100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

???話 肉じゃが

 気が付くとワシは横たわっておった。辺りは白一色で雲のような、煙のようなものが所狭しと溢れかえっておって、そんな白一色の景色はどこまでもどこまでも続いておった。

「勇者殿ー? お嬢さーん? 少年やーい!」
















 ……ふむ、返事がない。皆どこへ行ったのやら。

「ちょっと歩こうかの」

 全く見に覚えがない景色に最初はかなり困惑したがワシは散歩でもしながら皆を捜してみる事にした。

「しかし、静かな場所じゃのう。勇者殿ー? お嬢さーん!? 少年やーい!」















 ふむ、やはり返事がない。というか、ここは音がないな。白い雲だか、煙だかは、風になびいておるようじゃが風の囁きが全く聞こえん。歩いても歩いても同じ景色じゃし、変化が無くて楽しくないわい。こういう時は勇者殿と少年のエロトークが聞きたくなるのう、そしてトークの内容に密かにドン引きして苦笑いを浮かべるお嬢さんのあの顔。

「ホッホッホッ! ホッホッホッ! 全く皆、最高じゃのう! ホッホッホッ! ホッホッホッ……」


















 ワシの笑い声は白の世界に吸い込まれ、またも無音の静寂が始まる。


















「のう……勇者殿……」























「お嬢さん……」

























「少年や……」
























「のう……返事を……」





















「返事を……しておくれ」






















「皆、どこへ行ったんじゃ……」




























「一人ぼっちは嫌じゃ……」































 ワシは歩みを止めて、俯き立ち尽くす。言葉もなくやがて、しゃがみ込み。このまま白の世界に溶けてしまいたいと思った。

 目からは大粒の涙が溢れていた。こんなに泣いたのは、いつぶりじゃろう? ああ。婆さんが死んだ時、以来か。婆さんが死んで一人ぼっちになってしまって、お迎えを待つだけの暇な日々じゃったな……。

 そうじゃ、そこで勇者殿が現れて友になって仲間になったのじゃ、それからお嬢さんと少年が仲間になって。いつしかあの三人は、

――――ワシにとっての《家族》になったんじゃ。

 一度は無くした家族じゃが、なんの運命の悪戯か、神様はあんなにも気持ちがよくて、楽しくて、騒がしくて、大好きな家族をワシに与えてくれたんじゃ。

「もう一度……逢いたいの……」

 ワシがそう言った瞬間、奇跡が起きた。

 無音の白い世界で一人ぼっちじゃったワシに声をかけてくれたんじゃ、懐かしい声じゃった。ワシはその声を一生、死んでも忘れはせんじゃろう、

「いい歳したジジイが、なに一人でめそめそやってんだい! しゃきっとしな! しゃきっと!」

 ワシが愛した婆さんの声じゃった。

「全く黙って見てりゃなんだいそのざまは!? あんた男だろ!? それともついに頭がボケちまったかい!?」

「ば……ば……婆さん。婆さん! 婆さんじゃ!」

「なんだい気持ち悪いね、抱きつくんじゃないよ!」

「だって、なんで、婆さん、婆さんが!」

「あんたが情けないから、久し振りにお説教しに来てやったんだよっ!」

「婆さん……ワシ寂しくて……一人ぼっちで……もうどこもいかんでくれ……頼む」

「ここはまだ、あんたが来る所じゃない。あんたにはまだやるべき事があるだろう!? 私はこっちで色々準備してんだから、先走って来るんじゃないよ!」

「ワシの……やるべき事?」 

「そうだよ。ほら、あんたを呼ぶ声が聞こえないかい? あんたの事をずっとずっと呼び続けてる、あんたの帰りを待っている。あんな可愛い子供達を置き去りにするなんて、随分ひどい真似するじゃないのさ」

「これは……勇者殿? お嬢さんに、少年も。あの子達がワシを呼んどる、ワシを待ってくれておる」

「だから早く行きな! これ以上、あんないい子達を泣かすんじゃないよクソジジイ!」

「じゃが……婆さん! せっかく、せっかくまた逢えたのに……さよならは、もう嫌じゃ」

「ったく! 相変わらず野暮な男だね! 女が準備してるって言ったら黙って待ってなよ! もうバラすけど、あんたの好きな肉じゃが作ってる最中なんだよ! 出来るまでまだ時間掛かるから、あんたはあんたのやるべき事をやりな!」

「肉じゃが……そうじゃ、婆さんが作る料理で一番美味いんじゃ。なあ! あとどれくらいで出来るんじゃろう? なあ!?」

「10年」

「――っ! 煮崩れしまくりじゃの!? スープにならんか!?」

「うるさいねぇ! 特別製だから時間が掛かるんだよ!」

「ふうむ。そうか、じゃああと何年生きられるか分からんが……それまで肉じゃがを楽しみにもう少し頑張ってみよう」

「ああ、是非そうしてくれ」

「あっ! そうじゃ婆さん! 肉じゃが食べ終えたら、久し振りにデートでもせんか!?」

「――っ! ばっ、バカ言ってんじゃないよ! 早く行きな!」

「ありがとう婆さん、嬉しかった」

「ああ」

 最後に見た婆さんの顔は若い頃と何一つ変わらん、くしゃくしゃの顔で白い歯むき出しで笑う――――ワシの大好きな婆さんの笑顔じゃった。

 

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