どやすべ

奥嶋光

⑤鯉の町

あれっ?長岡駅から出てロータリーに出ると僕はがっかりした。なんだ思ったよりも都会だな、田舎の景色で僕の傷を癒したかったのに。
なんとなく長岡に来たのは花火大会が有名と聞いた事があるから、漠然と綺麗なものを見れるんじゃないかと思った。
けど夏前のこの時期じゃ花火なんか見れる訳もない、時間だってまだ3時過ぎの明るい時間だ。
さっきの東京駅ではそんな余裕がなかったのだ、僕はその場で周りをキョロキョロ見回すと駅に引き返した。
どうしようかな、在来線に乗り換えるか。僕は小千谷という名前が気になって上越線に乗る事にした。
小さな千の谷?田舎の風景が思い浮かんだ、そこなら今の僕のが求めている風景がありそうだと思った。
上越線で揺られながらスマフォで調べると小千谷は錦鯉が有名のようだ。
そういや、おじいちゃん錦鯉好きだったな。広い家に池を作って錦鯉を眺めて、のんびり暮らせたらどんなに幸せかと。
小さい頃の僕がおじいちゃんに「僕が大きくなったらそのおうち作ってあげるね!」って言うと、おじいちゃん嬉しそうな顔してたな。その後でミニストップでソフトクリーム買ってくれた、美味かったな。
ガタンゴトン、川がすぐ近くに見えるようになると小千谷にはすぐに着いた。
改札を出ると良さげな風景が飛び込んだ、道が真っ直ぐ続く先に山が見える。
あんまり栄えてない感じの街並みが心地よさを感じた。
なんだありゃ?鯉のでかい口に人が吸い込まれてる、近づいてみてみると錦鯉の形をした地下通路の入り口だった。驚きながらも僕は階段を降り山の方向に歩を進めた。
両側のステンドグラスを抜けると地上よりいくらか涼しい。
鯉から吐き出された僕はスマフォで小千谷を調べた、錦鯉の里というのがあるらしい。歩きだと20分位か、行ってみよう。
デカイ川を超え行ってみると立派な施設だった、でかい水槽に沢山の錦鯉が泳いでたり、庭園の池が沢山あって中では悠然と泳いでる。錦鯉って鮮やかな色が何色も泳いでて綺麗だな、見ていると心が落ち着いて来る。
僕は今年の冬二十歳を迎える来年の1月には地元で成人式がある、きっと振袖を着てくる大勢の女子達はこんな感じで綺麗なんだろうな。今見ている錦鯉と成人式で見れるであろう女子達が重なった。
けど、この先の事を思うと心が落ち着くどころか落ち込んでくる、はぁ〜。
落ち込んだ気持ちを抱えつつ僕は錦鯉の里を後にした。さっき超えて来たデカイ川を見に行きたくなった。
信濃川というらしい、少し歩いて川辺を探す。川が良く見える場所を見つけると、陽がだんだん落ちていくのを感じながら腰を下ろした。

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