100回目の勇者人生〜俺の頭の中ではこんなにも《ゆるい転生物語》が繰り広げられている。

しみずん

46話 大魔王、現るっ!

 エックスとナイトメアの和解が済んだ今、もう思い残す事もないような、そんな気分でいた。

 仲良しが一番いいよね。

 大魔王の部屋へと入り、赤い絨毯の真ん中を四人のパーティーが進む。大魔王を前に一番テンションが上がる時だ、最終決戦に向かい一歩一歩慎重に進んでいく。横目でチラリと少年を見てみる。

「ハアハアハア……! しゅごい! さすが大魔王の部屋、飾り付けがカッコいい! 絨毯ふっかふか! しゃ……最終決戦!」

 少年の表情がやばい事になってる……まあ仕方ないか。この部屋にあるもの全てがクリティカルヒットしてしまうんだろう。数年前なら俺もヤバかったかも……。

 大魔王の目の前に立つ。あと一歩前に進めば戦闘開始となる。俺はこの位置に立って大魔王と向かい合っているこの瞬間が大好きだ。だいたい2分くらいはこのままでいて、今までの冒険を振り返り思いを馳せる。冒険の記憶を、出会いや別れを。

「あっ……あの……勇者様? 今は何をされてるんでしょうか? その……さっきから大魔王が、もの凄い眼力で睨んでますけど……。私、気まずいんですけど」

「ホッホッホッ! 女性には分からんのかも知れんのう。勇者殿は今まさに、男になる為、男の戦いへと挑む為の準備中じゃな。ワシはもう、歳じゃからそんな事はないが……ほれ、少年を見てみなさい。白目を向いておる」

「えっ? ちょっ……僕!? 村長様! これ大丈夫なんですか!? 白目で痙攣してますけど!? 男ってこうなんですか!? 皆こうなんですか!?」

「ほれほれ、少年や。気を確かに持ちなさい。興奮するのは分かるが、油断すると痛い目に遭うぞい」

「痛いのは嫌だ!」

「よしよし。勇者殿や、そろそろ準備は整ったかのう?」

「ああ、お待たせ。久し振りにかなり興奮しちゃったぜ! じゃあ行くぞ!」

 俺達は一歩前に出た。

「よく来たな、我が名は大魔王マオ。闇より生まれ全てを闇に帰すもの。光を纏いし勇者達よ、お前達が持つその一縷の光も我が深淵の闇で飲み込んでやろう。人も魔族も神も世界も全ては闇に帰るのだ。全てを余に委ねよ」

《大魔王マオが現れた!》

 ついに始まった、最終決戦。無事に大魔王を倒す事が出来ればいいが……。

「お嬢ちゃん! まずは防御壁の魔法を全員に! 終わったら素早さ、攻撃力上昇の順でサポート魔法よろしく!」

「はいっ! ウォールクイック!」

「うおっ!? ホーミー出たっ! ホーミーって、そうやって使うのか!?」

「おおう、同時魔法か。ワシでも出来んなそれは、さすがはお嬢さん。やるのう」

「えいっ!」

「少年! 前に出すぎだ! 下がれ! ――っ! 大魔王が右手を上げた。 魔法が来るぞっ! 全員後退! 備えろ!」

 大魔王の火炎魔法が辺り一面を包む、直撃は免れた。

「あぶなかったー! ありがとう、兄貴!」

「目を逸らすな! 死ぬぞ!」

「ホッホッホッ! 隙ありじゃ!」

「ナイスだ村長! ――っ! 大魔王が口を大きく開けた。サポート魔法が掻き消されるぞ! お嬢ちゃん! 再度サポート魔法を掛け直して!」

 大魔王が放った咆哮が俺達を包むサポート魔法の効果を打ち消した。

「はいっ! ウォールクイック!    アタックキュア!」

「――っ! 魔王が両手を広げて気を高めている。魔王の最強魔法が来るぞ! 皆縦一列になって俺の後ろに隠れろっ!」

 大魔王の両手から放たれた魔力は凝縮された一筋の帯となって一直線に俺達へと襲い掛かる。エックスカリバーで受け止めるようにして魔王の魔法を凌ぐ。さすがのエックスカリバーも高濃度の魔力の全てを跳ね返す事も吸収する事も間に合わないようで、村長の光のヴェールも俺達に掛かっていたサポート魔法の防御壁も耐えきれずに砕け散った。

《パーティー全体に200のダメージ!》

「くっ……そんな……私のサポート魔法を力で無理やり破られた!?」

「痛っ! さすが大魔王のしゃ……。最強魔法だね!」

「恐ろしいのう……勇者殿の指示が無ければ確実に死んでおったぞ」

「だが、魔王は魔法の反動で暫く動けない! 最大のチャンスだ! お嬢ちゃんは回復! 村長と少年は俺に続いて一気に叩けー!」

「えいっ!」

「ホッホッホッ!」

ウォールクイック!    アタックキュア!」

「兄貴! いけるよ! これなら勝てそうだよ!」

「ええ。でも油断は禁物よ!」

「ぐぬぬ……これは……余の動きを読まれている? いったいどういう事だ」

「俺はお前の全てを知っている、全ての行動を能力を動きのクセを。何で知っているかって? 今回で100回目だからだよ。

「ならば……これならどうだ!?」

「――っ! 魔王が両手を広げて気を高めている。また、さっきの奴が来るぞっ! 縦一列で俺の後ろに隠れろっ!」

「またかよっ!」

「一応掛け直しておきます。ウォールクイック!    アタックキュア!」

 再び魔王の最強魔法が俺達に襲い掛かる。俺達はさっきと同じように、なんとか最強魔法を耐えしのぐ。

《パーティー全体に200のダメージ!》

「ふうっ……何度やってもムダだ――っ!?」

「連発ならどうだ?」

――連発だと? 最強魔法の後は反動で動けない筈じゃ……。

「さらばだ、勇者諸君」

 魔王の魔力がどんどん膨れ上がっていく、不測の事態に頭が困惑し狼狽する。考えがまとまらない、どうすればいい? どうすれば助かる? どんな指示を出すべきだ? サポート魔法は? 間に合うのか? 間に合わない場合はどうしたら? 迎え撃つのか? お嬢ちゃんのHPは耐えられるのか? 皆はこの事態に気付けているのか? どうする? 俺の判断で……判断が間違えば……判断によっては皆が……。

「に……逃げっ――――」

「お嬢さん!」

「は……はいっ! テレポート!」

 なんだ? お嬢ちゃんは何を? 村長が消えた? いったい何をしているんだ? 状況は? 村長……魔王の前に立って何を? ダメだ、さっきの奴がまた来るんだ、逃げろ逃げろ逃げろにげろにげろにげろにげろにげろにげろーーーーーー

 村長は俺の方へ振り返りいつものように白い歯むき出しの、まるで子供のような顔で笑って、

勇者殿タケルどの、あとは任せた」

 そう言った村長の身体が突然白く光る球体に包まれたかと思うと球体は、みるみる縮んでいきやがて球体は完全に村長の身体の中へと消えた。

――――――その瞬間。

 凝縮された高濃度の魔法力が一気に弾け、村長と大魔王を中心に巨大な光の柱となって魔王の城の天井を突き破りどこまでも、どこまでも天高く昇っていった。光の柱が生み出した、強力な衝撃波に魔王の城全体が激しく揺れだし轟音をたてて崩壊していく。

 やがて消え去った光の柱の後には大魔王と村長の姿はどこにもなく。残ったものは嘘のような静けさだけだった。

 俺達は村長の光の柱が開けた、城の天井の穴をただただ力なく見つめていた。

 

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