不良の俺、異世界で召喚獣になる

ibis

3章9話

 ―――痛い……熱い……!

 体内を焼かれているような痛みに、思わず意識が飛んでしまいそうになる。

 ……耐えろ……我慢だ……!

 飛びかける意識をなんとか手繰たぐり寄せ、静かにを進めた。

 ―――これは……神経毒に似ている……
 種類は……外因性毒素に近いか?
 だが、麻痺系統の毒ではない……致死性の猛毒だ。

 で得た抗体の中に、この毒に対抗できる抗体は存在しない。
 ならば……大人しく死ぬのか?

 ―――笑わせんな。

 俺は『最強』だ……『最強』ってのは、ただ強いだけじゃダメなんだ。
 努力して、研磨して、試行錯誤して、精進して、奮闘して……常に一番となる者が『最強』と呼ばれるに相応ふさわしいんだ。
 才能に胡座あぐらをかいて、一時いっときの歓声に満足しているだけじゃ……『その時だけの一番』にしか成れない。

 俺は『最強』だ……『最強』ってのは、慢心しちゃダメなんだ。
 自分に満足せず、傲らず、ただひたすらに上を目指す者が『最強』と呼ばれるに相応しいんだ。
 与えられた能力に満足し、何のこころざしも持たずに生きてるだけじゃ……『人よりスゴい凡人』にしか成れない。

 俺は『最強』だ……『最強』ってのは、常に学んでいなければダメなんだ。
 持ってる知識をゴールとせず、その先にある未知に手を伸ばす者が『最強』と呼ばれるに相応しいんだ。
 知識に溢れた日常に目を向けず、今まで覚えてきた知識だけで充分だと思っているやつは……『博識ぶった人間』にしか成れない。

 そうだ……俺は『最強』なんだ。
 『最強』である事に、俺の存在意義がある。
 『最強』じゃない俺なんて……必要ない。
 だから、常に『最強』を目指す。
 その道の途中に何が現れようが……全部薙ぎ倒して、踏み潰して、乗り越えて行くだけだ。

 それに……こんな毒ごときで生を諦めるほど、弱い心は持ち合わせてない。
 この程度の毒なんかより、あの忌まわしい実験の方が……もっと辛かったからなァッ!

―――――――――――――――――――――――――

「きょ…………が………………?」
「……無敵の再生能力を持つ『反逆霊鬼リベリオン』にも、弱点は存在する」

 紫色の液体に呑み込まれたキョーガが、力なく地面に横たわり……そのすぐ隣で、ミロードが腕を組みながら続けた。

「1つ目は心臓……いくら『反逆霊鬼リベリオン』と言っても、心臓を再生する事はできない……」

 キョーガを冷たく見下ろし……その視線をアルマに移して、続けた。

「2つ目は焼死……体の細胞全てを焼き尽くせば、再生する事など不可能になる」

 『そして』―――と続けた。

「……3つ目は、体内から殺す事。ワシが使う毒で、体内の重要器官を殺した……コイツはもう、物言わぬしかばねだ」

 動かなくなったキョーガを蹴り飛ばし、ミロードがアルマに歩み寄る。
 呆然とキョーガを見ていたアルマが―――近寄るミロードに、鋭い視線を向けた。

「そんなに怒らないでくれアルマ……殺し合いに、善悪は存在しない。コイツが弱くてワシが強かった……それだけだ」
「………………うるさい……です、よぉ……」

 ギラッと、アルマの紅眼が強く輝く。
 その眼力に、ミロードが思わず足を止めた。
 ―――足を止めたのは、間違いだ。

「―――『血力解放』」
「しまっ―――」

 瞬間。アルマの体から赤黒い霧が噴出される。
 穏やかで優しい目はつり上がり、短い青髪が腰の辺りまでグングン伸びる。
 小さな身長もキョーガと同じくらいまで伸び、鋭い牙が長くなり―――

「……ボクは、本気で怒っているからな」
「……はぁ……ったく。力任せに止めたくはねぇんだけどな……」

 ガシガシと頭を掻き……ミロードがアルマを睨み付ける。
 射殺すような視線にも臆する事なく、アルマが鋭い牙を剥き出しにして怒りをあらわにした。

「―――『紫毒の弾丸ポイズン・バレッド』ッ!」
「『四重紅弾フィーア・バレッド』」

 液体の弾丸と、紅結晶で作られた弾丸が正面衝突し―――相殺しあう。
 どれだけ大きくても、頑丈でも、勢いがあっても、全てを溶かす毒の前には意味がない。
 一瞬で溶かされる紅弾を見て、アルマが小さく舌打ちをした。

「『四重針山フィーア・ニードル』」
「チッ―――!」

 足下から飛び出す結晶の針山―――それを察知し、ミロードが空へと飛び立った。
 ギリギリまで針山が迫るも……もう1歩及ばず、避けられる。

「……『四重舞剣フィーア・グラディウス』」
「『紫毒の弾丸ポイズン・バレッド』ッ!」
「『四重紅槍フィーア・スピア』」
「ぐっ……『紫毒の液盾ポイズン・シールド』ッ!」

 辺り一面に、紅結晶で作られた剣が現れる。
 まるで1本1本が意識を持っているかのように飛び回り―――迎撃するように大量展開された紫色の魔法陣から、迫る紅剣を溶かすために毒弾が連続発射された。
 溶かせなかった紅剣は自力で避け―――その間に、アルマが紅槍を作り出し、勢いを付けてミロードに投げつける。
 さすがに単純な攻撃は簡単に避けられるのか、ミロードが液状の毒を展開し―――紅槍が跡形もなく溶け消えた。

「らしくない猛攻だな……あの害虫が死んだのが、そんなにショックか?」
「うるさいぞ……お前と話す気はない」
「怖い怖い……いつからそんな乱暴な言葉を使うようになったのか……レテインの影響か?」
「どうでもいい……今はただ、お前が憎い」

 拳を握り締め、憎悪に満ちた眼で祖父を見上げる。

「―――おうおゥ、人を勝手に殺すんじゃねェよォ」
「なっ―――ぐあッ?!」

 上空を飛んでいたはずのミロードが、地面へと突っ込んだ。
 何が起きたか理解できていないミロード……その前に、凶悪に笑う少年が降り立った。

「ぐ、ぬっ……!」
「お―――らァッ!」

 ミロードの頭を蹴り飛ばし―――見慣れた少年が、アルマへと向き直った。

「……『紅眼吸血鬼ヴァンパイア・ロード』つっても無敵じゃねェ……ダメージが蓄積されりゃァ死ぬゥ……そォだよなァ、アルマァ?」
「きょう……が……?」
「なんだよオイ。まさか死んだとでも思ってたんかァ?……約束しただろォがァ。おめェの人生、一緒に背負ってやるってなァ」

 毒に体内を侵され、絶命したはずのキョーガが、何事もなかったかのように平然と立っている。

「しっかしまァ、分析に時間が掛かっちまったなァ……さっすが異世界の毒、って感じかァ?」
「キョーガ……毒は?」
「急いで抗体を作ったァ……毒程度で俺を殺せるとでも思ってたんかァ?」

 ポカンとした表情のアルマに、キョーガが1つずつ説明する。

「……最初の毒の弾ァ、触れた物を溶かす強力なアルカリ性の猛毒だァ……アルマの弾丸もォ、地面も溶かすゥ……水酸化ナトリウムなんかよりずっと強力な毒だなァ」

 そう……ミロードの使う『毒魔法』。
 種類は大きく分けて……2つだ。
 1つは、今言った物質を溶かす毒。
 そして、もう1つは―――

「体内の細胞に反応して劇薬に変わる不思議な猛毒ゥ……俺の世界にゃァんな毒がなかったからなァ……ちっと焦ったぜェ」

 ―――体内の細胞に反応して、猛毒へと変わる毒。
 毛穴や汗腺から侵入し、体内の細胞を殺し、そのまま脳の細胞まで殺す。
 それは、どれだけ危険な毒だろうか。

「まァ……実験に比べりゃァ、ゴミみてェな痛みだったがなァ」

 『紅角』を覗かせながら、キョーガが不敵に笑う。
 そのデタラメな体質に……アルマはただただ、息を呑んだ。

「クソ……!クソ害虫ぅぅううううううッ!」

 頭から血を流すミロードが、目にも止まらぬ速さで距離を詰める。
 対するキョーガは、腰を落として迎撃の構えを取り―――

「―――『紫毒の液剣ポイズン・ブレイド』ッ!」

 手に浮かぶ小さな魔法陣から、液状の剣を召喚。
 剣先から垂れる毒が、地面を溶かしているところを見ると……あれも強力なアルカリ性の猛毒だろう。

 ―――集中だ。
 思い出せ……アルマの言ってた事を思い出せ。
 イメージは……角の先端。
 そこに、力を……魔力を集めて―――

「キョーガ―――」
「死ね害―――」

 ―――それはまるで、美しい太陽。
 ボッと音を立てて、高密度の火球がキョーガの『紅角』の上に現れる。
 アルマも……ミロードさえも、その火球の美しさに、一瞬見とれてしまった。
 ―――その隙は、致命的なミス。
 勢い良く火球が放たれ―――

「―――『焼却角砲ホーン・ファイア』ッ!」
「ぐっ―――ぬぅううううううああああああああああああああああッ?!」

 ―――放たれる火球が、ミロードの体を吹き飛ばした。

「俺ァ一度見た攻撃は忘れねェ……同じ攻撃が通じる俺じゃねェ……よく覚えときなァ」

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