どやすべ

奥嶋光

⑨あの町へ

小千谷駅から電車に乗り、長岡から新幹線に乗って東京に戻る、東京メトロに乗り換えあの町へ向かう。
しかし僕はこの間の事は覚えていない、何処にどう出頭しようと考え緊張していた。
覚えているのは人が多くて暑いなあという事だけ、もう夏目前なのだ。
昼下がりにはその町の駅に着いた、どうしようかと駅前を歩く。
ロータリーに駅前交番があるけど直ぐには入れない、何回も行ったり来たりしてしまう。
怖い、どうしよう、お母さんお父さんおじいちゃん、胸がドキドキして苦しくなる。
たまらず駅に隣接したロッテリアに駆け込む、緊張感からか胃がムカムカして食欲は無かった。
胃をなだめる為にシェーキのヨーグルト風味だけ頼むと交番が見える窓際の席に座った。
交番の見ながら行こう行こうとするが足が向かわない。シェーキを吸いながら張り込みの刑事のように交番を見てるしかなかった。
交番の前ではたまに警察官が出てきて立ったりしていた、その制服の威力に僕は圧倒されて出ていけない。
気を紛らわすように自分の罪はどれ位の処罰になるのかスマフォで調べたりした。
結局2時間程シェーキ一杯で粘りながら僕は決めた、よし 行こう。もう逃げないで向き合うんだ。
自首をする為一直線に交番に向かう、その交番は三角屋根の年季の入った平屋だった。
ちょうど入り口で立番してる警察官はおらず僕は緊張しながらも戸を開ける、胸が飛び出しそうな思いだった。
戸を開けると中には警察官が2人いた。

警察官「こんにちは、どうしました?」緊張してどんな顔だか年頃だかも覚えていない。警官の制服と帽子を着用しているのっぺらぼうにしか見えない。
不思議な感覚で僕は頭が真っ白になった。
僕「あのっ…  道を教えて下さい…。」
僕はとっさに嘘をついてしまった、怖くなったのだ。
警察官「はい、どちらまでですか?」
僕「……………」
警察官「どうしました?」
僕はとっさについた嘘をつき続ける事が出来ず黙り込んでしまった。
緊張、恐怖が入り混じりどうしても口から言葉が出ない。
僕「あのっ… えーっと… そのっ…」「…………」完全に僕は動揺していた。
その内に警察官同士で、「どうした?」「いや、こちらの方が道を尋ねてきたのですが様子がおかしくて。」「どうしたんだろな。」「んっ?署から回ってきた不審者情報の男の写真に似てる気が…。」「確かにこんな雰囲気だ。」「署に確認して刑事課に応援を。」
ヒソヒソ…  ヒソヒソ…。
やばい、僕は怖くなって交番から立ち去ろうとした。そんな僕を察してか警察官が出口に立ち、行く手を阻む。
警察官「ちょっとお兄さん、聞きたい事有るから座ってもらえる?身分証とかあるかな?」
僕「あっ… はい。」座らされた僕は観念した、終わったな…。そう思うとどこかホッとした自分がいた。
しばらくすると刑事が大勢来て乗って来た捜査車両で警察署に連れて行かれた。
何でこんな大勢で来るんだ?不謹慎だけど僕のような人間が大勢の人に注目されているというのがちょびっと嬉しかった。
警察署に連れてかれた僕はすぐに自白した、自分で決めて実行するよりも他人に促されて罪を認めるのは驚く程楽だった。
けどそれをするのは勇気がいることだ、僕は一度は自首すると決めたけど最後の最後で逃げて嘘をついてしまった。
そんな情けなさを懺悔するかのように事件の事を自白した。
取り調べや現場検証がひと段落して留置所に入れられると、ああ 僕はこれからどうなるんだろう?いつまで身柄拘束されるのかな?両親にもこっぴどく怒られるだろうな。きっと10代最後の夏はシャバで過ごせないだろうな。
蝉じゃないけど、塀の中でじっくり考えて自分に向き合ってしっかり反省してちゃんと成長してから外に出よう。
外に出る事ができたら不器用でもいい勇気を持って人に気持ちを伝える事のできる大人になろうと思った。
その手段は暴力ではなく、相手の事を思いやれる言葉で。



6月下旬でまだ蝉は鳴いていないが、もう夏が来る。そう思いながら僕は深く思った。


〜完〜

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