不良の俺、異世界で召喚獣になる
3章8話
「……汚ぇ手で孫に近づきやがってこの害虫が……ワシがこの手で駆除してくれるわッ!」
ギラギラと輝く『紅眼』が、キョーガを睨み付ける。
「……なァ、なんでおめェのじいさん若返ってんだァ?」
「『血力解放』は、『紅眼吸血鬼』のみが使える特殊能力で……自身が最も力を発揮できる年齢に変身できるんですよぉ……でも、長い時間は変身していられないはずですぅ」
「……つまりィ、あっちとしては早めに勝負をつけてェってわけかァ」
「そういう事ですぅ」
背中に抱きつくアルマが、上空を飛ぶ祖父を見上げて眉を寄せる。
「……お祖父さんがすみません……」
「はァ?なァに謝ってんだァ?」
「……お祖父さんは、何故かボクの事を可愛がってくれてて……それが原因で、今こうなってるんですけどぉ」
「……ま、じいさんがおめェを嫌ってなくて良かったってしか思わねェなァ」
首の骨を鳴らすキョーガの額に、『紅角』が現れる。
「ああん……?額に生える深紅の角……てめぇ、まさか害虫じゃなくて『反逆霊鬼』か?」
「んっだよ今さら気づいたのかァ?」
「……はん。まさか『反逆霊鬼』と戦う事になるとはな……歳は取ってみるもんだ―――『紫毒の弾丸』」
辺り一面を、紫色の魔法陣が覆い尽くす。
「はァ……魔法かァ……」
「気を付けてくださいよぉ。お祖父さんの『毒魔法』は、食らえば即死だと思ってくださいぃ」
そう言われても……と、キョーガは上空に浮かぶ祖父を見上げ、小さく舌打ちする。
―――相手は魔法を使う。それに、空を飛べる。
対する俺は、魔法も使えないし空も飛べない。
……だがここには、魔法が使えて空も飛べる少女がいる。
ちら、と横目で背後を確認し―――アルマと目が合った。
自信満々で『何でも言ってくれ』と言わんばかりに眼を輝かせており……思わず苦笑を浮かべた。
「……アルマァ」
「はい!」
「俺を抱えて飛べるかァ?」
「もっちろんですよぉ!」
バサッと黒翼を広げ、ギュッと抱き締める力を強める。
「……おっし……行くぜェ、アルマァ!」
「はい、ですぅ!」
グッと足に力を込め―――キョーガがミロードに殴り掛かる。
予想外の速さに、ミロードが一瞬驚いたように眉を上げ―――すぐに表情を戻し、指を鳴らした。
それを合図に、紫色の魔法陣から『薄紫色の弾丸』が放たれ―――
「『血結晶技巧』、『紅弾』っ!」
アルマの声で赤黒い魔法陣が浮かび上がり、紅色の弾丸が放たれる。
アルマの弾丸とミロードの弾丸が衝突し―――アルマの弾丸が、ジュワッと溶けた。
「おいおいどんな毒だよォ……」
「キョーガ、飛ばしますよぉ!」
迫る毒弾の位置を瞬時に把握し―――ギュオッ!と加速して、アルマが縦横無尽に飛び回る。
太陽光が赤黒霧で遮られているからか、アルマの動きはいつにも増してキレキレだ。
「ふっ、ふうっ!ふうぅぅぅぅぅぅぅぅうっ!」
上下左右に飛び回るアルマ。
内臓が振り回される感覚に、目が回ると同時に吐き気を覚える。
『吐き気を感じるなんていつぶりだろう』と思いながら、キョーガは拳を握り締めた。
「オイアルマ、その害虫を放せ。お前まで巻き込んじまうだろうが」
「はっ、ふっ、いい、ですよっ。ボク、キョーガとっ、一心同体、ですからっ」
「一心……同体…………だと……?オイコラ害虫ぅ!てめぇ人の孫に何してくれてんだ殺すぞオイッ!」
血眼になるミロードが、飛び回るアルマに―――否。アルマに掴まれるキョーガに中指を立てる。
年が若くなると、口や仕草まで野蛮になるのだろうか。
「物騒なじいさんだなァ―――うおッ?!」
「口開いてるとっ、舌噛みますよぉ!」
「落ちろこのクソ野郎ッ!『紫毒の弾丸』ッ!」
「このっ―――『二重紅弾』っ!」
魔法を展開しながら飛び回り―――アルマがスピードを上げた。
どれだけ速くなるのか……アルマの顔には、まだ余裕が見られる。
「もういい……アルマごと、落ちろッ!」
「ボクをぉ、甘く見ないでくださいぃぃ!」
一気に増える紫色の魔法陣から、弾丸が放たれ―――対向するように、アルマも魔法陣の数を増やす。
そこから紅弾を放って、迫る毒弾を相殺。撃ち落とせなかった毒弾は、軌道を読む事で回避。
まさか避けられるとは思わなかったのか、ミロードの動きが一瞬止まった。
その間にアルマが距離を詰め―――
「―――キョーガっ!」
「もらっ―――たァああああああァああああああああァああああああああああッッ!!」
「ぐっ―――ッ?!」
握ったままの拳を突き出し―――ミロードがぶっ飛んだ。
『吸血邸』に向かって突っ込み……邸を破壊しながらさらに吹き飛んで行く。
「はっはァ!なかなかいいパンチ入ったんじゃねェかァ?!」
「……お祖父さんが吹き飛ぶ瞬間が来るなんて、想像した事もなかったですよぉ」
地面に降り、吹き飛んで行ったミロードを追いかける。
完全に崩壊してしまった邸を飛び越え、消えたミロードの姿を探そうとして―――キョーガの真横を、不可視の斬撃が走った。
「―――ッ?!……今のァ、サリスかァ……?!」
「サリス?……サリスも来てるんですぅ?」
「あァ、サリスと2人で来たんだがァ……そォいやァ、おめェの父ちゃんと戦ってたんだったなァ」
辺りを見回し……苦痛に顔を歪めているミロードの姿を確認する。
そして―――バラバラに斬り刻まれて絶命した『吸血鬼』の死体。
その血溜まりの中央。静かに剛爪を構えて見えない敵と戦う、笑みのない少女の姿を見つけた。
「ありゃァ……サリス、かァ……?」
「……妙ですよぉ……なんだか、怖いですぅ」
「あァ……変な感じだなァ……」
いつものニコニコ笑顔はどこへ……返り血を全身に浴びるサリスが、無表情のまま冷たく辺りに目を向けた。
そしてキョーガと目が合い―――ふっと、力が抜けたように笑みを浮かべた。
「―――あは~♪キョーちゃん、アルちゃんを見つけたんだね~♪よかったよかった~♪」
「あ……あァ……」
「ん~♪……それじゃ、こっちも終わらせよっかな」
まるで、テレビのチャンネルが切り替わるように……サリスの表情が、笑顔から無表情へと切り替わる。
その変化に悪寒を感じ―――その悪寒を上回る殺気を感じて、キョーガはミロードへと視線を向けた。
「てめぇ害虫……殺し合いの間に女と話すたぁ余裕があんじゃねぇかアアンッ?!」
「はっ、てめェとの殺し合いが楽しくねェからだろォがよォ……俺の気を引きてェんならァ、もうちっと頑張りなァ」
「クソ生意気な害虫だな……ッ!ますますブッ殺したくなるなオイッ!『紫毒の竜撃』ッ!」
―――ズズッと。
ミロードの足元に浮かぶ紫色の魔法陣から、見るからに危ない色のドラゴンが現れる。
全身が紫色という事から、あのドラゴンは全身が毒だろう。
「チッ……めんどくせェ―――なァッ!」
拳を握り、勢いよく突き出す。
その拳から放たれる拳圧で毒竜が吹き飛ばされ―――ビシャッ!と、辺りに毒が撒き散らされた。
いや、それだけでない。
上空に散った毒が……毒雨となってキョーガたちに降り注いだ。
「んなっ……?!殺しゃァ辺りに被害が出るって事かァ……!」
「厄介ですよぉ……キョーガ、毒を踏まないように気を付けてくださいよぉ」
「わかってるってのォ……サリスはどォだァ?」
「しっかり避けてますよぉ……でも、まだお父さんと戦ってるみたいですよぉ」
空から降り注ぐ毒雨を避けながら、サリスが虚空に剛爪を振り続ける。
ガキンッ!ガキィンッ!と、爪では出せないような音を立てている様子を見ると……まだレテインと戦っているようだ。
「任せっぱなしで悪ィなァ……」
「キョーガっ、飛びますよぉ!」
地面から足が離れ、アルマがキョーガを抱えて降りしきる毒雨を回避する。
飛んだアルマたちを追うように、ミロードも上空に舞った。
「アルマァ、あのじいさんにゃァ弱点とかねェのかァ?」
「そんな事いきなり言われましてもぉ……思い付きませんよぉ」
「まァ、そりゃそォかァ……」
と、ミロードが急加速し、キョーガへと迫る。
いつでも迎撃できるように拳を構え―――ミロードの手元に、小さな魔法陣が浮かんだ。
「―――『紫毒の液剣』ッ!」
「うっ―――やぁあああああっ!」
毒剣と拳が交差する―――寸前、アルマが急激に高度を落とした。
落下するようにして攻撃を回避し、旋回しながら体勢を立て直す。
「チッ―――待てや害虫ッ!」
「危ねェ危ねェ……すまねェアルマァ」
「だいっ、じょぶですぅ!」
グッと高度を上昇させ、円を描くように飛んでミロードから距離を取る。
無理な飛び方をしたからか、少し辛そうだ。
―――さて、どうするか。
パワーもスピードも、こちらに分がある。
だが……アルマの祖父は、その差を魔法の技術で補っている。
さすがは『紅眼吸血鬼』にしてアルマの祖父……長年生きている分、あちらの方が戦闘慣れしている。
なら……どうやって攻撃を入れるか。
簡単な話だ―――意識の外から攻撃すればいい。
相手が予想している範囲の、さらに外から攻撃を仕掛ける―――!
「『紫毒の竜撃』ッ!」
ズズッと現れる毒竜。
声帯が無いからか、毒竜が声にならない雄叫びを上げ、キョーガたちに突っ込んだ。
対するアルマは、高度を落とす事で毒竜を避けようとして―――
「―――ぁ……えっ?」
抱き締めていた手を、振り払われた。
突然の出来事に、少し呆然として―――落下していくキョーガを見て、我を取り戻す。
なんで振り払われたのかわからないが、あのままじゃキョーガが―――
「……毒竜の毒は、毛穴から侵入する……体外から体内へ入り……身体中の細胞を、死滅させる」
翼を打ち、キョーガの手を取ろうとするが―――遅い。
「……死ね害虫……いや、『反逆霊鬼』」
「ぐっ―――がァああァああああァああああああああああああああッ?!」
―――毒竜に呑み込まれるキョーガが、絶叫を上げた。
ギラギラと輝く『紅眼』が、キョーガを睨み付ける。
「……なァ、なんでおめェのじいさん若返ってんだァ?」
「『血力解放』は、『紅眼吸血鬼』のみが使える特殊能力で……自身が最も力を発揮できる年齢に変身できるんですよぉ……でも、長い時間は変身していられないはずですぅ」
「……つまりィ、あっちとしては早めに勝負をつけてェってわけかァ」
「そういう事ですぅ」
背中に抱きつくアルマが、上空を飛ぶ祖父を見上げて眉を寄せる。
「……お祖父さんがすみません……」
「はァ?なァに謝ってんだァ?」
「……お祖父さんは、何故かボクの事を可愛がってくれてて……それが原因で、今こうなってるんですけどぉ」
「……ま、じいさんがおめェを嫌ってなくて良かったってしか思わねェなァ」
首の骨を鳴らすキョーガの額に、『紅角』が現れる。
「ああん……?額に生える深紅の角……てめぇ、まさか害虫じゃなくて『反逆霊鬼』か?」
「んっだよ今さら気づいたのかァ?」
「……はん。まさか『反逆霊鬼』と戦う事になるとはな……歳は取ってみるもんだ―――『紫毒の弾丸』」
辺り一面を、紫色の魔法陣が覆い尽くす。
「はァ……魔法かァ……」
「気を付けてくださいよぉ。お祖父さんの『毒魔法』は、食らえば即死だと思ってくださいぃ」
そう言われても……と、キョーガは上空に浮かぶ祖父を見上げ、小さく舌打ちする。
―――相手は魔法を使う。それに、空を飛べる。
対する俺は、魔法も使えないし空も飛べない。
……だがここには、魔法が使えて空も飛べる少女がいる。
ちら、と横目で背後を確認し―――アルマと目が合った。
自信満々で『何でも言ってくれ』と言わんばかりに眼を輝かせており……思わず苦笑を浮かべた。
「……アルマァ」
「はい!」
「俺を抱えて飛べるかァ?」
「もっちろんですよぉ!」
バサッと黒翼を広げ、ギュッと抱き締める力を強める。
「……おっし……行くぜェ、アルマァ!」
「はい、ですぅ!」
グッと足に力を込め―――キョーガがミロードに殴り掛かる。
予想外の速さに、ミロードが一瞬驚いたように眉を上げ―――すぐに表情を戻し、指を鳴らした。
それを合図に、紫色の魔法陣から『薄紫色の弾丸』が放たれ―――
「『血結晶技巧』、『紅弾』っ!」
アルマの声で赤黒い魔法陣が浮かび上がり、紅色の弾丸が放たれる。
アルマの弾丸とミロードの弾丸が衝突し―――アルマの弾丸が、ジュワッと溶けた。
「おいおいどんな毒だよォ……」
「キョーガ、飛ばしますよぉ!」
迫る毒弾の位置を瞬時に把握し―――ギュオッ!と加速して、アルマが縦横無尽に飛び回る。
太陽光が赤黒霧で遮られているからか、アルマの動きはいつにも増してキレキレだ。
「ふっ、ふうっ!ふうぅぅぅぅぅぅぅぅうっ!」
上下左右に飛び回るアルマ。
内臓が振り回される感覚に、目が回ると同時に吐き気を覚える。
『吐き気を感じるなんていつぶりだろう』と思いながら、キョーガは拳を握り締めた。
「オイアルマ、その害虫を放せ。お前まで巻き込んじまうだろうが」
「はっ、ふっ、いい、ですよっ。ボク、キョーガとっ、一心同体、ですからっ」
「一心……同体…………だと……?オイコラ害虫ぅ!てめぇ人の孫に何してくれてんだ殺すぞオイッ!」
血眼になるミロードが、飛び回るアルマに―――否。アルマに掴まれるキョーガに中指を立てる。
年が若くなると、口や仕草まで野蛮になるのだろうか。
「物騒なじいさんだなァ―――うおッ?!」
「口開いてるとっ、舌噛みますよぉ!」
「落ちろこのクソ野郎ッ!『紫毒の弾丸』ッ!」
「このっ―――『二重紅弾』っ!」
魔法を展開しながら飛び回り―――アルマがスピードを上げた。
どれだけ速くなるのか……アルマの顔には、まだ余裕が見られる。
「もういい……アルマごと、落ちろッ!」
「ボクをぉ、甘く見ないでくださいぃぃ!」
一気に増える紫色の魔法陣から、弾丸が放たれ―――対向するように、アルマも魔法陣の数を増やす。
そこから紅弾を放って、迫る毒弾を相殺。撃ち落とせなかった毒弾は、軌道を読む事で回避。
まさか避けられるとは思わなかったのか、ミロードの動きが一瞬止まった。
その間にアルマが距離を詰め―――
「―――キョーガっ!」
「もらっ―――たァああああああァああああああああァああああああああああッッ!!」
「ぐっ―――ッ?!」
握ったままの拳を突き出し―――ミロードがぶっ飛んだ。
『吸血邸』に向かって突っ込み……邸を破壊しながらさらに吹き飛んで行く。
「はっはァ!なかなかいいパンチ入ったんじゃねェかァ?!」
「……お祖父さんが吹き飛ぶ瞬間が来るなんて、想像した事もなかったですよぉ」
地面に降り、吹き飛んで行ったミロードを追いかける。
完全に崩壊してしまった邸を飛び越え、消えたミロードの姿を探そうとして―――キョーガの真横を、不可視の斬撃が走った。
「―――ッ?!……今のァ、サリスかァ……?!」
「サリス?……サリスも来てるんですぅ?」
「あァ、サリスと2人で来たんだがァ……そォいやァ、おめェの父ちゃんと戦ってたんだったなァ」
辺りを見回し……苦痛に顔を歪めているミロードの姿を確認する。
そして―――バラバラに斬り刻まれて絶命した『吸血鬼』の死体。
その血溜まりの中央。静かに剛爪を構えて見えない敵と戦う、笑みのない少女の姿を見つけた。
「ありゃァ……サリス、かァ……?」
「……妙ですよぉ……なんだか、怖いですぅ」
「あァ……変な感じだなァ……」
いつものニコニコ笑顔はどこへ……返り血を全身に浴びるサリスが、無表情のまま冷たく辺りに目を向けた。
そしてキョーガと目が合い―――ふっと、力が抜けたように笑みを浮かべた。
「―――あは~♪キョーちゃん、アルちゃんを見つけたんだね~♪よかったよかった~♪」
「あ……あァ……」
「ん~♪……それじゃ、こっちも終わらせよっかな」
まるで、テレビのチャンネルが切り替わるように……サリスの表情が、笑顔から無表情へと切り替わる。
その変化に悪寒を感じ―――その悪寒を上回る殺気を感じて、キョーガはミロードへと視線を向けた。
「てめぇ害虫……殺し合いの間に女と話すたぁ余裕があんじゃねぇかアアンッ?!」
「はっ、てめェとの殺し合いが楽しくねェからだろォがよォ……俺の気を引きてェんならァ、もうちっと頑張りなァ」
「クソ生意気な害虫だな……ッ!ますますブッ殺したくなるなオイッ!『紫毒の竜撃』ッ!」
―――ズズッと。
ミロードの足元に浮かぶ紫色の魔法陣から、見るからに危ない色のドラゴンが現れる。
全身が紫色という事から、あのドラゴンは全身が毒だろう。
「チッ……めんどくせェ―――なァッ!」
拳を握り、勢いよく突き出す。
その拳から放たれる拳圧で毒竜が吹き飛ばされ―――ビシャッ!と、辺りに毒が撒き散らされた。
いや、それだけでない。
上空に散った毒が……毒雨となってキョーガたちに降り注いだ。
「んなっ……?!殺しゃァ辺りに被害が出るって事かァ……!」
「厄介ですよぉ……キョーガ、毒を踏まないように気を付けてくださいよぉ」
「わかってるってのォ……サリスはどォだァ?」
「しっかり避けてますよぉ……でも、まだお父さんと戦ってるみたいですよぉ」
空から降り注ぐ毒雨を避けながら、サリスが虚空に剛爪を振り続ける。
ガキンッ!ガキィンッ!と、爪では出せないような音を立てている様子を見ると……まだレテインと戦っているようだ。
「任せっぱなしで悪ィなァ……」
「キョーガっ、飛びますよぉ!」
地面から足が離れ、アルマがキョーガを抱えて降りしきる毒雨を回避する。
飛んだアルマたちを追うように、ミロードも上空に舞った。
「アルマァ、あのじいさんにゃァ弱点とかねェのかァ?」
「そんな事いきなり言われましてもぉ……思い付きませんよぉ」
「まァ、そりゃそォかァ……」
と、ミロードが急加速し、キョーガへと迫る。
いつでも迎撃できるように拳を構え―――ミロードの手元に、小さな魔法陣が浮かんだ。
「―――『紫毒の液剣』ッ!」
「うっ―――やぁあああああっ!」
毒剣と拳が交差する―――寸前、アルマが急激に高度を落とした。
落下するようにして攻撃を回避し、旋回しながら体勢を立て直す。
「チッ―――待てや害虫ッ!」
「危ねェ危ねェ……すまねェアルマァ」
「だいっ、じょぶですぅ!」
グッと高度を上昇させ、円を描くように飛んでミロードから距離を取る。
無理な飛び方をしたからか、少し辛そうだ。
―――さて、どうするか。
パワーもスピードも、こちらに分がある。
だが……アルマの祖父は、その差を魔法の技術で補っている。
さすがは『紅眼吸血鬼』にしてアルマの祖父……長年生きている分、あちらの方が戦闘慣れしている。
なら……どうやって攻撃を入れるか。
簡単な話だ―――意識の外から攻撃すればいい。
相手が予想している範囲の、さらに外から攻撃を仕掛ける―――!
「『紫毒の竜撃』ッ!」
ズズッと現れる毒竜。
声帯が無いからか、毒竜が声にならない雄叫びを上げ、キョーガたちに突っ込んだ。
対するアルマは、高度を落とす事で毒竜を避けようとして―――
「―――ぁ……えっ?」
抱き締めていた手を、振り払われた。
突然の出来事に、少し呆然として―――落下していくキョーガを見て、我を取り戻す。
なんで振り払われたのかわからないが、あのままじゃキョーガが―――
「……毒竜の毒は、毛穴から侵入する……体外から体内へ入り……身体中の細胞を、死滅させる」
翼を打ち、キョーガの手を取ろうとするが―――遅い。
「……死ね害虫……いや、『反逆霊鬼』」
「ぐっ―――がァああァああああァああああああああああああああッ?!」
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