生産職を極めた勇者が帰還してイージーモードで楽しみます
取引成立
約一月後
ミシェから赤いタオルが出たと報告があって工房から出た。流石に一月はこもりすぎたか。中に食料もあるし、物作りは時間を忘れて没頭できるから好きだ。200以上のものを作ったけど自分じゃ使わないから売れないかなぁ。
「じゃあ行くか」
「はい」
ミシェとホテルを出て改造した魔導車に乗る。因みに今後もホテルに住むつもりだ。どこかに定住せずにあっちこっち行きたい。そのうち海外にも行こうと思う。
深夜になってからもう一度以前と同じ登場をする。こういうのは印象が大事だ。ミシェにはまた見張りをしてもらっている。
「ヤァヤァ、こんばんわ。今夜はいい夜ですね」
俺のノリとは裏腹に柴崎夫婦は真剣な顔をしている。
「言われた通り2人分の戸籍を作った。違和感がないようにもともと戸籍が存在したように偽造しておいた。証拠として保険証もこの通り用意した」
保険証を受け取り眺める。鑑定士のスキルでモノが本物か偽物かを見抜くことができる。間違いなく本物だった。
「アァ、素晴らしィ。約束通りだぁ」
「私は約束を果たした。薬をくれ!」
「そんなに焦らなぁい。ちゃんと渡すからぁ。一応言っておくけどぉこれは病気を治すだけだからねぇ?ちゃんとリハビリとかしないとぉ、元気にはならないヨォ」
「わかっている」
「じゃぁコレェ」
俺はエリクサーを柴崎に渡す。柴崎は大切そうに受け取った。
「これデェ契約は終了ォ。でもぉ、しばらく私のことを言いふらしたりしないかぁ監視をつけさせてもらうからねぇ?」
「あぁ、好きにしろ」
「じゃあ私はもう行くけどぉ、街中で私を見てもォ知らないフリだよぉ?話しかけちゃダメだよお」
「ああ」
俺はサッサと撤収する。戸籍が出来たのならもう用はない。俺が扉を閉める瞬間、
「本当に、本当にありがとう」
深く頭を下げる柴崎の姿が見えた。これは俺も気分がいい。
「マスター」
「あぁ、終わった。これミシェの分」
「ありがとうございます。これからどうしますか?」
「そうだな、ホテルに戻るか。次のターゲットは見つけてくれただろう?」
「はい」
「じゃあ作戦会議と行こうか」
俺達はホテルに戻った。
「で、この子が次のターゲット?」
「はい。
瀬戸愛佳、通称愛ちゃん。日本の歌姫と呼ばれ、今日本で最も有名な歌手です」
「ふぅん。俺が15の時はいなかったね」
「瀬戸愛佳は今年で15歳です」
「あぁ、そもそも生まれてないのか。それでどんな病気なの?」
俺達は飛べるでパソコンを眺めながら相談している。というより俺がミシェに説明してもらっている。
「いえ、今回は病気ではありません。歌姫として人気が高い分、同じ歌手には嫉妬の目を向けられていたようで恨みから襲われたようです。その時に喉を潰され、声が出せなくなったそうです」
「あー、そりゃあ劇的だな。声を失った歌姫か」
「もともと祖父が芸能、、、というよりメディア全体の重鎮の1人でしてお金持ちでそのコネで芸能界に入ったそうです。
親の七光りと馬鹿にされていたようですがメキメキとその頭角を現し、現在ではその実力を認めないものはいなくなりました」
「ほう。珍しいタイプだな。二世だなんだってのは大抵がボンボンのクソ野郎だってのに」
「声が出なくなったことは内密にされていましたが何処かから漏れたようで噂として広がっています。声が出なくなっているのが事実だという裏付けもとりました」
「ご苦労様」
「いえ」
大したものだ。なんだかできる秘書みたいになっている。
「今回は大物だし変装していこう。金はいくら要求するか。1000万くらいか?」
「親の資産を考えますに5000万は硬いかと」
「それはすごい。そうしよう」
5000万って予想以上だ。まぁ、日本一の歌姫の喉ならそれくらいの価値はあるのか。
「変装はどうしますか?」
「あー、ほら、アレでいいだろ。前に創った[死霊の衣]で」
[死霊の衣]
エルダーリッチ・影狼・ドッペルゲンガー・ファントムの素材から創られる。見かけはボロボロの布切れだが着ればどんな風が吹いても飛ぶことはなく、顔を見られることもない。
防御力は皆無
「いやぁ、ネタ装備だったけど今回は使えると思うし。声はそのままでいいか」
「はい」
「マスター、瀬戸愛佳は大手の病院に極秘入院いており、常に扉の前には護衛がいます。防犯カメラなどの設備も充実しているようです」
「防犯カメラは気にしなくていい。[死霊の衣]は肉眼だけじゃなくカメラにも俺の姿は映らないからな。護衛は[酩酊薬]を使うことにする」
[酩酊薬]
粉末状の薬で火をつけてお香として使う。その匂いを嗅いだ者は酒に酔ったように泥酔し、前1時間の記憶をなくす。きっかり1時間で目を覚ます。
お酒と同じ症状を出すだけでアルコールは検出されない。
「ん、つまりタイムリミットは1時間ですね。その間にマスターは瀬戸愛佳を説得しないといけないですが」
「なんとかなるだろ。ダメだったらターゲットを変えればいい。瀬戸愛佳出なくちゃいけないわけじゃないし」
「そうですね」
「あー、声が出せないんだよな。会話できないと不便だし[通心のイヤリング]を付けていくか」
「それがいいと思います」
[通心のイヤリング」
相手の心を読むことができる。効果条件は相手を視界に収めていること。
俺は異空間から必要なアイテムを取り出し、装備する。これで完全に怪しいやつだ。それどころか人間とすら認識されないだろう。
「5000万あったら何か欲しいものあるか?」
「そうですね。もっと高性能なコンピュータが欲しいです。軍が所有しているような情報基地みたいなものがあってもいいかもしれません」
「情報基地かぁ。でも居場所を固定すると動きづらくなるんだよなぁ。いっそ車を改造するか。大型トラック買ってその中を移動型の基地にすればいい」
「素晴らしいアイディアです、マスター」
じゃ、金稼ぎに行きますか
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