不良の俺、異世界で召喚獣になる
4章3話
―――ザワザワと。
通路を歩く人たちが、1人の少女の横を通り過ぎる度に、感嘆のため息を漏らす。
綺麗な茶髪に、明るい笑顔。
見る者全てを魅了する不思議な少女が、視線に気づいて笑みを深めた。
「ん~♪悪くないね~♪」
満足そうにそう言って、クルリと振り返り、視線を向けていた人に向かって手を振る。
その仕草に、男たちの半数が心を奪われ……残る半数は少女の隣に座る黒髪の男に視線を向け、『なんでこんなやつが、こんなに可愛い少女と一緒にいるんだよ』と、不満そうな表情を見せた。
「チッ……サリスゥ、あんま目立つんじゃねェよォ。視線が鬱陶しィだろっがァ」
男たちから理不尽な視線を向けられるキョーガが、舌打ち混じりにサリスへ目を向ける。
「……【感知】 『人類族』どもからマスターへの敵意を確認。マスター、焼却の許可を」
「アホか大人しく座ってろォ」
「【反論】 しかし、あの『人類族』どもは、マスターに―――」
「だからって焼いていいわけねェだろォがァ……大人しくしてろォ」
「……【了解】」
無表情のまま座り、キョーガの手をにぎにぎと遠慮がちに握る。
その動作を見る男たちが、再び嫉妬混じりの視線を向ける―――と。
「はぁ、ふぅ……キョーガ、血を、血をぉ……」
「んっだよオイ、朝吸わせたばっかだろォがよォ」
「そ、そうですけどぉ……まさか、徒歩で学院に向かうなんて思いませんですよぉ……」
歩いて学院に向かうだけで太陽にやられてしまったらしいアルマが、青い顔でキョーガに抱きつく。
ダルそうにため息を吐き……吸血しやすいように制服のボタンを外した。
「あ、ふ……おいひぃ……」
首元に顔を埋め、幸せそうに吸血を始める。
―――今日は、リリアナの卒業式。
リリアナだけは教室に行き、キョーガたちは卒業式が行われる体育館で待機しているのだ。
「……それにしても、なかなか始まらないでありますね?」
「あァ……退屈だなァ」
キョーガの後ろに座るシャルアーラが、退屈そうに呟く。
その言葉にキョーガが同調し―――ふと、何者かの気配を感じて振り返った。
「……キョーガ殿?どうかしたでありますか?」
「……チッ……わざわざ俺たちん所に来んじゃねェよォ……」
苛立たしげに立ち上がり、歩み寄ってくる4人の男女と向かい合う。
「……久しぶりだな、『反逆霊鬼』」
「あァ……久しぶりだなァ、カミール・ベルガノートォ」
「おや……自己紹介をした覚えはないが?」
「はっ、リリアナから教えてもらったってんだよォ」
キョーガに声を掛けてきたのは―――リリアナの父、カミール・ベルガノートだ。
その背後には、リリアナの姉、シャーロットが立っている。
「カミール・ベルガノート……って、リリアナ殿の父殿でありますか?!」
「あらあら。可愛いわね、この子」
「え、と……失礼でありますが、リリアナ殿の姉殿でありますか?」
「あらあらまあまあ!嬉しい事言ってくれるわね!でも残念。私はリリアナの母、ユリエ・ベルガノートよ。あなたは?」
「じ、自分は『地精霊』のシャルアーラ・オルオンであります……気軽にシャルと呼んでほしいであります」
「シャルちゃんね、わかったわよろしくね!」
ユリエに撫で回されるシャルアーラが、戸惑いながらも自己紹介を返す。
「……でェ?なァんでわざわざ俺らん所に来たんだァ?まさか一緒に座りたいとかじゃァねェだろォ?……何の用だァ?」
目を細め、威圧的に問い掛ける。
キョーガ本人は至って真面目なのだが……アルマを抱っこし、マリーに手を握られているという姿なため、カミールからして見れば『舐められている』としか受け取れない。
「当然、お前と一緒に座るつもりなどない……と、言いたい所だが……他に空いている場所が無いからな。仕方がない」
「ふざけんなよォ?なんで俺がてめェの近くに座らなきゃならねェんだァ?」
前の席に座るカミールを見て、キョーガが心底不快そうに顔を歪める。
―――と。キョーガをジッと見つめている少年の存在に気づき、視線をギロッと動かした。
「……何か用かよォ……」
「ん、ああいや……あんたがキョーガだよな?」
腰に剣をぶら下げてる少年が、色鮮やかなオレンジ色の髪を揺らしながらキョーガに問い掛ける。
「……あァ、そォだがァ」
「あんたの事は、リリ姉から詳しく……ってか手紙によく書かれてるから知ってる」
「だから何だよォ?」
「……あんたのおかげで、リリ姉が無事に卒業できるって。あんたがいたから、リリ姉は卒業式まで頑張れたって。あんたが一緒だから、毎日が楽しいって……全部、あんたがいてくれたからだって、手紙に書いてた」
言葉から察するに、この少年がアグナム・ベルガノート……リリアナの弟だろう。
「だから……こう言うのも変だけど、ありがとう」
「……意味がサッパリわかんねェよォ……なんで俺がてめェに感謝されなきゃならねェ?」
「……わからない……けど、こうするべきだと思った……母はバカだから手紙の内容を理解できてないし、リリ姉の事が大好きな父とシャロ姉は論外だ……誰も、あんたという存在の大切さをわかってない」
そう言って、アグナムがキョーガに手を差し出した。
突然の感謝に警戒を深めるキョーガ……リリアナの父と姉の性格を知っているアルマも、警戒と共にアグナムに鋭く睨み付ける。
「……チッ……てめェら一家と一緒にいるとォ、頭がおかしくなっちまいそォだァ……」
「キョーガ、どこに行くんですぅ?」
「ちっと外の空気でも吸ってくらァ」
吸血していたアルマを離し、機嫌悪そうに席を立った。
「それなら、ボクも付いて行きますよぉ」
「……おめェは大人しく座ってろォ。外に出て太陽にやられたりしたらァ、まァた吸血しなきゃなんねェからなァ」
「……ボクは、構わないですよぉ?」
「俺が構うってんだよォ」
アグナムに舌打ちを残し、キョーガが体育館の外へと向かった。
―――――――――――――――――――――――――
「―――【発見】 こんな所にいたのか、マスター」
「………………マリーかァ……何しに来たんだァ?」
「【説明】 もうすぐ卒業式が始まるため、マスターを呼びに来たのだが……いきなりどうしたのだ?」
「……何でもねェよォ」
「……【理解】 マスターはリリアナの両親、姉弟が苦手と判断」
「苦手っつーか何つーかァ……」
学院内のベンチに座るキョーガに、無表情のマリーが歩み寄る。
「……意味がわかんねェんだよォ、アイツゥ」
「【質問】 あいつとは誰か?」
「あのアグナムって野郎だァ……なんで俺がアイツに感謝されなきゃならねェ?」
そう言うキョーガは―――どこか、怯えているようだった。
キョーガは、他人の感情に疎い。
リリアナのおかげでようやく理解し始めた所だ。
だからこそ、あの少年がキョーガに感謝した事が理解できない。
「……【理解】 マスターは、他人から感謝されるのが苦手」
「……あァ……そォかも知れねェなァ」
苛立たしげに頭を掻き、キョーガがベンチから立ち上がろうとして―――ピタッと、固まった。
―――ビリビリと、肌を刺すような気配。
『金欲竜』や『氷結銀狼』なんかよりも強い何かが、学院内に入っている―――?
「……なんだァ……?」
「【感知】 この異様な気配……おそらく『神精族』だと判断」
「『神精族』だァ……?」
「【推測】 おそらく、『神精族』と契約している生徒がいるのだろう」
できれば関わりたくないと、マリーが眉を寄せながら気配の出所を探る―――と。
「―――キョーガ殿っ!」
「んァ……?シャルかァ?何しに来たんだよォ?」
「卒業式が始まったでありますっ!早く戻るでありますっ!というかマリー殿、キョーガ殿を見つけたなら報告してほしいでありますっ!」
「【謝罪】 すっかり忘れていた」
どうやら、マリーとシャルアーラはキョーガを探すために走り回ったらしい。
その事に気づいたキョーガが、2人に礼を言おうとして―――
―――世界が、黒に包まれた。
通路を歩く人たちが、1人の少女の横を通り過ぎる度に、感嘆のため息を漏らす。
綺麗な茶髪に、明るい笑顔。
見る者全てを魅了する不思議な少女が、視線に気づいて笑みを深めた。
「ん~♪悪くないね~♪」
満足そうにそう言って、クルリと振り返り、視線を向けていた人に向かって手を振る。
その仕草に、男たちの半数が心を奪われ……残る半数は少女の隣に座る黒髪の男に視線を向け、『なんでこんなやつが、こんなに可愛い少女と一緒にいるんだよ』と、不満そうな表情を見せた。
「チッ……サリスゥ、あんま目立つんじゃねェよォ。視線が鬱陶しィだろっがァ」
男たちから理不尽な視線を向けられるキョーガが、舌打ち混じりにサリスへ目を向ける。
「……【感知】 『人類族』どもからマスターへの敵意を確認。マスター、焼却の許可を」
「アホか大人しく座ってろォ」
「【反論】 しかし、あの『人類族』どもは、マスターに―――」
「だからって焼いていいわけねェだろォがァ……大人しくしてろォ」
「……【了解】」
無表情のまま座り、キョーガの手をにぎにぎと遠慮がちに握る。
その動作を見る男たちが、再び嫉妬混じりの視線を向ける―――と。
「はぁ、ふぅ……キョーガ、血を、血をぉ……」
「んっだよオイ、朝吸わせたばっかだろォがよォ」
「そ、そうですけどぉ……まさか、徒歩で学院に向かうなんて思いませんですよぉ……」
歩いて学院に向かうだけで太陽にやられてしまったらしいアルマが、青い顔でキョーガに抱きつく。
ダルそうにため息を吐き……吸血しやすいように制服のボタンを外した。
「あ、ふ……おいひぃ……」
首元に顔を埋め、幸せそうに吸血を始める。
―――今日は、リリアナの卒業式。
リリアナだけは教室に行き、キョーガたちは卒業式が行われる体育館で待機しているのだ。
「……それにしても、なかなか始まらないでありますね?」
「あァ……退屈だなァ」
キョーガの後ろに座るシャルアーラが、退屈そうに呟く。
その言葉にキョーガが同調し―――ふと、何者かの気配を感じて振り返った。
「……キョーガ殿?どうかしたでありますか?」
「……チッ……わざわざ俺たちん所に来んじゃねェよォ……」
苛立たしげに立ち上がり、歩み寄ってくる4人の男女と向かい合う。
「……久しぶりだな、『反逆霊鬼』」
「あァ……久しぶりだなァ、カミール・ベルガノートォ」
「おや……自己紹介をした覚えはないが?」
「はっ、リリアナから教えてもらったってんだよォ」
キョーガに声を掛けてきたのは―――リリアナの父、カミール・ベルガノートだ。
その背後には、リリアナの姉、シャーロットが立っている。
「カミール・ベルガノート……って、リリアナ殿の父殿でありますか?!」
「あらあら。可愛いわね、この子」
「え、と……失礼でありますが、リリアナ殿の姉殿でありますか?」
「あらあらまあまあ!嬉しい事言ってくれるわね!でも残念。私はリリアナの母、ユリエ・ベルガノートよ。あなたは?」
「じ、自分は『地精霊』のシャルアーラ・オルオンであります……気軽にシャルと呼んでほしいであります」
「シャルちゃんね、わかったわよろしくね!」
ユリエに撫で回されるシャルアーラが、戸惑いながらも自己紹介を返す。
「……でェ?なァんでわざわざ俺らん所に来たんだァ?まさか一緒に座りたいとかじゃァねェだろォ?……何の用だァ?」
目を細め、威圧的に問い掛ける。
キョーガ本人は至って真面目なのだが……アルマを抱っこし、マリーに手を握られているという姿なため、カミールからして見れば『舐められている』としか受け取れない。
「当然、お前と一緒に座るつもりなどない……と、言いたい所だが……他に空いている場所が無いからな。仕方がない」
「ふざけんなよォ?なんで俺がてめェの近くに座らなきゃならねェんだァ?」
前の席に座るカミールを見て、キョーガが心底不快そうに顔を歪める。
―――と。キョーガをジッと見つめている少年の存在に気づき、視線をギロッと動かした。
「……何か用かよォ……」
「ん、ああいや……あんたがキョーガだよな?」
腰に剣をぶら下げてる少年が、色鮮やかなオレンジ色の髪を揺らしながらキョーガに問い掛ける。
「……あァ、そォだがァ」
「あんたの事は、リリ姉から詳しく……ってか手紙によく書かれてるから知ってる」
「だから何だよォ?」
「……あんたのおかげで、リリ姉が無事に卒業できるって。あんたがいたから、リリ姉は卒業式まで頑張れたって。あんたが一緒だから、毎日が楽しいって……全部、あんたがいてくれたからだって、手紙に書いてた」
言葉から察するに、この少年がアグナム・ベルガノート……リリアナの弟だろう。
「だから……こう言うのも変だけど、ありがとう」
「……意味がサッパリわかんねェよォ……なんで俺がてめェに感謝されなきゃならねェ?」
「……わからない……けど、こうするべきだと思った……母はバカだから手紙の内容を理解できてないし、リリ姉の事が大好きな父とシャロ姉は論外だ……誰も、あんたという存在の大切さをわかってない」
そう言って、アグナムがキョーガに手を差し出した。
突然の感謝に警戒を深めるキョーガ……リリアナの父と姉の性格を知っているアルマも、警戒と共にアグナムに鋭く睨み付ける。
「……チッ……てめェら一家と一緒にいるとォ、頭がおかしくなっちまいそォだァ……」
「キョーガ、どこに行くんですぅ?」
「ちっと外の空気でも吸ってくらァ」
吸血していたアルマを離し、機嫌悪そうに席を立った。
「それなら、ボクも付いて行きますよぉ」
「……おめェは大人しく座ってろォ。外に出て太陽にやられたりしたらァ、まァた吸血しなきゃなんねェからなァ」
「……ボクは、構わないですよぉ?」
「俺が構うってんだよォ」
アグナムに舌打ちを残し、キョーガが体育館の外へと向かった。
―――――――――――――――――――――――――
「―――【発見】 こんな所にいたのか、マスター」
「………………マリーかァ……何しに来たんだァ?」
「【説明】 もうすぐ卒業式が始まるため、マスターを呼びに来たのだが……いきなりどうしたのだ?」
「……何でもねェよォ」
「……【理解】 マスターはリリアナの両親、姉弟が苦手と判断」
「苦手っつーか何つーかァ……」
学院内のベンチに座るキョーガに、無表情のマリーが歩み寄る。
「……意味がわかんねェんだよォ、アイツゥ」
「【質問】 あいつとは誰か?」
「あのアグナムって野郎だァ……なんで俺がアイツに感謝されなきゃならねェ?」
そう言うキョーガは―――どこか、怯えているようだった。
キョーガは、他人の感情に疎い。
リリアナのおかげでようやく理解し始めた所だ。
だからこそ、あの少年がキョーガに感謝した事が理解できない。
「……【理解】 マスターは、他人から感謝されるのが苦手」
「……あァ……そォかも知れねェなァ」
苛立たしげに頭を掻き、キョーガがベンチから立ち上がろうとして―――ピタッと、固まった。
―――ビリビリと、肌を刺すような気配。
『金欲竜』や『氷結銀狼』なんかよりも強い何かが、学院内に入っている―――?
「……なんだァ……?」
「【感知】 この異様な気配……おそらく『神精族』だと判断」
「『神精族』だァ……?」
「【推測】 おそらく、『神精族』と契約している生徒がいるのだろう」
できれば関わりたくないと、マリーが眉を寄せながら気配の出所を探る―――と。
「―――キョーガ殿っ!」
「んァ……?シャルかァ?何しに来たんだよォ?」
「卒業式が始まったでありますっ!早く戻るでありますっ!というかマリー殿、キョーガ殿を見つけたなら報告してほしいでありますっ!」
「【謝罪】 すっかり忘れていた」
どうやら、マリーとシャルアーラはキョーガを探すために走り回ったらしい。
その事に気づいたキョーガが、2人に礼を言おうとして―――
―――世界が、黒に包まれた。
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