セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―
間違いな出逢い
『大森林』。
この世界で唯一の国であるエンデレナードが統べる巨大な大陸、その真東に位置する巨大な森林のことを人々はそう呼んでいた。
通常の木より数倍は大きい木々で象られており、一面に広がる巨木は木材としては喉から手が出るほど完成されている。
『大森林』を手に入れれば、何度かの人生を遊んで暮らせるほどの富が得られるだろう。
しかし、エンデレナードが“指定区画”として認定しているために許可なき者は入ることすら敵わない。
何故か……その答えを知っている者は極々少数。
当然の如く許可なく立ち入れないことを知っているウィリアムも、その理由を知らないでいた。
そう、この瞬間までは。
「――――ッ!」
ゾクリ。
身震いするほどの殺気に宛がわれ、ウィリアムの背筋は無意識に震えた。
思わず身構え『緑の騎士』としての力を発揮し、周囲に気を張り巡らせながら困惑する。
(なんだ……?この殺気、禍族じゃない……)
(禍族にしては純粋すぎるし、獣にしては不純だ。これは十中八九、人だろう)
バラムの言葉にウィリアムは頷くも、何故この場所に人がと思わずにはいられない。
ここは許可なく入ることは出来ぬ『大森林』であり、唯一許可なく入ることが許されるのは国の英雄である『騎士』のみ。
『緑の騎士』である自身は論外としてそれ以外に人は――。
「人、は……」
そこで気づく。
何故、ここが“指定区画”として認定されているかを。
――何故、立ち入っては命の保証がされない“指定区画”として認定されているかを。
(上から来るぞッ!) 
「お前か、『橙の騎士』ッ!」
高速で上から降り注ぐ殺気と振るわれる刃。
ギリギリで反応したウィリアムは、言葉を吐きだしながら『緑の守護』で刃を防ぐ。
上から覆いかぶさるように振ってきた黒い影は、刃をそのまま盾に滑らせその勢いでウィリアムから距離をとった。
漆黒のマントを羽織っており、付属しているマントで顔が全く見えない影。
ただ、唯一爛々と強く瞬いている橙の瞳だけが何よりの彼の特徴だった。
「…………」
「なんで俺に殺気を向ける?同じ『騎士』だろ」
基本的に初対面の人には敬語を使うのが信条のウィリアムだが、流石に出会い頭に攻撃されては敬語を使う気にもなれない。
警戒する体制を解かず、されど疑問を口にする緑の少年。
問われた影……『橙の騎士』と言われた影はさも当然かのように言葉を紡ぐ。
「お前、を、殺す、ため」
「……は?」
殺気を向けるからには至極当然な言葉に、しかしウィリアムは思わず間抜けな言葉を返した。
『騎士』と思われしき人物が仲間であるはずの『騎士』を殺すと言い放ったのである。
驚きを飛び越えて、言葉少なげに聞き返すことしか出来ない。
「そして――」
「ッ!」
影の右手が右頬を触る。
暗く、瞳以外何も見えなかったはずのフードの中身にもう一つ、光が灯った。
「――強き孤独、“木之孤独”」
右頬に刻まれた紋章が光を放ち、影……否『橙の騎士』の周りに木々が囲い始める。
まるで目の前の『騎士』を守るかのように覆い、そして一つの形と成った。
美しい造形をした木弓。
一目見れば、匠が努力と経験を重ねた結果の物だと把握できるだろう。
――しかし、ウィリアムにはそれが濁った物に見えた。
「お前、に、『七色の騎士』、は、相応しくない」
「それがお前の目的か」
「オレ、は、お前、を、認めない……!」
『橙の騎士』は右手で握った弓に、まるで在りもしない矢を番えるように左手を引く。
怒りを込めた声を聞きウィリアムは更に困惑を深める、がそれについて考えている時間を相手はくれない。
「“孤独よ、矢と化せ”」
「ぐっ!」
突如として木々が集まり出来上がった一つの矢を、『橙の騎士』は何の躊躇もなくウィリアムへと放つ。
本当に殺す気かと戦慄したウィリアムは慌てて大楯を構え、万物を突き刺す矢を苦しみながらも受け止めた。
大きな痕を残しながらも耐えきったウィリアムは、すぐさま矢を打ち払い目の前にいる『橙の騎士』へと抗議をしようとして――
「いな、い……!」
(後ろだッ!)
「遅い」
――背中に強烈な圧力を感じ、吹き飛ばされる。
とっさに気付いたバラムの忠告でさえ聞きとる暇なく、地面に転がり背中の痛みに息を吐くウィリアム。
『橙の騎士』は一方的な戦いを体感し、失望した目をウィリアムへと向けた。
「魔族、を、退けた、とか、『七色の騎士』、だ、とか、言われてる、けど……弱いな」
「…………っ」
あまりに暴力的で、あまりに直接的で、あまりに純粋な声色にウィリアムは思わず息を呑む。
目の前の男は心から残念そうに、心から無機質に……心から怒っている。
何故、こんなに弱い少年が『七色の騎士』であるのかと。
ウィリアムは痛む体に鞭を打ち、体を起こすと剣呑さを増した瞳で『橙の騎士』を睨む。
口から出たのは純粋な疑問だった。
「どうして……俺を『七色の騎士』だと認めない?」
「決まってるッ!」
唐突に声を張り上げた『橙の騎士』は瞳に明らかな激怒を灯しながら弓を構え、見えぬ矢を番える。
そんな簡単なことすらわからないのか、ふざけるなっ!
「誰よりも強く、誰よりも救い、誰よりも創り、誰よりも護り、誰よりも誇り、誰よりも自由で……そして誰よりも孤独、だから、だッ!」
(これがヤツの心の叫び、か。来るぞっ!)
「分かってる……!」
今まで、拙い言葉で喋っていた『橙の騎士』が唐突に滑らかに言葉を吐く。
これが目の前の男の根底部分。
彼は誰よりも強く、誰よりも救い、誰よりも創り、誰よりも護り、誰よりも誇り、誰よりも自由で、誰よりも孤独な存在へと成りたいのだ。
「“孤独よ、矢と化せ”ォ!」
「“風よ、纏い護れ”ォ!」
“風よ、纏い護れ”とは“自身以外の”対象に風の結界を張る能力である。
故に自身に囲うことは出来ず、ならば叫んだ彼は一体どこに結界を張ったのだろうか。
ここに居る人は『緑の騎士』と『橙の騎士』のみ、ならば答えは一つ――。
「なっ……!」
渾身の一撃となって放たれた矢はしかし、“『橙の騎士』を囲うようにして現れた風の結界”に阻まれ威力を失った。
ウィリアムの能力である“風よ、纏い護れ”は外からのみの接触を阻む……という都合の良い結界を創ることは叶わない。
外からも、内からでさえ一切の接触を阻む風の結界を創り出す能力なのである。
つまりこの能力は敵を閉じ込める結界としての効果も発揮し、だからこそ『橙の騎士』はその結界から動くことは出来ないのだ。
「ようやく、捕まえた」
「…………」
安堵の息を漏らすウィリアムに、『橙の騎士』は大きく緑の少年を睨み――
「がッ……!」
「甘い」
――ウィリアムは背中に何かが突き立てられるのを感じた。
すぐさま自身を後ろから突き刺したものを確認し、絶句するウィリアム。
「“木よ、従い動け”」
(木を自在に操れるのか!)
巨木が伸びに伸ばした枝がしなり、ウィリアムの背中を貫いたのだ。
何とかその枝を掴み、無理矢理動かすのを止めるウィリアムだが徐々に体がしびれてくるのを感じ、冷や汗を流す。
「これ、は……毒……か」
「そう、だ。例え、『騎士』、でも、濃度、を、上げた、毒、は、効く」
しかし、人ならば即死するレベルの毒を麻痺程度で済ますことが出来るのは流石『騎士』、といったところだろうが。
身体の自由が効かなくなり、地面に倒れ込むウィリアム。
「随分、呆気、なかった、な、『七色の騎士』」
「ぐ、うぅ」
(ウィリアム、意識を保て、ウィリアムっ……!)
徐々に蝕んでいく毒、背中から貫かれた傷に耐えられるわけも無く、ウィリアムの意識は闇へと誘われていく。
後悔も、疑問も置いてけぼりにして緑の少年は意識を失い――
「まだまだ、未熟……ですわね」
――呆れたような、それでいてどこか見守るような女性の声を聞いた。
この世界で唯一の国であるエンデレナードが統べる巨大な大陸、その真東に位置する巨大な森林のことを人々はそう呼んでいた。
通常の木より数倍は大きい木々で象られており、一面に広がる巨木は木材としては喉から手が出るほど完成されている。
『大森林』を手に入れれば、何度かの人生を遊んで暮らせるほどの富が得られるだろう。
しかし、エンデレナードが“指定区画”として認定しているために許可なき者は入ることすら敵わない。
何故か……その答えを知っている者は極々少数。
当然の如く許可なく立ち入れないことを知っているウィリアムも、その理由を知らないでいた。
そう、この瞬間までは。
「――――ッ!」
ゾクリ。
身震いするほどの殺気に宛がわれ、ウィリアムの背筋は無意識に震えた。
思わず身構え『緑の騎士』としての力を発揮し、周囲に気を張り巡らせながら困惑する。
(なんだ……?この殺気、禍族じゃない……)
(禍族にしては純粋すぎるし、獣にしては不純だ。これは十中八九、人だろう)
バラムの言葉にウィリアムは頷くも、何故この場所に人がと思わずにはいられない。
ここは許可なく入ることは出来ぬ『大森林』であり、唯一許可なく入ることが許されるのは国の英雄である『騎士』のみ。
『緑の騎士』である自身は論外としてそれ以外に人は――。
「人、は……」
そこで気づく。
何故、ここが“指定区画”として認定されているかを。
――何故、立ち入っては命の保証がされない“指定区画”として認定されているかを。
(上から来るぞッ!) 
「お前か、『橙の騎士』ッ!」
高速で上から降り注ぐ殺気と振るわれる刃。
ギリギリで反応したウィリアムは、言葉を吐きだしながら『緑の守護』で刃を防ぐ。
上から覆いかぶさるように振ってきた黒い影は、刃をそのまま盾に滑らせその勢いでウィリアムから距離をとった。
漆黒のマントを羽織っており、付属しているマントで顔が全く見えない影。
ただ、唯一爛々と強く瞬いている橙の瞳だけが何よりの彼の特徴だった。
「…………」
「なんで俺に殺気を向ける?同じ『騎士』だろ」
基本的に初対面の人には敬語を使うのが信条のウィリアムだが、流石に出会い頭に攻撃されては敬語を使う気にもなれない。
警戒する体制を解かず、されど疑問を口にする緑の少年。
問われた影……『橙の騎士』と言われた影はさも当然かのように言葉を紡ぐ。
「お前、を、殺す、ため」
「……は?」
殺気を向けるからには至極当然な言葉に、しかしウィリアムは思わず間抜けな言葉を返した。
『騎士』と思われしき人物が仲間であるはずの『騎士』を殺すと言い放ったのである。
驚きを飛び越えて、言葉少なげに聞き返すことしか出来ない。
「そして――」
「ッ!」
影の右手が右頬を触る。
暗く、瞳以外何も見えなかったはずのフードの中身にもう一つ、光が灯った。
「――強き孤独、“木之孤独”」
右頬に刻まれた紋章が光を放ち、影……否『橙の騎士』の周りに木々が囲い始める。
まるで目の前の『騎士』を守るかのように覆い、そして一つの形と成った。
美しい造形をした木弓。
一目見れば、匠が努力と経験を重ねた結果の物だと把握できるだろう。
――しかし、ウィリアムにはそれが濁った物に見えた。
「お前、に、『七色の騎士』、は、相応しくない」
「それがお前の目的か」
「オレ、は、お前、を、認めない……!」
『橙の騎士』は右手で握った弓に、まるで在りもしない矢を番えるように左手を引く。
怒りを込めた声を聞きウィリアムは更に困惑を深める、がそれについて考えている時間を相手はくれない。
「“孤独よ、矢と化せ”」
「ぐっ!」
突如として木々が集まり出来上がった一つの矢を、『橙の騎士』は何の躊躇もなくウィリアムへと放つ。
本当に殺す気かと戦慄したウィリアムは慌てて大楯を構え、万物を突き刺す矢を苦しみながらも受け止めた。
大きな痕を残しながらも耐えきったウィリアムは、すぐさま矢を打ち払い目の前にいる『橙の騎士』へと抗議をしようとして――
「いな、い……!」
(後ろだッ!)
「遅い」
――背中に強烈な圧力を感じ、吹き飛ばされる。
とっさに気付いたバラムの忠告でさえ聞きとる暇なく、地面に転がり背中の痛みに息を吐くウィリアム。
『橙の騎士』は一方的な戦いを体感し、失望した目をウィリアムへと向けた。
「魔族、を、退けた、とか、『七色の騎士』、だ、とか、言われてる、けど……弱いな」
「…………っ」
あまりに暴力的で、あまりに直接的で、あまりに純粋な声色にウィリアムは思わず息を呑む。
目の前の男は心から残念そうに、心から無機質に……心から怒っている。
何故、こんなに弱い少年が『七色の騎士』であるのかと。
ウィリアムは痛む体に鞭を打ち、体を起こすと剣呑さを増した瞳で『橙の騎士』を睨む。
口から出たのは純粋な疑問だった。
「どうして……俺を『七色の騎士』だと認めない?」
「決まってるッ!」
唐突に声を張り上げた『橙の騎士』は瞳に明らかな激怒を灯しながら弓を構え、見えぬ矢を番える。
そんな簡単なことすらわからないのか、ふざけるなっ!
「誰よりも強く、誰よりも救い、誰よりも創り、誰よりも護り、誰よりも誇り、誰よりも自由で……そして誰よりも孤独、だから、だッ!」
(これがヤツの心の叫び、か。来るぞっ!)
「分かってる……!」
今まで、拙い言葉で喋っていた『橙の騎士』が唐突に滑らかに言葉を吐く。
これが目の前の男の根底部分。
彼は誰よりも強く、誰よりも救い、誰よりも創り、誰よりも護り、誰よりも誇り、誰よりも自由で、誰よりも孤独な存在へと成りたいのだ。
「“孤独よ、矢と化せ”ォ!」
「“風よ、纏い護れ”ォ!」
“風よ、纏い護れ”とは“自身以外の”対象に風の結界を張る能力である。
故に自身に囲うことは出来ず、ならば叫んだ彼は一体どこに結界を張ったのだろうか。
ここに居る人は『緑の騎士』と『橙の騎士』のみ、ならば答えは一つ――。
「なっ……!」
渾身の一撃となって放たれた矢はしかし、“『橙の騎士』を囲うようにして現れた風の結界”に阻まれ威力を失った。
ウィリアムの能力である“風よ、纏い護れ”は外からのみの接触を阻む……という都合の良い結界を創ることは叶わない。
外からも、内からでさえ一切の接触を阻む風の結界を創り出す能力なのである。
つまりこの能力は敵を閉じ込める結界としての効果も発揮し、だからこそ『橙の騎士』はその結界から動くことは出来ないのだ。
「ようやく、捕まえた」
「…………」
安堵の息を漏らすウィリアムに、『橙の騎士』は大きく緑の少年を睨み――
「がッ……!」
「甘い」
――ウィリアムは背中に何かが突き立てられるのを感じた。
すぐさま自身を後ろから突き刺したものを確認し、絶句するウィリアム。
「“木よ、従い動け”」
(木を自在に操れるのか!)
巨木が伸びに伸ばした枝がしなり、ウィリアムの背中を貫いたのだ。
何とかその枝を掴み、無理矢理動かすのを止めるウィリアムだが徐々に体がしびれてくるのを感じ、冷や汗を流す。
「これ、は……毒……か」
「そう、だ。例え、『騎士』、でも、濃度、を、上げた、毒、は、効く」
しかし、人ならば即死するレベルの毒を麻痺程度で済ますことが出来るのは流石『騎士』、といったところだろうが。
身体の自由が効かなくなり、地面に倒れ込むウィリアム。
「随分、呆気、なかった、な、『七色の騎士』」
「ぐ、うぅ」
(ウィリアム、意識を保て、ウィリアムっ……!)
徐々に蝕んでいく毒、背中から貫かれた傷に耐えられるわけも無く、ウィリアムの意識は闇へと誘われていく。
後悔も、疑問も置いてけぼりにして緑の少年は意識を失い――
「まだまだ、未熟……ですわね」
――呆れたような、それでいてどこか見守るような女性の声を聞いた。
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