不良の俺、異世界で召喚獣になる

ibis

2章8話

「……あっ、はぁ~……♪痛い……痛ぁ~いねぇ~♪」

 赤黒い雲の下。
 6機の『機巧族エクスマキナ』と対峙しているサリスが、左腕をダランとぶら下げたまま、ニコニコとこの場に相応ふさわしくない表情を浮かべながら立っていた。
 だが……その笑みは、どこか無理しているように見える。
 笑みが苦痛に歪んでいる理由は……だらしなくぶら下がった左腕が原因だ。
 白く美しかったサリスの左腕は……まるで炎であぶられたかのように、黒くなっていた。

「【惨殺】【惨殺】【惨殺】【惨殺】【惨殺】」
「【抹殺】【抹殺】【抹殺】【抹殺】【抹殺】」
「【即殺】【即殺】【即殺】【即殺】【即殺】」
「【悪殺】【悪殺】【悪殺】【悪殺】【悪殺】」
「【滅殺】【滅殺】【滅殺】【滅殺】【滅殺】」
「【瞬殺】【瞬殺】【瞬殺】【瞬殺】【瞬殺】」

 両腕両足が剣の『機巧族エクスマキナ』2機が。
 全長1メートル以上の大きな銃を構える、2機の『機巧族エクスマキナ』が。
 片腕を剣に、片腕を銃に変化させた『機巧族エクスマキナ』2機が……サリスを囲み、無表情のまま敵意を剥き出しにしていた。

「あっ、はぁ……♪分身は簡単にられちゃうし……♪ほんと、参っちゃうねぇ~♪」
「「―――『裁きの光線ジャッジメント・レイ』」」
「あ~もうしつこいなあっ♪『追撃の風爪エア・クロウ』っ♪」

 スナイパーライフルのような物から放たれる光線―――その威力は、朝方キョーガたちを襲った『偵察機』とは比べ物にならない。
 対するサリスは、構えた右腕から不可視の斬撃を放つ。
 例えようのない轟音が響き―――光線と風爪がお互いを打ち消し、辺りを異様なほどの静寂が覆った。

「……【絶殺】 近接攻撃組、攻撃開始」
「「「【駆除】【掃討】【破壊】」」」
「あっは……♪ほんと、キョーちゃんが可愛く見えるほどの物騒さだね~♪……ふぅ~……」

 高速で接近する4機の『機巧族エクスマキナ』―――それに対し、サリスは大きく息を吐いた。
 それはまるで、意識を集中させるような。大技を出す前のルーティーンのような。そんな姿で―――

「そうだよね……楽しんでばかりはいられないよね」

 まばたきをする間もないほんの一瞬。
 『殲滅組2班』と『殲滅組3班』は―――初めて獲物の姿を見失った。
 それを認識すると同時……4機いたはずの近接攻撃組が、1機減っている事に気づく。

「……リリちゃんたちと一緒にいると、やる事全部が楽しくて当然みたいになるからダメだな~」

 ―――と、背後から声が聞こえた。
 感情なんて無いはずの機械の顔が驚愕に染まり……視線の先には、『機巧族エクスマキナ』の体を力任せに引きちぎる、『地獄番犬ケルベロス』の姿があった。
 あの両腕両足が剣の機体は……近接攻撃組だったはずの1機だ。

「……つまらないけど、久しぶりに本気で頑張ろっかな」

 そう言って舌舐めずりをするサリスの顔には―――いつもの笑顔が無かった。

―――――――――――――――――――――――――

「……なんだァこいつ。大した事ねェなァ」
「ふむ……瞬殺だったな」

 ボロボロになった『機巧族エクスマキナ』を見下ろし、キョーガが『期待外れだ』と言わんばかりに肩をすくめた。

 ―――戦いにすらなっていなかった。
 『反逆霊鬼リベリオン』と『紅眼吸血鬼ヴァンパイア・ロード』を相手に回した『機巧族エクスマキナ』は……すべも無く、2人の圧倒的な暴力の前に沈んだ。

「それにしても……キョーガ、頭が痛いのか?」
「んァ?……あァ、ちっとなァ」

 『機巧族エクスマキナ』を粉砕している間―――アルマは、キョーガの様子が変だという事に気づいた。

「ふむ……無理はするな、ボクに任せておけ」
「ざっけんな俺も楽しませろよォ、頭いてェ以外は調子いいんだァ……ってかよォ、おめェそんな強くなれんならァ、なんで昨日『金欲竜ファフニール』と戦った時にそれ使わなかったんだァ?」
「……言っても怒らないか?」
「あァ?………………なんだよおい、怒られるような事したのかァ?」
「いや……うん、まあ、そんな感じだ」

 大人姿のアルマが、見た目に似合わぬ仕草を見せる。
 その仕草はまるで、幼い子どもが親に悪い報告をするような……そんな姿だ。
 『喋り方と見た目は大人だが、中身は完全に幼いアルマだな』とか思いつつ、キョーガが続きを言えと顎をしゃくった。

「……日課の吸血……あれから『血力けつりょく』という特殊な力を貯めていた。ボクは『血力』を消費して、この姿を維持しているんだ」
「………………それが怒るような内容かァ?」
「いやっ、その……早く『血力』を貯めるために、いつもちょっと多めに吸っていたと言うか……」
「おいてめェどういう事だァ」

 ギロッとアルマを睨む。

 ―――キョーガは、血を吸われるのを怖がっている。
 肉体に関しては無敵のキョーガだが……血液の量は、普通の人より多い程度なため、吸われ過ぎると普通に死ぬ。
 そのため、アルマにはいつも『必要最低限だけしか吸うな』と言って、アルマも『はい、わかりましたよぉ』と言っていたのだが……今のアルマの発言は、その約束を守っていない事を自白したと同じだ。

「ほ、本当にすまない……でも、結果として、こうやって戦えてるから……その……ゆ、許してくださいよぉ……」
「ざっけんなよおいコラァ……てめェ約束守ってなかったんかァ?」
「ちっ、違うんですよぉ……いえ、違くないんですけどぉ……あのっ、そんな怖い眼で見ないでくださいぃ……謝りますから、許してくださいよぉ……」

 先ほどまでの威厳のある姿はどこへやら。これじゃいつもの頼りないアルマだ。というか、ちょっと誤魔化せばいいのに、なんでアルマは全部正直に言ったのだろうか。
 続けざまに文句を言おうと、キョーガが口を開くが―――何故か舌打ちしながら口を閉じる。

「チッ……運がいいロリ吸血鬼がァ……」
「【発見】 『偵察機』の報告にあった『人類族ウィズダム』と『紅眼吸血鬼ヴァンパイア・ロード』の姿を確認」

 両腕両足が剣の『機巧族エクスマキナ』。
 左腕に巨大な銃が備え付けられている『機巧族エクスマキナ』。
 両腕がそれぞれ剣と銃の『機巧族エクスマキナ』。
 そして―――その3機の前に立つ、少女の姿をした『機巧族エクスマキナ』。
 合計4機の『機巧族エクスマキナ』が、キョーガとアルマの前に降り立った。

「おいアルマァ、続きァ帰ってからたっぷりと話し合おうかァ……今ァ目の前に集中すっぞォ」
「あうぅ……おとがりなんですねぇ……」

 不敵に笑うキョーガと、泣きそうに肩を落とすアルマ―――と、次の瞬間にはキョーガの姿が消えていた。

「はっ―――はァ!」
「【駆除】【掃討】【破壊】」

 瞬間的に距離を詰めたキョーガが、両腕両足が剣の『機巧族エクスマキナ』に襲い掛かった。
 迫るキョーガに対し、剣を振り下ろす事で獲物を真っ二つにしようとするが―――

「ふっ―――らァッ!」

 振り下ろされた剣を正面から握り、そのまま握力で握り潰した。
 『パキッ』と軽い音が響き、折れた刀身がクルクルと宙を舞う。
 予想外の展開に『機巧族エクスマキナ』が一瞬だけ思考停止し―――その隙を見たキョーガが、思いきり『機巧族エクスマキナ』を地面に叩き付けた。
 一瞬の間に仲間が殺られた事に驚いたのか、少女が驚いたように目を見開き、すぐにキョーガへの警戒を深める。

「……【理解不能】 お前は何者だ?」
「あァ?別に誰だっていいだろォがァ……そういうお前ァ、『機巧族エクスマキナ』の親玉だなァ」
「【肯定】 当機は『指示者コマンダー』、全ての『機巧族エクスマキナ』に命令を出す機体」
「わざわざ出て来てくれて助かるぜェ……てめェをぶっ壊して、さっさと帰りてェと思ってたんだよォ」
「【嘲笑】 当機に勝つ事は不可能。死ぬ前に降伏して、当機たちのために魔力供給を手伝った方が身のためだと警告」

 無表情のまま、淡々と告げる『機巧族エクスマキナ』に向け、キョーガは凶悪な笑みを見せた。

「てめェに勝つ事は不可能だァ?冗談にしちゃァ笑えねェがァ、機械にも冗談が言えるたァ驚きだぜェ」
「【否定】 冗談ではない。当機は真面目に話している」
「真面目にねェ……そうだなァ、勉強不足のポンコツにィ、良い事教えてやるよォ」

 口元を大きく歪め、キョーガが言い放った。

「―――たかだか創造物機械がァ、創造者人間に勝てるわけねェだろォが」
「【感知】 敵意の大幅増加を確認。『殲滅組1班』は『紅眼吸血鬼ヴァンパイア・ロード』の相手を。当機はこの『人類族ウィズダム』の相手をする―――『戦闘体バトルフォーム』、展開」

 機械的変化を遂げる『指示者コマンダー』を前に、キョーガとアルマは尋常ならざる殺気を放ち始める。

「……行くぜアルマァ!」
「はい、です!」

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