セブンスナイト ―少年は最強の騎士へと成り上がる―
偽章 ―力求める殺戮の赤―
その男は、普通の平民だった。
「貴方、元気な男の子よ!」
「やったじゃないか!」
その男は、平和に暮らしていた。
心優しい父と、元気な母に見守られながら普通に生きていくはずの人生。
けれど――
「逃げろ、ブランドンッ!」
「生きて……!」
――幼い彼を置き去りに、両親は禍族に殺された。
禍族に両親を殺された日……彼は村を焼き尽くす火を見る。
このときを境に、彼の人生の歯車は狂い始めた。
だれよりも深く、強く、禍族を恐れるようになったのである。
それが齢、7歳の頃の話。
両親が死んだ後ブランドンは、幸運にも少し離れた街で商人をしていた叔父に拾われることになった。
ただブランドンを受け入れる際に悲しい瞳をしていたことを、彼は明確に覚えている。
自身を守ってくれる人はいなくなった。
無条件で受け入れてくれる人はいなくなった。
それによりブランドンは、不器用な自分でも生きていける“傭兵”への道を目指すことになる。
商人の叔父から文字や簡単な計算を習い、仕事を手伝いながら合間を見つけては常に体を鍛えていたブランドン。
同い年の子供たちと遊ぶことすら忘れ、ただ将来生きていく術を高めていく彼を止める者はいなかったのだ。
――叔父でさえも、彼が行っていることは正しいのだと信じていたから。
「ねぇねぇ、何してるの?」
「え……?」
そんなブランドンが12歳になった頃、彼女は現れた。
琥珀色の髪を揺らし、同じく琥珀色の瞳を興味げに見つめる少女。
両頬に付いたそばかすが、妙にブランドンの頭に残っている。
「何って、特訓だよ」
「特訓?」
7歳にして両親を失ったブランドンにとって、他の誰もが赤の他人であり自分とは関係ない者なのだと考えていた。
自分の身を守れるのは自分のみ。
他人の身を守れるのは他人のみ。
その結果が、幼い頃とは打って変わりかなり目つきが鋭くなったブランドンの姿だった。
同い年では考えられない程の目に見える筋肉に、見る者を恐れさせる目つき、果てには何を考えているのか分からない無表情っぷり。
いつの間にか心広く受け入れてくれた叔父でさえ、ブランドンに恐怖するようになっていたのだ。
しかし、目の前の少女は違う。
「私も特訓?やっていい?」
「……駄目」
「なんで?」
何度否定しても、何度睨み付けても、彼女は気後れせず話しかけてくる。
正直、多感な年だったブランドンにとって彼女の存在はウザい以上のものではなかった。
(教えてやったら黙るか、ついてこられるとは思えないし)
ブランドンは結局否定することすら面倒に感じ、渋々彼女に教え始める。
大人でさえも顔を歪めるほどの異様な特訓内容に、少女が付いてこられるはずもないのだから。
「はぁッ……!はぁッ……!」
「だから言っただろ、駄目だって」
結局彼女はものの数分でダウンし、荒い息だけを吐いていた。
やろうと思えば喝を入れ、吐くまでやらせてもいいのだがブランドンにとって重要なのは、彼女を近寄らせないことなのでそのまま諦めるように勧める。
けれど――
「まだ、やれる……!」
「――――」
――けれど、彼女は諦める事をしなかった。
(なんでっ)
女性と言うのは、男がやるようなむさ苦しいことは嫌じゃなかったのか。
女性と言うのは、家事をしたり子どもの世話をする者ではなかったのか。
ならばなぜ、目の前の少女は立ち上がるのか。
「……あぁ、そうかよ。知らないからな、どうなっても」
妙に胸がざわつくのを感じて、イライラしたブランドンは少女を苛め抜いた。
少女はどれほど息を荒くしても、吐いて吐きまくって胃酸しかでないようになっても、体中が泥と汗と涙でドロドロになっても、ただ言われた通りに行う。
気が付けば、ブランドンは少女を恐れるようになった。
「な、なんなんだよお前!何がしたいんだよ!」
「な……んで、って……」
息すらまともに出来ず、ただ床に突っ伏しながらも立ち上がろうとする少女に、思わずブランドンは声を震わせて問う。
脚を、いや体全体を生まれたての小鹿のように震わせながら、彼女はブランドンを真っ直ぐ見つめた。
「君の事が気になったから」
妙に、すんなりと少女は声にする。
喋ることも辛い癖に、息を吸い込むだけで肺が痛い癖に、少女は真っ直ぐ一声でそう言った。
(気になった……から?)
女性が男性に言う“気になる”。
その意味は対人関係に疎いブランドンでも分かった。
「お前、それだけの為にッ!?」
「そ……れだ、けじゃ……な、いよ」
胸のざわつきが段々大きくなるのを、ブランドンは感じる。
泥、汗、涙……普通の女性なら汚いと断言するそれらを全身に付けた少女は、それでも笑った。
満面ではない、今の体力で満面の笑みなど出来るはずもない。
――けれど、その笑みは儚くも強くて。
ブランドンは顔全体を真っ赤にして、慌てて少女に駆け寄り看病した。
それからというもの、少女とブランドンは常に一緒に居るようになった。
彼が鍛錬を始めれば少女もそれに付き合い、少女の身体ではキツイようなことも異常な精神力で耐えて見せる。
また、少女が来てからブランドンにも変化が訪れていた。
「ほらブランドン、一緒に行きましょっ」
「あ、あぁ。待ってくれよ、エレナ!」
エレナと呼ばれた琥珀色の少女が手を差し出せば、ブランドンはそれに着いていくようになったのである。
常に特訓し仕事の手伝いをすることしか知らなかったブランドンにとって、彼女が教えてくれる“普通”は非常に楽しかった。
出店の食べ物を食べ、街を歩き……ただそれだけなのに、特訓するよりも充実しているような気分になるブランドン。
歪に捻じ曲がったブランドンの在り方を、エレナが丁寧に直し真っ直ぐにしてくれたのである。
徐々に人付き合いが上手くなっていった彼は、同い年からもその身体能力から慕われるようになり、大人も話しかけるようになった。
非常に平和な日々。
誰にも穢されることが無い、純白の日々“だった”。
白く輝く日常に、全て覆う影が宿る。
「禍族だッ!」
「逃げろぉーー!」
またもや彼の人生を狂わせたのは、禍族だった。
当時21歳のブランドンは、凄腕の傭兵として腕を見込まれ住民が逃げるまでの間の時間稼ぎを行うことになる。
酷く最悪な役目だが、それは周りから押し込まれた役目ではない。
「――俺がやります」
「ブランドン、お前良いのか!?」
周りから反対されながらも、ブランドンはこの町の人々を護る為……エレナを護る為に立ち上がったのだ。
禍族は達人の傭兵でもないと一対一で勝つことは不可能。
まだそこまでの領域に達していないブランドンは、それでも時間稼ぎだけでも行いたいと、そう心から願ったのである。
「……気を付けてね」
「おう、待ってろ。禍族なんて一瞬で吹き飛ばしてやる」
エレナと別れを済ませ、白く眩い笑みで答えたブランドンは禍族と相対した。
巨大な禍族と戦うため使用したのは大剣。
圧倒的な大きさから振るわれる攻撃に何とか対処しながらも、数十分の間ブランドンは時間稼ぎを行う。
それは妙齢の傭兵ですら不可能な、凄まじい離れ業だった。
けれど、十二分に時間を稼いだブランドンには“逃げる”と言う選択肢はない。
逃げれば最期、追ってきた禍族が避難している人に襲うかもしれないからだ。
禍族を倒せるほどの技量は無く、ただ時間を稼ぎ続けることしか出来ないブランドンに残された道はたった一つのみ。
――死ぬことだ。
「ah――――ッ!」
「ぐッ!?」
数十分もの間、時間を稼ぎ続けたことによる疲労から生まれた隙。
それを逃さず禍族は手を突きの形にして、迷わず巨大な腕を前に振るう。
体制をこの短い間で整えることは出来ないブランドンは、諦めたように体中の力を抜くとただ死を待った。
(エレナ、皆……せめて生きてくれ)
だから、死を受け入れたブランドンは、何故いつまで経っても死が訪れないのか……それだけが謎だったのだ。
目の前に、彼女が……エレナが貫かれる、その光景を見るまでは。
「ぇ?」
信じられなかった。
嘘と思いたかった。
夢と考えたかった。
けれど、現実は非常にも血の温かさでブランドンは思い知ることになる。
これは実際だと。
これは本当だと。
これは現実だと。
「ぁ、ああああぁぁっ!なんで、なんでッ!」
「……ブラン、ドン」
貫かれた彼女の体を支え、視界がぐちゃぐちゃになりながらも必死に彼女に縋り付くブランドン。
今、守りたかったものがブランドンの腕の中で消えてゆく。
どうして来たのか、どうして庇ったのか、どうして逃げてくれなかったのか。
「愛、してる……」
「なんで、なんで俺を好きになったんだよッ!」
好きにならなければ、君が俺を庇うこともなかったのに。
好きにならなければ、俺はただ死にゆくだけだったのに。
好きにならなければ、君を失う辛さを知らずにいたのに。
何故、君は俺を好きなったのか。
「そんなの、決まってるじゃない」
腹に穴が開いているはずなのに、血が大量に出ているはずなのに。
その体はもう限界のはずなのに、エレナは驚くほど流れるように言葉を吐きだした。
「努力してる君が、恰好よかったのよ。一目惚れしちゃうくらい」
「――――」
言葉が出なかった。
今にも吐きそうなくらい辛くて苦しいのに、逝かないでと死なないでと口に出来なかった。
それほど、エレナが美しくブランドンは見えたのである。
「だから」
「……エレナ、俺は――」
「――生きて」
愛する人を、ブランドンは二度失う。
守れなかった。
また、守れなかったのだ。
一度目は両親を亡くし、二度目は愛する人を亡くした。
全て、全て“禍族”が居たが為に。
力が欲しいと、強くブランドンは思った。
敵を、禍族を、大切な人を奪う奴らを“殺す”力が欲しかった。
もし、もし自身が『騎士』なら両親を、愛する人を失わずに済んだのではないか。
(俺は『騎士』になりたい)
右手が赤く光り出す。
その右手が持つ大剣が徐々に形を変えて、火を象る形に変化する。
――力が欲しい。
――全てを守れる力が。
――全てを殺せる力が。
――大切な人を、“二度と失わない為に”!!
こうして、ブランドンは『赤の騎士』となった。
「貴方、元気な男の子よ!」
「やったじゃないか!」
その男は、平和に暮らしていた。
心優しい父と、元気な母に見守られながら普通に生きていくはずの人生。
けれど――
「逃げろ、ブランドンッ!」
「生きて……!」
――幼い彼を置き去りに、両親は禍族に殺された。
禍族に両親を殺された日……彼は村を焼き尽くす火を見る。
このときを境に、彼の人生の歯車は狂い始めた。
だれよりも深く、強く、禍族を恐れるようになったのである。
それが齢、7歳の頃の話。
両親が死んだ後ブランドンは、幸運にも少し離れた街で商人をしていた叔父に拾われることになった。
ただブランドンを受け入れる際に悲しい瞳をしていたことを、彼は明確に覚えている。
自身を守ってくれる人はいなくなった。
無条件で受け入れてくれる人はいなくなった。
それによりブランドンは、不器用な自分でも生きていける“傭兵”への道を目指すことになる。
商人の叔父から文字や簡単な計算を習い、仕事を手伝いながら合間を見つけては常に体を鍛えていたブランドン。
同い年の子供たちと遊ぶことすら忘れ、ただ将来生きていく術を高めていく彼を止める者はいなかったのだ。
――叔父でさえも、彼が行っていることは正しいのだと信じていたから。
「ねぇねぇ、何してるの?」
「え……?」
そんなブランドンが12歳になった頃、彼女は現れた。
琥珀色の髪を揺らし、同じく琥珀色の瞳を興味げに見つめる少女。
両頬に付いたそばかすが、妙にブランドンの頭に残っている。
「何って、特訓だよ」
「特訓?」
7歳にして両親を失ったブランドンにとって、他の誰もが赤の他人であり自分とは関係ない者なのだと考えていた。
自分の身を守れるのは自分のみ。
他人の身を守れるのは他人のみ。
その結果が、幼い頃とは打って変わりかなり目つきが鋭くなったブランドンの姿だった。
同い年では考えられない程の目に見える筋肉に、見る者を恐れさせる目つき、果てには何を考えているのか分からない無表情っぷり。
いつの間にか心広く受け入れてくれた叔父でさえ、ブランドンに恐怖するようになっていたのだ。
しかし、目の前の少女は違う。
「私も特訓?やっていい?」
「……駄目」
「なんで?」
何度否定しても、何度睨み付けても、彼女は気後れせず話しかけてくる。
正直、多感な年だったブランドンにとって彼女の存在はウザい以上のものではなかった。
(教えてやったら黙るか、ついてこられるとは思えないし)
ブランドンは結局否定することすら面倒に感じ、渋々彼女に教え始める。
大人でさえも顔を歪めるほどの異様な特訓内容に、少女が付いてこられるはずもないのだから。
「はぁッ……!はぁッ……!」
「だから言っただろ、駄目だって」
結局彼女はものの数分でダウンし、荒い息だけを吐いていた。
やろうと思えば喝を入れ、吐くまでやらせてもいいのだがブランドンにとって重要なのは、彼女を近寄らせないことなのでそのまま諦めるように勧める。
けれど――
「まだ、やれる……!」
「――――」
――けれど、彼女は諦める事をしなかった。
(なんでっ)
女性と言うのは、男がやるようなむさ苦しいことは嫌じゃなかったのか。
女性と言うのは、家事をしたり子どもの世話をする者ではなかったのか。
ならばなぜ、目の前の少女は立ち上がるのか。
「……あぁ、そうかよ。知らないからな、どうなっても」
妙に胸がざわつくのを感じて、イライラしたブランドンは少女を苛め抜いた。
少女はどれほど息を荒くしても、吐いて吐きまくって胃酸しかでないようになっても、体中が泥と汗と涙でドロドロになっても、ただ言われた通りに行う。
気が付けば、ブランドンは少女を恐れるようになった。
「な、なんなんだよお前!何がしたいんだよ!」
「な……んで、って……」
息すらまともに出来ず、ただ床に突っ伏しながらも立ち上がろうとする少女に、思わずブランドンは声を震わせて問う。
脚を、いや体全体を生まれたての小鹿のように震わせながら、彼女はブランドンを真っ直ぐ見つめた。
「君の事が気になったから」
妙に、すんなりと少女は声にする。
喋ることも辛い癖に、息を吸い込むだけで肺が痛い癖に、少女は真っ直ぐ一声でそう言った。
(気になった……から?)
女性が男性に言う“気になる”。
その意味は対人関係に疎いブランドンでも分かった。
「お前、それだけの為にッ!?」
「そ……れだ、けじゃ……な、いよ」
胸のざわつきが段々大きくなるのを、ブランドンは感じる。
泥、汗、涙……普通の女性なら汚いと断言するそれらを全身に付けた少女は、それでも笑った。
満面ではない、今の体力で満面の笑みなど出来るはずもない。
――けれど、その笑みは儚くも強くて。
ブランドンは顔全体を真っ赤にして、慌てて少女に駆け寄り看病した。
それからというもの、少女とブランドンは常に一緒に居るようになった。
彼が鍛錬を始めれば少女もそれに付き合い、少女の身体ではキツイようなことも異常な精神力で耐えて見せる。
また、少女が来てからブランドンにも変化が訪れていた。
「ほらブランドン、一緒に行きましょっ」
「あ、あぁ。待ってくれよ、エレナ!」
エレナと呼ばれた琥珀色の少女が手を差し出せば、ブランドンはそれに着いていくようになったのである。
常に特訓し仕事の手伝いをすることしか知らなかったブランドンにとって、彼女が教えてくれる“普通”は非常に楽しかった。
出店の食べ物を食べ、街を歩き……ただそれだけなのに、特訓するよりも充実しているような気分になるブランドン。
歪に捻じ曲がったブランドンの在り方を、エレナが丁寧に直し真っ直ぐにしてくれたのである。
徐々に人付き合いが上手くなっていった彼は、同い年からもその身体能力から慕われるようになり、大人も話しかけるようになった。
非常に平和な日々。
誰にも穢されることが無い、純白の日々“だった”。
白く輝く日常に、全て覆う影が宿る。
「禍族だッ!」
「逃げろぉーー!」
またもや彼の人生を狂わせたのは、禍族だった。
当時21歳のブランドンは、凄腕の傭兵として腕を見込まれ住民が逃げるまでの間の時間稼ぎを行うことになる。
酷く最悪な役目だが、それは周りから押し込まれた役目ではない。
「――俺がやります」
「ブランドン、お前良いのか!?」
周りから反対されながらも、ブランドンはこの町の人々を護る為……エレナを護る為に立ち上がったのだ。
禍族は達人の傭兵でもないと一対一で勝つことは不可能。
まだそこまでの領域に達していないブランドンは、それでも時間稼ぎだけでも行いたいと、そう心から願ったのである。
「……気を付けてね」
「おう、待ってろ。禍族なんて一瞬で吹き飛ばしてやる」
エレナと別れを済ませ、白く眩い笑みで答えたブランドンは禍族と相対した。
巨大な禍族と戦うため使用したのは大剣。
圧倒的な大きさから振るわれる攻撃に何とか対処しながらも、数十分の間ブランドンは時間稼ぎを行う。
それは妙齢の傭兵ですら不可能な、凄まじい離れ業だった。
けれど、十二分に時間を稼いだブランドンには“逃げる”と言う選択肢はない。
逃げれば最期、追ってきた禍族が避難している人に襲うかもしれないからだ。
禍族を倒せるほどの技量は無く、ただ時間を稼ぎ続けることしか出来ないブランドンに残された道はたった一つのみ。
――死ぬことだ。
「ah――――ッ!」
「ぐッ!?」
数十分もの間、時間を稼ぎ続けたことによる疲労から生まれた隙。
それを逃さず禍族は手を突きの形にして、迷わず巨大な腕を前に振るう。
体制をこの短い間で整えることは出来ないブランドンは、諦めたように体中の力を抜くとただ死を待った。
(エレナ、皆……せめて生きてくれ)
だから、死を受け入れたブランドンは、何故いつまで経っても死が訪れないのか……それだけが謎だったのだ。
目の前に、彼女が……エレナが貫かれる、その光景を見るまでは。
「ぇ?」
信じられなかった。
嘘と思いたかった。
夢と考えたかった。
けれど、現実は非常にも血の温かさでブランドンは思い知ることになる。
これは実際だと。
これは本当だと。
これは現実だと。
「ぁ、ああああぁぁっ!なんで、なんでッ!」
「……ブラン、ドン」
貫かれた彼女の体を支え、視界がぐちゃぐちゃになりながらも必死に彼女に縋り付くブランドン。
今、守りたかったものがブランドンの腕の中で消えてゆく。
どうして来たのか、どうして庇ったのか、どうして逃げてくれなかったのか。
「愛、してる……」
「なんで、なんで俺を好きになったんだよッ!」
好きにならなければ、君が俺を庇うこともなかったのに。
好きにならなければ、俺はただ死にゆくだけだったのに。
好きにならなければ、君を失う辛さを知らずにいたのに。
何故、君は俺を好きなったのか。
「そんなの、決まってるじゃない」
腹に穴が開いているはずなのに、血が大量に出ているはずなのに。
その体はもう限界のはずなのに、エレナは驚くほど流れるように言葉を吐きだした。
「努力してる君が、恰好よかったのよ。一目惚れしちゃうくらい」
「――――」
言葉が出なかった。
今にも吐きそうなくらい辛くて苦しいのに、逝かないでと死なないでと口に出来なかった。
それほど、エレナが美しくブランドンは見えたのである。
「だから」
「……エレナ、俺は――」
「――生きて」
愛する人を、ブランドンは二度失う。
守れなかった。
また、守れなかったのだ。
一度目は両親を亡くし、二度目は愛する人を亡くした。
全て、全て“禍族”が居たが為に。
力が欲しいと、強くブランドンは思った。
敵を、禍族を、大切な人を奪う奴らを“殺す”力が欲しかった。
もし、もし自身が『騎士』なら両親を、愛する人を失わずに済んだのではないか。
(俺は『騎士』になりたい)
右手が赤く光り出す。
その右手が持つ大剣が徐々に形を変えて、火を象る形に変化する。
――力が欲しい。
――全てを守れる力が。
――全てを殺せる力が。
――大切な人を、“二度と失わない為に”!!
こうして、ブランドンは『赤の騎士』となった。
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