不良の俺、異世界で召喚獣になる

ibis

5章4話

「む……?シエラ殿にリリアナ殿ですかな?」

 王宮の中にある訓練所。
 そこに、白髪を束ねた老騎士がいた。

「おはようございます、アルヴァーナ様」
「おはようございます……して、こんな朝早くにどうしたのですかな?」
「いや、今回の『ギアトニクス』の警護に、私が参加する事になったんですよ。それで、『ギアトニクス』に行く部隊の方々に挨拶でもしようかな、と思いまして」

 敬語で話すシエラを見て、キョーガが驚いたように目を見開いた。
 コイツ、アルヴァーナには敬語で話すのか。そういや、この前も敬語で話してたな。

「そうですか、少々お待ちください。今、『ギアトニクス派遣部隊』を招集しますので」

 そう言うと、アルヴァーナが近くの騎士に何かを伝えた。
 一礼し、訓練所の奥へと消えて行く騎士の男。その後ろ姿を横目で確認し―――ふと、何者かの視線を感じた。
 キョーガの事を敵と見るような、邪魔者と見るような嫌な視線……視線の主を探すように、キョーガが目を細くして訓練所内を見回した。

「……………」
「なんだオイ、ジロジロ見んじゃねェよクソガキがァ」

 視線の主は、すぐに見つかった。
 訓練所の端で木製の椅子に座っている少女だ。
 金髪に碧眼。パッと見た感じだと、どこかの貴族の娘のような雰囲気を持っている。

「……あなたも『ギアトニクス』の警護に参加されるんですか?」
「だったら何だよわりィのかァ」
「……別に悪いとは言いません。しかし、警護に参加するのなら、邪魔だけはしないでくださいね」

 そう言って、少女は顔を背けた。
 生意気な少女の言葉を聞き、キョーガは―――ブチッと。自分の中で、何かが音を立てて千切れるような感覚を覚えた。
 よし、殴る。
 初対面でよくもまあ散々言ってくれる。教育がなっていない。よし、俺が教育してやる。
 拳を握り、感情のまま少女をぶん殴ろうと―――

「え……あな、あなたは……いえ、あなた様は……?!」

 絶句したように口をパクパクさせるリリアナとシエラ。次の瞬間には、地面に膝を突き、少女に向かって2人が頭を下げた。

「……エリザベス様。訓練所には来ないよう、グローリア様から言われていたのでは?」
「子ども扱いしないでください。私だって『ギアトニクス』の警護に参加するんです。少しでも強くなろうと思ってここに来るのは当然の事です」

 当然のようにアルヴァーナと言葉を交わす少女。キョーガの目には、アルヴァーナが少女を敬っているように見えた。
 そうしてようやく、少女の正体に気づく。
 アルヴァーナが尊敬する相手、貴族の娘なんかよりずっと高貴な雰囲気。これらの情報が示す事は―――

「……国王の娘ェ……?」

 キョーガの呟きが聞こえたのか、少女がキョーガの方を向いた。
 スカートの裾を摘み、優雅なお辞儀をするその姿は、国王の娘と呼ばれるに相応しい美しさだ。

「どうも初めまして。私は『プロキシニア』国王、グローリア・ゼナ・サモールの1人娘、エリザベス・ゼナ・サモールです。この度の『ギアトニクス』警護に参加する事になりました。どうぞ、よろしくお願いします」

 そう言って、切れ長の目をゆっくりと開いた。
 ……何となく、冷たい印象の雰囲気だ。挨拶や動作が、全てプログラムされた機械のような……
 ちら、と本物の機械少女の方を向き……特にエリザベスに興味がないのか、いつも通りの無表情のまま立っていた。

「【憤怒】 『人類族ウィズダム』のガキが、当機のマスターを侮辱するとはいい度胸。『魔物の波』で死ぬ前に地獄へ送ってやる」

 いや、めちゃくちゃ怒っていた。
 いつも通りの無表情なので感情は読めないが、脳内ではかなり怒り狂っていたらしい。
 両腕を剣に変え、無機質な瞳に怒りを宿し、切っ先をエリザベスに向けた。

「やめろォマリー」
「【拒否】 国王の娘だか知らないが、しつけがなっていない。手足と鼻を切り落とし、目を潰した上で謝罪させるべき」
「相変わらずぶっ飛んだ考えしてんなァ……まァ落ち着けよォ。相手は国王の娘だぞォ?」
「【反論】 ならばなおさら、礼儀というものを教えなければならない」
「だァからァ、やめろっつってんだろォがドアホォ」

 ガシッとマリーの頭を掴み、無理矢理エリザベスから視線を外させる。

わりィな王女様ァ。コイツァ……なんつーかァ……敬語がヘタクソでよォ」
「構いません。しかし、二度はありませんよ」
「【上等】 斬り刻んでモンスターのエサにしてやる。掛かってこ―――」

 ドゴッ!と鈍い音が響いた。
 音の出所は―――マリーの頭部。
 言う事を聞かないマリーにキレたのか、キョーガがマリーの頭を殴ったのだ。

「……いい加減にしとけェ。次ァ本気で殴るぞォ」
「……【了解】」

 心底不愉快そうに、マリーがエリザベスから視線を逸らした。
 危ない危ない。もう少しでリリアナが悪者扱いされる所だった―――

「ガキが……ボクのキョーガをバカにするなんて……覚悟はできてるんですよねぇぇぇ……?」

 いや、もう1人怒っているやつがいた。
 血のように真っ赤な『紅眼』をギラギラと輝かせ、鋭すぎる牙を剥き出しにしている。

「まァ落ち着けよォ。おめェが本気で暴れたらァ、俺でも止めんのムズいんだからよォ」

 苦笑しながら、なだめるようにアルマの頭を優しく撫でた。
 むぅ、と頬を膨らませ……だが心地好さそうに目を細め、キョーガの手に頭を擦り寄せる。

「シエラ殿、リリアナ殿。『ギアトニクス派遣部隊』の収集が完了しましたぞ」
「ありがとうございます、アルヴァーナ様。キョーガさん、行きましょう」
「あァ」

―――――――――――――――――――――――――

 ―――時は少し進み、その日の夜。
 キョーガとアルマは、国外の近くにある野原にいた。

「こんな夜中に連れ出すなんて……どうしたんですぅ?」

 不思議そうにキョーガの後を追いながら、アルマが問いかけた。

「んァ。俺が昼に言った事ォ覚えてっかァ?」
「お昼に言った事……ですぅ?」
「おめェが本気で暴れたら俺でも止めるのは難しいってやつだァ」
「ああ、そんな事も言ってましたねぇ……それで、その話がどうしたんですぅ?」
「今思えばよォ、おめェと本気で戦った事ってねェよなァ」
「えっ………………え?」

 暗闇の中、キョーガの口元が凶悪に裂けた。
 そんなキョーガを見て、アルマが引きつった笑みを浮かべる。

「いやぁ……えっとぉ……あはは……」
「……っかァ」
「冗談ですよねぇ?!なんでボクとキョーガが戦うんですぅ?!理由がないですよぉ!」
「理由ねェ……まァ単純におめェの力を見てェってのが理由だなァ」
「え、ええぇ…………そんな理由で、ですぅ……?」

 本気で嫌そうに拒絶しながら、アルマがキョーガから距離を取る。
 と、何も見えないはずの暗闇に、ぼんやりと紅い光が浮かび上がった。キョーガの『紅角』だ。

「……俺が『最強』に成るためにィ、アルマは絶対ぜってェ超えなきゃならねェ壁だァ……わりィが嫌っつってもるぞォ」
「………………はぁ……わかりました、わかりましたよぉ―――『血力けつりょく解放』」

 アルマの体から赤黒い霧が放たれ―――夜空を覆った。

「……アルマを倒せるぐれェ強くねェとォ、最強は名乗れねェ……!今ここで越えたらァ……!」
「……ふぅ……夜に『血力解放』できるとは……昂るな……!」

 大人の姿になったアルマと、『紅角』を生やしたキョーガが向かい合い……アルマの手の上に、赤黒い魔法陣が浮かび上がった。

「歴代最強の『紅眼吸血鬼ヴァンパイア・ロード』と呼ばれた理由……そうだな、キョーガには一度、ボクの本気を見せておこう」
「あァ?」
「死なないように手加減はするつもりだが……できる限りは避けてくれよ」
「はっ。俺が死ぬわけねェだろォ……俺を失望させんなよォ?」

 キョーガの『紅角』が温度を増し―――角の色が変わり始める。
 鮮やかな紅色から、目が覚めるような蒼色へと変化し……腰を落とし、身構えた。
 だが直後―――アルマの魔法を前にして、何も理解できずに意識を落とす事になる。

「―――『血結晶に染まりし世界ワールド・イズ・マイン』」

 柔らかな唇が魔法名を紡ぎ、赤黒い魔法陣が強く輝いた―――と思った次の瞬間。
 ―――キョーガの意識は、強制的に現実から切り離された。

コメント

  • かりんとう

    次の話いつですか?
    面白いので更新頑張ってください

    1
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