どやすべ

奥嶋光

①全力疾走

僕は走る、疾る、はしる。
無我夢中、胸はバクバク、前からきた自転車とぶつかりそうになりながら。
小雨が顔にあたる、顔が濡れる、風を浴びて気化熱で涼しくなる。
久しぶりのダッシュで脚は疲れて熱くなってきたけど頭は冷やされて落ち着いてきた。
いつ以来だ?この本気走りは。陸上部だった高校以来だろうな。
けど今は陸上大会に出た時以上の緊張感がある。
そんな事を思い返しているとハッと気づく。そうだ!捨てないと、上着に着てるシャツとリュックを。
暑いんだ、重いんだ、もっと身軽になりたい。速く走りたい、遠くに行きたい。
走るのやめてピンク色したアパートのゴミ捨て場に捨てた、走りやすくなった、よーし。
また走り出すと線路にぶち当たる。僕は左に曲がる、広い歩道が次のレーンだ。ヨーイどんっ。
線路が右側に見える、後ろからきた電車が相手だ。負けるもんか、全力で走る、駅をゴールにしよう。
息が切れてきた、あー きつい、電車にはすぐ抜かれた。くそっ、なにくそ、駅までは走り抜けるぞ。
うわあああああぁぁぁぁーーーっ、駅に着いた時には汗が垂れていた、暑い。タイムは?距離は?
頭空っぽで走ったが無心ではない、邪念があった。
僕は悪い事をしたんだ、走っていたのはトレーニングでもレースでもない、逃走ってやつだ。
オレンジ色のタクシーが目に飛び込んだ、額の汗を左手で拭いながら近づくと後ろのドアが開いたので勢い良く乗り込んだが頭をぶつけた、ゴチんっ。
息を切らしながら、ぶつけた頭を右手で押さえながら言った。


「東京駅まで」

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