二番目(セカンド)の刹那

Lot

4月10日③《やるしかないでしょ》

「……そんなの、やるしかないでしょ。あいつらを殺そう」


 夕飯中に日菜達に今朝の事を話した。朝の時点で話さなかったのは、僕の中でも意見がまとまっていなかったからだ。


「っていうかさ、この世界って死ぬと元に戻れるんでしょ? 真央が、こっちで死んだら記憶を失っていても元の世界では無事って言ってたじゃない。極端な話、自殺すれば、元の世界には戻れるんだから、在葉達もそこまで悩むことかねぇ……」
「でも、私はそれは嫌だなぁ」
「まぁ痛いのは嫌だし、できれば普通に帰りたいけどさ」
「それもそうだけど、そうじゃなくて……。ここでの記憶を失ったらそれって私なのかなって……」
「記憶を消されただけでそれは月菜でしょ?」
「うん、そうなんだけど、ええと……」
「僕も月菜に同感だ。上手く言えないけど、ここにいる僕の記憶が途切れたらそれはこの僕ではないような気がするんだ」
「ふーん。要するにここでの事を忘れたくないってこと?」
「まぁ、そう言えばそうなるな」
「そんなにあたしの事を忘れたくないなんてねぇ」
「そうは言ってないだろ」
「そんで? じゃあ私達は死なずに元の世界に戻るってことでいい? 何ヶ月も何年もかかることになっても」
「少なくとも僕はそれでいいと思ってる」


 数年かかるなら、それだけ長い間この世界にいたんだから、その分だけこっちでの記憶も増えているはずだ。それなら、その数年は無駄じゃない。ここも『世界』であるんだから、それを『救う』ことが間違いなはずがないし。


「ここまでは、何か決まったようでいて昨日までと何も方針が変わってないわよ? どちらかと言うと、帰る方法の方が本題でしょ」
「そう。麗羅達を殺せば帰れるって本人が言ってたんだ」
「それってつまり、そいつらを殺すと世界が平和になるってことでしょ? 世界を支配してる何て自称してるんだから、確かに世界平和を乱す原因かもしれないけど、でもさ」
「あぁ。さっき自分達が死にたくないって言ったのに、あいつらを殺すって結論を出すのは抵抗がある」


 少しの間、沈黙が続く。


「はぁ〜。どうしろっていうよの」


 今朝の僕と同じ反応か。


「とりあえず、今日はもう遅いから明日にでも凛と真央に情報を共有しよう」
「そうね」


 そう言って日菜は席を立った。もう食べ終わったのか。僕はほとんどまだ食べてなかった。


「小波、ここお風呂ないの? そろそろ入りたいんだけど」
「うちにはないよ」
「え、あんたの家って風呂ないの?」
「この家の事だよ。僕だって好きでこんな家にしたんじゃない。お前達、元いた家に帰ったらどうだ? そっちも風呂ないのか?」
「ない」
「そうか、だとしてもずっと僕の家にいなくたっていいだろ」
「そうじゃなくて、ないのよ」
「だから、風呂がないのはここも同じだろ」
「その……あたし達、家ないのよ」
「……え? そ、そうだったんだ」


 最初からそう言えば良かったのに、家が遠いからって言ってたよな。何なんだ?


「じゃあ銭湯とかは? あんたこの辺やたら散歩してるじゃない」
「銭湯はあるぞ」
「本当に!?」
「どこだか覚えてないけど」
「使えないわね……あんた」
「場所が分かっても、お金持ってないだろ」
「ま、そうよね……」
「風呂問題はとりあえず明日でいいわ。おやすみなさぁい」
「おやすみ」


 日菜が部屋から出ると、それを追いかけて月菜も出ていった。僕と日菜が風呂トークをしているうちに食事は終わったようだ。


 食器洗っとくか。

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