フェンリル

ノベルバユーザー239614

古い仇

倉須「どうもはじめまして。」

アリア「貴様。あの政治家の…」

倉須「そう、その件で少しお尋ねしたいことが。」

アリア「……生憎、掴んだ情報は話さないたちなんでね。」

成田空港は最早戦場と化していた。
大量の薬莢が滑走路に転がり、第一滑走路では飛行機がエンジンから火を吹いている。

御手洗「全く、弥生ちゃん何してるんだか。」

ズドドドドドドドドドドド!!

火虎『御手洗、敵が散開した。恐らくここを囲い込む。直ちに連中を精密に射殺せよ。』

御手洗「そんなこと言っても連中、なかなか遮蔽物から姿を現しません。流石は特殊部隊経験者ですよ。」

火虎『仕方がないな。弾丸はありったけ持ってきたんだ。牽制射撃でもして使い切っても構わん。』

御手洗「その言葉待ってました。」











【国防省】

国防大臣「なに!?成田空港で国防軍が銃撃戦!?」

国防相では既に成田空港のことが知れ渡っていた。

国防大臣「警察は何をしている。国防軍は我々からすれば正規の軍ではないのだ。言うなればテロリストと何ら変わらないのだぞ!!」

国防大臣「陸上自衛隊を配備しろ。最寄りの駐屯地から陸自普通科第二歩兵隊と第一戦車大隊、及びに第一特連隊を送り込め。この状況は最早特殊部隊のみでは収拾がつかん。」








【成田空港】

志礼「うわぁ、おっかねえ。」

桜木「あんな倉須見たの初めてだぜ。なあ?犬神。」

犬神「………」

志礼達は飛行機の陰から敵と交戦していた。
桜木だけ足元を歩いている蟻を見ている。

志礼「そんなことしてねぇでお前も手伝え馬鹿。」

桜木「どうせ俺なんて日本刀しか持ってないからな。」

志礼「だからピストルくらい持ってろって散々言っただろ!!なんで銃を握らねえんだ!!」

桜木「昔暴発して腕が千切れかけたんだぞ!!」

志礼「知るか!!メンテ不足だ!!あ、1人殺した。」

3人がかたまって交戦しているのに対し、少し離れた場所では倉須とアリアが戦闘を行っていた。

最早それは戦争というよりも格闘のようだった。

比較的に軽いサブマシンガンを武器とする倉須はスピードでアリアを蹂躙する。
しかしアリアも負けじと元特殊部隊の実力を発揮する。

倉須「………」

ダダダダドダダダダダダダタダダダ!!

アリア「………」

ズドドドドドドドドドドド!!

その戦闘もやがて両者の弾丸が尽き、完全に止まってしまった。

倉須「………仕留め損ねましたね。」

アリア「………なんて女。素人のくせに私を馬鹿にして。」

倉須「たかだか素人も殺せない人間が元特殊部隊。馬鹿馬鹿しい、いい加減私も暇じゃないので教えてもらいますよ?」

倉須は銃を捨て、左膝に入れておいた大型ナイフを取り出した。

倉須「人間というのは面白い生き物です。身体の一部を刺身にすれば知っている範囲での情報をポンポンと口にする。」

アリアもアサルトライフルを地面に置き、ホルスターからサイドアームのピストルを取り出した。

アリア「銃と刃物。どっちが強いと思う?」

倉須「使う人間によって変わります。このケースの場合、強いのは……私です。」

倉須はいきなりアリアに向けて走り出した。
その行為は周りから見ていた志礼達からすると自殺行為に等しく見えた。

志礼「倉須、何してる!!」

桜木「俺なら避ける!!」

志礼「聞いてねえよ馬鹿!!」

その行動はアリアからも同様、自殺行為に見えた。
倉須に銃を向けたアリアはニヤリと笑みを浮かべ3発ほど発砲した。

しかし、倉須はそれを狙っていた。
倉須はアリアの射線上から一瞬のうちに姿を消した。いや、消えたかのような素早い動きで射線を回避していた。

もちろん弾丸が倉須に当たるはずもない。

アリア「化け物め!!」

倉須「どうしました?そのままだと射撃戦で私と同じ実力なのに近接戦闘で私以下になってしまいますよ?」

倉須は狂気すら感じる目でアリアを見つめながらもアリアの攻撃を紙一重でかわしていく。
アリアは自分の周りをぴょんぴょんされているだけで疲れているのに対し、倉須は汗もかいていない。

アリア「死ね!!死ね!!」

カチャッ…

アリア「何!?スライドが…」

倉須「もらいです。」

倉須のナイフがアリアの右手の甲を切りつけた。

アリア「くっ!」

倉須「さて、その※サタデーナイトスペシャルの様な銃も使用出来ませんよ?貴方には何ができます?」

アリア「負けたわ、降参よ。」

アリアは武器を持っていないという証明のためにゆっくりとベルトを外し始めた。
しかし、それこそが罠だった。

アリア「油断したな!!」

パァン!!

ベルトのバックルには多数の穴が空いていて、ベルトそのものが隠しこみの銃だった。

アリア「小口径だけれども5発も喰らえば絶命は免れないわ。油断したのが運の尽きよ。」

倉須「言いたい事はそれだけ?」

仰け反って倒れてゆく倉須の右腕が一瞬激しく動いたと思うとザクッという音がした。

アリア「え??」

倉須「……流石にこの攻撃は予期していませんでした。ですが所詮は怠慢な女ですね。死を確認する前に勝ち誇った態度を見せるとは、だからこそ貴方は今、その深手を負っているのですよ?」

倉須の持っていたはずのナイフがアリアの左肩に深々と刺さっていた。

アリア「あ、ああ……」

倉須「刃渡り11センチの特注ナイフです。返してもらいますね?」

ブシャァ!!

アリア「ぐぉぁ!!」

倉須「さてと、そろそろ教えてくださいませんか?私の父の事。」

アリア「黙れ!!この女狐が!!」

倉須「やれやれ、減らず口は一級品ですね。」

ブシャァァ!!

倉須はアリアの左肩にナイフを突き刺した。
ナイフはさっきよりも深く入り込んでいる。

アリア「ギャァァ!!殺す!!殺してやる!!」

倉須「うるさい……うるさいです。まったくもって不愉快だ。貴方は私の父を殺めた時もそうやってうるさかった。逃げ惑う民間人の中で大きな声で笑っていたあなたを私は忘れない。」

アリア「倉須弥生ぃ!」

倉須「覚えていましたか、私の本名を、意外ですね。貴方みたいな輩は大抵殺した人間のことなんて忘れてるものですが。」

アリア「貴方の顔を見ると古傷が痛むのよ。」

アリアは戦闘服をまくり、腹部を露出させた。
そこには銃弾の跡が3発分残っていた。

アリア「貴方、あの時私の拳銃を奪って反撃してきたわよね?その時の傷よ。」

倉須「当時女子校生だった私に鉛を喰らった気分はどうでした?」

アリア「ええ、最悪よ。」









志礼「こっちは片付いたのに向こうはまだやってるぞ?あ、生き残り。」

パァァン!!

桜木「なんか因縁の対決って感じだな。」

犬神「…………」

既にこの3人は殆どの敵兵を仕留めていた。
倉須とアリアが戦闘している間に、3人が陽動となり、敵を引き付け、そこに総火力を叩き込んだ。

志礼「黒崎と御手洗の支援射撃は別格だな。よくあんな機関銃を扱えるよな。」

桜木「俺は銃なんてキライだ。」

志礼「ヤクザがテキトーに作ったような粗悪品使って、メンテもろくにしない奴が何言ってる。」

桜木「おい、あそこに敵がいるぞ。」

パァン!!

志礼「いっちょあがり、これで俺の勝ちだぞ犬神!!」

犬神「………。」










【北海道基地】

時雨「志礼大丈夫かな。」

九十九「アイツなら大丈夫よ。ここに来てからずっと心配されてたのにケロッとした顔で必ず帰ってくる。」

時雨「でも……」

まだ身体に痛みが残る時雨を看病しながら九十九は自衛隊の無線を盗聴していた。

時雨「彼が人を殺しているのがまだ信じられないの。」

九十九「私はもう慣れたわ。なんせ……」

九十九が突然黙った。

時雨「どうかしました?」

九十九「少し黙って。……」

無線機『今日、30分前に国防長官が自衛隊の出撃を命令。今回の成田空港での銃撃戦は警察では対処不可能と判断し、武装組織である国防軍戦闘部隊包囲のために戦車隊及びに歩兵連隊を展開。現在出撃命令が出ているのは普通科第二歩兵隊、第一戦車大隊、第一特科連隊。更に戦闘ヘリなども出撃準備を整え、現在は待機状態である。万が一武装組織が航空手段を使うのであれば戦闘ヘリから速やかに攻撃を行う手筈となっている。なお、この連絡は既にほかの部隊へも行き届いているため連絡網として回すことは不要。』

九十九「マズイわね。」

九十九はこれまでにないほど険しい表情をしていた。

九十九「ベースから前線へ緊急報告!!」

火虎『なんだぁ?こっちは今いいところなんだぞ?』

無線に火虎がすぐさま反応した。

九十九「何のんきなこと言ってるんです!!銃撃戦で自衛隊が集まってますよ!!」

火虎『は?今なんて?』

九十九「だから!!大事おおごとにしすぎて自衛隊が成田空港に向かったんですよ!!」

火虎『なんだって!?最悪じゃないか!!到達時間は?』

九十九「不明です。敵規模は普通科第二歩兵隊に第1戦車大隊に第一特科連隊。更に制空権確保と対地攻撃用の戦闘ヘリ数機。」

火虎『はぁー……』

無線越しに火虎のため息が聞こえた。
このため息が出るということはそれなりに追い詰められている証拠でもあった。

火虎『まあいい。』

火虎の適当な感じの言葉に九十九は一瞬言葉が出なかった。

九十九「今、なんて言ったんです?」

火虎『まあいいって言ったが?』

九十九「信じられない!!このまずい状況で『まあいい』ですって!?仲間を殺す気?どうせ生きて帰ってきたとしてもいつもの皆だけでしょ!!」

火虎『まあいいと言ったのはだな。ここに逃げ遅れた民間人数百名が居る。』

九十九「それを人質に取ろうってんですか!?」

火虎『違うって!!民間人保護を最優先で行わせて防御のうすくなったところから逃げていくんだよ。まあみんな無事に帰るさ。ぶつっ……』

火虎は無線を一方的に切ってしまった。

九十九「はぁ、何してるんだか。」

九十九が呆れていると無線が繋がった。今度は成田空港ではなかった。

九十九「はい、こちら北海道基地。あ、貴方は……」







※サタデーナイトスペシャルとはギャングやヤクザが使っているようなメーカー不明の粗悪な銃のこと。
海外では土曜日の夜にこの銃で撃たれた患者が続出したためこのような名前となった。

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