不良の俺、異世界で召喚獣になる
1章2話
「俺が……『死霊族』だァ?」
「はい。『反逆霊鬼』は『死霊族』に分類されます」
「……その『死霊族』って、なんなんだァ?」
「えっと……種族、みたいな……?」
ふわっとした回答に、キョーガは首をひねる。
―――現在、リリアナの暮らす国へと移動している最中。
そこに行きながら、キョーガはこの世界の一般常識をリリアナに聞いていた。
しかし、さすがは異世界。
元の世界に似ている所が多いが、今みたいに噛み合わない知識がいくつか存在するのだ。
「種族かァ……他にはどんなのがあんだァ?」
「えっと……『人類族』以外には『獣人族』や『竜族』、他にも多数存在します」
「……わっけわかんねェなァ……」
「うーん……でも、説明の仕方が……」
「まァいいやァ……そんなのイチイチ気にしてたらァ、頭おかしくなっちまいそォだァ」
ガシガシと乱暴に頭を掻き、キョーガが苦笑を浮かべる。
「……それで……えっと……」
「あァ?」
「……さっき言った事……お願いできますか?」
上目遣いのリリアナが、おずおずと尋ねる。
―――さっき言った事とは。
キョーガが種族について聞く前、リリアナが申し訳なさそうにお願いしてきたのだ。
リリアナは『召喚士』の学院に通っているらしい。
テストや授業態度は学院トップ……なのだが。
その学院は、召喚獣がいないと卒業できないとのこと。
そもそも、召喚獣を召喚できないのがおかしいらしいのだ。
どんだけ才能がない人間でも、下級の召喚獣くらいは召喚できるのだ。
だからこそ、リリアナは無能と呼ばれている。
「……キョーガさんがいれば、無事に学院を卒業できます……だから……その……」
「あのなァ……俺ァ一応、てめェの召喚獣って事になってんだろォ?なら命令すりゃいいじゃねェかァ。さっきしたみてェになァ」
「……命令はできる限りしたくないんです」
少し悲しそうにしながら、リリアナが続ける。
「その……私、無能ですから……召喚できたのが、初めてなんです」
「……で?」
「……初めてできた『友だち』なので……命令なんて、したくないんです……」
『友だち』―――その言葉を聞いた瞬間。
―――キョーガの眼から温度が消えた。
「……甘ェなァ」
「甘い……ですか?」
「あァ……甘過ぎてイライラすんぜェ」
絶対零度の視線をリリアナに向けたまま、キョーガが続ける。
「てめェは仮にも『召喚士』なんだろォが……んな甘ェ事言ってんから、今まで召喚できなかったんじゃねェかァ?」
「そ、そんな事ないですよ!私はただ、キョーガさんと仲良くなりたくて……」
「はっ、俺と仲良くだァ?寝言は寝て言えや。『鬼神』の俺と仲良くなりてェやつなんて……この世にゃいねェよォ」
「私がいます!私、キョーガさんと仲良くなりたいです!」
ぴょんと手を上げるリリアナに、キョーガは思わずため息を吐いた。
―――このため息は、呆れのため息ではない。
キョーガは気づかぬ内に、思い出していたのだ……自分の過去を。
『近寄るなよ『改造人間』!』
『うわ、化け物が来たぞー!逃げろ逃げろー!』
『『改造人間』!お前死なないんだろ?ならちょっと飛び降りてみろよ!』
『ははっ、いいなそれ!』
『『『飛ーべ!飛ーべ!飛ーべ!飛ーべ!』』』
……キョーガは、どこに行っても1人だった。
だから―――怖いのだ。
目の前の少女が、無警戒に信頼してくる事が。
だが……怖いと同時、キョーガの胸には理由のわからない温かい気持ちがあった。
「……物好きが……俺ァ知らん。勝手にしろ」
「はい!勝手にします!」
ぶっきらぼうに言い放つキョーガ……だが、その声には確かな優しさがあった。
無意識の内に、思ったのだろう。
―――こいつは、信頼できる人物だと。
「……あ、着きましたよ!」
リリアナの声に、キョーガが眼前の建物を見上げた。
グルリと円形に囲ってある外壁―――人工的に作られたと、一目でわかる。
「……この国の名前はァ?」
「『プロキシニア』です……『召喚士』の割合が多い国ですよ」
「んでェ?このまま学院に行くのかァ?」
「はい!召喚獣を召喚できたと先生に知らせれば、もう卒業できますから!」
―――――――――――――――――――――――――
「……リリアナ、この者は?」
「あ、私の……その……一応、召喚獣です」
はっきりと召喚獣とは言わない辺り、本気でキョーガの事を『友だち』と思っているのだろう。
「そうか……名前は?」
「キョーガだァ……」
「ふむ……種族は?」
「えっとォ……なんだっけなァ、『死霊族』だとか言われたなァ」
「『死霊族』……?」
教師の男が、驚いたようにキョーガを見る。
その視線を不快に感じるキョーガ……本能的に教師の男を睨んだ。
キョーガの視線に気づいた教師が、慌てたように続けた。
「しょ、召喚獣名は?」
「召喚獣名……?あァ、『反逆霊鬼』とか言われたなァ」
「り、『反逆霊鬼』だと……?!リリアナ、本当か?!」
「はい。キョーガさんは『反逆霊鬼』です」
リリアナの言葉を聞いた教師が、再びキョーガを見る。
―――今、キョーガが思っている事は1つだ。
すなわち、『言いたい事があるんならとっとと言えやぶん殴るぞコラ』である。
静かに怒るキョーガ……しかし、キョーガもバカではない。
ここで思いのまま暴れれば、リリアナに迷惑を掛ける事は理解している。
キョーガは今まで、人に優しくされた事がない。
だからこそ、こう思うのだ。
『俺に優しくしてくれるこいつは良いやつだ。だから迷惑は掛けられない』と。
「……リリアナを信じないわけではないが……ふむ、そうか……『反逆霊―――」
「『セシル』せんせー、課題を出しに来ました―――あ?」
「あっ……」
喋る教師の声を遮り、1人の生徒が職員室の中に入ってきた。
その少年を見たリリアナの顔が、引きつった。
キョーガは瞬時に理解する。
―――こいつはリリアナの敵だ。
「……邪魔だよ退けよ無能。通れないだろうが」
「『アバン』さん……すみません、すぐに退きますね」
無能。
何度もリリアナの口から聞いた、蔑み。
なぜだろうか。
今キョーガの心を支配しているのは―――理由のわからない『怒り』だった。
「あっ……え?」
「何してんだよォリリアナァ……退く必要ねェだろォがァ」
その場を退こうとするリリアナの手を握り、キョーガは入ってきた少年を睨み付けた。
その視線、絶対零度。
睨まれる者を震え上がらせる捕食者の視線。
―――睨まれた少年は、動けなかった。
いや、少年だけではない。
近くにいた教師も、声を出す事ができなかった。
キョーガから手を握られるリリアナなんて、緊張で呼吸すらできていなかった。
「……おうてめェ……後から入ってきてェ、随分とまァ偉そォじゃねェかァ?―――頭吹っ飛ばされてェのかクソガキがァ」
空間が殺気に満たされる。
仲の良い友人同士ならば、冗談だと笑い合えるような言葉だ。
だが……今のキョーガの眼を見て、声を聞いて、気配を感じて。
―――誰が冗談だと笑えるだろうか。
「は……ははっ……なんだお前?……そうか、リリアナの召喚獣だな?よかったなリリアナ、無能のお前にも召喚獣が―――」
「口を閉じろガキがァ。五体満足で人生送りたいんならなァ」
「き、キョーガさん、ちょっと落ち着いて……」
リリアナの声に、キョーガの怒りが少し収まる。
だが―――その眼は、真っ直ぐに少年を捉えていた。
「ふ、ふーん?そう、僕と戦るの?」
「……へェ……俺と殺る気かァ?」
「そこまでにしておけ……続きは、試合場でやれ」
教師の言葉に、キョーガが眉を寄せた。
……試合場……?
「先生……それは……私に『召喚対戦』を?」
「うむ……その者の召喚獣名が本当なら、アバンにも勝てるだろう」
「は、ははっ。君が何者か知らないけど、僕の召喚獣には勝てないよ」
「……リリアナァ」
「え?わ、私が決めるんですか?」
驚いたようにキョーガを見るリリアナに、思わずまたため息が出た。
「あのなァ……さっきも言ったがァ、おめェは『召喚士』なんだろっがよォ。決めるのは俺じゃねェ、おめェだろォがァ」
この時、キョーガは気づいていなかった。
国に入る前は、『てめェ』と呼んでいたのに、今は『おめェ』になっていた事に。
―――少しずつ。
少しずつではあるが、キョーガはリリアナに心を開きつつあるのだ。
「……や、やります……」
「よし……それでは場所を変えよう」
「はい。『反逆霊鬼』は『死霊族』に分類されます」
「……その『死霊族』って、なんなんだァ?」
「えっと……種族、みたいな……?」
ふわっとした回答に、キョーガは首をひねる。
―――現在、リリアナの暮らす国へと移動している最中。
そこに行きながら、キョーガはこの世界の一般常識をリリアナに聞いていた。
しかし、さすがは異世界。
元の世界に似ている所が多いが、今みたいに噛み合わない知識がいくつか存在するのだ。
「種族かァ……他にはどんなのがあんだァ?」
「えっと……『人類族』以外には『獣人族』や『竜族』、他にも多数存在します」
「……わっけわかんねェなァ……」
「うーん……でも、説明の仕方が……」
「まァいいやァ……そんなのイチイチ気にしてたらァ、頭おかしくなっちまいそォだァ」
ガシガシと乱暴に頭を掻き、キョーガが苦笑を浮かべる。
「……それで……えっと……」
「あァ?」
「……さっき言った事……お願いできますか?」
上目遣いのリリアナが、おずおずと尋ねる。
―――さっき言った事とは。
キョーガが種族について聞く前、リリアナが申し訳なさそうにお願いしてきたのだ。
リリアナは『召喚士』の学院に通っているらしい。
テストや授業態度は学院トップ……なのだが。
その学院は、召喚獣がいないと卒業できないとのこと。
そもそも、召喚獣を召喚できないのがおかしいらしいのだ。
どんだけ才能がない人間でも、下級の召喚獣くらいは召喚できるのだ。
だからこそ、リリアナは無能と呼ばれている。
「……キョーガさんがいれば、無事に学院を卒業できます……だから……その……」
「あのなァ……俺ァ一応、てめェの召喚獣って事になってんだろォ?なら命令すりゃいいじゃねェかァ。さっきしたみてェになァ」
「……命令はできる限りしたくないんです」
少し悲しそうにしながら、リリアナが続ける。
「その……私、無能ですから……召喚できたのが、初めてなんです」
「……で?」
「……初めてできた『友だち』なので……命令なんて、したくないんです……」
『友だち』―――その言葉を聞いた瞬間。
―――キョーガの眼から温度が消えた。
「……甘ェなァ」
「甘い……ですか?」
「あァ……甘過ぎてイライラすんぜェ」
絶対零度の視線をリリアナに向けたまま、キョーガが続ける。
「てめェは仮にも『召喚士』なんだろォが……んな甘ェ事言ってんから、今まで召喚できなかったんじゃねェかァ?」
「そ、そんな事ないですよ!私はただ、キョーガさんと仲良くなりたくて……」
「はっ、俺と仲良くだァ?寝言は寝て言えや。『鬼神』の俺と仲良くなりてェやつなんて……この世にゃいねェよォ」
「私がいます!私、キョーガさんと仲良くなりたいです!」
ぴょんと手を上げるリリアナに、キョーガは思わずため息を吐いた。
―――このため息は、呆れのため息ではない。
キョーガは気づかぬ内に、思い出していたのだ……自分の過去を。
『近寄るなよ『改造人間』!』
『うわ、化け物が来たぞー!逃げろ逃げろー!』
『『改造人間』!お前死なないんだろ?ならちょっと飛び降りてみろよ!』
『ははっ、いいなそれ!』
『『『飛ーべ!飛ーべ!飛ーべ!飛ーべ!』』』
……キョーガは、どこに行っても1人だった。
だから―――怖いのだ。
目の前の少女が、無警戒に信頼してくる事が。
だが……怖いと同時、キョーガの胸には理由のわからない温かい気持ちがあった。
「……物好きが……俺ァ知らん。勝手にしろ」
「はい!勝手にします!」
ぶっきらぼうに言い放つキョーガ……だが、その声には確かな優しさがあった。
無意識の内に、思ったのだろう。
―――こいつは、信頼できる人物だと。
「……あ、着きましたよ!」
リリアナの声に、キョーガが眼前の建物を見上げた。
グルリと円形に囲ってある外壁―――人工的に作られたと、一目でわかる。
「……この国の名前はァ?」
「『プロキシニア』です……『召喚士』の割合が多い国ですよ」
「んでェ?このまま学院に行くのかァ?」
「はい!召喚獣を召喚できたと先生に知らせれば、もう卒業できますから!」
―――――――――――――――――――――――――
「……リリアナ、この者は?」
「あ、私の……その……一応、召喚獣です」
はっきりと召喚獣とは言わない辺り、本気でキョーガの事を『友だち』と思っているのだろう。
「そうか……名前は?」
「キョーガだァ……」
「ふむ……種族は?」
「えっとォ……なんだっけなァ、『死霊族』だとか言われたなァ」
「『死霊族』……?」
教師の男が、驚いたようにキョーガを見る。
その視線を不快に感じるキョーガ……本能的に教師の男を睨んだ。
キョーガの視線に気づいた教師が、慌てたように続けた。
「しょ、召喚獣名は?」
「召喚獣名……?あァ、『反逆霊鬼』とか言われたなァ」
「り、『反逆霊鬼』だと……?!リリアナ、本当か?!」
「はい。キョーガさんは『反逆霊鬼』です」
リリアナの言葉を聞いた教師が、再びキョーガを見る。
―――今、キョーガが思っている事は1つだ。
すなわち、『言いたい事があるんならとっとと言えやぶん殴るぞコラ』である。
静かに怒るキョーガ……しかし、キョーガもバカではない。
ここで思いのまま暴れれば、リリアナに迷惑を掛ける事は理解している。
キョーガは今まで、人に優しくされた事がない。
だからこそ、こう思うのだ。
『俺に優しくしてくれるこいつは良いやつだ。だから迷惑は掛けられない』と。
「……リリアナを信じないわけではないが……ふむ、そうか……『反逆霊―――」
「『セシル』せんせー、課題を出しに来ました―――あ?」
「あっ……」
喋る教師の声を遮り、1人の生徒が職員室の中に入ってきた。
その少年を見たリリアナの顔が、引きつった。
キョーガは瞬時に理解する。
―――こいつはリリアナの敵だ。
「……邪魔だよ退けよ無能。通れないだろうが」
「『アバン』さん……すみません、すぐに退きますね」
無能。
何度もリリアナの口から聞いた、蔑み。
なぜだろうか。
今キョーガの心を支配しているのは―――理由のわからない『怒り』だった。
「あっ……え?」
「何してんだよォリリアナァ……退く必要ねェだろォがァ」
その場を退こうとするリリアナの手を握り、キョーガは入ってきた少年を睨み付けた。
その視線、絶対零度。
睨まれる者を震え上がらせる捕食者の視線。
―――睨まれた少年は、動けなかった。
いや、少年だけではない。
近くにいた教師も、声を出す事ができなかった。
キョーガから手を握られるリリアナなんて、緊張で呼吸すらできていなかった。
「……おうてめェ……後から入ってきてェ、随分とまァ偉そォじゃねェかァ?―――頭吹っ飛ばされてェのかクソガキがァ」
空間が殺気に満たされる。
仲の良い友人同士ならば、冗談だと笑い合えるような言葉だ。
だが……今のキョーガの眼を見て、声を聞いて、気配を感じて。
―――誰が冗談だと笑えるだろうか。
「は……ははっ……なんだお前?……そうか、リリアナの召喚獣だな?よかったなリリアナ、無能のお前にも召喚獣が―――」
「口を閉じろガキがァ。五体満足で人生送りたいんならなァ」
「き、キョーガさん、ちょっと落ち着いて……」
リリアナの声に、キョーガの怒りが少し収まる。
だが―――その眼は、真っ直ぐに少年を捉えていた。
「ふ、ふーん?そう、僕と戦るの?」
「……へェ……俺と殺る気かァ?」
「そこまでにしておけ……続きは、試合場でやれ」
教師の言葉に、キョーガが眉を寄せた。
……試合場……?
「先生……それは……私に『召喚対戦』を?」
「うむ……その者の召喚獣名が本当なら、アバンにも勝てるだろう」
「は、ははっ。君が何者か知らないけど、僕の召喚獣には勝てないよ」
「……リリアナァ」
「え?わ、私が決めるんですか?」
驚いたようにキョーガを見るリリアナに、思わずまたため息が出た。
「あのなァ……さっきも言ったがァ、おめェは『召喚士』なんだろっがよォ。決めるのは俺じゃねェ、おめェだろォがァ」
この時、キョーガは気づいていなかった。
国に入る前は、『てめェ』と呼んでいたのに、今は『おめェ』になっていた事に。
―――少しずつ。
少しずつではあるが、キョーガはリリアナに心を開きつつあるのだ。
「……や、やります……」
「よし……それでは場所を変えよう」
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