異世界転移者はお尋ね者

ひとつめ帽子

出発

 翌朝、俺達三人はエルフの里の広場へと集合した。

「召喚獣“ヒポグリフ”!」

 俺はそう唱えると、目の前に翡翠色の光が集まりだし、グリフォンに似た幻獣が現れる。
その姿は一見グリフォンにそっくりだが、下半身が馬になっている。

「アキト、いつの間に召喚獣まで使えるようになったの?」

 アーシェが驚いて俺を見る。
その目は尊敬の眼差しをしていた。
ふふ、その目が見たかったのだよ。

「ルシア様とこっそり訓練していましたもんね」

 シェリーはニヤニヤしながら俺を見る。
ば、バレてるし…。

「サエキくんは僕と一緒で召喚魔法の適性があるようだからね。
飲み込みがとても早かったよ」

 ルシアも満足気に頷いている。

「これでリーシェリアまでの足は確保できたって訳だ。
それじゃ、準備といこうかね」

 俺はアーシェとシェリーを見て声をかける。
二人が頷くと、一斉に斉唱する。

「“メタモルポセス”!」

 三人の身体がキラキラと輝いていく。
そして、俺は相変わらずのハーフエルフに。
シェリーは長身巨乳の美人エルフに。
アーシェはカエルになった。

「ここで失敗するか、アーシェ…」

「流石アリシエ様、タイミングというものを弁えています。
私にはとても真似ができません」

 カエルはすぐに輝きだし、すぐにアーシェの姿に戻る。
その顔は真っ赤に染まっていた。

「もー!百回に一回くらいの失敗なんだよ!?
ほとんどは成功するの!なんでここでそれがくるかなぁ!」

 また頭を搔き乱すアーシェ。
そして一呼吸おいて、改めて詠唱する。

「“メタモルポセス”」

 そしてアーシェの身体が輝き、今度こそ長身美人のエルフへと変わった。

「もう一度カエルになっても良かったのですよ?」

「もう、うるさいなぁ、シェリーは!
はぁ…なんで出発前にこんなに疲れなきゃいけないのよ…」

 アーシェはそう言ってガックシと肩を落とす。
そんな彼女の前に一人の男性エルフが近づく。
レオンである。

「アリシエさん。
これを使って下さい」

 そう言って差し出したのは輝く緑色の刃をした二本のククリ刀だった。
刃渡りは50cmほどもある長いククリ刀で、その二本は細い糸のようなので繋がっている。

「私の父が使っていたククリ刀です。
風魔法を付与してある特別な品なのですが、生憎私では扱えきれなかったもので。
この糸は森の以前この森に出現した森の大蜘蛛の鉄糸でして、極めて頑丈な上に伸縮も自在です。
少し癖のある武器ですが、アリシエさんならば使いこなせるはずです」

「そんな、お父様から受け継いだ得物なのでしょう?
大切に持っていなければ…」

 アリシエが受け取れないですよ、と手を振るが、レオンは微笑んで続ける。

「我らエルフの為に戦って下さるのです。
このようなモノでしか支援は出来ませんが、ご武運を祈っております」

 そう言って渡されたククリ刀をアーシェは握る。
それぞれの手に持ったククリ刀を二、三度空を斬って感触を確かめる。

「…とても良い武器ですね。
軽いのに、鋭く振り抜けます。
ありがたく受け取らせてもらいますね、レオンさん」

 そう言ってククリ刀を鞘に締まって腰に差す。

「シェリーさん。私からはこれを」

 シェリーに近寄っていくのはイリスという女性のエルフだ。
その手には白銀の杖を持っている。
頭にはクリスタルが埋め込んであった、

「私も治癒魔法に長けていまして、愛用していた杖です。
魔力を高める効果を持ち、日に一度だけマナを全快にしてくれる特殊効果もあります。
私はこの里で使う事はありませんから、シェリーさんが使って下さい」

 そう言ってシェリーの手に白銀の杖を握らせる。

「いいのですか?」

 シェリーはその杖を握りしめ、確認するようにイリスを見る。

「勿論です。
どうか、囚われているエルフを、解放させてあげて下さい。
お願いします」

 イリスは深々と頭を下げる。
それを見て、より強く白銀の杖をシェリーは握りしめる。

「はい、必ず。
この里に囚われたエルフのみんなを帰す事を約束します」

 シェリーはそう言って、イリスを強い眼差しで見つめる。
その瞳には確かな覚悟が見えた。

「アキトさんには私からです。
これをどうぞ!」

 そう言って俺に駆け寄ってきたのはミーシャだ。
ミーシャはしなやかな漆黒の弓を俺に俺に差し出す。

「この弓はエルフの最も優れた射手に渡される弓なんです。
私がこの里一番だったんですけど、アキトさんに抜かれちゃいましたから。
だから、アキトさんが使って下さい」

「え、でも俺この里の人じゃないし」

 と言って俺は断ろうとするが、ミーシャは俺にその弓を握らせる。

「その代わり…アキトさんの弓を私にくれませんか?」

 その目はわずかに潤んでいる。
それを見てアーシェとシェリーがジト目に変わる。
俺はそれを見て見ぬ振りをして、自分の弓を渡す。

「これ、普通の弓だぞ。
しかも里に沢山ある弓の一つだし」

 そう俺は言ったが、ミーシャは首を振る。

「アキトさんが使っていたのはこの弓だけです。
だから、この弓がいいです」

 そう言って大切そうにその弓を抱きしめる。
アーシェの目が据わっている。
こっわ…。

「どうぞ使って下さい。
ダークウッドの弓は魔力を秘めた矢を放てます。
きっと、アキトさんの助けになるはずです」

 そう言って微笑む。

「ありがたく、使わせてもらうよ」

 俺はそう言ってその弓を背負う。
シェリーが目をつぶったまま「モテますねぇ、アキト様」と茶々を入れる。
俺はうっせ、と小声で返す。
アーシェは「アキト、あとで話そうね」と笑顔で俺に言ってくる。
俺は「はぃ…」と小さく答える。

「さて、なんか今生の別れ、みたいになっているけれど、彼等はまだしばらく里にいるからね。
あくまでも、今日は彼らのスタート地点さ。
君達が迷宮を制覇した時、ここを巣立つ事になる。
その道のりはまだまだ険しいだろうけれど、この里の皆は君達の味方だ。
それを忘れないでおくれ」

 そして、優しい顔から真面目な顔へと移るルシア。

「僕としても、気にかけているエルフの皆を脅かす存在は許しがたい。
さりとてここを離れられない僕は手出しができなくてね。
君達の助太刀には、本当に感謝している。
僕からもお願いするよ。
どうか、彼等を救ってあげて欲しい」

 そう言って頭を下げるルシア。

「必ず、皆を開放させますから」

「ゴミ共を処分してきます。
しばしお待ちを」

「ゴミ共て…。
ただ、許せない連中だからな。
恩返し、させてもらいます、エルフの皆さん」

 三者三様に答え、俺達はヒポグリフに跨る。

「そんじゃいってきます」

 手綱を握るには俺。
この日の為に、騎乗のスキルすら身に着けたのだ。
手綱を強く引くと、ヒポグリフが大きく羽ばたき、急上昇する。

 そんな俺達をエルフの皆は手を振って見送る。
目指すは港の街、リーシェリア。
俺達が目指す迷宮の在処であり、人攫いをするゴロツキ共のねぐらでもある。
ゴロツキ共の蛮行も、今日で終わりにさせる。
ヒポグリフは加速する。
目的地を目指し、一直線に空を突き進む。




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