フェンリル

ノベルバユーザー239614

脱出

九十九「あ、貴方は……」

九十九はこれまでにないほどガクガクしていた。

時雨「誰なんですか?」

九十九「国防軍最高司令部参謀長官、枝吉唐ノ助少将!!」

枝吉『やぁ、今回の件で少し話がある。』

九十九「な、なななんでしょう。」

枝吉『現在、自衛隊がやけに騒がしくなっているが、君たちが関与しているのかね?』

枝吉の威圧感のある声に九十九はひたすらビクビクしていた。

九十九「そ、それは……」

枝吉『どうなんだ?』

九十九「はい!!我々です!!」

威圧感のある声、それに対抗できずに九十九は問いかけに即答した。

枝吉『はぁー、何やってるんだ。また俺がフェンリルフォースの始末書を片付けねえといけねえじゃねえか。』

九十九「すみません。」

枝吉『お前ら、この前動画サイトのコメ欄で煽ってきた奴の住所特定して家を蜂の巣にしてきただろ。』

九十九「すみません。」

枝吉『桜木から金をぼったくりした風俗店に武装させて桜木を投入してただろ。』

九十九「すみません。」

枝吉『火虎は公用の資金を無許可で持ち出してBARで酒飲むし、志礼は自分の銃を無許可で改造するし、桜木は言わずもがな、大和はおでんの屋台で飲んだくれてツケ払い、犬神はそもそも喋らんから何を考えてるのかわからんし、倉須も復讐の為に勝手に尋問するし、御手洗だってなんでこんな所にいるんだ。黒崎は忠実すぎて少し可哀想だ。まともなのはベルナルドだけじゃないか。』

九十九「え、私は??」

枝吉『君はよく働いている、しかし志礼としょっちゅう言い合いしてるだろ?』

九十九「くっ……」

枝吉『どれだけ不祥事を隠蔽するのに手間がかかると思ってる!!新聞社やテレビ局、はてまた海外メディアへの口止め料!!国防軍が破産する!!』

枝吉の愚痴に九十九はグウの音も出なかった。
それだけ酷すぎたのだった。

枝吉『まあよい、今回は倉須のそれの件もあるしな。』

九十九「弥生ちゃんのことですか?」









【同刻、成田空港】

アリア「はぁ、はぁ、化け物。」

倉須「そうですね、この時のためにずっと国防軍に居座ったんです。化け物と言われても仕方ありませんね。」

もはや二人の勝負は着いていた。
アリアにとても反撃する力などなかった。

アリア「でもね、私は死なない。たとえ死んだとしてもCIAの誰が私の意思を継いでくれる。」

倉須「足が震えていますよ?」

アリア「CIAは例え最後の一人になっても戦い続ける!国の為ならいつまででも戦い……」

倉須「そういうのやめて貰えません?」

より一層眼差しを強くした倉須にアリアは一瞬だけ何かで突き刺されたかのような感覚に襲われた。

倉須「最後の1人までとか、血肉を削ってでも戦うだとか、痛みに弱い人間なのに非現実的な妄想を浮かべながら戦う意思と勘違いする。そんなのは闘志とは呼ばない、ただの悪あがきですよ。」

アリア「五月蝿い!!」

倉須「貴方みたいな人間は本当に不愉快です。自分の業を背負おうともしない、自分が犯した罪を償おうともしない。自分がどれだけ人を苦しめたかも分からない。」

倉須はナイフをアリアの首元にそっと当てた。
アリアはガクガクと震えている。

倉須「はっきり言って最低ですね、貴方のような人間はドブ水でも啜ってるのがお似合いです。」

アリア「……私を殺すのか?」

倉須「勿論。」

アリアは即答されていよいよ死ぬのだと実感した。
倉須もいよいよ殺せるのだと血が滾っていた。

倉須「では…さようなら。」

火虎『倉須!!撤退しろ!!』

ナイフを振り上げた途端に火虎の無線が聞こえた。

火虎『ここは自衛隊に包囲された。すぐに総戦力で突破する。』

倉須「しかし!!ここに生き残りが!!」

火虎『無力化さえできればそれでいい!!とにかく撤退する!!』

倉須「……………分かりました。」

倉須は震える右手を抑えながらナイフを片付けた。

倉須「命拾いしましたね、でも私は諦めない………お前を確実に殺す……。」

そう言い残すと倉須はアリアの武器を取り上げて管制塔へと向かった。
アリアは最後の殺すという一言にまだ震えていた。
その様はまるで恐怖症にかかったかのようだった。










志礼「さて、戦車大隊がいるのにどうやって抜け出すのかね?」

大和「今日は爆薬は持ってきてへんぞ。」

桜木「正面突破!!猪突猛進だろ!?」

志礼「お前が喋ると話が捻れるから黙ってろ。」

フェンリルフォースは全員が管制塔の真下に集合していた。
怪我人は何人もいたが、奇跡的に死亡者は居なかった。

ベルナルド「さてと、戦闘ヘリはまだ来ていないな。それなら対処出来る。」

作戦立案のプロであるベルナルドが作戦を考案した。

ベルナルド「奴らのことだ、正面突破はないとタカをくくっているはずだ、恐らく飛行場側面の方が敵は多い。」

志礼「どこにいたって一緒だろ?正面突破なんてどのみち無理だろ。」

黒崎「そうっすよ、正面が薄いからってやすやすと正面突破は出来ないですよ。」

ベルナルドはバックパックから缶を取り出した。

ベルナルド「これを使う。」

志礼「閃光手榴弾?」














自衛隊「武装勢力に告ぐ、我々自衛隊はこの空港を完全に包囲した!!直ちに降伏し、投降せよ。従わない場合は武力を持って制する!!我々は政府から武装勢力の射殺を許可されている。」

自衛隊は既に陣取りを終えてフェンリルフォースを待つばかりだった。

火虎「誰が降伏するかバーカ。」

フェンリルフォースは既に脱出の準備を整えていたが、志礼と桜木の姿だけが見えない。

ベルナルド「用意出来たか?」

志礼『出来た。』

ベルナルド「カウントダウン、3、2、1、今。」

ブッツン!!

突然空港の電気が全て消えた。
すぐに自衛隊は暗視ゴーグルを装着した。
その隙にフェンリルフォース全員がコンクリートの壁から外へ一斉に閃光手榴弾を投げた。

ピカッ!!

大量の閃光手榴弾は恐ろしい程の光を発した。

暗視ゴーグルで光が増大され、自衛隊の視界は一時的に塞がれた。

火虎「今だ!!行け!!」

目を抑える自衛隊の横をフェンリルフォース全員が走り抜けていく。

戦車には効いていなかったのか砲塔を皆の方に向ける。しかし、火虎がキャノピーから手榴弾を投げ込んで次々に制圧していく。

自衛隊「ぐぉぉ!!どこだ!!どこにいる!!」

自衛隊「糞!!目が!!」

叫び声をあげる自衛隊の横をまるで無視するかのようにすり抜けていく。

そしてフェンリルフォースは自衛隊の兵員輸送トラックを奪い取って逃げていった。

火虎「はっはっはっは!!まさかこんなのが成功するとはな。」

志礼「あいつら見たか?」

黒崎「ええ勿論。目が!!目が!!とか言ってたでしょぎゃははははは!!」

御手洗「面白くないですよ!!私だけ重量装備なんですから!!」

大和「桜木だけ屋根に張り付いてんぞ!!」

桜木「乗れねえ。」

皆楽しそうに話していたが、倉須だけは暗い顔をしていた。

黒崎「何かあったんですか?」

倉須「敵の中に父の仇がいたの。」

黒崎「あの女ですか。」

倉須「私が高校生だった頃、父は戦争派のやり口を忌み嫌って、国防派の支援を大々的におこなっていたの。」

黒崎は倉須の話を熱心に聴き込んでいた。

倉須「支持を得るために人々に戦争の壮絶な事実を伝え、戦争派が間違っていることを伝えようとしていたのです。やがて父が有名になり、演説などを開くようになると殺し屋などにも命を狙われるようになりました。そして、父が国防派として最後の演説を行った日、父は爆殺されました。」

黒崎「それが……」

倉須「あの女です。父をリモコン式の爆弾で爆殺したのです。あろう事かあの女は私の父の亡骸を見て大声で笑っていました。」

黒崎「……なんて女だ。」

倉須「確かに国防派が力をつければ戦争派とアメリカとのコネクトが途絶える危険があったため、国防派の要人を暗殺しようとするCIAの考えも分からなくはなかった。しかしあの女だけは許せない。」

倉須の目には涙が浮かんでいた。

倉須「血塗れになって、目を見開いて死んだ父をあの女は笑って見ていた。父のために感情的になったのはあれが初めてでした。」

黒崎は倉須の手に自分の手を重ねて言った。

黒崎「倉須さん、もっと俺達を頼ってください。倉須さんだけじゃ解決できないことも、皆でなら解決できるはずです。」

倉須「黒崎君…」

黒崎「俺は正直に言うと馬鹿です。でも、そんな馬鹿でも人の役にはたちたいんです。」

倉須「ありがとう、黒崎君は優しいのね。」

黒崎「え、え、え…そんなことは……」







志礼「銃持って青春なんてとんでもないですね。」

火虎「まあいいんじゃねえの?自由なのがフェンリルフォースの特色だろ?」

志礼「確かにそうですね。恐らくどこの世界の弱小部隊から精鋭部隊を集めてもここまで個性的な人間が集まってるのはここだけでしょうね。」

火虎がハンドルを握るトラックは、高速道路へと消えていった。

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