に嫌そうな雰囲気を出すグイドは、いきなり攻撃しても対応できるよう警戒しながら『騎士』と成る。
瞬間、ウィリアムを縛り付けていた枝が体から離れていった。
「グイド、二手に分かれよう」
「命令、する、な。……俺、が、禍族、を、倒す」
ウィリアムに指示されたことにイラつきながらも、グイドはその場を去っていく。
遠ざかっていく影の背中を見て、ウィリアムも移動しようと脚を動かした瞬間――
「あれ?ツィラペはどこに……?」
――白銀の狼がいないことに気が付いた。
イラつく。
「Ah――――――!」
イラつく。
「だま、れッ!」
イラつく。
イラつくイラつくイラつくイラつくイラつくイラつくイラつくイラつくイラつくイラつくイラつくイラつくイラつく!
心の内で燃え盛る激怒の炎に身を任せつつ、グイドは生成した矢を放った。
『騎士の力』を存分に溜め込んだ木の矢はその見た目にそぐわぬ、凄まじい貫通力を持って禍族の足を貫く。
「Ah―――――!」
「うるさい!」
何故、ツィラペはあいつと話していた。
何故、あいつが『七色の騎士』に選ばれた。
何故、俺は“本当の騎士”へと成れない!
頭で何度も何故、と問うて見ても誰からも返事は来ない。
七色全ての想いを持つ『騎士』。
だからあいつは全ての想いを持っているはずなんだ。
――なら何故あいつは孤独じゃない!?
「ぐッ……!」
振るわれる巨大な闇の腕をギリギリで躱すグイド。
少し掠って腕から血が流れ出るが知ったことではない。
ツィラペから聞いた話では、あいつは常に誰かと戦っていた。
時に『赤の騎士』と。
時に『藍の騎士』と。
時に『黄の騎士』と。
――そして今、別々に行動していながらもグイド自身と。
常に誰かと戦い、常に誰かへの攻撃を護り、常に誰かからの攻撃を補助していた。
一番うざいのがあいつが持っていた得物……大楯のこと。
誰よりも強くなるのだ言われても、分かる。
誰よりも救っていると言われても、分かる。
誰よりも創っていると言われても、分かる。
誰よりも護っていると言われても、分かる。
誰よりも誇っていると言われても、分かる。
誰よりも自由なのだと言われても、分かる。
ここまでなら、何と言われようとも理解しようとすれば理解できるのだ。
だが、だが――
――あのどこが、誰よりも孤独なのか!
自身や他人を護ることしか出来ない盾を持ち、攻撃も出来ない『騎士』が誰よりも孤独な想いを持つのか!?
そんなはずがない、そんなことがあってたまるものか!
あいつが誰よりも孤独ならば、一体……。
「一体、俺、は、なんなんだぁッ!」
従えられる全ての木を従え、禍族を貫いていくグイド。
覇気を感じさせる濃密な殺気と共に放たれた声は、しかし掠れるように寂しげな色が交じっていた。
誰もが気付くその色に――
「はぁっ……!はぁっ……!」
――グイド自身が、気付かぬまま。
「へぇ、荒れてるねぇ『橙の騎士』君は」
弓を扱う『騎士』らしからぬ、怒声を上げつづけながらの戦いを見て男は細く笑む。
額から生える“漆黒の角”がクツクツと嗤う男の振動に合わせて、左右に揺れた。
『騎士』が扱う得物は基本的に全て別々であり、その形状は『騎士』の心情・経験・想いによって七変化する。
ウィリアムが他を護りたいが為に大楯となったように。
「“あちら”の『騎士』も随分と癖が強い奴らばかりのようだ」
「そうですかねぇ?“こちら”の『騎士』はマトモな奴らばかりで御座いますよ、『七色の騎士』様?」
金の瞳と髪に、褐色の肌。
“魔族側”の『七色の騎士』であるカスティは男……ヘンリーの言葉に鼻で笑った。
「こちら側の『騎士』で一番面倒だったお前が言うか、『橙の騎士』?」
「あはぁ、その節は大変お失礼いたしました」
全く反省の色が見えないヘンリーの言葉に、カスティも慣れているのか小さく口角を釣り上げた。
「『橙の騎士』はあちらもこちらも面倒なヤツだな」
「えぇ――」
どこか調子付いた口調はどこへいったのか、急に至極真面目な声色へと変えてヘンリーは相槌を打つ。
その瞳は明らか同情嫌悪が交じっていた。
「――見苦しいです、吐き気もしますね」
「面白い」
カスティは一言、それだけ言うとヘンリーの肩を叩く。
じんわりと、肩に当てたカスティの手が黒色に輝きヘンリーへと移動していった。
「よろしいので?」
「構わないさ、逆に“これ”が無ければお前が殺されるかもな?」
煽るようにヘンリーを見据えたカスティ。
その瞳に中てられたヘンリーは、口角を三日月のように捻じ曲げると――
「御心のままに」
――調子付いた声色で言葉を吐き、暗がりに溶けた。
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