100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

最終話 村長のいる世界(延長戦!)

《一年後》

 盗賊の森には木こりの楽園ヒステリックバーが開店し連日長蛇の列が出来る程に賑わった。木こり達も毎日のように通い詰め、ベネツィでは木材不足になるなどの問題が発生する程だった。

 賑わう店内からは笑い声や『働けクソ親父!』といった罵声が響き渡るなど、盗賊の森は以前よりも更に賑やかな森となった。また、木こりの楽園ヒステリックバーに新たに増築されたスペースにはステージが設けられ、お嬢ちゃんや武器屋の可愛い子ちゃんを含めた従業員9人からなる美少女アイドルグループ《ミュース》が結成され1日2回午前と午後に歌とダンスを披露するライブが行われ観客達を魅了した。

 一時期、お嬢ちゃんがファンの男性に恋をしている。という噂がたった時はカウンターの隅で干からびる二名の男の姿が三日間に渡り目撃された。

 男達が干からびる前に、こんな会話があったらしい。

『なに!? あいつに好きな男が!?』

『なに!? 俺のお嬢ちゃんに男が!?』

『いや。お前のじゃねえ。俺のだ』

『すみません……お父さん』

『お父さんと呼ぶな。お父さんと呼んでいいのは、あいつだけだ』

『やべえよ、お父さん。俺、胃が痛いよ。胃に穴が開きそうだよ!』

『だからどうした!? 俺なんかもう、胃に穴が開いてんだよ! 10個も……』

『……飲もっか? お父さん?』

『お父さんじゃ……ねえ……ズズッ……』

 その後、噂はデマだったと判明し二人は復活した。

 呑んで、歌って、踊る。この営業スタイルが大ウケし、他の店でも美少女ばかりを雇い入れ始め、ライブ酒場は一大ブームを巻き起こした。

 そんな木こりの楽園ヒステリックバー入り口正面カウンターの後ろには一番目立つ場所に堂々と飾られたキープボトルが一本。

 高級シャンパンの瓶には《勇者御一行様》と記されている。





 水の都ベネツィには、30名程で構成された《瞬足の騎士団》という名前の新たな自警団が結成されていた。団員の全てが子供達だけで構成されており、第一隊は害虫駆除などの危険を伴う仕事がメインで、主に10歳以上の子供達で構成されている。

 続く第二隊は探し物やお年寄りのお手伝い等がメインの仕事で、主に10歳未満の子供達で構成されている。

 その二つの隊を率いるのが、今や子供達のカリスマと呼ばれる少年だった。瞬足の騎士団は『当たると痛い、死ぬ気で避けろ!』をモットーに日々街の平和を守っている。

 そんな団長、少年はニュースのあるメンバーに密かに想いを寄せているらしいが、子供っぽいと突き放され頭を抱える日々が続いている。






 大樹に寄り添う村タイージュでは、今までにない新たな施設が完成していた。村の老若男女に留まらず遠方の城の兵士や王様まで訪れるその施設では、とても多くの人達が癒された。

 爺ギャグで心を癒されて、魔法の杖で身体を癒されて、施設を出る時には皆、白い歯むき出しの笑顔で帰っていく。その施設の入り口には《癒やし処村長(無料)》と書かれた看板が掲げられ、施設内からはいつも『ホッホッホッ!』と老人の元気な笑い声が響いていた。




 そして、あの勇者といえば魔王討伐後、各地を駆け回り趣味の人助けを気の済むまで散々行ったのち、やがて草原に寝そべり天を仰ぎ白い歯むき出しの笑顔で『ほんとよかった』と呟きまぶたを閉じて、もう走り出す事はなかった。






 今回の物語に心底満足したような、そんな幸せそうな笑顔だった。




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