不良の俺、異世界で召喚獣になる

ibis

3章5話

「あ………………あァ……?」
「あは~♪なっつかし~♪」

 目の前にそびえ立つ、大きな扉。
 アバンの使っていた『サイクロプス』が2匹縦に並べば、てっぺんに届くか、届かないか……そのくらい、大きい。

「ここァ……『サモンワールド』かァ?」
「あはっ♪正確には、『サモンワールド 地獄門前』って感じかな~♪」
「地獄……へェ、地獄ねェ」

 興味深そうに地獄への扉を見上げるキョーガ……と、サリスがどんどん先に進んでいる事に気づき、慌ててその後を追う。

「なんだァ、サリスがこの場所が嫌いなのかァ?」
「ん~……♪嫌いって言うか、ちょっと居心地が悪いって言うか……♪あたし、門番の仕事をすっぽかして召喚獣になってるからさ♪」
「あァ……ま、さぼってたら気まずいわなァ」
「さ、さぼってるわけじゃないけど……♪」

 走るサリスを追いながら、キョーガは辺りの光景を横目で確認する。

 ―――わけがわからん。
 なんで大陸が宙に浮いている?あれはなんだ、浮遊大陸ってやつか?しかも、その大陸の上に建造物が見えるし。
 それに、なんで何もない所から水が流れ落ちて、滝ができている?
 なんだここは?物理常識が通用しないのか?重力はどうなっている?大気圧は?

「キョーちゃん♪一応、『吸血鬼ヴァンパイア』の特性について説明しておくねっ♪」
「あァ、頼む」
「えっとね~……こっちの『吸血鬼ヴァンパイア』も、太陽が出ている間は力が制限されるよ~♪」
「……だったらァ、太陽が出てる間に終わらせたらァ」
「う~ん♪そういうわけにもいかないんだよねっ♪」

 走りながら、サリスが困ったように眉を寄せる。

「んだよどういう事だァ?」
「アルちゃん以外にも、『紅眼吸血鬼ヴァンパイア・ロード』がいるんだよ♪」

 ニコニコと笑うサリス……その笑顔は、少し引きつっているように見せる。

「……つまりィ、太陽が出てもあの『赤い霧』が出るからァ、太陽での弱体化は望めねェって事かァ」
「そゆこと♪しかも、その『紅眼吸血鬼ヴァンパイア・ロード』が強いんだよ~♪……それこそ、あたしじゃ相手にならないくらいに……ねっ♪」

 ひたすら整備されていない道を走り―――森の中に入った。
 見た事のない召喚獣がウロウロしているが……観察している暇はない。

「だから、あたしがアルちゃんのお父さんの相手をするっ♪姿を消すあいつは、キョーちゃんには天敵でしょ♪」
「………………チッ……しゃァねェ。だがァ、きっちり殺せよォ?」
「あっはぁ~♪……言われなくても、だよっ♪……その代わり、『紅眼吸血鬼ヴァンパイア・ロード』の相手は任せるからねっ♪」
「あァ……踏み潰してェ、ぶっ殺したらァ」

 と、眼前に崖が現れる。
 どうやって越えるのか―――と、キョーガが勢いよく飛び上がった。
 後を追うように、サリスが崖を駆け上がって乗り越え、スピードを殺す事なく走り続ける。

「それと♪『吸血鬼ヴァンパイア』は数が多いんだよ♪たぶん、アルちゃんのお父さんを含めて……20匹はいたはず♪」
「多いなァ……なんとかならねェかァ?」
「無理だね♪……アルちゃんのお父さんは、『エクスプロード家』っていう、『死霊族アンデッド』の中でもとても大きな権力を持つ家系なの♪だから……『吸血鬼ヴァンパイア』は絶対あっちの味方になるよ♪」
「はーめんどくせェなァ……っつーかァ、よく知ってんなァ?」
「あは♪『蒼き眼の吸血鬼』……アルちゃんのお父さんは、なかなか有名だからね~♪」

 今度は海に出た。
 海岸に沿って走り―――と、辺りに召喚獣の姿が見えなくなっている事に気づく。

「……なんか雰囲気わりィなァ」
「……もうここら辺は、『吸血鬼ヴァンパイア』の縄張りだからね~♪好きこのんでこの辺をうろつく召喚獣はいないよ~♪」
「なるほどなァ……いつ襲われてもおかしくねェって事かァ」
「うん♪……キョーちゃん。念のために言っておくよ♪」

 どんどん雰囲気の悪い方向に進み……再び、森に入った。

「……『紅眼吸血鬼ヴァンパイア・ロード』は、伝説の『死霊術士』が使役していた召喚獣で、『反逆霊鬼リベリオン』と肩を並べて戦ってたの♪」
「はっ、まァた『死霊術士』かよォ」
「そして……史上3回目の『神殺し』をした種族でもあるから……無理は、しないでね♪」

 『神殺し』。
 それはアルマが教えてくれた言葉で、神と呼ばれる最強の種族、『神精族デウスロード』を殺す事をす。
 つまり―――過去に『神殺し』をした2匹が、肩を並べて『死霊術士』のために戦っていた2匹が―――今日、激突しようというのだ。

「……上等……!」
「う~ん♪心配は要らなさそうだね♪……そろそろ、『吸血邸』に着くよ♪」

 そう言って、スピードを上げる―――と、辺りに凄まじい轟音が響き渡った。
 直後、森の奥から火の玉が迫り―――

「ちィ―――おらァッ!」

 圧倒的破壊をもたらす拳が、火の玉を正面から打ち消した。
 ―――森の奥に、空を飛ぶ何かが3匹ほどいる事に気づく。

「はっ……出迎えたァご苦労なこったァ」
「あは~♪いきなり『炎魔法』ぶっぱなしてくるなんて、ずいぶんな挨拶だね~♪」

 キョーガのひたいから『紅角』が生え、サリスの口元が獰猛に歪む。

「……るぞサリスゥ」
「うん♪っちゃお~♪」

―――――――――――――――――――――――――

「どうした、久しぶりの我が家だぞ?もう少し喜んだらどうだ?」

 冷たい牢獄の中。
 幼い青髪の『吸血鬼ヴァンパイア』は……二度と戻りたくなかった場所に帰ってきた。 

「にしても……まさかアルマクスが召喚獣として召喚されるとはな……私も召喚獣としてあちらの世界に召喚されていなかったら……アルマクスを失う所だった」

 うつむくアルマから、返事はない。

「まあどうでも良い。お前は、この『エクスプロード家』を継がなければならない……わかるな?」

 うつむくアルマから、返事はない。

「私は、父上から『紅眼吸血鬼ヴァンパイア・ロード』の力を継げなかった……だが、お前は『紅眼吸血鬼ヴァンパイア・ロード』に選ばれたのだ」

 うつむくアルマから、返事はない。

「誇れアルマクス。お前は強くなれる。父である私を越える事ができるのだ」

 うつむくアルマから、返事はない。

「それに、お前の『結晶魔法』は強力だ……訓練を積めば、父上すらも追い抜く事ができるだろう」

 うつむくアルマから、返事はない。

「わかるな?お前は期待されているのだ……死んだ妻も、お前が強くなる事を望んでいる」

 うつむくアルマから、返事はない。

「私を越え、父上を越え、そして『死霊族アンデッド』のおさとなり、この『サモンワールド』を支配する……調子に乗っている、忌まわしき自称神どもを引きずり降ろす事もできる」

 うつむくアルマから、返事はない。

「―――なんじゃ『レテイン』。帰っていたのか」
「父上……はい、先ほど帰ってきました」

 牢獄への扉が開かれ―――そこから、年老いた男性が現れる。

「ふむ……お前の教育は、相変わらず変わっているな」
「はっ……しかし、これはアルマクスのため。そして、今後の『死霊族アンデッド』のためなのです」

 爛々と輝く『紅眼』に、赤い紋様が入った黒い翼。そして、アルマやレテインと比べ物にならないほどに鋭い牙。
 『ミロード・エクスプロード』……アルマの祖父、レテインの父にして、『紅眼吸血鬼ヴァンパイア・ロード』なる者。

「……相変わらずお前は、『神精族デウスロード』に殺された妻の事を……」
「ええ、まあ……私は、『神精族デウスロード』を絶対に許せない。この世界の頂点に立って、『神精族デウスロード』を殺す……本当は、私が戦いたいのですが……」

 自身を恨むように唇を噛み、拳を震わせる。

「……私は、『紅眼吸血鬼ヴァンパイア・ロード』に選ばれませんでした……しかも、私の使える魔法は『幻魔法』……戦闘に向かない弱小魔法です」
「……だから、アルマを戦わせる、と?」
「はっ……それしか、方法がないのです。父上は老いてしまい、私は戦闘に向かない……ならば、アルマクスに全てを任せるしかないのです」
「それは、お前の望みだろう?……アルマの気持ちは、どうなる」
「……………」

 ミロードの言葉に、レテインは黙り込む。
 ……レテインも、わかっているのだ。
 自身の目的のために、実の娘を使うなど……父親として、失格だと。

「……だが、私は……私には、お前が必要なのだ、アルマクス」

 すがるようにアルマを見つめ、言葉を投げ掛ける。

 ―――うつむくアルマから、返事はない。

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