異世界転移者はお尋ね者

ひとつめ帽子

聖都クリステリア

 グリフォンが飛び立つ。
巨大な鳥が羽ばたき、俺達を乗せて聖都へと向かう。
これだけの速度を出しているのに、風はそこまで感じない。
恐らく何かしらの魔法か何かが働いているのだと思う。
手綱を握る男…ガルドに話しかける。

「拘束されるっつうから手錠でもかけられるかと思ったが、こんな縄でいいのか?」

 そう言って俺は縛られた腕を上げる。

「不十分だと思うか?その縄には結界魔法が施されてる。
切る事も燃やす事も千切る事も出来やしない。
それに、魔力も抑えられている」

 む、そんな効能もあるのか、
それはなかなか頑丈な縄のようで。

「あんたも、俺の事は悪人だと思うか?」

 話に応じてくれたようなので、聞いてみる。

「悪人?悪魔の間違いだろ。
お前等はまさに悪魔と言って良い存在だ。
正直イージスの縄で縛っているとは言え後ろに乗せてる事にゾッとしてる。
何かしようものならその首を跳ね飛ばすぞ」

 そう言って片手を腰にさしてある小ぶりの斧に伸ばす。

「暴れたりしないって。アーシェと約束したからな」

「…アリシエ嬢に感謝するんだな。
お前が一人で聖都を訪れていたら既にこの世にはいなかっただろう」

「アーシェを知ってるのか?」

「当然だ。聖騎士団の中でもキリエスに次ぐ実力者だからな。
それより、キリエス団長の前でその呼び方はするなよ。命が惜しかったらな」

「あん?アーシェがそう呼べっつったんだよ」

「だとしてもだ。その愛称を呼び始めたのは団長だ。
お前、団長の逆鱗に触れるぞ」

「そのキリエスってさっきのイケすかないイケメン野郎だろ?なんだ、アーシェに惚れてるのか」

「お前…言葉には気をつけろ。
異世界転移者だから力を持っていい気になってるのだろうが、上には上がいる。
お前程度、キリエス団長の敵ではない。
それに、獅子をわざわざ怒らせるな。
俺達まで巻き添え食らったらどうする」

 ガルドは冷や汗をかきながらそう言う。

「知るかよ。言っておくが俺もアーシェの事は気になってる。
だからあいつがアーシェの事を好きなら俺の恋敵って訳だ」

「いいから黙ってろ。お喋りな奴め」

 そう言って俺を黙らせるガルド。
とは言え少し情報は得られた。
あのイケメンはキリエスとかいう名前で、どうやら団長らしい。
そしてアーシェに惚れている。
まぁわかる。あの美貌にあの性格だからな。
人から好かれるのも無理はない。
正直、アーシェとあのイケメンはお似合いに見える。
それが余計に腹が立つ。
まさかここまで俺は嫉妬深いと思わなかった。
別にアーシェは俺の恋人でもないんだが…。

 そして俺達は街の中央にある宮殿の広い庭に降り立つ。
そこには多くの衛兵が集まっており、法衣を纏った高齢の男が前に出てくる。
キリエスとアーシェはグリフォンを降りるとその男の前に跪く。
俺もガルドに背中を押され、頭を下げさせられる。

「大司教さま。異世界転移者をお連れしました」

 キリエスがまず口を開く。

「頭を上げよ。
その男か、転移者は」

 大司教と呼ばれた男は俺を見て尋ねてくる。

「はい、名をサエキ・アキトと申します。
彼は…」

  アーシェが次いで口を開いて説明しようとするが、大司教に阻まれる。

「名などどうでも良い。
この悪魔を縄で縛っただけで連れきたのか?
意識も持ったままで街の中に入れるとは何事だ」

 大司教はこの状況を厳しくとがめる。

「大司教さま。アキトは危険な者ではありません。
私がここに行き着くまで、彼にどれほど助けられたか…」

「聖騎士アリシエ。転移者を連行してきた事は褒めて遣わす。
しかしだ。その存在を甘く見過ぎではないのか?
この街が転移者の暴威に晒されたのならばお前はどう責任をとるつもりだったのだ?」

 そう言ってアーシェを睨みつける。
アーシェはそう言われ唇を噛み締める。

「お言葉ですが大司教さま。
この街へ招いたのは私の判断でもあります」

 キリエスがアーシェを庇うように言う。

「それに、私がいれば転移者が暴れようと、鎮圧してみせましょう」

「ふむ…。キリエス、お主の実力は認めているとも。
とは言え、未知なる力を持つのも転移者なのだ。
覚えておくがよい。お前よりも強い転移者は確かに存在する」

「心得ております」

 キリエスはそう言って一礼する。

「して、この者の扱いだが、アリシエよ。
この者は危険人物ではない、そう申したな?」

「はい。アキトは…」

「それを判断するのはお前ではないぞ」

 またもアーシェの言葉は遮られる。
おい、アーシェを虐めるんじゃねぇ。
俺がぐいっと前に出ようとするのをガルドが抑え込む。
そして目で「止めておけ」と訴えてくる。

「しかし、お前の故郷、エールダイトの惨状も耳にしておる。
そのような状況に置きながらも、異世界転移者をここに連れてきた事は称賛できよう」

 大司教はそう言ってアーシェの肩に手をかけ、「大儀であったな」と言う。
アーシェは俯いたまま「はい」と応える。
そして大司教は俺に近付いてくる。

「アキト…と言ったか?
貴様は我らに仇名すつもりはないと」

「あぁ。危害を与えるつもりはない。だからアーシェの事をとやかく言うのは止めろ」

 俺はそう言い放つ。
それを聞いたキリエスが目を見開き、俺を睨みつけてくる。
あぁ、アーシェって呼ぶなっつったっけ?知るか。

「なかなか威勢が良いな。まぁしっかり話しを聞くとする。
だが、まずは貴様は独房に入ってもらうぞ」

「それも覚悟してるさ」

 俺は不適に笑う。
それを見た大司教は俺を少し睨むが、衛兵に「連れていけ」と指示して離れていった。

「詳しい話はまた後で聞こう。
聖騎士アリシエよ、ひとまずこのクリステリアに無事辿り着いた事、一先ずご苦労であった。
そして多くの魂に対して深い悔みを」

  そう言い残し、大司教は去って行く。
俺は衛兵に連れられて、宮殿の中へと入る。
後ろからアーシェの声が届いた。

「必ず会いに行くから。待ってて、アキト!」

 俺は縛られた腕を上げて片方の手でサムズアップする。
さて、お待ちかねの牢屋ですね。



「ここで大人しくしていろ」

 そう言われて連れてこれたのは牢屋、というより、椅子だけ置いてある部屋だった。
下へ下へと降ってきたのでここは地下だろう。
壁も床も天井も全て石造り。
冷たい空気に木製の椅子だけが中央にポツンと置いてある。
俺はそこに座らせられ、今に至る。
足元を見ると血の跡がある。
あー、これヤバイ所かも。
もう嫌な予感しかしなかった。



 どれくらいこうして座っていただろう?
特に何も起きないし、誰もこない。
椅子に縛られてる訳でも無いので扉の方まで行ってみる。
耳を当ててみるが特に何も音はしない。
しかし、近づいてくる気配を感じた。
そして足音も近づいてきた。
 慌てて椅子に戻って座る。

「ガチャッ」と扉が開くと入ってきたのはあの大司教。
そして衛兵も数人入ってきて、最後にメイド服を着た少女が入ってきた。

「さて、話しをしようか。異世界の転移者よ」

 そう大司教は口を開き、邪悪に笑う。



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