フェンリル

ノベルバユーザー239614

ホワールウィンド

真夜中、北海道に新設された基地の軍港に志礼達が鹵獲した船団が入港した。

火虎「お、お疲れ様。」

志礼「ただ今帰還しました。」

志礼を出迎えたのはフェンリルフォースの隊長である火虎忠影大佐と作戦立案のベルナルドだった。

志礼「被害報告書です。」

志礼は表情一つ変えずに報告書を火虎に渡した。

火虎「戦死者0、重症15名、軽傷34名、重体が1名。思ったよりも被害が出なかったな。敵の損害は?」

志礼「皆殺しです。」

火虎「やっぱりお前がいるとそうなるわな。」

火虎は笑いながらタバコに火をつけて吸い始めた。
息を吸って煙を吐くと、火虎は笑いながら志礼に歩み寄った。

火虎「今回のことはあくまでも俺の独断だ、告げ口するなよ?」

志礼「心得ています。」

志礼は丁寧に返事を返した。
報告書を提出し、やることを終えた志礼は兵舎に帰ろうとしていた。

既に真夜中、大規模作戦がなければ見張り以外はみんな寝ている時刻だった。

志礼はその場を立ち去ろうとしたが、火虎に呼び止められた。

火虎「少しだけ新設された施設に来てくれ。」

志礼「なんですか?」

火虎「悪いが、ここではまずい。」

火虎が来いと言ったのは新設された巨大な施設だった。
そこには何があるかわからないが、貨物船から運び出された積荷がそこに運び込まれたのを横目で見ていた志礼はそれかと思った。

何せコードネームがつくほどの装置がその船団に運ばれていたからだ。

志礼はすぐに施設に向かった。


施設に入ると巨大なドーナツ状の装置が置いてあった。

全高は6~7メートル程ある。

志礼「こ、これは?」

火虎「コード名アメリカンAAホワールウィンドつむじかぜ。つむじ風はその意志のままに好きなように吹き、好きなように物を舞わせる。」

志礼はそのホワールウィンドを見てただ黙り込んでいた。

驚きのあまり声も出なかった。

火虎「九十九つくもが自衛隊の無線や電報、通信網を完全に監視した上でやっと見つけた輸送システムだ。上層部は輸送システムだとたかを括っていたが、あの老害連中はこいつの恐ろしさを知らないんだ。」

火虎はそう言うとホワールウィンドの横に増設されているタンクを指さした。

志礼「あのマークは!!」

タンクには放射線を意味するマークが記されていた。

火虎「こいつの動力源は放射線、それも臨界点ギリギリのウランだ。」

志礼「連中、こんな危険なものを。」

火虎「危険なのは放射線ではない、ホワールウィンドこいつの性能だ。」

火虎は吸っていたタバコを捨てて続けた。

火虎「俺も理解に苦しむ、こいつは人間などの輸送目的物の細胞や粒子を傷つけないように分解し、それを放射線で光に近い速度まで加速させ、それを目的の場所に飛ばすというものらしい。」

この突拍子もない話に勿論志礼は着いていけていない。

火虎「それで輸送するだけならまだしも、こいつはアメリカンAA社の説明によれば過去にも物を飛ばせるらしい。」

志礼「信じられない。まるでファンタジーです。」

火虎「そうだろう、俺も信じられなかったよ。でも開発元のアメリカンAA社が公表してるんだ。それだけじゃない、ちゃんとした論文まで発表されてる。」

志礼は溜息をつきながら兵舎に今度こそ戻ろうとした。

火虎「ホワールウィンドこいつが届かないことに気がつくのは奴らの力だと三日後位か、そこから更に敵の特定で1週間以内に自衛隊やつらが攻め込んでくるぞ。」

志礼「分かっています。」

志礼は相変わらずぶっきらぼうな返事を返して兵舎に戻っていった。

火虎「根は良い奴なんだが…」










志礼「はぁ…」

兵舎の自室に戻った志礼は即座にパンイチになってベッドに寝転がった。

少し経つと志礼の頭の中で声が聞こえた。

???「………カエシテ……」

志礼「な、何だ。誰だ。」

???「………ユウザイハンケツトスル。」

その声は次第にハッキリと聞こえるようになっていった。

???「弁護のしようがありませんね。」

志礼「??」

???「被告人は前へ。」

志礼「この感じ、どこかで…」

志礼は何となくどこかで感じたことのある雰囲気を感じていた。

志礼「まさか、この感じ…」

志礼は気が付くと変な台の上に立っていた。
目の前には何人もの初老の男達がスーツを着て座っている。

何か書いた板が男達の前に立ててあった。

志礼「検察官?これ、裁判か?」

裁判官「被告人は前へ。」

裁判官の声につられて志礼は前に出た。

裁判官「被告人、雪風志礼。君が彼を殺したのか?」

裁判官の質問に志礼は黙っていた。
この質問がいつのことを表すかはわかっていたのに声が出なかった。

検察官「裁判長、答えられないというのは事件を犯してしまった思春期の青年にはよくある話です。もし本当にしていなかったらすぐに否定できるはずです。」

志礼「………」

検察官はすぐに証拠写真を出した。
これも見覚えがあった。

写真には顔面が完全に潰された学生服を着た男の死体と、眉間にナイフが突き刺さった女子高生の死体。
その他にも6人分の男女の死体の写真が提示された。

検察官「彼らには被告人を虐めていたという共通点があり、彼女らはそれを楽しそうに見ていたとのことです。」

志礼「待て、こいつらは俺から金を奪って、命さえも奪おうと…」

裁判官「もういい、この事件は残忍性が高すぎる。明確な殺意を持って犯罪を犯したとみなし、被告を死刑とする!!」

志礼「待て!!そんな馬鹿な裁判があるか!!やり直せ!!ふざけるな!!俺はまだ死にたくない!!こんな終わり方は嫌だ!!」

その叫び声は裁判官には届かなかった。

志礼「嫌だ!!いやだぁぁ!!」








倉須「起きてください!!」

志礼「はっ!?」

気が付くと志礼は自室のベッドにいた。

志礼はボタボタと冷や汗をたらし、目からは涙が滴っていた。

倉須「どうしたんですか?これまで以上に酷かったですよ?」

同じ部隊の女性隊員である倉須が志礼の寝室に入ってきて志礼の安否を確かめに来ていた。

倉須「顔色も悪いですし、今日は休暇をとってはいかがですか?」

志礼「心配してくれてありがとう。
もう大丈夫だよ。」

優しい声で倉須にそう伝えると志礼は軍服に着替えて部屋から出ていった。

志礼が真っ先に向かったのは食堂だった。
朝は無理矢理にでも何か食べないと身体が持たない。

黒崎「あれ?先輩、どうしたんですか?」

志礼「ん?二日酔いだよ。」

黒崎「何言ってるんだが、まだ19歳でしょう?桜木に連れ回されたんですか?」

志礼「そっちの方がましだな。」

志礼は力のない返事をした。

志礼「全く、俺の苦労も感じてくれ。19歳で部隊の指揮系を任せられ、喋らない部下、ぽん刀振り回すスキンヘッド、後輩、関西人。更に何故こんな物騒な所で働いているかわからない女性隊員が2人ときた。」

志礼が食堂で世間話をしながら朝ごはんを食べていると、志礼のすぐ後ろで一人の男が黙ってたっていた。

志礼「まぁたあんたか?今度は何いちゃもんつけに来た。」

志礼の後ろにたっていたのは志礼と同じタイミングで入隊した時津風柊亜だった。

時津風「今度の作戦も大層な暴れようだったらしいじゃないか。」

志礼「別に。」

時津風「何人殺した?」

志礼は黙っていた。
答えるとろくなことにならないと分かっていたからだ。

時津風「何人殺したと聞いている。」

志礼「少なくともあんたの通算スコア以上だな。」

嫌味な返しに時津風は勿論キレた。

時津風「どうしてそう躊躇いもなく人を殺せるんだ!!」

突然時津風が志礼の胸ぐらを掴んだ。
力いっぱいに胸ぐらを掴んで離そうとしなかった。

黒崎「ちょっ、やめてくださいよ!!」

志礼「構うな、こいつは俺の客だ。」

時津風「幾ら敵といえど命があるんだぞ!!なぜ人を殺す!!」

時津風の怒号に怯むことなく志礼は返答する。

志礼「それが命令だからだ。」

時津風「それなら、隊長が俺を殺せと言ったらお前は俺を殺すのか!!」

志礼「ああ、殺すね。そうしないと俺はここにいられないんだ。銃を持って殺したくない殺されたくないなんて虫が良すぎるんだよ。」

時津風「っ………」

志礼は胸ぐらを掴む時津風の手を無理矢理に外した。
時津風は一瞬だけ力を抜いていた。

志礼「人を殺したくないならここなんかよりも銭湯の番台でもしてりゃいいんだよ。それなら死体の山よりも女の裸を拝めるぜ?」

まさに時津風はぐうの音も出ないと言った感じだった。

志礼はそれに構わずに再び朝ごはんを食べはじめた。



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